異世界転移するような人が平凡な高校生だと思った?

39話 仲間

ダンジョン 93層──

 そこでは斬撃の音が鳴り響いていた。

「........」

 そして斬撃音の犯人は今、極限まで集中していた。

(こいつは.....厄介だな......)

 祐はもっと集中を高める。

(この大きさで..しかもこんな複雑な....)

 だが、これは良い経験値になる。今の俺で対処できるかわからないが....いけるか...?

 緊張した空間の中、動いたのは祐の剣だった。

 ガキィィィンッ!

 祐が振った剣によって、ゴトッ と何かが落ちる音がする。

 それを拾い上げ、観察すること30秒──

「ミスラー!!めっちゃでかい鉱石・・取れたぁぁぁ!!」

 張り詰めていた表情はどこへ行ったのやら、純粋無垢な笑顔で走り出した。

「では鑑定を....お、これは魔鉱石ですね。魔剣を作る時に必要な素材です。高く売れますよ」

「おぉ! レアってことか!」

自分が取ったものが当たりだと知って、喜ぶ祐。

 「コレ、トレタ」

 するとシュナも、なにか鉱石を取ってきたようだ。ミスラに鑑定をして欲しいと言うように目で訴える。

「ん? どれどれ....これは灼光石しゃっこうせきですね 熱に反応して爆散する鉱石です」

 え、こわっ

「売れるのか?」

「んー鉱石としての価値はあまりないですが....」

「ふむ、でも爆散って言うからには結構な威力があるのかな? 加工すれば爆弾とかに出来るかも。」

 その言葉を聞いた途端、ミスラは神王に見せられた核爆弾がフラッシュバックした。

「そ、それは出来れば強力ですが危険だと思いますよ....?」

(世界にとって)

「シュナ スゴい?」

「おう! 凄いぞ〜」

 そう言ってシュナの頭を撫でる祐。その行為に、どんな理由があるのか、分かっていなさそうにしていたシュナだが、何となく気持ちよさそうだ。

 そしてそれを羨ましそうに見つめるミスラ。

 

 なぜダンジョンでこんな事をしているかというのを説明するには、少し時間を遡らなければならない。


***


 二時間ほど前。

祐、ミスラ、シュナは90層のボス部屋で、休息を終えると、ついに91層へ進み始めるのだった。

「ここからまた魔物の強さが上がるのか....気を引き締めていこう」

「強イ奴 タノシミ」

「シュナ、知能を持った今でも、戦うことが好きなのか?」

 戦うことが好きなのはギリギリ何とかなるが、もしも殺すことが好きとなると、少し問題だ。

 シュナを魔王にさせない為にも、狂気的な思考はある程度和らげなければならない。

「スコシ チガウ ツヨイヤツ 尊敬.... 」

 俺やミスラと話し続けていた効果か、カタコトだった言葉も少しずつ、スラスラと話せるようになっていた。

「尊敬..? 」

 そう返すとシュナは何度も頷く。

「ユウも..ミスラも 強カッタ..カラ 尊敬」

 不意打ちで向かってきた好意に、祐とミスラは少し、くすぐったい気持ちになる。

「じゃあ戦うことが好きって訳では無いのか?」

「戦い 望んでたモノ。 スキ?トイウノハ ワカラナイ」

 そういう感情は、まだ理解出来てないってことか。当たり前のものだけど、その当たり前が今まで無かったんだ。無理もない。

「好き ってのはな? 自分自身が何かに気に入って、心がひかれるような。そんな事を言うんだ。分からなければ無理に考えなくていいよ。シュナもいつか気づくと思うから」

 シュナの頭にぽんぽんと、優しく手を置き微笑む。

「....ワカッタ」

「おぅ じゃあそろそろ気を引き締めていくか」

 「そうですね」

 先程からあまり会話に入ってこないミスラ。気にしてなかったけど、やはりシュナを殺そうと考えていたことを少なからず負い目を感じているのだろうか。

 91層にはもうとっくに入ってる訳だが、特に内装が変わるわけでもなく、ひたすらゴツゴツとした洞窟が続いていた。

 数分ほど、マッピングしながら進んでいると、何者かの気配を感じた。

「何処かに魔物がいるかもしれない。気をつけて」

2人も気づいているようだ。周囲を警戒している。

 3人がいる場所は一方通行。余程遠くなければ視認できるはずだ。だがそれらしきものは見当たらない。

 俺とミスラは回りを警戒し、シュナは壁のある一点をずっと見ていた。

「......トゥ!」

 すると突然、シュナが壁にドロップキックをかました。

「シュナ!? どうし──」

 シュナの言動に驚いていると、壁が不自然に蠢き、それはいつしかトカゲに変わった。

「壁に擬態してたのか....シュナ、よく分かったな」

 正体を表したトカゲは、シュナのドロップキックにより絶命していた。どうやら人間の姿になっても、あの圧倒的な剛力は健在のようだ。

「熱源..感知デキル。気配感知の 強いヤツ」
 
 そこはかとなく、胸を張ってドヤ顔してる感じのシュナは、自分のスキルを披露する。

「お〜 そんなスキルもあるのか。シュナは器用なんだな〜」

 「....ん」

 褒めると、シュナは頭をこちらを向ける。

「ん?」

「......」

シュナはその体制から全く動かない。

....あぁ、撫でろってことか。

「ほい」

なでなで ピョコン

 すると、シュナの頭のアホ毛が反応して動く。

..リアルでアホ毛が動く人初めて見た....だがまぁ、こうして見ると、結構小動物みたいで可愛いな。

「......いつまでやってるんですか..」

「あ...悪い。行くか」

「いいえ、次は私の番です」

「まだやるの!?」

こうして10分ほどそこで、2人を頭を撫でるという、お前らダンジョンで何してんだ。と言われても、何も言い返せないような時間を過ごしてから、また進むのだった。






***




 結論から言うと、91層は特殊な魔物が多かった。壁に擬態していた魔物はもちろん、他にも毒を飛ばしてくるコウモリや、人ひとり飲み込みそうな肉食植物、終いにはミ〇ックみたいなのまでいた。

 ダンジョンで初めて宝箱を見つけたから、結構嬉しかったのに、頭からパックンと行かれそうになった時は、流石に生きた心地がしなかった。される前にシュナが潰してくれたが....

 

 そして92層にて────


「....な、なんだ....これ」

そこはダンジョンとは思えないほど明るく、そしてそんな事よりも1番驚いたこと。それは──


「なんであたり一面湖なんだ!?」

 90層の時のボス部屋より広い洞窟とは思えないほどの空間、そこには湖があった。

「しかもこれ....結構な深さですよ....? 魔法で出来た物なのは間違いないとして、どうやって渡りますか」

 そう、それが問題なのだ。ここはダンジョン、親切に船など置いてあるわけもない。

「泳ぐのは流石に危ないよなぁ....湖の中に魔物の気配ビンビンしてるし」

「ミズの上、走レバ?」

 どう渡るか、悩んでいると、シュナから思い掛けない言葉が掛けられた。

「シュナさん..? 一応聞くけど....どうやって?」

「? 力デ」

 ゴリ押しすぎるだろ....多分それなんかの境地に至った人ができる技だよ..

「えっと〜....シュナ? 多分俺とミスラはそれ出来ないんだけど......」

「....? ワカッタ。じゃあ、ワタシがモッテク」

「ん?持ってくとは.....?」

「祐....私、嫌な予感が......」

あぁ、俺も。そう言おうとしたかった。けどそれを言う前に、俺とミスラはシュナに担がれて湖に突っ込んだ。

「ちょシュナさぁぁん!? 湖!ここみずうみぃ!!!」

「ダイジョウブ」

 頼りがいのある声でスタートを切ったシュナは湖の水の上をまるで地上のように走った。

 水を踏んでいるとは思えない轟音を立てて。

「「......」」

 俺もミスラも、もうここまで来たら、余計なことを言って、シュナが止まったりしないように、黙ることにした。決して声が出せないほど怖かった訳では無い。

 だが、そんな葛藤も束の間、音に反応した湖の中の魔物達が一斉に、トビウオのように飛び、サメより鋭い牙で喰らいにきた。

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 シュナは後ろが見えているかのように、器用にそれを避けるが、頭がシュナの後ろに向くように担がれてる俺とミスラは、まるで、シートベルトのない高速のジェットコースターに、その後ろから迫ってくる怪物の方に体を向けながら乗っているような体験だった。  うん、なんの例えにもなってねぇ!!

「シュナさん!早く!!はやくぅぅぅ!」

「いやぁぁぁぁぁ『さんだぁ!!』」

 ミスラもテンパって詠唱破棄した『サンダー』を一心不乱に放っている。

「..ん  モウ少し」

 担がれているだけの俺とミスラは何故か気絶しそうになりながら、最後のトドメを刺された。


バシャァァァァァァァン!!!


 圧倒的にでかい図体、まるでクジラのような魔物がぶっ飛んできた。大きく開けた口には無数の鋭い牙が────


「「シュナ様お願いはやくぅぅぅ!!」」



 間一髪、次の階層へ続く扉へ、シュナのライダーキックでこじ開けて入っていった。


***



「はぁ....はぁ.......絶対に死んだと思った.......」

「......ですね..軽くトラウマですよ....」

 92層の地獄みたいな所からギリギリ脱せた3人は休憩をしていた。

「ナンカ、分カラナイケド 多分 楽しかった」

 シュナが自分から楽しい。と言う感情を理解出来たことに俺とミスラは少なからず驚く。

 いや、まぁ あんな死か地獄かみたいな状況で楽しいと思ってしまっている事に関しては後で話し合うとして。

「そうか.. 良くはないけど....まぁ  よかった」

「....そう..ですね。スリルだけは100点でしたね」

 シュナに気の負い目を感じていたミスラも、先程の恐怖で今は吹き飛んでいるようだ。多少晴れたような顔をしている。

「じゃあ、モウ1回、イク?」

「「絶対に嫌だ」」

 今さっきの晴れた顔はどこに行ったのか、目から輝きを失っている。おそらく、俺も。


 そんな会話をしている瞬間のシュナは、表情にはあまり出さなかったが、本当に楽しそうにしていた。










「さて、ずっとここにいる訳にも行かないし、取り敢えず動くか」


「...まぁそうですね。」

 俺達は起き上がって、回りを見渡す。すると、違和感に気づく。

 何故か、ここも明るいのだ。湖の時は、どうやら天井にあったクリスタルみたいなのが原因だった。ここにはあの色のクリスタルはない。

 だが、違う色のクリスタルなら沢山あった。

「.....これ、まさか全部鉱石か...?」

「凄いですね。ここまで沢山の種類の鉱石で輝いている光景は、なかなか幻想的です。とてもじゃないですが壊せな──」

「よし、掘るか」

 ガンッ!とその幻想的な場所に躊躇なく剣を突っ込む。

「あなたって人は....」

「ダンジョン出れてもお金が無いとやっぱ不便だろ? ここで集めまくろう ダンジョンが、こんな深層まで俺らを落としたんだ。誰も文句なんか言えないさ」

「はぁ、仕方ないですね。まぁここに来ることは今回で最後でしょうし、少し頂いていきますか」

「おぅ!穴ぼこだらけにしてやるぞー!!」

「オー!」

「話聞いてましたか....?」

 何故かシュナまでノリノリで始まった鉱石採掘大会。ダンジョンの93階層。その鉱石は冒険者を惑わし、迷子にさせ、いつしか精神さえも可笑しくさせる。

 そんな魔法陣が組み込まれてそこら中の壁に埋められたものであったが、それを片っ端から取っていってるこの3人は、無意識に、1番最善の進み方をしているのだった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品