異世界スキルガチャラー

黒烏

「牢」の囚人達

「シャアアアア!!」
「耳障りだ。蛇の鳴き声も巨大化させたら騒音だな」
『辛口ですねー。おー怖っ』

噛みつきを躱しながらナイフを操り、蛇の肉を切り裂いていく。
自身も頭とは反対の方向に移動しつつ魔法剣で斬りつける。
幼体とはいえ【災禍の落し子】の皮膚は圧倒的強度を誇るのだが、URスキル【貫通増強】を使用した武器には柔肌同然。
あっという間に大蛇は血まみれになっていき、動きも鈍くなってきた。

『しかも、1秒で攻撃力1%UP!ですからねぇ。今、1分半くらいだからもうほぼ攻撃力2倍っていう』
「それなんだが、何かドンドン心臓の鼓動が早くなってるんだ」
『そりゃそうですよ。【ボルテージ】は精神と肉体両方のリミッターを徐々に外してくスキルなんですから』
「なるほどな。心臓にも負荷がかかってるって訳か」
『まあ、そうなりますね。でも別にマイナス効果がある訳じゃないですし……ほら、蛇来ましたよ!』

ナビゲーターの声を聞き、啓斗は大蛇の方を向く。
圧倒的威圧感を持っていた巨体はもう傷だらけでボロボロであり、何か虚しさも覚える。

「最後の抵抗ということか。と言っても、俺まで届くか?」

啓斗がそう言ったのは決して自分を過信しているからではない。
ズリズリと迫り来る蛇の周囲には、貫通力を強化されたナイフが1000本も飛び交っているのだ。
それが全て大蛇の体を現在進行形で蹂躙している。
その証拠に、蛇の体からは致死量と思われる血が吹き出し続け、ナイフはさらに多くの傷を刻みつける。

「シャアアアアアアアアア!!!」

大蛇がその全身を露わにし、天井に向かって断末魔の叫び声を上げる。
その間にも、啓斗の操るナイフ達は微塵の容赦もせずに大蛇の体を刻み続けた。

『うーわ、手加減なしですねぇ。徹底的に始末する主義というかなんというか……』
「別に、相手はモンスターなんだ。それに倒さないと先にも進めない。情けをかける必要なんてないだろう?」
『コイツ倒したら帰るって言った人が怖いこと言わないでください』

完全に大蛇に背を向けながらナビゲーターと会話を交わす啓斗。
確かに、普通のモンスター相手ならばナイフがトドメを刺してくれるだろう。
しかし、この敵は一筋縄では行かないのだ。

『あ、啓斗様!危ない!!!』
「なっ…………………!!?」

ナビゲーターも説明を忘れており、しかも啓斗も「ヨルムンガンド」については名前を知っている程度で詳しくは知らなかった。
死に際、この巨大蛇は口の中からドス黒い、いや限りなく黒に近い紫色の液体を吐き出してきた。

「くっ………ぐあっ!」
『わっ!啓斗様!?大丈夫ですか!?』

間一髪、直撃は回避した啓斗であったが、壁に当たって飛び散った飛沫が首の皮膚に直接触れた。

「ぐ………がはっ…………」
『ちょっと啓斗様!? 冗談よして下さいよ!? 啓斗様ぁぁぁ!?』

大蛇が床に倒れて絶命したと同時に、啓斗も膝から崩れ落ちた。















「………ん、ここは?」

目を覚ますと、啓斗は石の床の上に倒れ伏していた。
床に手をついて立ち上がり、周囲を見回す。

「ここは……牢屋の前?」

啓斗は、1つの牢屋の前にある廊下にいた。
廊下は無限に続くように先に伸びており、目の前にある牢屋以外に他の牢屋もない。
どうやら、この牢屋を調べる他無さそうだ。


牢屋の中は薄暗く、何かがあるのかも、誰かいるのかも分からない。
それでも目を凝らして牢屋の中を見つめていると、奥から2つの人影が姿を現す。
2人は、牢屋の内と外を分ける鉄格子の前まで歩いてきた。
その容姿を見て啓斗は息を呑む。


2人とも黒と白の縞模様が特徴の、いわゆる囚人服を着ており、両手には手錠、両足には鉄球のついた足枷を付けている。
身長は2人とも啓斗と同じくらいで、顔が本当に間近にある。
1番重要なのは顔だが、啓斗には素顔が分からなかった。
何故なら、1人はゾクリとするほどの笑顔をしたピエロの仮面を被り、もう1人は「13日の金曜日」に出てくる殺人鬼のようなホッケーマスクを被っているからだ。

「ハロー! 久しぶりだねぇ」
「よーやっと、ここに来やがったな」

ピエロもホッケーマスクも、啓斗を昔からの知り合いだとでも言うような口調で話しかけてくる。

「お前ら、誰だ?お前らみたいな奴なんて知らないし、ここがどこかも俺は知らない!」
「ワオ、そんなになるまでボク達を監禁してた・・・・・んだね。じゃあ、5年は経ってるかな?」
「つべこべ言ってないでさっさとここから出しやがれ!このクソ偽善者・・・・・!」

ホッケーマスクの方が手錠のはまった両腕を鉄格子に叩きつけた。
ガシャァン!という音が廊下に響く。
啓斗は、このホッケーマスクの剣幕の強さに思わず1歩後退った。

「ちょっと、ダメだよー。あんまり威嚇しちゃあ」
「うるせえ!お前だってここから出たいだろ!?」
「そりゃまあ、そうだけど。でも、まだ段階が進んでないみたい」
「んなもんどうでもいい!さっさとここから出しやがれ!」

そう言ってもう一度鉄格子を叩く。
そんなホッケーマスクをピエロがたしなめた。

「まあまあ。ほら、見てよ。彼、まだここの鍵を持ってないみたいだ。でも、こうして会えたんだからもう少しさ」
「クソがぁ! いつまでも待ってられねぇんだよ!」

ピエロがどれだけたしなめても、ホッケーマスクの方は怒鳴りながら暴れ回っている。
その姿を見ても、啓斗の記憶が呼び起こされるようなことはなかった。

「ボク達はいつでもここにいる。もし、全部思い出してボク達を解放してくれる気になったら、また来て」
「それと……もう二度とボク達を忘れないで。いい? 今度こそ約束だよ?」

ピエロの言葉を最後に、視界がぼやけていく。
啓斗は、マスクに顔を隠した2人の人物の輪郭を最後まで追いながら意識を失った。

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