ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
4章11話 イヴ、最愛の人と再会する。(2)
「お待たせだよ、お姉ちゃん」
マリアに対して微笑むと、ロイの覇剣によって瓦礫が積もっているものの、見晴らしがよくなった地上でイヴは己が兄に視線を向ける。
で、その時、イヴの視界に背中から血を流して気絶しているアリスが映った。
「――詠唱破棄、【神聖純白完全再生】!」
イヴが、まるで乗馬の際、騎手が騎乗するように、まるで執筆の際、小説家がペンを持つように、なにかをするにあたり、その中で最も基本中の基本と呼べる動作をするかのごとく、最上級の治癒魔術を詠唱破棄、かつ遠隔キャストで使い、一瞬でアリスの負傷、流血の全てを治した。
それを遠目にだが確認して、思わず3人はホッと息を吐く。
正直、イヴが凄いのは理解できる。神様に愛されているのは理解できる。だが、雲の上の存在すぎて、理解できない事象もこの世界には存在してしまっているのだ。
そう、イヴが今キャストした治癒魔術が圧倒的に凄すぎて、3人はもはや、なにがどう凄いのか理解していない。シーリーンはかつて不登校で、ティナはまだ中等教育下位に在籍している途中だが、あの高等教育を受けていて、しかもその中でも魔術の開発を専攻していたマリアでさえ、それが超高度な治癒魔術ということは理解できたが、魔力をどのように振動させ、術式をどのように組み合わせ、どのような出力、速度、魔力量、魔力運用、魔力配分でそれを発現できたのか、ただの1つさえわからなかった。
率直に、イヴは先ほど比喩として自分のことを天使らしく表現したが、この魔術こそ真に天使らしい。あまりにも存在の規格が違い過ぎて、手加減しないとなにもかもを認識できない、という意味で。
だが、次にイヴがキャストする魔術の凄さは、シーリーンたちにもわかりやすいモノだった。
即ち――、
「もう一度、今度はアリスさんに【光化瞬動】! そして――【色彩放つ光輝瞬煌の聖硝子】!」
「「「ッッッ!?」」」
刹那、驚愕するシーリーン、マリア、ティナ。
いや、驚愕なんて生温いモノではない。今の3人の興奮にも酷似した感情の乱れを表現するには、驚愕よりも鮮烈で、興奮よりも強烈で、戦慄よりも凄絶で、動揺よりも深刻で、錯乱よりも異常で、緊張よりも荘厳で、畏怖よりも神聖な、そんな新しい表現が必要だと断言できた。
その光属性魔術は死神の災禍に対して特務十二星座部隊のセシリア、イザベル、カレンの3人が展開したこの世界で、少なくとも王国が編み出した防衛手段の中で、最上級ではなく、目的にもよるが最上位そのものの神聖結界だ。
どこからどう考えても中等教育下位の学生にキャストできる代物ではなく、詠唱破棄なんて夢物語に出てくる御伽噺に登場する童話、それほどまでに現実味が一切ない。
ウソ偽りなく、イヴが【色彩放つ光輝瞬煌の聖硝子】を使えると誰か1人にでもバレてしまったら、恐らく1日で王都中に、1週間で全ての地方都市に、1ヶ月もあればインターネットもメールも存在していないこの異世界でも、全ての農村にまで知れ渡るだろう。
そしてその瞬間、妄想ではなくただの事実として、建国から、どのような理由であれいずれ訪れる王国終焉までの魔術の歴史、その中で5本の指に入る有名かつ重要な出来事として未来永劫、語り継がれること必至である。
「アリス!?」
「…………ぅ……、ん、ぅ……」
「アリス!? アリス、聞こえる!?」
「アリスさん!?」
「お、……起、き、て、く、だ……さい……っ」
「…………シィ?」
自分たちのすぐそばに光速移動されたアリスに駆け寄り、横たわっている彼女のために、シーリーンは膝を付いて一生懸命、呼びかけた。
もちろん、マリアだって駆け寄ってくれたし、魔術防壁を解除されたティナも、翼をはためかせてそばにきてくれている。
そして、アリスは無事に目を覚ます。
すると、すぐに彼女は上半身を起こし周囲を見回して――、
「シィ! ロイはどうなったの!?」
「アリス、あれ」
シーリーンは建造物の屋根の上から、ロイとイヴがいる地上を指差した。
もちろん、それを視界に入れた瞬間、アリスも先刻の3人と同じ表情をする。
そう、アリスを安全地帯に運んだあと、イヴは【色彩放つ光輝瞬煌の聖硝子】を、自分とロイを内部に閉じ込めるために使ったのである。これで、もう誰にも邪魔はできない。
全員悔しくて、特にマリアは無力感で血が流れるほど下唇を噛む。
弟が敵に理性を剥奪され、要するに人間としての尊厳、一言で言うならば人権を蹂躙され、姉である自分が頑張っても現状を打破することができず、挙句、その尻拭いを妹に任せることになった。
悔しくて悔しくて、情けなくて情けなくて、涙が止まらないほど感情のやり場がなかった。
だが、そんなプライドは捨てる。
確かに惨めな限りだが、自分の屈辱だけでロイが救われるのかもしれないのだ。
ゆえに、マリアはイヴに託す。
最愛の弟の救済を。
「あっ、ところでシーリーンさん」
「ほぇ? シィ?」
「お兄ちゃんの正妻、今日からはわたしだよ」
「「「「…………は?」」」」
この緊急時になにを言っているんだ、という声が屋上の4人から漏れる。
しかしイヴは今度こそロイを相手に向き直ると――、
「お兄ちゃん、戦闘を始める前に、言っておきたいことがあるんだよ」
悠然と、魔獣同然と化したロイを相手に、イヴは聖母のように優しい表情で話し始めた。
そこにロイとはいえども、殺意を向けてくる相手に対する恐怖は微塵もない。
一方、ロイはイヴのことを警戒していた。否、警戒なんて、頑張れば自分でも対処できることを暗に匂わせる言葉は適切ではなく、本能的に恐怖を覚えていたと言っても過言ではない。
そう、イヴが登場してからこのタイミングまで、ロイはイヴの一挙手一投足に注目して、攻撃したくても攻撃できなかったのである。
「転生に必要な条件――、それは前世の魂のソウルコードと合致しているソウルコードを持つ魂が、目的地周辺で産まれてくる赤子に宿っていること。つまり、転生者であるお兄ちゃんの妹のわたしが転生者である確率は…………えぇ、っと、ソウルコードの合致確率が300桁分の1前後で……、知的生命体が存在する惑星が絶対に300桁個はあって……、それが兄と妹で連続だから……、まぁ、絶対に計算間違えていると思うけど、ニュアンスが伝わればいいや、ってことで、300桁分の1かける、300桁分の1かける、300桁分の1かける、300桁分の1、これの答えがお兄ちゃんに続き、わたしも転生者である確率なんだよ。た、たぶん……」
「…………っっ、ガァ、アアアアアアアアアアアア……ッッ!」
「そして、お兄ちゃんも知ってのとおり、女神様は魔術を使えないんだよ。でも、逆を言えば、わたしは魔術を使うことができて、ソウルコードの合致確率が300桁分の1なのに対し、この宇宙に存在する知的生命体が住んでいる惑星は300桁個以上なんだよ。つまりね? 最終的な目的地周辺に着地できなくてもいいなら、転生そのものはかなり簡単、ってことだよ」
「ガァ、アアアアア…………っ」
「世界には物理法則が存在していて、地球の科学者がまだ到達できていないだけで、転生も、そしてその際に行われる記憶のリセットも、実はその物理法則に従っている。けど、わたしは1番目の前世で死んだあと、お兄ちゃんと同じく女神様に呼び出され、想いを確認させられたんだよ」
「ガァ、ア、グゥ…………」
「精神が崩壊して、感情が死滅して、心が虚無になるぐらい、気が遠くなるほどの時間の旅路。それを、初恋の人のお嫁さんになりたいから、たったそれだけの理由で踏破できますか、って」
「グ、ガァ……」
「ここまでくるのに、ウソ偽りなく10万年以上かかった。しかもこの星で魔王が目的を達成した瞬間、世界は取り返しが付かなくなるから、他の星で時間遡行の魔術を駆使して、長い、長い、人間の感覚でいえば永遠にも等しい時間をかけてソウルコードを整形していって、光属性魔術の適性は強大すぎて隠せなかったけど、魔術適性の検査でも絶対に露呈しないような強さを手に入れたんだよ」
「…………ァ、ッッ」
「そして、わたしは今回の、最後の転生で自らの記憶を封じたんだよ。1回しか転生していないお兄ちゃんならともかく、わたしは転生という事象に関わりすぎていて、絶対に魔王に捕捉されるから。う~ん、厳密には転生に関する全てを封印して、その中に記憶という代物もあった、って感じだね」
シーリーンも、アリスも、マリアも、ティナも、なにも言えなかった。
なにも考えられなかった。
なにも思えなかった。
難しい話だったからだとか、スケールが大きすぎたからだとか、きっとそういう理由ではない。もっと、透明でシンプルな理由のはずである。
それでもただ1つ感じたのは、直感したのは、今、イヴは報われようとしている、という真実だった。
「えへへ……、以前、入団試験に合格したあと、第1特務執行隠密分隊が結成する前、学院に向かう馬車で聞いちゃったけど、お兄ちゃんの初恋の相手って、わたしだったんだね」
こそばゆそうに頬を乙女色に染めてはにかむイヴ。
イヴが口元を緩めると、同時に、わずかに、ロイの恐怖、警戒も緩まった。
そして、戦闘前の話も終盤に入っていき――、
「お互いに死んじゃったけど、病気、治ったね」
と、イヴは優しく言う。
「わたしもお兄ちゃんも、学校に通えるようになって、友達もいっぱいできたね」
と、イヴは淑やかに言う。
「この国は今、戦争中だけど、絶対に幸せになれるよね」
と、イヴは愛おしそうに言う。
「――だけどね、お兄ちゃん?」
刹那、イヴはその小さな身体から神々しい光属性の魔力を流出させる。
もうそれは光属性の魔力なんてレベルではなく、仮に神聖属性なんて光属性の上位互換が存在したら、それに分類されそうなほど浄化されきっており、シーリーンたちが今までの人生で見てきた全ての色彩、ありとあらゆる光景よりも綺麗だった。
尋常ではない量と密度の魔力は可視化され、それは彼女の周りで純白に光る。
白百合のように儚く、初雪のように淡く、流星のように美しく、そして、まるで本物の天使を見た時のように感動的に。
そして、イヴは続けた。
「――――今、お兄ちゃんは苦しんでいるんだよ。激痛に身体を灼き、闇に精神を蝕まれている。~~~~っっ、そんな現実、わたしが否定する……ッッ! お兄ちゃんは魔王軍と戦うための道具じゃない……ッッ! お兄ちゃんは魔王を倒すための装置じゃない……ッッ! 遠い未来で本当の本当に死んじゃう時、胸を張って自分の人生を誇れるためにッッ! 笑って死んで、みんなに泣かれながらやることを全部やって天国に行けるようにッッ! そのために! そのためだけに! わたしたちは魔王軍と戦っているだけ! ――幸せになれないなら戦わなくてもいい! ――みんなで笑い合える未来に辿り着けないなら、誰も知らないところに逃げたっていい! だから……ッッ!」
ほんの数時間前、ロイの記憶を全て持つシャーリーは思った。
即ち、特務十二星座部隊の会議の時には(疑問&驚愕――私めは間違いなくこのソウルコードをどこかで見たことがある!)と。ガクトの記憶を読み込んだ時には(判明! 判明! 判明! ――ようやく! ようやく私めが、どこで改竄前の妹様のソウルコードを見たか思い出せた! これは本来、思い出せなくて当然なんだけど! でも、全てが繋がった!)と。
その全てを解き明かす答えが、1つだけ、あるとしたら――、
「――――わたしの真名は逢坂聖理! 大好きなお兄ちゃんのたった1人の幼馴染! 永遠にも等しい時間の旅路の果てで、やっとお兄ちゃんと……ッッ、最愛の人と再会できた……ッッ! ただ、この瞬間、お兄ちゃんが理性を奪われているというのなら――――わたしの初恋10万年分の全てを懸けて、お兄ちゃんを救い出し、今度こそ、お兄ちゃんに告白するんだよ!!!」
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コメント
ノベルバユーザー185904
いつ読んでも面白いです、ずっと応援してます
HARO
続き楽しみにしてます。
これからも頑張って下さい。