スキルを使い続けたら変異したんだが?

クルースニク

第三十六話 世界の見方

――レベル、上げなくちゃね?

 俺も早く先に進んでレベルを上げなきゃな。
 ふと、そう思った。

 今までの人生を思い返してみれば、他人と競争して一位を取ったことはただの一度もない。
 自分が優れているとは思ってはいなかったし、だからこそそういう人生なのだと諦めてきた。競争しても、他人と競ってもどうせ一番にはなれないのだから一生懸命になる必要はないと。

 ――でも、今は?

 でも、今は。
 数十万人が熱中するゲーム。その頂点を、あっさりと掠め取った今は。
 久しく感じることのなかった焦燥を覚えるほどに、この地位が拠り所になっていた。

 今までは才能のある者が、俺の努力しても届かなかった場所へ容易く登り詰めるのを見上げることしかできなかった。
 だが、今は逆。
 いとも容易く辿り着いた頂点から、必死になってこちらへ上がって来ようとするプレイヤーたちを眺める側。

 その地位を得て、良い思いをしてないという方が嘘だろう。
 その地位を脅かされ、悪い思いをしてないという方が嘘だろう。

 ああ、やっと腑に落ちた。
 昔ギルドを同じくしたあの廃人プレイヤーたちが、なぜ会社や学業を犠牲にしてまでゲームにのめり込んでいたのか。
 トップになって、こんな気持ちを味わいたかったのだろう。

 ――そう、それでいい。

 自分の立ち位置を自覚すると、世界の見方が変わる。
 途端に全てが色づいて見えた。

 レベルを上げなければ。
 この感覚を奪われないために。

 幸いなことにクリムゾンブレイズがあればどんなボスも怖くはないし、招待ボーナスはまだ続いている。
 破格の経験値を得てレベルが上がれば上がるほどにステータスは上がり、バフの効果時間は伸びるのだから、尚更倒しやすくなる。
 悪循環ならぬ、好循環だ。

「彼らがどんな方法で君に関与してくるかはわからない。
 因縁や、詐欺染みた罠を仕掛けてくるかもしれない。君の性格を考慮して泣き落としを仕掛けてくる可能性もある。
 ……禁止されてはいるが、リアルマネーを使って君を雇おうとする者もいるかもしれない。

 最終的に居場所を決めるのは君自身だが、君の意思が曲げられるようなことがあっては良くないと考えてね。
 カーレル君の友達ということもあって、僭越ながら進言させてもらうことにしたのだ」

 シヴァさんの声に、俺は我に返った。
 そしてその話を聞くうちに、気付く。

 ああ。なんだかんだ言葉で取り繕ってはいるが、この男も自分のギルドがトップから引きずり落とされるのが嫌なんだろうな。

 そう考えたら、目の前の男に対する怖れや怯え、劣等感が消えた。
 俺はシヴァさん……いや、シヴァへ言った。

「安心してください。
 ギルドに興味はないですし、今は一人で先に進みたい気分ですので。
 あなたが思っているような事態に陥ることはないですよ」

「しかし……」

 俺の言葉に、シヴァは良い顔をしない。
 地位が脅かされる不安はわかるが、少しうざったい。

「話はそれだけですか?
 なら、やることがありますので失礼させて頂きます」

 俺は席を立つ。

「ユウト。マスターがせっかく心配してくれてるのに、その態度はないんじゃないか?」

 静かに。その場から動かず、和樹が諭すような口調で言った。
 そんな彼に対して胸中に湧いた感情は、失望。

 出会った時からずっと憧れていた、俺のヒーロー。
 そんな彼が、こんな男をマスターと呼び慕うのが理解できない。
 俺より弱いというのも複雑な気分だ。

「…………、」

 そんな哀れな姿をこれ以上見たくなくて、俺は無言で個室をあとにする。
 誰も、追ってくる者はいなかった。


 酒場を後にした俺は、町の露天商を練り歩いた。
 買い漁ったのは、MPを回復するアイテム。その中で最も効果の高いものだ。
 クリムゾンブレイズで敵を倒せても、MPは回復しない。連続戦闘を行うには、MPを回復する手段が必要となる。

 どうせ金は腐るほどあるのだ。
 それに、どれだけ使ったところでボス戦で資金は回収できる。糸目を掛けず、最安値から吹っ掛けた値段のものまで根こそぎ買い取った。

 途中、マナー違反だなんだとうるさいことを言う奴が居た。周りの連中も同調したが、「なら、同じ値段でお前らが買うか?」と訊ねると皆一様に言葉を濁した。
 結局は、自分が出来ないことを目の前でされて嫉妬しただけなのだ。 
 マナー違反? なにそれ食えるの?

 ……あれ? なんか最近どこかで聞いたことのある台詞のような。
 まあ、いいか。

 買いだめを終えた俺は、煩くなってきた街を抜けて先を目指した。

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