無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。

高田タカシ

三章 4 『神獣』


 「さて人間どもよ。少しは魔法の心得があるようだね。・・・特にそこの金色の髪の男はなかなかの力を持っているようだ。まあそこの冴えない男は話にならないみたいだけど。」

 少年に化けている水龍はタクミに見下すような視線を送った。その視線に気づくタクミ。

 「冴えないってーのは俺の事かよ!さっきのはただの手違いだ!今にお前の俺への認識を改めさせてやるよ!」

 少年に対して敵意をむき出しにするタクミ。それをドズールが制止する。

 「落ち着けタクミ。俺たちの目的はあくまでも時間稼ぎだ。こうして話をしている方が都合がいい。なるだけ武力対決は最終手段だ。」

 その様子を見ていたクリウス。タイミングをみて少年に話しかけた。

 「先程、指輪はある人に頼まれて守っていると言ったがそれは誰なんだ?」

 「それを君たちに話してやる義理はないよ。しかし最近はやたらとあの指輪を欲しがる輩が増えて来たもんだ。下界で何か起きてるのかい?」

 「水龍殿、貴方は知らないかもしれないが今この世界は非常に不安定な状況にある。その指輪を欲する不穏な輩がいるとの情報を私たちは得てここに来たのだ。我々としてはその指輪をその輩たちに渡すわけには行かないのだ。なので時期が落ち着いたら必ず返しに来るのでここはどうか我々に預けておいてはくれないだろうか?」

 このクリウスの提案を聞いて少年は不機嫌な様子になった。

 「・・・それはこの僕じゃまるで指輪を守れないみたいじゃないか?そんなに僕の力は信用ならないのかい?」

 明らかな戦闘態勢にかわる少年。

 「そういうわけではない!指輪がここにあれば水龍殿も危険にさらされる可能性があると・・・」

 「もういいよ・・無駄話はここで終わりだ。君たちはここで死んでもらうよ!」

 クリウスが水龍をなだめようとしたが、少年は聞き入れる様子はまるでなかった。

 両手を広げた少年の周りに無数の水の球体が現れる。

 「昔から神獣の怒りは人柱をもってして鎮めるのが通例だ。ここで君たちは人柱として死ぬがいい!水掌破!」

 少年が呪文を唱えると水の球体から無数の水の刃がクリウス達に襲いかかった。

 クリウスやドズール、タクミによって魔法障壁を作ってこれを防いだが、刃の数が多すぎてすべてを守ることは出来なかった。遠くの方の一般兵たちの叫び声が聞こえてくる。

 「やむおえん。防御だけではこちらの被害が増えていく一方だ。ここからは攻撃に転ずるとしよう。」

 そういうとクリウスが腰に帯刀してた剣を抜刀した。

 「ドズールとタクミは援護を頼む。ではゆくぞ!」

 クリウスは剣を構えて無数の刃を操っている少年に斬りかかった。

 「やはり君が来たね。賢明な判断だよ。だがその程度の刃では僕には届かないよ!」

 クリウスの剣に対して水の刃を集結させてつばぜり合いをする少年。

 「私もこの程度で神獣に勝てるとは思っていないさ。だが神獣と手合わせする機会などそうそうないんだ、いろいろと試させてもらうとするさ!ドズール!」

 「雷光鉄槌!」

 クリウスの合図で腕に雷をまとわせたドズールが少年の横っ腹に拳を振りぬいた。

 「ほう・・・なかなかいい連携だね。だが僕には届かないよ!」

 ドズールの拳は少年の体を捕えていたが、拳は体を突き抜けていた。どうやら物理攻撃は聞かないようだった。

 「チッ、雷も効果なしか・・・」

 「だが私の剣を防御したところを見ると聖魔法は効果ありといったところか。ならば・・・タクミ!」

 「ハイよ!俺の事冴えないとか言ったこと後悔させてやるからな!ホーリーレイピア!」

 タクミによって創り出された大量の光の矢が少年に降り注いだ。

 降り注ぐ矢によって砂埃が巻き上がる。

 「もう結構だタクミ。」

 クリウスが右手を上げた。巻き上げられた砂埃が一瞬で吹き飛ばされた。

 「残念だったね。聖魔法は確かに効果が見込めるが、それは僕に魔法が届けばの話さ!」

 姿を現した少年は強力な魔法障壁によって無傷だった。

 「おいおい・・・これでも傷一つ付けられないってどうすればいいんだよ?」

 「フフフ。神獣とよばれる所以がわかったかい?このエスミル山において僕を倒せる存在なんてありはしないのだよ!・・・ん?」

 高らかに声をあげる少年は空を見て何かの気配に気づいたようだった。

 「・・・やれやれ今日は来客が多いんもんだ。呼んでもいないっていうのに。」

 空を見上げるとそこには一人の人影があった。背中には大剣を携えているのが見える。

 「ほう。幻水の指輪を取りに来たら懐かしい奴がいるもんだ。」

 空に浮かんでいた人影が徐々に高度を下げてきた。その姿が徐々にはっきりしてくる。

 かなり筋肉質な体をしている銀髪の男が空から地面に降り立ってきた。

 「これはこれは・・・クリウスではないか!ハハハ!なぜ貴様のような軟弱者がここにいる!?」

 「・・・シーバスか!」

 クリウスと対峙する銀髪の男。どうやら狂魔六将の一人、魔剣使いのシーバスのようだ。

 シーバスの姿を確認するとクリウスの表情が変わった。その表情は憤怒しているようだった。

 「ふん・・生憎だが今日は貴様のような軟弱者の相手をしている暇は今日はないんだ。」

 クリウスの表情から何かを感じたようだったが、気にも留めない様子で水龍が化けている少年の方に近寄るシーバス。

 「貴様もそこの者たちと同じように指輪をくれというのか?」

 少年がシーバスに質問した。

 「いや・・・くれなどとは言わないさ。貴様の許可などもらわずとも勝手にもらってゆくからな!」

 そういうとシーバスは背中の大剣を抜き少年に対してその矛先を向けた。

 「そこの者たちも中々に失礼な奴等だったが、それさえも可愛く思えるほどだな。貴様という奴は!」

 シーバスに矛先を向けられ少年も怒りをあらわにした。

 「今更一人増えたところで変わりはないが、貴様らはここで徹底的に潰すとしよう!ハッ!」

 少年が気合を入れるような声を出すと少年の姿がみるみる変化していった。青い光に包まれていく。

 人の姿はすぐになくなった。皮膚は青く輝く鱗に覆われていき、手は巨大な爪を持つものへと変わっていった。体の大きさも瞬く間に大きくなっていきその姿はまさに水龍と呼ぶにふさわしい姿へとなっていった。

 その姿からあふれる魔力はさっきとは比べ物にならないものだった。

 「これが神獣の本気って奴かよ・・・さっきのでも厄介だったのにこんなのどうすればいいんだよ!?」

 真の姿を現した水龍に圧倒されるタクミ。

 「我こそがエスミル山を守護する神獣。この姿になった以上、我に敗北はあり得ぬ!覚悟は良いか?愚かなる人間ども!」

 水龍の咆哮がエスミル山に鳴り響く。




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