無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。

高田タカシ

三章 5 『魔剣と聖剣』


 「これほどの魔力とは!さすがは神獣と呼ばれるだけはあるわい!」

 姿を変えた神獣の力に感心している様子のドズール。

 「感心している場合かよ!シーバスとかいう奴も出てきて神獣の野郎も本気出してきたみたいだし、これってなかなかヤバい状況なんじゃねーの!?」

 「落ち着けタクミ。ワシらの目的は邪神教徒に指輪を渡さないことだ。ここにシーバスが現れた以上シーバスを倒せばとりあえずは指輪はいらないんだ。水龍の攻撃を避けつつ、シーバスを倒すことを最優先とするぞ!」

 「いや、それって簡単に言うけど結構難しくねーすか!?」

 「それが出来ねばワシらはここで全滅することになるぞ!」

 「ってことは選択肢ないじゃん!!強制かよ!!」

 「うむ。そういうことだ。」

 タクミとドズールのやり取りをクリウスが総括した。

 「フン。とりあえず今日の目的は幻水の指輪なんだ。貴様らが俺の邪魔をしなければ見逃してやるからおとなしく帰った方が身のためだぞ?」

 シーバスが大剣を肩に乗せタクミ達に警告してきた。

 「シーバス・・・悪いがそれは出来ない。お前はここで私が討つ!同門の者が起こした不始末は片をつけなければな。」

 クリウスがシーバスにその右手に剣を持ち向けた。

 「ほう。私に一度も勝ったことのないお前がそこまで言い切るとはな。・・・面白い!やれるならやってみるがよい!あの神獣のついでに相手をしてやろう!」

 余裕の笑みを浮かべるシーバス。

 団長と神獣を同時に相手にしても勝つ自信があるっていうのかよ?どんだけ自分の腕に自信があるんだよ・・・

 シーバスの余裕の表情を見て言い知れぬ不安に襲われるタクミであった。

 「さっきから何をごちゃごちゃ言っている!この私を無視して話をするとはやはり無礼極まりない人間どもだ!死ぬがいい!」

 怒りのボルテージが振り切っている様子の水龍。その大きな口から大量の水を勢いよく吐き出した。

 「ごちゃごちゃとうるせー奴だ。お前が神獣とか俺にはどうでもいいんだよ!」

 シーバスが肩に乗せていた大剣を地面に突き立てた。

 「その力ここに覚醒させ己が力を証明せよ!肉を求め、血を求め暴れるがいい!魔剣グラム!」

 シーバスが呪文を唱えると突き刺した大剣が妖しく紫のオーラを発光させた。

 「フンッ!!」

 突き立てた大剣を右手で抜き両手で水龍の吐き出した大量の水に向かって振り下ろした。

 シーバスが大剣を振り下ろすとまさに一刀両断といった感じで迫りくる大量の水を吹きとばしてしまった。

 「なんだと!?」

 シーバスの振り下ろした剣の威力に驚いた様子の水龍だった。

 「・・・なんちゅう威力だ。あれが魔剣ってやつなのか!?」

 「そうだ。あれこそがシーバスが扱う魔装武具、魔剣グラムだ。その力は神をも殺すと言われている。」

 タクミの問いに答えたクリウスだったが、その視線はシーバスから逸れることはなかった。

 「小癪な人間め!こうなったら我が全力をもってして・・」

 「お前が全力を出すのなんて待ってやるほど俺はお人よしじゃねーんだ!」

 シーバスが一瞬で水龍との距離を詰め再び大剣を振り下ろした。シーバスの振り下ろした剣は水龍の左腕を斬り落とした。

 水龍がけたたましい咆哮をあげている。

 「おのれぇ!貴様のような人間ごときに神獣である私が遅れをとるなどあり得ぬ!」

 「逆だ。神獣ごときでこの俺の邪魔をするんじゃねーよ!」

 そう言いながら再び何度も水龍に大剣を振り下ろすシーバス。

 瞬く間に水龍の体にいくつもの切り傷が増えていった。まさに一方的といえる状況だった。

 「なんであいつの剣は水龍に効くんだよ!?さっきドズール隊長の拳は聞いてなかったのに!!」

 先程あんなにも強大な力を見せつけてきた水龍が目の前でいとも簡単に圧倒されている様子に驚きを隠せないタクミであった。

 「あの魔剣グラムとシーバスの強力な魔力が交わることによってまさに神獣の力をも上回っているということだろう。だがこれ以上静観しているわけにはいかない。私も割って入ることとしよう。」

 そういうとクリウスが両手で剣を握り、騎士が誓いを立てるような構えをとった。

 「騎士の名においてここに正義を執行する!聖剣アロンダイト!その力をもって目の前の魔を撃ち払え!」

 クリウスの言葉に応えるように手に持っていた剣が眩しいほどの白い輝きを放った。

 その様子に気づいたシーバスが水龍に対しての猛攻の手を止めた。シーバスに一方的に斬られていた水龍は瀕死といった状態であった。

 シーバスが猛攻をやめて水龍は巨大な音と共に地面に倒れこんだ。

 「・・・ほう。その聖剣を貴様が引き継いでいたとはな!そして剣を使いこなすレベルまでになっているとは。どうやらあの時のお前ではないようだな。良いだろう!この神獣が予想以上に手応えがなくつまらなかったところだ。ここでお前の力を確かめてやろう!」

 クリウスの力を見て嬉しそうなシーバス。

 「私があの時のままだと思わないことだ。今の私は魔法騎士団の団長としてここに立っている。魔に落ちたお前に負けるわけには行かないのだ!」

 「言うようになったものだな!ならばその力ここで証明するがいい!」

 次の瞬間、一瞬で間合いを詰めたクリウスとシーバスが激しくぶつかりつばぜり合いをしていた。

 二人が衝突した勢いでで辺りに衝撃波が起きた。その勢いで後ろに飛ばされそうになったタクミだったがなんとか踏みとどまった。

 「なんて衝撃だよ!これが団長の本気ってヤツなのか!?」

 「そうだ!あの聖剣の力を呼び覚ました団長はまさに敵なしといった状態なんだが・・・その一撃を受け止めたシーバスもまた団長と互角の力の持ち主なのだろう。聖剣アロンダイトと魔剣グラム、どちらも魔装武具としての差はそうないはずだ!あとはお互いの個人差が勝敗を分けることになるだろう・・・」

 ドズールもなんとかそこに踏みとどまっているといった様子だった。

 お互いに剣戟を繰り広げるクリウスとシーバス。その剣の速さは目にとまらぬ速さであった。しかしどちらの一撃もお互いに入らなかった。

 いったん距離を取る二人。

 「フフッ。どうやら本当にあの時からは成長しているようだな!昔のお前なら今ので死んでいただろうよ!」

 クリウスの力に満足そうな様子のシーバス。

 「シーバス。私も正直驚いたよ。今ので一撃も入れられないとはな。だがもう今のお前に昔のような脅威を感じることはなかった・・・。ここで朽ち果ててもらうぞシーバス!」

 剣を構えなおすクリウス。

 「あまり調子にのるなよクリウス!お前が俺に勝つことなど絶対にないのだからな!」

 そういうとシーバスは魔剣を天に掲げた。

  

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