異世界スキルガチャラー

黒烏

地龍鎮圧戦 4

「……一応、あの風塊の威力はチェックしとかないと」

ゼーテは、街の上空に浮かぶ暴風の塊に向かって飛ぶ。
眼下では、団長レイザックの指示をいち早く受けた巡回の騎士や兵士達が一般の人々を先導している。

「情報伝達が早くて本当に助かるわね。……さて?」

風の中に姿を隠しているルカのすぐそこまで迫る。
が、この10メートルほどの地点から風圧が強力すぎて接近できない。

「うう……!」
「ガルルァァ……」

風の塊の中心にいる龍人は、じっとゼーテを見つめている。
その「眼」は、まさしく獲物の動きを伺う獣のもの。
傷が治った瞬間に襲いかかってくるのは確実だとゼーテは直感した。

「……銀眼を使えば、この暴風を消しされるかもしれない。でも、そうしたらルカも、襲ってくるかも しれない」

もし、本当にルカが攻撃してくれば向こうの方が有利なのは確実。
まず、前提としてゼーテは魔法で空を飛んでいる。
そのため、少なからず神経を魔法の維持に使わなければならない。
しかし、ルカは負傷していない実際の翼で飛行している。
更に、負傷が治ってしまえば1対1の空中戦でゼーテに勝ち目はないと言っても過言ではないだろう。

「早く誰か来なさいよ! もう治っちゃう!」

ルカの傷はみるみる内に治癒していっている。
両足のダメージは完全に消えており、もうすぐ右腕が完治する。

「……近くにいない方が良いかも」

ゼーテは急降下して民家の屋根に降り立つ。
街を見渡すと、民間人は大方避難が終わったようだ。
残っているのは、騎士団の精鋭たちと兵士の中でも魔法がある程度使える中級クラス。

「ゴオォォ……」
「来る!」



「ガアアァァァァ!!!!」

球体状だった暴風がルカの周囲から街の全体へと鋭利な風の刃となって降り注いだ。



ドガガガガガガガガガガ!!!!!!
という轟音が街中に鳴り響く。
道路には無数の傷跡がつき、木造家屋は一瞬で崩壊、石造りやレンガ造りの家々や店の壁、屋根、柱も風に刻まれてバラバラになる。

「……くうっ!」

咄嗟に魔法で障壁を作り出し、自身の体を防御する。
直接的なダメージは回避したものの、足場にしていた家の屋根が周囲の家もろとも崩れ落ちた。
すぐにルカの位置を確認する。

「こっちに狙いを定めてるわね。これなら、上手く郊外に誘導を……」

が、ゼーテの考えは甘かった。
ルカは、翼を折り畳むと、いきなりゼーテ目掛けて急降下してきたのだ。

「…………っ!」
「バルルルルルルゥゥ!!!」

反射神経を総動員してルカの突撃を躱す。
地面に着地(激突)したルカは即座にゼーテへと牙を剥いた。

「ガアアアァァ!」
「このっ!!」

次々と繰り出される神速の攻撃。
確実に先ほどよりスピードが増しているのが、風を切る音で分かる。
必死で回避に専念するが、攻撃の度に加速するルカの両腕はもうすぐゼーテの体を捉えそうだ。

「ちょっと、早く来なさいってば!」

ゼーテは、未だ来ない「唯一」信頼を置いている男の名を呼んだ。

「シーヴァァァァ!!!」
「僕を呼んだかい!?」

怒りに任せて叫んだ瞬間にその人物、シーヴァ・ナイトブライトが上空から魔法弾を放ちながら降りてきた。
強力な魔法の球を防御無しでまともに喰らったルカは、衝撃で数メートル吹き飛んだ。
しかし、魔法弾を放ったのはシーヴァではない。

「……マリーが、なんでここに?」
「ん?ルカお姉ちゃんを助けるんだとさ。それに、この子は強い。必ず役に立つ」
「マリー、おねえちゃんたすける!」

マリーがキッと龍人状態のルカを睨み付けると、地面から無数の真っ黒な手が現れ、ルカの体に絡み付いた。

「グッ……!?」
「あれは……【執着の手】か! やはり、連れてきて正解だったな」
「……そうね。でも、ああいう魔法はやっぱり危険だから警戒はしないと」


【執着の手】
対象を定めると、その周囲の建造物や地面から闇魔法の手が無数に出現する。
手は対象を拘束し、発動者が目的を達するまで絡み付くのを止めない。


「おててさんたち、がんばってー!」
「よし、今のうちに避難を急がせよう!……団長、敵の動きを止めました。避難の状況は!?」
『ああ、あらかた完了した。しかし、馬車が1台街に侵入したとの情報が入っている。もし、民間人なら保護してくれ』
「分かりました。団長と他の皆さんは周囲の警戒をお願いします。無いように尽力しますが、もし逃走した場合に備えて」
『承知した。お前とお前の妹は紛れもない逸材だ。その言葉は信じよう。だが、一つだけ約束してくれ』
「なんでしょうか?」
『……絶対に死ぬな。任務より、自分と仲間の命を最優先に考えろ。良いな』
「勿論です。「あの男」に一矢報いるまでは、僕は死ねませんから」

通信を終え、ゼーテを見る。ゼーテも無言で頷いた。
そこで、背後から蹄のなる大きな音が近づいてくる。

「ようやく、全員集合ね」
「そうだな。これでなんとかなりそうだ」

馬車がシーヴァ達の横を通り過ぎる瞬間、1人の青年が馬車から飛び降りてきた。
啓斗も、すんでのところで間に合ったのだ。

「すまない、遅れた。状況を説明してくれないか」
「まあ、見たまんまね。ルカが龍人になって暴走、街を破壊したけど今は動きを止めてる、って感じ」
「僕達ではここまでで精一杯だ。ケイト君、何か策はあるか?」
「ああ、ある。コイツが説明するよ」

そう言って啓斗は、腕時計を目線より少し上に掲げる。
そこから、等身大のナビゲーターのホログラムが現れた。

『はい、どうも!安心と信頼の皆様の案内人、ナビゲーターです! 見つけましたよ、暴走を沈静化させる方法を!』
「よし、今すぐ説明しろ」
『ちょ、啓斗様、目が怖いし圧が凄い!あのですね、元に戻すにはこの状態じゃダメです。暴走してから時間がたちすぎましたから、龍人の姿じゃもう戻せません』
「何?じゃあ、どうするんだ?」
『まずですね、ルカさんの姿を………』

ナビゲーターが説明のために口を開いた直後、ルカに異変が起きた。

「ねぇ、このこわいの光ってるよ!」
「これは?」
『あ、説明する手間省けましたね』

ルカの全身が神々しい光に包まれる。
光はドンドン範囲を拡大していき、見上げるほどの巨大なものとなった。

「……まさか」
『啓斗様、察しがいいですね。はい、この前見た姿になります』

光が消滅すると、そこには巨大な緑龍が四本の足で立っていた。
目は変わらず狂気を孕んだ凶暴なもので、明らかな殺意を宿して(ナビゲーターは含めない)4人を凝視している。

『元に戻すには、この状態で体力を50%以下にしなければなりません。表示しますね』


「地龍グランドラ(巫女憑依)」
24000/30000


「体力30000だと!?SSクラスモンスターと同等の数値じゃないか!」
「半分まで、あと9000……全身全霊で全員戦わないといけないわね」

驚愕するシーヴァと、疲弊し切った様子で考え込むゼーテ。
しかし、啓斗の目には覚悟が既にあった。

「しかし、やるしかない。俺は1人でも戦うが、シーヴァとゼーテは、手を貸してくれるか?」

それぞれの目を見ての単刀直入な問い。
双子はお互いの顔を見合わせ、ニヤリと笑うとこう答えた。

「当たり前さ。次期団長として、それ以前に「暗黒の騎士」の名にかけて、ここで引く訳が無い」
「シーヴァに同じ。ルカは友達だもの、助けないなんて有り得ないわ。それに、「光煌こうびゃくの騎士」がここで逃げたら一生の恥よ」

双子は、各々の誇りと想いにかけて協力すると誓う。
啓斗は、いきなり巨大化した龍に口をあんぐり開けて驚いているマリーにも声をかける。

「あの大きいのをやっつければ、ルカが戻ってくる。一緒にやっつけてくれるか?」
「もちろん!ルカおねえちゃんとまたおままごとするのー!」

純粋な笑顔でそう言うマリー。
啓斗は、改めて巨大な龍に向き直った。

「ルカ、俺が必ず元に戻してやる。そして、元に戻ったら………もう、どんな時もお前を離さないと直接誓ってやる!」

自分の覚悟を言葉にし、決心をより強くする。

『決戦、ですね。私も全力でサポートいたしますよ!で、啓斗様、いつ今日の分のガチャ引くんですか?』
「………あ」
『いや、忘れてたんかーい! 参りましたねー。そのためにうちのペットに能力吸収させてたんでしょが』
『じゃあ、今行っちゃいますか!さあ、ババーンとお願いします!』

啓斗の目の前にスキルガチャ画面が出現する。
画面には、「ロベリーピックアップ!」と表示されていた。

『ピックアップされるスキルは、今回は私が選んどきました。お役立ちな可能性大なやつを』
「……それが上手くいったら、通信を勝手に切った分をチャラにしてやるよ」

啓斗は、そう言い放ってスキルガチャを引いた。
その間に、シーヴァとゼーテ、マリーは散開。
完全暴走状態の地龍との、最終対決が始まる。

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