無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。
二章 9 『波乱の幕開け』
部屋に差し込む朝日でタクミは目を覚ました。どうやら今日も外は快晴のようだ。
身支度をすませて部屋から出るとウインズが玄関にいた。どうやらもう出発するところだったようだ。
「おはよう、タクミ。昨日はゆっくり眠れたかい?」
「あぁ。おかげでゆっくり休めたよ。もう出るのか?」
「魔法騎士団としての仕事もあるし、君への依頼の件もあるからね。私は先にゆくよ。君はゆっくり来るといいよ。では。」
そういうとウインズは慌ただしく玄関から出て行った。
屋敷のメイドに案内され朝食を食べるタクミ。部屋にはたくさんの絵画が飾ってあった。風景画から人物像と様々な絵があったが一枚の絵にタクミは不思議と目を引かれた。
その絵には若い青年となかなか威厳のある感じの男と清楚な感じで赤ん坊を抱いている赤髪の女性、その表情はとても穏やかである。そして奥の方で背を向けて何かを追っかけているかのような格好の、これまた赤い髪の少女が描かれていた。
おそらく若い青年はウインズの若い時のものであろう。どことなく面影がある。
威厳のある男と赤髪の女性は夫婦であろうか。少し年の差を感じなくもないが、夫婦と言われればわからなくもない。
もしかしたらローゼの両親かな?
タクミはふと思った。赤ん坊を抱いている女性はどことなくローゼと似ているような気がしたし、その髪の色はまさしくローゼのものと似ていた。
まさに幸せそうな感じが伝わってくる絵画であった。タクミは素直にそう感じた。
「待ってろよ・・・ローゼ。」
小さく呟くタクミ。食事を終えたタクミもウインズの屋敷を後にした。
アーバンカルの街中を歩くタクミ。相変わらず人通りは多い。
「さて、まだ発表までは時間があるな・・・どうしようかな?」
アーバンカルにある大時計を見て、そう呟き一人ウロウロするタクミに後ろから少女の声がした。
「タクミさーん!!」
振り返るとそこには見たことのある金髪の少女が、ポニーテールを揺らし手を振って近づいて来る。昨日アーバンカルに入る手伝いをしてくれたマリーだった。
「おぉ!マリーか!昨日はろくにちゃんと礼もせずに悪かったな。どうしたんだ?」
「いえ!たまたまタクミさんを見かけたので・・魔法騎士団の試験は無事受けられたんですか?」
「なんとかギリギリで受けることが出来たよ。今日は昼からその結果発表があるんだ。」
「そうなんですか!それは良かった。 試験はどうだったんですか!?」
マリーの問いに、親指を立て自信満々な表情で返すタクミ。
「すっごーい!さすがですね!タクミさんならきっと大丈夫だって思ってましたよ!」
「そ、そうか?そんな言われるとなんか照れるな。アハハ・・マリーは無事仕事は終わったのかい?」
「あ、ハイ!私も無事荷物を運ぶことが出来たので、これから自分の村に帰るところだったんです。」
「そうか!それは良かった!でも気をつけて帰るんだぞ!なんか今は色々物騒みたいだから・・」
「そうですね。来る時みたいな事がないならいいんですけど・・帰りは他の方と一緒に固まって帰ろうと思うので、おそらく大丈夫だと思います!ご心配してくれてありがとうございます!では私はこれで!」
ペコッっとそのポニーテールの頭を下げマリーは走って行ってしまった。
「おう!気をつけてなー!」
タクミが走っていくマリーに声をかける。走りながらも振り向き手を振って応えてくれたマリー。他の通行人にぶつかりそうになっていた。
「なんか危なっかしいやつだなー・・・大丈夫かよ?」
その姿を見て少し不安になったタクミ。
「やっ!タクミも今から行くところかい?」
マリーを見送っていたらまたしても後ろから声をかけられた。そこにはレミがいた。
「おっ、ビックリしたぁ!・・・ってレミか。レミも今から行くとこだったのか?」
「そうだよ!誰かと話していたの?」
「あぁ。ちょっとした知り合いがいたからな。じゃあ俺も行くとするかな。」
こうしてタクミとレミは一緒に魔法騎士団の本部へと到着した。また昨日の部屋へと集められる。
中にはシュウだけがいた。どうやらタクミとレミは2番と3番目のようだった。
「はやいね、シュウは!」
レミがシュウに声をかける。
「えぇ・・まぁ家にいても落ち着かないので。お二人もお早いですね。」
「まぁね!特にすることもないし早く来ちゃったよ。」
そういいながらシュウの横に座るレミ。タクミもその横に座った。
「はぁ・・これで試験に落ちてたらどうしましょう・・・」
不安そうなシュウ。
「そんなに心配しなくても大丈夫だろ?しっかり活躍していたじゃん!あの遠くが見える魔法奴とかすごかったし!」
「アハハ・・狂魔六将と戦ったタクミさんにそういわれると光栄ですよ。僕は正直戦闘よりも探索型の魔法が得意なんですよ。」
「へぇ。便利だよな。あんな風に遠くの敵が見えるってのも。あ、あとレミもなんか相手を気絶させてたよな?あれも魔法なのか?」
「そうだよ!あれは相手のエネルギーを吸い取るドレイン系の魔法なんだ。タクミのも吸ってあげようか?」
ニヤリと右手を向けるレミ。
「い、いや、遠慮しとくよ。」
「アハハ。冗談だよ!」
いや、今のはちょっと本気だっただろうが!
タクミは内心ツッコんだ。そんなやりとりをしている間に他の受験生もそろってきたようだった。ジークの姿もジュエルの姿もあった。
そして時刻になり、ドズールが部屋に入ってきた。手には丸めた紙を持っていた。
「皆揃っているな!改めて昨日はご苦労であった!これより昨日の試験の結果を発表する!・・・残念ながら全員合格とはならなかった。だが今回ダメだった者も諦めずに次回の試験に挑戦してほしい。そして今回合格した者はこの結果に満足しないでほしい!あくまでも魔法騎士団に入団してからが本番であるということだ!・・・では今からここに合格者の番号を張り出す。番号があった者はこのまま部屋に残ってくれ。」
そう言うとドズールが部屋の前に紙を張り出した。そこには番号が書かれていた。
「あ、あった!あった!」
シュウが喜びの声を上げた。どうやら合格していたようだ。
「私もあったよ!よかったぁー!!」
レミも合格したようだった。部屋の中に歓喜の声と、落ちた者の悲哀の声が入り乱れた。落ちた者もいたようだ。
「えぇーっと・・確か俺は362だったよな。362・・・362・・・あれ?」
自分の目を疑うタクミ。
ドズールが張り出した紙には362の番号はなかった。
「ちょ、ちょっと!俺の番号がないんだけど!ねぇ!?どーいうこと?」
正直受かっていると思っていたタクミは予想外の結果に声をあげた。
「えぇ!?うそでしょ!?タクミ!?」
横にいたレミも驚きの声を上げる。シュウも不安そうな視線でタクミを見ていた。
「納得いかないのだけど、なぜ僕の番号がないのだい?理由を聞かせてもらおうか?」
そこにはジュエルが立っていた。かなり不満といった感じで不機嫌さがにじみ出ていた。
「俺も納得いかねーよ!なんでだよ!?」
タクミもたまらず立ち上がって抗議した。
「うむ。まぁ当然だろうな。タクミとジュエルの二人は別室に来てもらおうか。残りの合格者はここで別の者からこれからの流れの説明を受けてもらう。二人は私に着いてきなさい。」
ドズールが部屋を出ていく。その後をタクミとジュエルもついていった。
しばらくついていくとある部屋に通された。
部屋の中にはドズールとほかにウインズの姿があり、その奥には魔法騎士団団長クリウスもいた。
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