無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。

高田タカシ

三章 35 『アーバンカル総力戦4』


 「さて、私としてはここで時間を無駄にするわけはいかないのだが。」

 「安心しなよ。僕も君に長々と付き合うつもりはないからね。」

 「気が合うようでなによりだ。ならば早々にここで死んでもらうこととしよう!」

 そう言ったバズドーは瞬く間に黒い球体をいくつも空間に出現させた。

 「今この戦場においてその力を捧げよ!オーディン!」

 ジュエルもオーディンを降魔させ臨戦態勢と入った。槍を両手に構える。バズドーが多数の球体を操り様々な角度から攻撃を仕掛ける。しかしジュエルには当たらなかった。

 「フフッ。どうやらあの時とは見違えるような動きじゃないか!これは予想以上に楽しめそうだ!」

 「そうかい?僕は逆に残念だけどね。芸のない敵程退屈なものはないよ。」

 「まずはその減らず口を閉じさせてやるとしようか・・・。重力結界!」

 バズドーとジュエルと覆う様に結界が作られた。しかし結界が作られた瞬間ジュエルの姿がそこにはなかった。

 「どこにいった?・・・・・上かっ!?」

 「遅いよ!!」

 バズドーの頭上からのジュエルの一撃。その矛先はしっかりとバズドーを捕えていた。薙ぎ払われた衝撃で重力結界の外に飛ばされたバズドー。

 「くッ!貴様いつの間に・・・!」

 「だから言っただろう?芸がないって。どうだい重力操作によって重みが増した僕の一撃は?」

 「ハハッ!ここまでとは正直予想外だな!ならば出し惜しみは無しだ!これが私の全力だ!」

 雄たけびと共に魔力を高めるバズドー。多数の球体を造り出す、しかしその数は今までの比ではなかった。ジュエルを覆う様に縦横無尽に張り巡らせてあった。

 「やれやれ、ただ数が増えただけじゃないか。こんなもの僕の槍の前には多いも少ないも関係ないんだよ。」

 「ホントに減らず口が絶えない奴だな。威勢のいい奴は嫌いではないが、戦場では弱い奴が死ぬのだ!さよならだ!魔法騎士団の若い芽よ!」

 バズドーの合図で多数の球体が一斉にジュエル目がけて降り注いだ。

 「さてと・・・意外とあっけなかったようだな。もう少し楽しんでもよかったのかもしれんな。」

 そう言いながら身を翻したバズドー。

 「そうだね。あっけなかったね。こんな幕切れとは思わなかったよ」

 「なっ・・!貴様いったいどうやってあの攻撃を・・!?グッ!」

 翻したバズドーの背中をジュエルの槍を突き抜けた。

 「言ったはずだよ?数は僕には関係ないってね。」

 そう言ったジュエルは槍を手にした。すると槍はその姿を光り輝く鎧へと姿を一瞬で変えた。

 「なんだその貴様の姿は・・!?その鎧で私の攻撃を防いだというのか?」

 「無知な君が知らないのも無理はないね。僕の操る神オーディン。彼は神の中でも多くの呼び名を持つ神として知られているんだよ。その中の一つにスヴィパル姿を変えるものという名があるんだよ。そして他にこんな名も持っているんだが知っているかな?」

 「・・・なんだ?」

 「ガグンラーズ勝利を決める者さ!」

 鎧が再び槍へと姿を変え、その刃でバズドーを切り伏せた。

 「少しは勉強になったかな?他にもたくさんあるから気になるのなら調べてみるといいさ。まあ地獄に資料室のようなものがあればの話だけどね?」

 「クックックッ。ホントに貴様という奴は減らず口ばかり・・・だ・・・な。」

 そう言いながらバズドーは力尽きた。

 「・・・戦場では弱い奴が死ぬ。その意見には僕も同意見だよ。君が僕より弱かった。それだけの事だったということだね。」

 バズドーが力尽きたのを確認して、槍を納めるジュエル。

 「さてタクミの方は合流できただろうか・・・僕も急がなければな。」

 「ほう・・・バズドーがやられるとはな。やはり一筋縄ではいかぬようだな。」

 「・・・誰だ?」

 ジュエルの背後に人影が突然現れた。ジュエルが咄嗟に距離を取り、再び槍を構えた。

 「これから死に行く者に名乗っても意味は無かろう・・・」

 突然現れた人影がその全身に黒い魔力をみなぎらせた。


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  「アイズ!ケガはないか!?」

 戻ってきたアイズに心配して駆け寄るタクミ。

 「大丈夫だ。ゲルニクス本人は大したことなかったよ。タクミの方も大丈夫か?」

 「ああ。こっちも問題はねーよ。爺さんたちも元に戻ったからな。」

 「そうか。それなら安心だ。」

 「タクミーーー!!」

 ニーベルがタクミとアイズの所に駆け寄ってきた。その後ろからエドワードとワールドも歩いてついてきた。

 「どうしたんだニーベル?」

 「これからはタクミ達はどうするの!?」

 「俺らはまだ他に苦戦してそうなところを助けに行くつもりだ。ニーベルはどうするつもりだ?」

 「私はとりあえず師匠たちを本部に送っていこうと思うの。二人とも魔石に操られた影響で魔力の消費が著しいからきちんと治療してもらわないといけないと思うから。」

 「ああ、そうだな。本部にサリスって奴がいるから治療の事ならそいつに頼むといいぜ!二人の事頼んだぜ!」

 そう言いながらニーベルの頭を撫でるタクミ。

 「う、うん。なんだかタクミ変わったね!」

 「そうか?」

 「うん!なんだかたくましくなったというか、カッコよく見えるよ!」

 「お、おう。それはありがとうな。」

 ニーベルに褒められ恥ずかしそうに頭をかくタクミ。

 「すまんのうタクミ。ワシらが不甲斐ないばっかりに・・・」

 ワールドが申し訳なさそうに頭を下げた。

 「そんな気にすんなよ!あとは若い奴らに任せてゆっくり休んでてくれって!」

 「ホッホッホッ。その嬢ちゃんの言う様に随分成長したようじゃな。だがタクミ、くれぐれも油断するんじゃないぞ。邪神教徒のリーダーのエレボスとやら。あれはなかなかに手強い奴じゃ。」

 エドワードが深刻そうにタクミに警告した。

 「エレボスって奴の事知ってんのか?」

 「お主がワシの元を去った後しばらくしてワシのところに来たのがゲルニクスとエレボスというやつじゃった。ワシも抵抗したのじゃがな、エレボスという奴には勝てなかったのじゃ。ワシが全盛期の魔力を持っていたとしても勝てたかどうか怪しいもんじゃ・・・」

 「ジジィがそこまで言うなんてな。相当な奴なんだろう。でも俺だって負ける気はねーよ!こんなことした責任を絶対に取らせてやるからな!」

 「ホッホッホッ。大した自信じゃ。だがそれが出来るのはお主しかおらぬかもしれんな・・・タクミ頼んだぞ。」

 「おう!任せとけよ!行こうアイズ!」

 「ああ。」

 そう言ってタクミとアイズは走って行ってしまった。

 「エドワード。お主の育てた若者は随分立派になったようじゃな。」

 「ホッホッホッ。あれはワシが育てたわけじゃないわい。あいつが勝手に育ったのじゃ。ワシはきっかけを与えたにすぎんよ。」

 「そうか、頼もしい限りじゃの。ニーベルお主も負けんように頑張らんといかんぞ?」

 「うん!わかってるよ!」

 走り去っていくタクミ達を優しく見送る三人だった。
 

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