ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

4章5話 第1特務執行隠密分隊、抗う!(5)



 で、その数秒後、王都全域、民草総勢に轟くほど、連鎖的に金属が破砕する甲高い激烈な音と、例のごとく煉獄で灼熱業火に身体を炭化された罪人の阿鼻叫喚のようなロイの激甚な絶叫が木霊した。
 肉を焦がし、血を沸かし、神経に霹靂を流すよう凄惨な激痛に悶え、喘ぎ、叫び、吼え、狂い、哭き、森羅万象に呪詛を吐き、天地万物に怨恨を告げ、だが、天上天下に漆黒の魔力に汚染侵略された自分を処刑してくれと哀願する。そんな雰囲気さえ確信を持って直感せざるを得ない最愛の彼を見下ろすシーリーン、アリス、マリア、ティナは、各々、ロイを救済すべく臨戦状態を再度整える。
 そして――、

「ガァ………………ッッッ!!!」

 刹那、ロイが疾走を開始した。彼が地面を踏み抜く一歩ごとに亀裂が奔り、罅が割れ、近隣の万物が揺れ、その形貌、その所業は神話に登場する獣のごとし。4人に魔術の標準を付けられないためだろう。疾風迅雷の驚異的速度を誇示し、縦横無尽に、四方八方に、ついには先刻のようにロイは魔剣の能力を活かして立体的機動をしてみせる。

 それに対して一番驚愕したのはマリアだった。現在、ロイが立体的機動をしている空間は、ほんの数分前に彼女が編纂した【魔弾】で、ワイヤーの役割を担う具象化した残像を設置したばかりだったから。
 脳内、魔力反応を確認しても【魔弾】の残像は未だ健在。必然、ロイは鋭利な刃物同然、人間を八つ切りにできる蜘蛛の巣の中で暴れ回り、なお無傷で生還していることで相違ない。

 無論、疑うべきは彼の肉体強化だ。だが、それなら【零の境地】を使えば終わる話。が、ロイはそれを理解、危惧していたのだろう。マリアが【強さを求める願い人クラフトズィーガー】に対しての【零の境地】を脳内で用意しようとしたが、そこで気付く。ロイは肉体強化を使っていない、と。残像を無効化できているのは別の理由があるからだ、と。

 マリアが対処のための思考に時間を消費していると、ついにロイが延長させた魔剣の先端を、大気を斬り裂く熾烈な音を鳴らし、4人がいた建物の壁面に突き刺した。
 ロイの接近を許す前に、マリアは3人に指示を飛ばす。

「散開ですね! シーリーンさん、アリスさん、わたしは先ほどと同じ役割を! ティナちゃんは航空機動力を活かしてアリスさん同様、弟くんを直接攻撃してください!」
「「「了解!」」」

 同じ場所で固まっていたら狙われやすい。基本的に戦力を分散すると、小さくなったその戦力が戦争では真っ先に殲滅される傾向にあり、やはり戦闘行為をする上で弱い箇所を生んでしまうメリットは皆無に等しい。が、それは敵勢力と味方勢力が拮抗していればの話である。
 現在、敵はロイ1人で、こちらは4人。確かに実力はこの5人の中でロイが一番強いが、それでも数だけ見れば散開して4人が別方向に構えることになっても、ロイ以下になるということは物理的に不可能。ロイは1人だから。
 ゆえに、自分を含んだ4人で異なった動き、戦術を取り、ロイに狙いを付けられづらくした上で、さらに彼を包囲する。包囲すると言っても4人しかいないが、それでも複数方向から多種多様な攻撃が同時に襲ってくるのは、戦争経験者なら誰でも絶望してしまうような戦況でしかない。

 だが、理性剥奪を受けたロイは別段、微塵たりとも意に介した様子は皆無で、次の一瞬で第1特務執行隠密分隊に本物の絶望を叩き付ける。
 とどのつまり、シーリーン、アリス、マリアが跳躍し、ティナが空守銀翼で飛翔したその時――ッッ、



「――――覇剣……ッッ!」



 当該の建物、否、それだけではなく、その八方の建物全てが轟音と共に爆散した。9棟全て石造りで、5階建て以上だったのにも関わらず、だ。王都全域の地面が揺れ、瓦礫は弾け、灰燼が舞う。一瞬でも回避が遅れていたら、4人も微塵斬りに処されていただろう。崩落と呼ぶほど下方に動くイメージはなく、破壊と呼ぶほど外部から衝撃を与えたイメージもなく、確かに内部で爆発が発生した感じは皆無だったが、しかし、あの砕け散った万物がことごとく外側へ飛び爆ぜる光景は、まさに爆散と呼ぶしかなかった。
 飛翔できるティナはともかく、他の3人は死に物狂いで着地を試みる。シーリーンは魔術防壁を空中に展開してそれを足場に。アリスは瓦礫を躱して落下物が比較的少ない爆心地とは多少離れた地面に。そしてマリアは重力操作を駆使して跳躍による滞空時間を延ばし、爆散しなかった建物の屋根の上に。

「なによ……、あれ……? ロイの新しい技……?」
「いえ……ッッ、違いますね…………ッッ! 既存の飛翔剣翼、斬撃の四重奏、加えて名称不明ですが、万物を絶対に斬ってしまう能力と、刀身の長さや大きさを変える能力、その全てを同時に使ったんですね…………ッッ!」

 死人のように顔を青ざめさせ、生きた心地を忘却の彼方に漂流させたアリスに対し、マリアは額に汗を流しながらも努めて冷静に戦況を分析した。2人とは距離があったが、シーリーンとティナもまた、悪寒を覚え、呼吸を忘れ、瞠目し、そして強く戦慄した。
 事実、ロイの攻撃はマリアの分析通りだった。魔剣の先端を壁面に突き刺したあと、破壊してしまうよりも早く刀身を分離して、延長して、廃墟に蔓延はびこる樹木のつたのように建物全体に張り巡らせる。次いで、万物を斬り裂く能力を刀身に宿し、斬撃の四重奏で飛翔剣翼を撃ち放てば、この惨状、この災禍、この地獄絵図、畢竟、覇剣の完成であった。

「~~~~ッッ、【魔弾】! フィフスキャスト!!!」

 シーリーンの周囲の虚空から5つの【魔弾】が射出された。侮られがちな初歩的な魔術ではあるが、中等教育上位の彼女が使えば、殺傷能力はロイの前世の拳銃に匹敵して、胴体に直撃すれば風穴が空くほどの威力である。それを彼女は本気で彼を倒す気で発動した。
 が、魔術の発動に予兆は付き物だ。ロイは魔力の振動を感知し、攻撃開始と共に駆け出していた。
 そしてその進行方向には――アリスがいる。

「真正面から挑んでくるのね…………ッッ! ならッッ!」

 脳内魔術貯蔵の出し惜しみなんてしていられない。アリスは感情的にもそう思ったし、論理的にもそう考えた。魔術の貯蔵にはまだ多少余裕があったし、4人とも、シーリーンの腹部の風穴を治癒魔術で塞いだ以上、目立った外傷はない。だが、ケガして流血していないだけであり、体力と精神の消耗は激しい。追加で、なによりも援軍が一切見込めないのが痛い。改めて脳内で確認すると、もともと戦闘開始直前にみんなで情報共有したとおり、第1特務執行隠密分隊に課せられた任務はロイの討伐ではなく拘束だ。つまり、相手がこちらを殺すことはあっても、こちらが相手を殺すことはない。なのに持久戦に持ち込まれては、やはり最初の懸念通りジリ貧。それに追加で、戦闘中に明らかになった『援軍はくるはずだったがこられなくなった』という情報を考慮するに、嗚呼、ここが正念場なのだろう。

 眼前には敵の手に堕ちた最愛の人。
 彼を救うべく、アリスは世界の一歩先を往く。

「――――ッッッ、【世界ビシュラーニゲン・からミッセーバー・観たボバテッテ・加速するフォン・ヴェルトアッブレムセン・からヴェルト・観たボバテッテ・減速するフォン・世界ミッセーバー】ァァァァァッッッ!!!!!」

 瞬間、アリス個人に流れる時間と、この惑星に流れる時間に凄絶な乖離が発生する。夜風は凪ぎ、灰燼は止まり、あの動きを目で追うことでさえ神経を極限まで酷使したロイでさえ充分以上、余裕さえ持って対処、迎撃できる速度に落ち着く。今、アリスには世界の万象が遅延して見えた。
 ロイを倒すには今しかない。その今を意図的に作り出したのは自分で、その魔術は1回の戦闘で1回しか使用できないゆえに、後戻りは不可能。

「まずは…………ッッ! 【竜、シュレイクストリッヒ・咆哮波動のウィ・エイン・如きドラハン・飛剣ガボル】…………ッッ!」

 魔術によって無数の斬撃が飛び散り、舞い踊り、地面を斬り刻みながら対象に向かう。
 正直、いくら時流を加速させていても、最初の一撃は躱される。アリスはそう理解していたし、現実、ロイは真横に跳躍してそれを回避してみせた。

 だが、それはアリスの計算通り。直線的に進む魔術を回避するために後方に移動することはありえない。流石に理性を剥奪されていても、仮に魔術の名称を叫ばなかったとしても、ロイはアリスの時流加速に気付いている。なら、その状態で上空に回避するわけもない。どうぞ射撃してください、と、言っているようなものだから。
 つまり消去法で合理的に、ロイが回避行動を取るなら、真横を目指すしかないし、ここまで理解できれば、次の一手も有利に進められる。

「ッッ! 【聖なる光の障壁】! 続けて、もう一度【竜、咆哮波動の如き飛剣】!」

 アリスはロイの進行方向に魔術防壁を展開して疾走を妨げる。結果、彼は疾走の勢いを殺して、その間隙にアリスは斬撃を飛ばす魔術を再度放った。
 必然、今度こそロイは上空に回避。

 これで準備は完了した。ロイにも滞空状態で移動する手段は残っているし、現にそれを先刻何度も見たばかりだが、今のアリスは時流加速状態にあるのだ。まだ【世界から観た加速する私、私から観た減速する世界】の発動限界まで時間もある。
 つまり、ようやくロイに決定的な一撃を与えることができるのだ。

「――――高貴なる一等星の王者、破格の輝きを以って森羅万象を純白に染め上げるッッッ! 天下に響く我が光の号砲、彼方に木霊す敵兵の断末魔ッッッ! この弓矢の速さは風を超越え、雷を超越え、人智を超越えて宇宙の果てにッッッ! 紛うことなき神域の一閃、疑うことなき天上の裁きッッッ! 隣人への愛を謳い、愚かなる敵兵に嘆きの間隙さえ与えぬ極限の刹那ッッッ! 指差せ! 謳え! 放て! 轟け! そして天に召されよ――ッッ! 慈悲深き者よ、今、塵芥なる者を天の国に送る――ッッ! 是非ともそのかいなにて迎え入れ給え――ッッ! 【絶光七色アブソルート・レーゲンボーゲン】ッッッ!!!!!」

 煌々と七色に光輝を奔流させる超高難易度の光属性魔術を放つアリス。闇に汚染された者に効果は絶大であり、単純な貫通力も至高の一言で、速度にいたっては光速に到達している。
 ロイの腹部を貫通させる。最愛の異性を傷付けることに吐き気を催すほどの後悔、発狂しそうなほどの苦悩をしながらも、アリスはまた平和な日常を謳歌するために内心で懺悔を終わらせ、それを確信した。


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