転移世界 与えられたのは100×∞連ガチャ!

黒烏

2つの病室、2つの会話

軽くノックをし、部屋の中にいるシーヴァに声を掛ける。

「シーヴァ、具合はどうだ?」
「ああ、ケイト君か!入ってくれ!」

予想以上に元気な声で返事が来たので少々驚きながらも、啓斗は部屋に入る。


啓斗の目から見るとシーヴァの体には傷は無く、何故マギクニカに同行できないのか不思議に思うほどだ。

「いやぁ、面目ない。ルカさんの風刃で内蔵を相当損傷してしまったらしくてね。しばらくは口から物を食べられないしベッドから出てもいけないと言われてしまった」
「………そうか。シーヴァ、すまない」
「おいおい、どうして君が謝る?逆に謝るべきは僕の方だ。元はと言えば僕が安易にルカさんの戦力を調べようなどと考えたからこんな事になったんだ。君とルカさんには謝っても謝りきれない」
「いや、俺の責任でもある。ルカが俺がいないと不安定なのを知っていながら独断で無限ダンジョンなんて行ったから起きたことだ」

啓斗は視線を右斜め下に固定したまま話す。
重苦しい空気が部屋の中に流れ、シーヴァも視線を泳がせた。

「民間の方々にもかなりの被害が出てしまったからな。王がどう対応するか次第で色々と問題が起きるかもしれない」
「俺とルカに、か?」
「いや、君は僕達と共に戦っていたから無罪だ。しかしルカさんがどうなるか分からない。誰かが万が一にあの怪物ドラゴンの正体を目にして通告していれば彼女が罪に問われるかもしれない」
「ああ、僕達は言うつもりは無いぞ。ゼーテには「何処からか飛来した龍を追跡して討伐した」と言わせたし、救援を呼ぶ時に僕も龍の正体については言葉を濁したからな」
「他にルカの正体を知っている者といえば…………っ!」

シーヴァの顔色が一気に青ざめる。
啓斗は咄嗟に聞いた。

「いるのか!?」
「ああ、いる。今思い出した。名前は、バルドー・リデルフォン」
「誰だそいつは?」
「城の執事だ。国王専属のな。確か彼は城の中で起こった出来事をほぼ全て把握している。職務に忠実なあの人のことだ、既に王の耳に入れているだろう」
「………まずいか?」
「いや、逆に考えると大丈夫だということだ。もう丸一日経とうとしているのに何もしないということは、不問にする気なのだと思う」

啓斗は思わずほっと胸をなでおろしそうになった。
何故本当にしなかったかというと、安心して崩れた表情をシーヴァが笑顔で見ていたからである。

「君とルカさんは相思相愛という認識で良いかな?彼女もかなり君に頼り切っている印象を受けるが」
「いいや、断じてそんな関係ではない。絶対にだ」
「………男同士なのだから意地を張る必要も無いぞ?」
「うるさい黙れ」
「くく、君の人間らしい面を新しく発見出来て僕はかなり嬉しいがねぇ」

(彼自身は気づいていないが)顔をかなり赤くしてルカとの「関係」を否定する啓斗を、シーヴァは悪戯っぽい目で見て笑っていた。






ほぼ同時刻、ルカの病室にて。

「ルカ、もう大丈夫なの?」
「うん。痛みは無いし、小さい怪我すら何にもないよ」
「そう、それは良かった。……ねぇ、ちょっと話してもいい?」
「え?あ、うん」

ゼーテはベッドの端に腰掛けると、ルカの方は見ずに淡々と話し始めた。

「シーヴァ、いるでしょ。あの全身黒でまとめたナルシスト野郎。アイツがね、しばらく動けなくなっちゃったのよ」
「なんでかって言うと、まあ貴女の攻撃をモロに喰らっちゃって内臓ボロボロになったからなんだけど」

ゼーテは目の前の虚空を見つめて静かに話し続ける。
ルカは自分の背筋がドンドンと冷たくなっていくのを感じた。

「で、しばらく絶対安静だしろくにご飯も食べられないし勿論これからマギクニカへ、なんて無理」
「…攻撃当たったのはシーヴァのせい。油断して注意を疎かにしたアイツが悪いし、貴女のせいじゃない」
「勿論、ケイトも一緒に戦ってくれたし最終的に鎮静化させたのも彼。だから彼も悪くない」
「頭では分かってるのよ。頭では、ね………」

ゼーテは座っている状態で脚に肘をつけて頬杖をつくと、深いため息をつく。
そして、ギロリとルカを睨みつけた。

「でもね、どうしてもこう考えるのよ。「貴女達が来なければ良かった」って。「貴女とケイトが来たせいでシーヴァが酷い目にあったんだ」って」
「だってそうじゃない?貴女達さえここに来なければ、街に被害を及ぼす存在は元からいないし、全部順調に進んでいたのに!」

もうゼーテは座っていられなかった。
元来ゼーテは気が短く激昴しやすい性格であり、更にそこに(周囲の人間は一切気づいておらず、本人も全くもって無自覚なのだが)重度の「ブラザー・コンプレックス」が上乗せされている。
従って、自分の生まれ育った国の人民を虐殺するのみならず最愛の兄の命まで脅かしたルカに並々ならない憎悪を燃やしてしまったのだ。

「正直言うとね、今すぐ貴女を斬り刻んで殺してやりたいわ。多分、ジェイド王が貴女を処刑しないのは私が殺すと踏んでるから」

ゼーテは骨折していない右手に【シャイニングブレイド】を召喚してルカの首にあてがう。
ルカは、恐怖と罪悪感から一言も発せられず、1ミリも動けなかった。

「このまま私が剣を左に振ったら、貴女の首は飛ぶ。そうしてやりたい気持ちが心の中に渦巻いてるわ」
「でも、そうはしない。それをやったら、私はシーヴァの隣に立てなくなるもの」
「一時の感情でこの立場を永遠に無くすのだけは御免よ。それに、貴女の本来の性格は心優しいものだって知ってるから」

魔法剣を消し、再びベッドに腰掛ける。
すると、おもむろにドアが開いて人が入って来た。

「おねえちゃん、おみまいきたよー!」

とてとてと歩くその小さな少女は、ベッドの側まで来ると屈託のない笑顔を浮かべてルカを見上げた。

「得体の知れない恐怖の屋敷で、誰とも分からない子供だったマリーが最初に心を開いたのは貴女だった。そこを評価してあげる」
「あの怪物は貴女じゃない。貴女に取り憑いてる悪魔のような何か。この怒りをぶつけるのは、その「何か」相手にするわ」
「だから、これからも宜しくね、ルカ」

そう言ってニコリと笑ったゼーテを見て、ルカはまた泣き出した。

「え!?ちょっ、なんで泣くの!?」
「だって……ホントに……怖かったもん………」
「あ、そんなに真に受けた!?や、ゴメンって!ちょっと脅かそうとしただけじゃない!」
「絶対、本気だったもん…………」

大粒の涙をボロボロ零してオイオイと泣き続けるルカを泣き止ませるのに、ゼーテは「ゴメン」を16回言い、更に今度「超高級厳選ヴァーリュオンスイーツ食べ歩きツアー」をやると固く約束までしてしまった。

(でも、私が殺さないとなるとルカの処遇、本当にどうなるのかしら?もし刑罰とか処刑になるなら全力で阻止するけど、やっぱり気になる)

目は更に充血したが持ち直したルカと、変わらず楽しそうに走り回るマリーを見つめながら、ゼーテはそんなことを考えていた。








場所は戻ってシーヴァの病室。
啓斗は、シーヴァに思い切って聞いてみることにした。
ゼーテの【破呪の銀眼】に表示されていた「借物」という表示についてだ。

「なあ、シーヴァ。ひとつ聞いてもいいか?」
「ん?何でも聞いてくれて構わないぞ?どうした改まって」
「……答えたくないなら答えなくていいからな」
「だから、何の話だ?」
「…どうして、ゼーテの銀眼は借物かりものなんだ?」

「借物」というワードを口に出した途端、シーヴァの表情が引き締まったのを啓斗は感じた。

「………どうやって、それを知った」
「人間や魔物の能力を解析する力を手に入れた。それで「視」てみたらゼーテの能力に「借物」という字が書いてあった」
「なるほど……。君ならそういう能力を持っててもおかしくはない…か」

シーヴァは数秒の間黙り込んだ後、神妙な面持ちでゆっくりと口を開いた。

「それを説明するには、僕とゼーテの生い立ちから話す必要がある。少々時間を取るが、大丈夫か?」
「ああ、問題ない。ぜひ聞かせてくれ」
「……分かった。なら、隣にいるゼーテとルカさんも呼んできてくれ。ルカさんにも話しておきたいし、ゼーテに補足してもらいたい部分もあるからな」

啓斗は頷くと、シーヴァの病室を出る。
シーヴァは大きな溜息をつくと、ボソリと独り言を言った。

「今思い返しても、忌まわしいことこの上ないな」

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