名無しの英雄

夜廻

72話

「戦いが終わったか?」
魔法帝が武帝に言う
「そのようね」
2人でアイコンタクトをとる
戦っていた2人は直ぐに戦闘を辞める
「お疲れ様」
「ええ、お疲れ様」
そうしてハイタッチをする
「お前がスパイだとは驚いたな」
「そうかしら?」
首を傾げる武帝


昨日、シトウから話があると言われた魔法帝は外で待っていた
「や、ちょっと待ったかい?」
「大丈夫だ。話ってなんだ?」
魔法帝はシトウに問う
「武帝と戦うよね?なら彼女は殺さないでね」
しれっと言う
「あ?なんで?」
「彼女は僕が送り込んだスパイだから」
笑顔で言う
「……」
「だって僕がどうしてわざわざこんなに人を集めたと思っているんだい?わかってないと出来ないよ?てか、やらないし」
「そうだよな。おかしいとは俺も思っていた」
「なら大丈夫だね」


「じゃあ行くか」
「ええ」
魔法帝と武帝は仲良くシトウの元へ歩いていった

この日スズと《死神》は消息不明となった
そしてスズは英雄として、《死神》は住民を殺したとして犯罪者となった












『こうして7人の英雄は王国を滅ぼしましたとさ。おしまい』
私は本を閉じる
「…………帰らないと」
フードを被った者は遺跡から出ようとする
だが本の最後に手記があるのを見つけた
もう一度本を開いて手記を読む
だいぶ文字が掠れているが読めなくは無い
『この手記を読んだ人。これから書く事はあなたの胸の中に留めておいて欲しい。この物語自体は違う題名で有名だろう?だがそれは後から脚色したモノだ。だがそれでいい。』
確かになと思う
この王国の話自体は有名だ
7人の英雄の物語
最後はハッピーエンドで終わっている
それに《死神》という言葉はその物語には出てこない
『スズやシトウ。それに魔法帝、武帝もか……7人の英雄と武帝は老化しない。不老の薬を使ってるからな。だからその人達を探してほしい。そしてこの手記を見せてくれ。お願いだ。それに楽しかったよシトウ?《死神》より……あ、それとこれも記載しておくよ。俺が知らないとでも思ったか?』
最後に7人英雄のスキルが書かれている
これは私たちの時代でも明かされていないスキルだ。全て分からないのだ。
『シトウ…〈色欲〉幻影魔法が覚えられる。
魔法帝…〈嫉妬〉嫉妬したスキルを覚えられる。
レオン…〈憤怒〉怒るほど力が強くなる。
グレイ…〈傲慢〉自分が優位に立っていれば攻撃を受け付けない
チェス…〈怠惰〉動かずに攻撃出来る専用魔法の習得
アルカナ〈暴食〉食べたモノによって能力が変わる
スズ…〈強欲〉スキルを奪える』
と書かれている
私は本を閉じる
「………帰って探そう」
これは何としてもスズさんとシトウさんを見つけて見せなきゃいけないものだ。
そう思ってフードを被った者は遺跡を出た



「おかえりなさい」
元気な声が聞こえる
「ええ、ただいま」
私は『名無しの英雄』を机に置く
「ん?何これ?」
お母さんが手に取る
「遺跡で見つけたんだ」
私は言う
「ふーん……村長とかに持っていったら?」
「そうだね、持っていくよ」


「村長、これを見つけました」
村長に本を差し出す
村長は若い。それこそ少年のように思える
「んん?なんだいこれ?」
「最北端の遺跡で見つけました」
「…………ちょっとあの人たちを呼んできてくれるかい?」
「ああ、あの人たちですね。わかりました」
私は人を探しに行った
「…………ふっ」
村長が笑っていた


「どうしたんだ?俺を呼ぶなんて」
「ええ、本当にどうしたの?」
古参の2人が入ってくる
2人とも若いがかなり前からこの村にいる
男性の方は学校で魔法を教えている
女性の方は武術を教えている
2人は結婚しているが子供はいない
この2人だけで国とか壊滅するんじゃない?と思うほどデタラメに強い

「なんです?ボクを呼ぶなんて」
気弱な少年の様な人が入ってくる
戦っている所を見た事無いけど……強いらしい…

「お前達もか?ワタシも呼ばれたんだが…」
女性が入ってくる
この女性は村長をよく構ってる
私目線だとなんかスキル多すぎじゃない?と思う1人だ

「俺も呼ばれたんだが…緊急か?」
ドワーフの男性が入ってくる
私は正直この人が苦手……
いつも上から目線なんだよね…

「…………どうしたの?」
急に声が聞こえる
いつもの事なのでビックリすることなく済んでいる
そこにはだらーんとしたエルフの女性がいた

「集まれって言われて来たけど……」
女性が入ってくる
その女性は首に古めかしいアクセサリーを付け、腕には金のブレスレットがはまっている


「全員集まったな……これを見ろ」
ニヤニヤとして6人に本を見せる
「………」
全員固まっているようだった
そしてみんなニヤニヤとしだす
「これどこで見つけた?」
「最北端の遺跡ですけど」
私は答える
「そうか……ワタシが居ないことをいい事に」
「まぁそう言うなよ。そのままにしたのが悪い」
「あんな所だったの……探したけど見つからないわけだよ」
「まぁアイツは極限まで存在感がないからな」
8人は笑いあって宴会もした
みんな悲しげだったけど吹っ切れた顔をしていた


『名無しの英雄』完

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