無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。
三章 33 『アーバンカル総力戦 2』
「ウインズさんの話だと皆バラバラに散ってるみたいだな。まずはどこに行ったらいいんだ・・」
「タクミ!この先に戦いの気配を感じる。まずはそこから行くぞ。」
「ああ。そうだな!とりあえずは目の前の敵を倒して行くか!」
アイズが気配を感じた方へと走っていくタクミ達。その先では邪神教徒の軍と魔法騎士団の軍がぶつかり合っていた。数は邪神教徒の方が多く見た所こちら側が劣勢に見えた。
「こんなところまで邪神教徒の奴ら攻め込んできてるのか。こりゃグズグズしてる暇はないな!行くぞアイズ!」
「ああ!」
目の前の味方を助けるべく、タクミとアイズが援軍として加わる。数は多くても個の力はそこまで強くもなく次々と敵兵を撃破していくタクミ達。瞬く間に戦況はこちらに有利になってきた。
「こいつら一人一人は大したことないぞ!この勢いのまま押し通すぞ!」
「・・・・タクミ!上だ!」
「え?うぉ!?あぶねぇ!」
アイズの言葉に助けられ身をかわすタクミ。そこには見覚えのある黒い球が降ってきた。
「この魔法・・・。お前も来てたんだな!?なぁバズドー!?」
球体の降ってきた方を見上げるとそこには狂魔六将の一人バズドーがいた。宙に浮いていたバズドーがゆっくり降下してきて地上に降り立った。
「フフッ。ここで苦戦しているからと来てみればお前がいるとはな。これはなかなか面白い奴に会ったものだ。そのベルモンドの魔術を奪った力とやら私が試してやろう!」
両手に黒い球体を造り出し、不敵な笑みを浮かべるバズドー。
「タクミ、あれは?」
「あれは狂魔六将の一人のバズドーだ。重力系の魔法を使うから気をつけろ。」
「さて、では行くぞ。精々私の事を楽しませてくれよ!・・・ん?」
バズドーが何かに気づき後ろに身をかわす。次の瞬間そこに一つの槍が凄まじい勢いで降り刺さった。槍の勢いで土埃が巻き上がっている。
「盛り上がっているところ悪いけど、こっちは楽しんでる暇はないんだよ。早々に片付けさせてもらうよ。」
土埃の中から現れた黄色い髪を束ねたその姿、ジュエルだった。
「槍使いのジュエルか。またお前らに会うとはこれも因縁というやつかね。」
「心配しなくてもその因縁とやらはここで僕が断ち切ってあげるよ。」
地面に刺さった槍を抜き、その矛先をバズドーに向けるジュエル。
「お、おい!ジュエル!お前もう体の傷は良いのかよ!?」
「誰かと思ったらタクミか。君こそ突然いなくなったと思ったらこんなところで何をしてるんだい?逃げ遅れた所だったのかい?」
「ちげーよ!俺は戦うためにここに来たんだ!もう逃げないって決めたんだよ!」
「ふーん・・・。」
タクミの様子を見て何かを感じ取ったジュエル。
「まあどっちでも僕には関係無いんだけどもね。ここは僕一人で十分だから君が戦うというなら、あっちの方で苦戦しているとこがあるみたいだからそっちに行ってもらえるかな。」
「本当に一人で大丈夫なのか?」
「愚問だね。僕は一人で戦う方が性に合っている。君がここにいても邪魔にしかならないからさっさと行きなよ。」
「そうか・・・死ぬなよジュエル!ここはあいつに任せて行くぞアイズ!」
ジュエルの言葉を信じてアイズと一緒に走りだした。
「クククッ。随分甘いことをするんだな。お前一人で身代わりにでもなるつもりか?」
「身代わり?何を勘違いしてるんだか・・・。僕の言葉に嘘はないさ。お前の相手など僕一人で十分なんだよ。どうやらタクミは立ち直ったようだ。騎士たるもの護るべきものを護れなかった時の悲しさは計り知れないものだ。そこから立ち直る大変さもね・・・」
「なにをブツブツ言っている。気でも狂ったかな?」
「お前のような闇に堕ちた三流には永遠にわからないことだよ。」
「貴様ッ・・・!」
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「あの騎士を一人で置いて来て大丈夫だったのか?」
「ジュエルはあれで結構強いから大丈夫だよ!そうそう簡単にやられたりはしねーよ!それよりもこっちで苦戦しているって言ってたな。俺らはそっちの援軍に行くぞ!」
アーバンカルの街を駆けるタクミ達。ジュエルの指した方に向かうとそこにはニーベルの姿があった。
「ニーベル!大丈夫か!?」
「この声・・・タクミ!?一体どこ行ってたのさ!こんな大変な時に!」
「遅くなって悪いな!それで、どんな状況なんだ!?」
「それがタクミ、師匠が・・・私の師匠が・・・!」
「師匠?ワールドの爺さんのことか!?どうかしたのか!?」
「あそこに・・・」
ニーベルが指さす方を見る。そこにはなんとニーベルの師匠であるワールドがいた。しかしその様子は明らかに普通ではなかった。まるで何者かに操られているかのようだった。
「なんでワールドの爺さんがここに・・・何があったんだ?」
「タクミ。あのご老人何者かに操られているようだ。」
「どうやらそのようだな。明らかに様子が変だ。」
その時ワールドの後ろから一人の老人が現れた。
「ケッケッケッ。どうかな?かつての知り合いに殺されるかもしれない気分は?」
しゃがれた声でそう言う老人は、手に黒い魔石を持ちタクミ達に見せた。それは以前スコットが魔法騎士団の本部でタクミに見せた物とそっくりだった。
「この男はこの魔石により、私の思い通りなのだよ!堕ちるまで時間はかかったが今はこの通りだ。」
「何者だテメー!」
「ケッケッケッ。私は狂魔六将の一人ゲルニクスだ。お前らには味方同士で殺しあってもらおう。」
「あいつがゲルニクスか。ってことはエルフ族の呪術もあの野郎の仕業かよ!ワールドの爺さんに酷いことしやがって覚悟しろよ!」
「やれやれ短気な若者だ。そうはいかん!私を護れ!」
ゲルニクスに殴りかかろうとしたタクミ。しかしそれをまた別の男に防がれた。その男の姿を見て驚愕するタクミ。
「あんた・・・・このくそジジィ!こんなところで何してんだよ!?」
タクミの攻撃を防いだ男の正体。それはかつてタクミに魔法を教えた前魔法騎士団団長でもあったエドワード本人だった。
「ケッケッケッ。その男もな。私のコレクションに加わってもらったのだ。私が行ったときには魔法を使うことが出来ないみたいでな。しかし今はこの魔石の力で無理やり魔力を取り戻している状態なのだよ!お前の知り合いだったのか!これは面白い!まさに新旧魔法騎士団同士の戦いと言った所か!」
高笑いをしているゲルニクス。
「まさかこんなところで会うとはな。てっきり隠居してるもんと思ってたけど・・・・ニーベル!お前はワールドの爺さんを頼む!俺はこのくそジジィの目を覚ましてやる!」
「う、うん!わかった!」
「アイズはあのゲルニクスを頼むよ!あいつを倒せば爺さんたちにかけられた魔術も解けるかもしれねえ!」
「ああ。承知した。」
「ケッケッケッ。そう来るのはわかっているさ!だが私の手札はこれで終わりじゃないぞ!行け!」
ゲルニクスはまたも魔石で操っている男を出現させた。アイズの前に立ちはだかる男。その風貌は騎士といった様子だ。
「その男はな!かつてこの世界で剣聖と呼ばれていた男だ!とうに死んでいたが死体を掘り起こしてこうして私の部下としてこの世に甦ったのだ!」
「生者だけでもなく死者までも愚弄して・・・貴様の罪は万死に値するぞ!ゲルニクス!」
怒りを露わにするアイズ。
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