名無しの英雄

夜廻

43話

グランドマスターの横のクリスが何やら俺に向かって微笑んでいる
「今日は武器作成を教えに来たんだが……受ける気はあるか?」
クリスは俺に問う
「もちろんだ…だがお前は《剣聖》だろ?武器作成について分かっているのか?」
《剣聖》と言うからには武器を作る生産職ではなく、武器を使う戦闘職じゃないのか?
「あぁ、それに関しては大丈夫だ……少なくとも君よりはわかっているさ」
クリスは上から目線で嘲るように言う
ムカつくなコイツ……
「……ほう?そこまで言うのであればさぞ凄い武器を作れるんだろうな?」
俺は買い言葉で言う
「当たり前だ」
クリスは鼻で笑う
「……じゃあ作ってみろよ」
「ふん……ほらよ」
クリスはいつの間に武器を作ったのか左手に持っている短剣を投げてよこす
それを俺は掴み、観察する
「………」
その短剣は俺には到底作れそうにないほど美しく、可能性を秘めている武器だった
「大会の時はグランドマスターに言われて武器作成を使えなかったが……使えるなら負けることはなかった」
クリスはそう言う
確かにこの短剣を瞬時に作ることが出来るならクリスは負けなかっただろう
「わかった……お前は俺よりも上だ。武器作成を教えて欲しい」
そう言ってクリスに頼む
「……それが依頼だからな」

「さてさて!挨拶も終わった事だし……スズさんは僕と組手でもしようか」
グランドマスターは清々しい笑顔でスズに言う
「え……、いえいえ、勿体ないお言葉ですがーー」
そう言いいながらスズは後ずさる
「遠慮しなくていいよ!さぁ、行こうか!」
グランドマスターは一瞬でスズの背後に回り込みスズを担ぎ上げると訓練所に歩いていった
「主人様ぁぁぁ!」
「………」
俺は親指を上にたてて健闘を祈った


「さて、まず武器作成とは何かを聞くが……なんだと思う?」
「武器を作る事だ」
「確かにその側面もあるが……本質は武器に属性を付与する事にある」
「付与?」
「あぁ、付与と言ってもピンからキリまであるが……例えばこの短剣を全力で破壊してくれ」
俺は鎌を構えて短剣に全力で攻撃した
「ほらな?壊れないだろ?これは〈不壊〉の付与をしたからな……基本的には壊れない」
そんな事ができるのか……
「付与の属性は〈不壊〉〈瞬間移動〉〈自律〉の3つがある……それぞれ長所もあれば短所もある。武器によって付与するモノが変わるんだ」
「長所と短所?」
「あぁ、〈不壊〉は壊れなくなる代わりに切れ味が悪くなる。〈瞬間移動〉は武器を瞬間移動させることができるが長い武器には付与できない。〈自律〉は手で持たなくても頭で考えるだけで動くようになるが壊れやすくなる……それぞれ一長一短だ」
「なら……どうするんだ?」
聞いていると付与をしない方が強くなる様に思える
「普通のヤツであれば付与はしない方がいいと考えるだろうな……だが付与には絶対的なアドバンテージがあるんだ。付与をした武器は性質が変わり、自分専用の武器になる」
自分専用の武器?
「例えば俺なら……こんな風に自分の手の大きさ、身長、筋力を計算してベストな形になる」
そう言ってクリスは武器を作り出す
「これがどれだけのアドバンテージになるか……やってみればわかる」
俺は頷く
「これで俺の教えることはもう無い……後は能力の引き上げしかないな」

ちょうど良く扉からグランドマスターが入ってくる
グランドマスターは気絶したスズを床に下す
「終わったのかな?なら今日はこれまでにしよう……スズさんを宿屋までお願いね?」
「わかった」
俺は短く返事をしてスズを担ぐ
「じゃあな」
そう言って部屋から出た
しかしスズをこんな風にできるグランドマスターってヤバイよな……
そう言えば街で聞いた名工って誰なんだろうな?
俺が知らない間に会ってたりするのかな…
空を見るともう日が沈む頃だった

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