無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。

高田タカシ

三章 28 『思わぬ手掛かり』


 「いつまで寝てるつもりだい!?さっさと起きな!」

 「ふぎゃっ!」

 サリスに乱暴に叩き起こされるタクミ。目を覚ますとそこにはサリスとアイズがいた。出発の準備は万全といった様子だ。

 「ほれ、さっさとタクミも用意するんだ。まずはその寝ぼけた顔を洗ってくるんだね。」

 そう言ってサリスはタクミの顔にタオルを投げた。タオルを受け取り顔を洗うタクミ。鏡に映る自分の顔を見る。元々イケメンではないが何故だろう。より一層ひどい顔をしている気がした。

 「くそっ・・・。何やってるんだ俺は。ちゃんとしないと。こんなんじゃスコットに示しがつかねーよ。・・・ヨシッ!」

 両頬をピシッと叩いて気合を入れなおすタクミ。

 「待たせたな。って、あれ?出発するのは三人だけなのか?」

 「そうだ。ダジンとマーリンには私が居ない間、ここの留守番を頼むことにした。」

 「そうなのか?でもそれじゃエルフ族の村に行くのが難しくなるんじゃないか?」

 「連れていくことも考えたが、話を聞く限りここに残ってもらった方が二人には安全だろう。コトが済んで落ち着いたら改めて迎えに来た方が賢明だろう。それにエルフ族の村の場所も地図できちんと教えてもらったから大丈夫だ。」

 アイズがダジン達に作ってもらった地図をタクミに見せた。

 「私たちの為にここまでして頂いて本当にありがとうございます。どうか私たちの仲間をよろしくお願いします。それとこれも持って行ってください。」

 ダジンが胸元から胸元からペンダントを出した。黒い紐で装飾された魔石だった。白い魔石に青い線で何やら獣のようなものが描かれている。

 「これは・・?」

 「これは私たちのエルフ族に伝わる御神体を写したものです。これを持っていればエルフ族に認められた証となり快く村に迎えられることでしょう。」

 ダジンが差し出したペンダントを受け取るタクミ。魔石に御神体として写されている獣のようなモノ。なんだろうどこかで見たことあるような気がした。

 「この魔石に描かれているモノが御神体ってことなのか?」

 「ええ。私たちが神と崇めるフェル様の姿を書き写したものですよ。」

 「今何て・・・?」

 「え?そこに書き写してあるのが私たちが神様と崇めているものなんですが・・・」

 「今ここに書いてある神様をフェルって言ったか!?」

 タクミの様子が一変した。その様子を見てアイズ達も疑問を浮かべているようだった。

 「え、ええ。私たちエルフ族は代々神獣であるフェル様を神様と祀っているのですが。」

 「急にどうしたんだタクミ?その神獣がどうかしたのか?」

 アイズが事情を尋ねた。

 「このフェルって奴が俺をこの世界に連れて来た奴なんだよ!この世界に来たっきり何の情報もなかったけど、まさかこんな所で手掛かりを知ることが出来るなんてな。まさかあいつ神獣と呼ばれる存在だったのかよ。」

 「この世界に連れてこられただと?まさかタクミ、君は・・・」

 「ああ。俺もアイズと同じように異世界から来た。つまり異世界人ってやつだ。」

 「悪いなアイズ。君の話はさっき私がタクミに話したんだ。それでタクミの話を整理するとこのエルフ族に神様と崇められているこのフェルって神様がタクミをこの世界に連れて来たっていうのかい?」

 「そうだ。」

 「へぇ。これもただの偶然なのかねぇ。ふぅーー。」

 相変わらず煙草をふかしているサリス。

 「エルフ族の村に行けばフェルの野郎に会えるのか!?」

 「いえ、私たちも崇めてはいますが直接見たことは私もないのですよ。ただ大長老ならなにか知っているのかも知れませんが・・・。」

 「そっか。でもエルフ族の村に行けば何かしらの手掛かりは得られそうだな。」

 「タクミを異世界から連れて来た神獣か。私も興味があるな。」

 「異世界をつなぐ神獣ね・・・私も是非会ってみたいもんだ。話はどうであれまずはエルフ族の村に行かない事には始まらないね!それじゃあ出発するとしようかね!」

 「うむ。」

 「おう!」

 こうしてタクミ達はエルフ族の村を目指して出発することにした。エルフ族に呪術をかけている犯人を捜すため。そしてタクミをこの世界に連れて来たフェルの情報を得るために。

 タクミとサリスは用意したグリドラに乗って、アイズは自分の連れていたグリドラにそれぞれ乗りエルフ族の村を目指すことにした。カルミンを出たのは夕方だった。

 「エルフ族の村まではどのくらいかかるんだ?」

 「そうだな。この地図を見る限りこの速さで行けば半日といった所だろう。」

 「半日か・・・てことはこのままいけば着くのは真夜中ってことか?」

 「さすがに未知の土地を暗闇の中訪れるのは危険が高いからな。途中でキャンプをして到着するのは明日の朝になるだろう。」

 「良かったなタクミ。こんな綺麗な女性を二人も連れて旅が出来るなんて光栄と思えよ。ただし変な気は起こすなよ?」

 「誰が変な気なんて起こすかよ!そんなこと自分で普通言うか?ったく・・。」

 「フフッ。照れて可愛い奴め。」

 「サリスあんまりタクミをからかうなよ。恥ずかしがっているではないか。」

 「だから照れてないってば!アイズまで俺をからかわないでくれよ!」

 そんなやり取りをしながらエルフ族の村を目指していった。

 「さて・・・今日はこの辺りで休んでまた明日出発するとするかな。」

 「そうだな。これ以上進むのは得策ではないな。ここなら周りも見渡せるし問題ないだろう。」

 しばらく進んだタクミ達は道中の草原に寝床を作ることにした。

 慣れた手つきでテントを組み立てていくアイズとサリス。

 「随分手慣れた感じだな。」

 「まあ色々なところを旅してきてるからな。こういうのはもう身に染みているのさ。」

 「へぇー。なるほどな。ってあれ?テント一つしかないんだけど・・・?」

 「三人しかいないのだから当然だろう?二つも持ってきたらそれこそ邪魔にしかならん。」

 「え?じゃあ今夜俺が寝るのは・・・もしかして?」

 さっきはあんなことを言ったがもしや女二人に囲まれて寝ることになるとは・・・正直ニヤニヤが抑えられないタクミ。

 「もしかしなくても当然ここだ。」

 サリスが指をさしてタクミの寝床を示した。

 あれ?なんだろう。サリスの指さす先が心なしかテントとはずれているような・・・

 「ここって・・?」

 「だーかーら!ここだ!ここ!」

 サリスが改めて指さした先はテントの外にある吹きさらしの地面だった。

 「ここって・・・それって野宿ってことじゃねーかよ!ふざけんなよ!」

 「ふざけているのはお前だ。なんで私たちがお前と一緒に一夜を共にせんとならんのだ。この季節なら野宿でも問題なかろう?タクミは見張りも兼ねて外で寝るんだよ。だが私も鬼ではない。これをやろう。」

 そういってサリスはタクミに白いクッションを投げ渡した。

 「なんだこれ?」

 「なにって枕だ。何もないよりはいいだろう?」

 「こんなもん大差あるかよ!この人でなし!鬼!」

 タクミがサリスから受け取った枕を地面に投げつけた。

 「なんとでもいうといいさ。さて私たちはもう疲れたか寝るからな。いいか?タクミ、くれぐれも変な気は起こすなよ?」

 「いいのかサリス?私はタクミが一緒でも構わないのだが・・・」

 「いいの。いいの。甘やかすと癖になるからな。アイズも気にせず休むんだ。」

 そういいながらアイズを連れてサリスがテントに入っていった 外に唯一人ポツンと残されたタクミ。

 「くそっ!なんて理不尽な扱いだ。ちくしょう!」

 そう言いながら渋々横になるタクミ。

 「野宿なんていつ以来だろうな・・・。それにしてもただ横になるだけだとやっぱり寝にくいな。」

 そう思ったタクミはさっき地面に投げつけた枕を手繰り寄せ頭の下に敷いた。

 「・・・・うん。悪くないな。」

 そう呟いたタクミは目を閉じた。


 

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