無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。

高田タカシ

三章 24 『新種族』


 「アイタタ・・・いやこっちこそ紛らわしいことしてわるかったな。」

 タクミはそう言いながらアイズから差し出された手を握り立ち上がった。

 「私の方こそ早とちりしてしまったようだ。邪神教徒という言葉を聞いてしまうとどうも感情的になってしまってな。タクミといったかな?君も邪神教徒を探しているようだったが?」

 「ああ。邪神教徒というかその関係者と思われそうな奴を探していたんだ。こんな時間に一人でいるから怪しいと思ってつい疑っちまった。悪いな。」

 「謝ることはないさ。確かに私の行動は傍からみたら怪しいものだっただろう。この格好も含めてな。」

 そういったアイズは身に来ているコートをなびかせた。

 「確かに空から見たら凄い怪しかったぜ!それにしてもアイズさんって言ったか?あんた凄い強いんだな!絶対に殺されると思っちまったよ。」

 「アイズでいいさ。そう言ってもらえると光栄だな。こう見えて少しは剣の腕には覚えがあるのだ。」

 「なら俺はタクミでいいよ!いやホントにアイズの動きは相当なモノだったよ!それでアイズはこんな時間にここで何してたんだ?」

 「私はここから少し行った所にあるオージュアという祠に悪い噂を聞いたので状況を確かめに行くところだったのだよ。」

 「悪い噂っていうのはもしかして邪神教徒に関係することなのか?」

 「はっきりはわからないが、その可能性は無くもないだろう。」

 「そっか。アイズが迷惑じゃないなら俺も着いて行っていいか?」

 「タクミも邪神教徒について調べているといったな。私は構わないが・・・戦闘になることもあるが大丈夫か?」

 さっきのやり取りでタクミの戦闘力に不安を覚えたのだろう。アイズが不安そうに聞いてきた。

 「アハハ・・さっきは思いっきりやられちまったけど俺も魔法をそれなりに使えるからそんなに足は引っ張らないと思うぜ?だから頼むよ!」

 「まあタクミがそう言うなら私は構わないさ。そういえばさっきも空から降りてきたみたいだしな。飛行の魔法が使えるのならそれなりに戦えるのだろう。では一緒に行くとしようか。私はこのグリドラで向かうがタクミはどうするのだ?」

 「俺は飛行魔法でアイズと一緒に向かうことにするよ!フライ!」

 タクミは呪文を唱えて宙に浮いた。その様子をみてアイズはグリドラに飛び乗った。

 「うむ。では向かうとしようか!」

 そう言うとアイズはグリドラの手綱を握り走りだした。それを追ってタクミも飛行した。

 「それでさっきアイズが言っていた悪い噂っていうのはどんな噂なんだ?」

 「祠に怪しい賊が集団で居座っているという噂なんだ。私は流浪の旅人なのだが先日までいた街でこの噂を聞いてな。自分の目で状況を確かめるためにここに来たのだ。」

 「流浪の旅人?それってあてもなく旅をしてるってことか?」

 「まああてがないわけでもないのだがな・・・。探し人をしていてな。ただどこにいるのかがまるっきりわからないのだ。だからあてもなく気の向く方に旅をしてるってところだな。」

 「探し人か・・。それとこの悪い噂ってのは関係あるのか?」

 「いや全くない。」

 グリドラに乗って駆けるアイズは真っすぐ前を向いたまま即答で答えた。

 「えぇ!?関係ないのかよ!じゃあなんで・・・?」

 「そこに悪となるモノがいるかもしれないんだ、それを知ったうえで知らんふりは出来ないだろう?」

 どうやらアイズという女騎士は相当なお人よしなのかもしれなかった。

 「アイズってなんかすげぇな・・。なんかローゼみたいなやつだな。」

 タクミは思わず呟いた。

 「ん?今何か言ったか?」

 「いや、なんでもないよ!」

 「そうか?っと、そろそろ目的地の近くなのだが・・・。」

 アイズは駆けるグリドラの足を止めた。草原の先にいくつかの祠が肉眼で確認できた。

 「あれがオージュアの祠って所か?」

 アイズの隣に着地するタクミ。

 「ああ。聞いた話によるとおそらくはあれがそうなのだろう。あそこに何者か潜んでいるという話だ。タクミ、準備はいいか?」

 アイズは腰に携えた剣の柄を右手で握りタクミに問いかけた。

 「ああ。俺も準備オッケイだぜ!」

 親指を立て答えるタクミ。

 「ふむ。では行くとするか!」

 アイズは再びグリドラを走らせ前方の祠へと駆けて行った。どうやらアイズの乗るグリドラはかなり優秀なタイプらしくかなりの速度を持っていた。アイズに遅れをとらないように後を追うタクミ。

 みるみる祠へと近づいて行くタクミとアイズ。あっという間に祠の入り口に到着した。

 「ここに誰かいるのか!?いるなら名乗り出るんだ!」

 祠の入り口から叫ぶアイズ。その声量にタクミは驚いた。しかし祠からの反応は何もなかった。

 「何も反応がないな・・・。誰もいないのかな?」

 祠の中を見渡すタクミ。肩透かしを食らい少し拍子抜けた様子だ。しかしそれをアイズが手を出し制止した。

 「待て・・・わずかだが中から気配がする。ただ人ではないようだが・・・ん?」

 何かに気づいた様子のアイズ。次の瞬間、暗闇の奥からスライムの人型のようなものが多数出てきた。大小様々で色も統一性のない集団だった。

 「魔獣か!?」

 「これは、誰かが創り出したモンスターのようだ。どうやらこの奥にこのスライムを操っている主がいるはずだ!」

 「ってことはとりあえずはこいつらを倒せばいいんだな!?」

 「早い話がそうだな。」

 そういうとアイズが腰に携えた剣を抜いた。タクミに向けたように同じ構えをしたと思ったら再び目にも止まらぬ速さで次々と人型スライムを斬り倒して行った。

 「相変わらずの速さだな。って俺も遅れはとらないようにしないとな!行くぜ!ドラゴンフレイム!」

 タクミもアイズに遅れをとるまいと人型スライムを炎で倒して行った。タクミとアイズによってみるみる数を減らしていく人型スライム達。数こそ多かったが戦闘力は皆無に近くあっという間殲滅してしまった。

 「どうやらここまでのようだな。さあスライムを操っていた主よ!降参して出てくるんだ!」

 アイズが暗闇の奥に剣を向け叫んだ。アイズが叫んで間もなく奥から人影が現れた。その人影は降参の意を表すように両手を上げて出てきた。

 ただ奥から出てきた人影は人間に似てはいるが人間ではないようだった。顔立ちは男だが耳は兎のように大きく人と呼ぶには違和感があった。

 「その姿・・・まさかエルフ族か?」

 出てきた姿を見てアイズが呟いた。

 「頼む!降参だ!だから殺すのだけは勘弁してくれ!」

 奥から姿を現したエルフ族の男は両手を上げたまま両膝をついて命乞いをした。

 「アイズ、エルフ族っていうのは?」

 「エルフ族というのは一説には神の一族の末裔という言われている一族の事だ。普通は秘境と言われるような奥地に居るとされているのだがなぜこのようなところに・・・」

 そういうとアイズはエルフ族に向けていた剣を降ろした。

 「間違っていたらすまないが貴方はもしやエルフ族の者か?もしそうならなぜこのようなところにいるのだ?」

 「貴方のおっしゃる通り私はエルフ族です。ここには訳あって身を潜めておりまして・・・貴方たちは一体?」

 「私たちはここに賊が潜んでいるとの情報を得てその討伐に来たのだが、まさかエルフ族に会うことになるとは。その訳というのは差し支えなければ教えてもらえるだろうか?」

 予想外の展開にアイズも戸惑っているといった様子だ。

 「貴方たちは私たちを殺しに来たわけではないのですか?」

 怯えた様子のエルフ族の男。相変わらず両手は上げたままだった。

 「どうやら私の聞いていた状況とは違うみたいだからな。出来れば詳しい事情が知りたい!教えてくれるか?」

 「それならば!私の妻を!どうか妻を助けてください!」

 エルフ族の男は上げていた両手を今度は地面につけて助けを懇願してきた。



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