不死者の俺は平和に生きたい

煮干

夜の海

 約束の時間になってもジェミーは来ない。時計は二一時を示す。待ち続けてもう一時間も経過した。さすがに不安になり、部屋に行こうかと迷っていると、階段をドタドタ降りる足音が聞こえる。


 ソファから体を起こすと、そこにはフリルの施された水着を着るジェミーがいた。ひまわりの模様が入った水着はどこか子供っぽいが、ジェミーにはお似合いだ。


「明......行こう」


「それで?」


 別荘は海から少し歩く。いくら人の少ない町だからといって、人と遭遇しないわけがない。だが、ジェミーは勘違いしたようだ。


「似合わない?」


「いや、ジェミーの水着姿は素敵だよ。でもね、海まで歩くからせめて服を着てほしいんだ。」


 説明をすると、ジェミーも分かってくれたようだ。すぐさま二階に上がり戻ってくる。


「じゃあ行こう......」



 夜の海を満月が照らす。朝とは違い不気味だが、どこか妖艶な雰囲気を醸し出していた。


 ジェミーは初めての海に興奮したのか、浜辺へ走り出した。俺も後を追って走り出した。すると、突然ジェミーが立ち止まる。


「どうした?」


 俺はジェミーを追い越さないように減速しながら横に止まると、ジェミーが指を指していた。その方向には、何かが見える。目を凝らすと、人が横になっているのが分かった。俺は慌てて走り出す。ジェミーも俺の後に続いて走る。


 倒れている人は、白髪の美少年。髪が濡れていることから流されてきたのかもしれない。すぐさま心臓マッサージを開始すると、水を吐いた。顔を横に向けて、逆流にしないようにする。少しすると少年は目を覚ました。


「......ここは?」


「日本だよ」


 俺がそう言うと、少年は俺を虚ろな目で見る。


「貴方は?」


「俺は伏見明。で、こっちがジェミーだ。君の名前は?」


「僕は......フランケン一号です」


 フランケン......また人外か。


 そんなことを考えていると、ジェミーに突き飛ばされた。そして、ジェミーは少年の服の襟をつかんで、上体を無理矢理起こした。


「教会って知ってる!?」


「教会......教会?......教会!」


 虚ろだったフランケンの目がハッキリとすると、突然ジェミーを突き飛ばした。後ずさって距離をとる。


「もしかして明さんとジェミーさんは教会の信者ですか?」


「違う!私はあいつらが大嫌いだ!」


 ジェミーは血相を変え、声を荒らげる。無理もない、教会はジェミーにとっては家族を殺した憎き組織なのだから。


「ご、ごめんなさい」


 恐怖からフランケンは謝る。


「それよりも教会がどう関わるんだ?」


「この世にいる人外は三つに分けられる。古来からの人外、人々の想いや怨みで生れた人外、人為的に作られた人外。そしてこいつは教会の戦力として作られた人外よ」


 教会の戦力......つまりフランケンは敵?

 いや、待て。敵ならばさっき攻撃を仕掛けることも容易なはず。そういえば、俺らに教会の組織の者かと聞いてきた。もしかしてフランケンは記憶喪失?


「フランケン、君はどこで生まれた?」

「僕は......目が覚めたら......!?」


 突然フランケンは頭をおさえてうずくまる。苦しそうに呻き声をもらして、ついには悲鳴をあげた。


「大丈夫か!?」


「待って明!」


 ジェミーに呼び止められて振り向く。瞬間、後ろから甲高い笑い声が響く。


「コロス......ジンガイ......ハイジョ」


 確かに聞こえた三つの単語。声のした方向にいるのはフランケンしかいない。さらにさっきまでのフランケンとは違う、まるで別人だ。目には明確な殺意が宿り、赤い。手に生えた銀色の爪を月が不気味に照らす。 危険を感じて一歩下がるのを合図かのようにフランケンは飛び付いてきた。右の手を大きく振り上げる。狙いは......首だ。すぐさま体をのけ反らせて、爪を回避する。だが、フランケンの攻撃はこれだけに止まらない。振り切った右の肘を曲げて、のけ反ってがら空きになったみぞおちにめり込ませる。


 激痛のあまり、俺はみぞおちをおさえてその場に座り込む。その隙を見逃すはずもなく、あごに強烈な蹴りをくらって後方に飛ばされる。


「明!」


「来るな!」


 この前の敵、シスターたちよりもはるかに強い。さらに問題なのが、フランケンは考えをもって行動しているか。もししてないのなら俺に勝ち目はない。見るからに狂気にとりつかれたようにしか見えない。


 一度咆哮をあげて、再び近づいてくる。一か八かだが、この瞬間に種を埋めるしかない。


 今度の攻撃は刺突。真っ直ぐにいぬかれた手刀は空を切り裂く。


 首を狙ってくるとは読んでいたが、まさか当たるとは思ってもみなかった。


 俺はすぐさまフランケンの腕を押さえつけ、耳に軽く触れる。


 よし......準備は整った。


 フランケンは腕を振り払って距離をおくと、うなり声をあげて俺を威嚇する。


 さて、後は悩みの種が芽吹くのを待つだけだ。もしフランケンが考えて行動しているのなら、この戦闘中に発芽して、花を咲かすはず。


 後はそれまで耐久、それ以外の選択肢はない。今度は俺から攻める!


 俺はファイティングポーズをとる。フランケンはそれを見て、口角がつり上がる。


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