作者ネタ切れにより「俺、幼なじみ(男の娘)と同棲します」は思いついた日常を季節関係なく書きます

煮干

4月3日

 噂が広まり、いつの間にか俺が明希に告白したとなっていた。さらに中絶手術などという尾ひれはひれもついてきた。

「で、本当なの?  中絶手術?」

 横島はこればっかりだ。今朝から昼までずっと、飽きもせずに聞いてくる。

「だからな、違うってもう三十回は言ってるだろ?」

「違う、二十七だ」

 竜岡はどうでもいいことだけはよく覚えているようだ。 

「おもらしの回数は?」

「わかると思うか?」

 さすがに幼すぎるよな……。

「最近したのは、中学二年の時だ……。言わせんなバカ!」

 聞いてねぇよ!  誰も知りたくないから!
「言ったのお前だろ!?」

「だって……言わないと妊娠させられるって……」

 なるほど……こいつも俺の中絶手術を信じている人間か。ていうか、横島はなに慰めてんだよ。傷ついてるの俺だよね?  十中八九俺だよね?

「もう茶番はいい加減にしろ!  いいか!  俺と明希の間にそんな関係はない!」

 教室が静まり返り、みんな一斉に俺を見る。冷静になると恥ずかしさが込み上げてきた。 

「だからな、恋人関係じゃ……」

「恥を知れ!  男として最低だ!」

 なんで俺が捨てたみたいになってんだよ!

「そうよ!  明希ちゃんがかわいそう!」

 裏声使うな竜岡!  耳障りだ!

「お前らなぁ……。俺が黙ってると思うなよ?」

 俺の怒りが沸点に達した。覚悟しろと言わんばかりに俺は威嚇をする。すると、教室はヒソヒソ話を始めた。

「逃げろぉ!  孕まされるぞ!」

「横島ァ!  てめぇ!」

 俺は怒りの矛先を横島へとむける。横島はそれに勘づいたのか走り出した。

「逃がすかァ!」

 俺は全力で走る。小学校の頃に徒競走一位をとり、才能の片鱗を見せた男……それが俺だ。そして今、才能は覚醒する……!  その瞬間、俺の視界に入るもの全てがスローモーションになる。来てしまったのだ……超光速の世界へと……。
 俺と横島の距離はどんとん小さくなる。もとより肥満気味の横島に負けるはずなどない。勝った……俺は確信した。

「負けるかァ!  俺は教えてもらったんだ……諦めたら試合終了だって言うことを!」

「何!?」

 まさか……自ら近づいてくるだと……?

 届く……横を通ろうとする横島に手を伸ばす。触れた、確かに触れることは出来た。だが、俺は横島の力に敗北をきっすることになった。俺の手は吹き飛ばされ、肩に激痛がはしる。まさか……あいつはここまで読んでいたというのか!?

「くそぉ!」

 減速には時間がかかる。ならば、負傷してない我が左手を軸に回るだけだ!

 俺は左手を軸に方向転換をする。目標捕捉完了、これより捕獲に移る!

 俺は再び走り出す。回転で、多少減速はしたものの、余裕で追いつける!

 俺はどんどん加速し、最高速度に到達する。走るそのフォームは草原を疾駆する馬!  かつて世界へと挑戦した陸上選手も口々にこう言うだろう……「馬がいる……」と。無理もない、それほどまでに洗練されたフォームから生み出される馬の如き脚力。見るものが魅了され、虜になるのも無理もない。

 俺を相手にしたことが横島の敗因だ!

「……明希!?」

 予想外……走ることに夢中になるあまり、前方不注意。これには陸上選手もビックリだ。

「大樹君!?」

 くそ!  明希は恐怖から動けないでいる。それもそうだ、きっと今の俺には馬のスピリットが宿っているからな。後ろに馬が見えるんだろう。いや、そんなことよりどうする……。かくなる上はこうするしかない!

 前かがみに倒れ、ボウリングの球のように回転する。間違えてもストライクをしてはいけない。止まれと必死に願うと神様に届いたようだ。

「女の子なら最高なの……痛っ!?」

 俺は見事に明希の股の間にホールイン。もちろん、あんなことを言えば踏まれること間違いなし。赤面した顔から三発、容赦なく顔を踏まれた。

「いい蹴りだ……」

「ご、ごめんね!」

 あれ……神様が天使を送り届けたようだ。天使が見える……。ついに迎えか……。

 俺が弱々しく手を伸ばすと、明希がその手を握る。瞬間、俺の意識は覚醒した。

「ありがとう……」

 明希に殺されたのも事実だが、明希に救われたのも事実だ。感謝はしとかないとな。

「ふ、踏まれて喜ぶなんて変態だ!」

 あ……そうとらえたか。

「みんなァー!  今度はエム発言だ!」

 横島が叫ぶ。あいつは後でしめるか……。しっかりと紐で結ばないとな。

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