異世界スキルガチャラー

黒烏

参の本 「代償の儀式と龍化の呪い」

啓斗は、弍の本を閉じると、参の本に手を伸ばす。
なんとなく自分が緊張しているのを感じながら、本を開いた。





無駄に長い私の話をここまで読み進めてくれたことをまずは感謝する。
では、最も必要な情報であろう巫女の力と儀式の効力について記そう。

まずは「代償の儀式」についてだ。
儀式と言っても、弍の本で述べたようにただ祭壇の前で「祈り」の構えを取ればいい。
ただし、儀式を行えるのはエルフ族の20歳以上のみ。
エルフ以外の種族が儀式を行って何が起きるかは不明。




「……ここは長いな」

啓斗はざっと数ページ後まで流し見ると、儀式の項目から知りたかった部分だけを抜き出して読んだ。




最後に、最も強力且つ代償が大きいものについて説明する。


「暴風の洗礼」
代償は、儀式をおこなった者の命。
この一見非人道的な代償の理由は、この力の強さにある。
対象は、儀式者が「敵」と感知した者全て。
対象となった敵の周囲に暴風をまとわりつかせた後、里から100km以上離れたどこかにワープさせる。
他の「敵」が対象の儀式は敵の強さに限界があるのだが、これには強さと数に限度がない。
この強力さ故に、儀式者の命を捧げなければならないのだ。





「……なるほど、ディーラさんはこれを使ったのか。俺達を助けるために……」

啓斗は、改めて自分がどれだけ無力だったかを思い知った。

(俺は……調子に乗ってたみたいだ。ヴァーリュオンで2強ってよばれてる2人相手にいい勝負をして、ゴーストタウンで生き残って……)
(ベルフェゴールにだって、頭の中のどこかで本当は勝てるものと思い込んでいた)
(心底アホだな。ただ全部、運が良くて乗り切ってただけだったのに……自分でも、そう言っていたのに……)

心臓の音が自分で聞こえるようになった。
自責の念に飲み込まれる前にどうにか気持ちを立て直し、本のページをめくる。




最後に、私が独自に研究を重ねた結果を書き記したい。
初代の地龍の巫女の娘から、稀に「龍人」の姿に変身する症状が出る事例についてだ。
仮説だが、これは「呪い」だと私は考える。
勇者と、勇者に協力した初代の地龍を含めた仲間に討たれた魔王の呪い。
戦いの中で、初代の巫女は魔王の力を封じるのに大きく貢献したらしい。
よって、勇者の仲間の中でも魔王の恨みを買う可能性は高い。
魔王に限らず、悪魔族は死ぬ際に相手に呪いをかけることが非常に多い。
そして魔王ほどの力をもってすれば、巫女の一族全員に呪いをかけることも可能だろう。


「龍人」と化した巫女は、最初に変身してから時間が経てば経つほど「野生」に近づいていき、最終的に死んでしまう。
平均で2年。早ければ10ヵ月。
だが、龍の力が絶大なのは事実。
野生に支配されるまでは、今までの巫女とは比べ物にならないほど能力を発揮する。



そのような矛盾から、この「龍人化」のことは秘密にされ続けてきた。
もし、この本を読んでいる時代に巫女がおり、君が巫女と親しい関係にあるのなら。

「絶対に」彼女を放置し続けてはならない。
人と接する機会が多いほど、本能に支配されるスピードが遅くなる。
もしかすれば、呪いを解く方法があるかもしれない。







私が語れるのはここまでだ。
様々な箇所が情報不足だろうが、そこは許してくれ。

君に地龍の加護あらんことを。





最後に書かれていた内容に、啓斗が先程まで抱いていた自責の念などは吹き飛んだ。

(ルカが、死ぬ……?)

この異世界での生活が始まって以来ずっと仲間として一緒にいた少女にいきなりもたらされた死の宣告。
その現実に、啓斗の背筋は凍りついた。







「随分と顔色が悪いな? 何か不都合な事実でも書いてあったか?」

その皮肉たっぷりな言葉に振り返ると、あの男がもう一度姿を現していた。

「あんた……「伝達人」だな」
「ご名答。まあ、今はもう伝達する相手がいなくなってしまったがね」

啓斗を見下しながらまた皮肉を言う。
それに奥歯を噛み締めていると、男はこう言った。

「ふむ、どうだろう、君に巫女の呪いを解く方法を教えてやろうと思う。ただし、聞いたらもうあの巫女を投げ出せなくなるが、どうする?」

突然の提案に啓斗はかなり動揺したが、すぐに気を取り直す。

「……教えてくれ。それが、俺に出来るせめてもの償いになる」
「ほう、殊勝な奴だ」
「それでは教えよう。まず、あの巫女、ルカが他の巫女とは少々異質なことから話そうか」

男は暗い、しかし真面目な顔つきになると、静かに話し始めた。

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