無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。
三章 20 『覚悟』
「おいおい無反応かよ。」
タクミの問いかけにも何も答えようとはしない人影。
「タクミ!こっちにも!」
スコットがタクミの後ろで叫んだ。タクミが振り返ると後ろにも複数の人影があった。
「くそっ。囲まれちまったか!」
「おやおや誰かと思えば・・・こんなところで何をされてるのかな?スコット様?」
後ろの人影の中から一人の中年の男が出てきた。
「貴方は・・・リリック!」
姿を現した男を見て名を叫ぶスコット。どうやら知り合いの様だった。
「なんだスコット?知り合いか?」
「あの人はリリック副官。父の亡き後このアーバンカルを現在実質統制している人だよ。」
「副官?ってことはスコットの味方ってことか?」
「いや・・・」
タクミの問いに言葉を濁すスコット。
「おやおやスコット様。そのようなお言葉寂しいですぞ。さあお迎えに上がりましたので私たちと城に戻りましょう。」
そういうとリリックは一歩スコットの方に近づいた。それと同時に一歩下がるスコット。その様子はどう見てもただの知り合いではないことは明白であった。
「・・・なぜ逃げるのです?」
「なぜここにあなたがいるのです?」
「先日城に魔法騎士団の者が訪ねてきましてね、その時にスコット様のお話を聞いたわけですよ。なんでも明日皇帝の座に就かれるとか。その話を聞いていてもたってもいられずにスコット様を探して回っていたわけですよ。」
「それは・・・何のためにだい?」
「クックックッ。それはですね・・・お前を殺すために決まってんだろぉー!!」
突然不気味な笑みを浮かべて叫ぶリリックだった。その顔は狂気すら感じられる。
「やはりあなたでしたか!リリック!」
リリックの突然の変化にスコットも驚くというよりは怒りをあらわにしていた。
「なっ!どういうことだよスコット!副官ってことはお前の味方じゃないのかよ!?」
突然の展開に驚くタクミ。
「言ったでしょ?父達が暗殺されたときに誰かが敵の手引きをしたはずだと。僕は一番にあなたが怪しいと思っていたんだ!リリック!あなたがあの時、僕の父と母を・・・!」
スコットは拳を強く握り、その瞳は憎しみを帯びてリリックを見つめている。
「ハッハッハッ!まさか気づかれていたとはな!本当はあの時お前も一緒に殺すはずだったんだがあのクソ女がどうやったかお前だけうまく逃がしやがったからな!お前が生きてるとこっちとしては厄介なんだよ!ここですぐに殺してあの世の二人の所に送ってやるよ!」
リリックはスコットに睨まれてもものともしない感じだった。
「なんて奴だ!ってことはこいつも邪神教徒の奴等と一緒ってことか!?」
「私をあんな奴らと一緒にしないでくれるか!私は高貴な人間なのだよ!私はすべての人間の上に立つべく生まれてきた人間なのだ!それなのに前皇帝は決して俺の言葉に耳を向けようとはしなかった!なんたる屈辱だ!そんなことが許されるわけがないんだ!だから邪神教徒の奴らの力を借りてお前らを殺すことにしたんだ!」
タクミの言葉に激昂するリリック。
「リリック・・・あなたのその邪心を父は見抜いていたんだ。あなたは民の事を考えたりはしないはずだ!」
「当たり前だ!!あんな奴らは私を肥えさせるためだけに働いていればいいんだ!あのような下等な者どものことなど考える方がどうかしてるんだ!」
「こいつ本当にクソ野郎だな・・・!」
リリックから吐き出される言葉に苛立ちを感じるタクミ。
「クックックッ。どうせ私のような崇高な考えにお前らのような奴らの理解が及ぶはずもないんだ!もじういい!お前らはこの場で死ねぇ!」
リリックの合図で複数の男たちがタクミ達に襲いかかってきた。
「ドラゴンフレイム!」
これを炎で撃退するタクミ。
「このクソ野郎が!お前らなんか今この場で全員打ちのめしてやるぜ!・・・って、え?」
炎によって打ちのめされた男たちは一度は地面に伏せた。しかしゆっくりと何事もなかったように起き上った。
「やっぱりジュエル君の時と一緒だ!こいつらもきっとあの黒い魔石で操られているんだ!」
「それってこいつら不死身みたいなもんかよ!?」
「ハッハッハッ!無駄だ!こいつらは目的の為に命を惜しむことはない!そして生半可な攻撃では止まらないからな!しかしまだ数は足りないようだな・・・。これでどうだ?」
リリックが何やら魔術書のようなものを左手で開き右手を地面にむけた。手のひらを向けたところから黒い影のようなものが生まれそこから次々と同じような男たちが出現した。
「ちっ!どんどん数が増えてきやがる!」
「私は契約の元にこの不死身の兵士どもを生み出すことが出来るんだ!覚悟しろ!」
「くそ!これじゃキリがねえ!スコット!ここは俺が引き受けるからお前だけでも逃げろ!」
道を防いでいた二人の男を炎で薙ぎ払いスコットに逃げるように促したタクミ。
「でも・・・」
「でもじゃねえ!お前がここでやられるわけには行かねーんだよ!俺がこいつらをここに食い止めるからお前は早くここから離れる・・・・な!?」
突然タクミの右足を痛みが襲った。そして次第に力が抜けていき片膝を地面に着くタクミ。
痛みのした所を確認すると何やら棘のようなものが刺さっている。
「なんだこりゃ!?」
タクミが右の腿に刺さった棘を抜く。
「クックっックッ。それはただの痺れ薬が塗ってある吹き矢だ。お前ら魔法使いは魔法に対しては警戒が強いがこういう古典的な方法には脆いとこがあるからな!まんまと狙い通りだ!」
「タクミ!!」
スコットがタクミに駆け寄る。
「大丈夫かい!?タクミ!」
「俺はいいから!スコットは早く逃げろって!」
「こんな状況でタクミを置いて行けるわけないだろ!」
「バカか!スコットがここで死んだら全部意味がなくなるだろ!」
「それでも・・・それでもここでタクミを見捨てて逃げるわけには行かないんだ!!」
「・・・・っ!?」
スコットの圧に驚くタクミ。
「言ったはずだよ。もうあの時父と母を見捨てた時同じようなことはしたくないと。今ここでタクミを見捨てて逃げた所で、僕が明日からアーバンカルの皇帝としてちゃんとやり遂げられる訳がないだろ!タクミだって僕にとって大事な人なんだ!だから僕はもう逃げない・・・ここで僕も戦うんだ!」
そういうとスコットはタクミをかばう様に立ち上がり両手を広げた。
「ハッハッハッ!・・・いやいやご立派なことだ。その意志に免じてここで殺してすぐに両親の所へ送ってやろう!」
「僕はもう逃げない!そして今ここで貴方を倒して再び平和なアーバンカルを取り戻すんだ!」
・・・・欲しいか?
スコットの心に何かが語り掛けてくる。
「え?今のは・・?」
その声に戸惑う様子のスコット。
・・・力が欲しいか?
再び心に直接語り掛けてくる何者かの声。
「・・・欲しい!僕は力が欲しい!」
・・・それは何の為にだ?
「もう二度ど大切なモノを失わないように!その為に絶対的な力が欲しい!」
・・・それはお前が死ぬまで永遠に戦い続けるということか?
「ああ!僕はもう二度と逃げるようなことはしない!どんなことにも挑み戦い続ける!そう決めたんだ!」
・・・良かろう。お前の真の覚悟受け取ったぞ。今こそ我を呼び起こすがいい!お前が戦うに必要な力を与えてやろう!
スコットの中で力が溢れてくるのが分かった。
「何をブツブツ言ってんだ!恐怖のあまり頭がおかしくなったか!?死ねー!」
リリックの合図で男たちがスコットに襲いかかってきた。
「スコットー!!」
タクミが大声を上げる。
「スコット・アズミナルが命じる!我がアズミナル家を代々護りし力よ!この場においてその力を示せ!」
スコットの覚悟の詠唱が響き渡った。
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