ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
4章2話 第1特務執行隠密分隊、抗う!(2)
「…………ッッ!? 疾い…………ッッ!? その上、軌道を読まれた…………ッッ!?」
現実の戦況はアリスの想像を遥かに凌駕超越する。肉体強化と重力操作を駆使し、建造物の屋根の上に到着しながら戦慄と動揺を自覚するアリス。シーリーンとマリアも、彼女から距離を置いた別の建造物の屋根の上で瞠目していた。
現実は自明、雷の射撃、それも偏差射撃をロイは悠々と躱してみせたのだ。単純にアリスが計算していたよりロイの動きが速かったからなのだが、しかし、それで誰が彼女を責められよう。かれこれ半年近く一緒に行動し続けていた相手の動きが急激に、それも劇的に変化したのだ。対応できなくて当然である。
「弟くん……ッッ! 足場が不確定な建造物の屋上ではなく、公園の方に着地するんですね! でも…………ッッ!」
もともと、先刻の2つの理由で、第1特務執行隠密分隊は戦場を公園からその外に移したのだ。つまりロイが公園の方に移動した場合、それを防ぐのは必定である。
だからこそ、マリアはすでに『トラップ』を仕掛けておいた。
結果、ロイが着地したその瞬間、驚愕すべき圧倒的速度で、地面の一部が形状を変えて棘、否、一種の矢となる。先端は非常に鋭利で数は2本や3本ではすまされない。ロイの両脚を残酷な串刺しに処したのは【土刺の矢】という魔術である。
両脚が貫通し、傷口から夥しい鮮血を零し、激痛のあまり咆哮するロイ。
しかし、それだけで第1特務執行隠密分隊の攻勢は終わらなかった。
「星の意志よ! 天から地に落ちる黒き引力よ! 堕ちろッ、堕ちろッ、堕ちろッ! 触れることのできない神秘によって、その者に足枷を――ッッ! 【黒より黒い星の力】ッッッ!」
アリスが重力操作の魔術を発動してロイにかかる重力を強くした。しかもストックを使用することなく、本来の発動方法で。これでさらにロイの行動には制限がかかる。戦闘開始早々、事実上の拘束完了だった。
が、しかし、ロイは魔剣の切っ先を深々と地面に突き刺すと、両手から柄を通して、莫大な闇属性の魔力を刃に放出し続けた。異常に地面が揺れて、一部の土が不気味に隆起する。その不穏な前触れはシーリーンたちに瞬きの間隙さえ与えず、ロイが原始的絶叫を満天の星々に捧げた時、それは起きた。
「ガ…………ッッ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…………ッッ!!!!!」
刹那、轟音と崩壊。
以前、ロイがアリシアと戦った時のように、彼はエクスカリバーを地面に突き刺して、地中でその切っ先を分離し、延長し、そして広範囲に及ぶ地面を斬り裂いた。まるで地割れのごとき現象に、思わずシーリーンたちは息を呑む。
同時、地面の崩壊によってロイの脚を固定していた矢は根元を失い、未だ重力操作の魔術の影響を受けているとはいえ、ロイは比較的自由な状態へ。
ならば、次にロイが起こすべき行動は1つしかない。
「ガァ…………ッッ、邪道こそ我が王道…………ッッ! 我が王に成れば王道は邪道…………ッッ! 詭弁を許し……、屁理屈を許し……、詐術を許し……、その果てに何処かの可笑しさを許す…………ッッ! 【歪み方に歪みがない不正の極致】ッッッ!!!」
「!? アリスさん! 魔術を解除して!」
「…………ッッ」
ロイの詠唱がなんの魔術を発動させるモノか気付いた瞬間、マリアは背中が凍えるほど鮮烈な怖気に駆られて、アリスに強く指示を飛ばす。
が、すでに時は遅かった。マリアが警告した時点でロイの魔術は完成している。
その魔術、【歪み方に歪みがない不正の極致】とは、【零の境地】のように完璧には無効化できないが、敵の魔術を妨害する魔術であり、以前一度、アリスはツァールトクヴェレで行ったゴブリンとの殺し合いで、その魔術をキャストされていたのである。それを見ていたマリアだって、その魔術の効果は知っている。
「キャ…………ッッ!?」
一瞬後、重力操作の魔術はアリスの制御下から逸脱する。
アリスはまるで自分のすぐ目の前で爆発が起こったような感覚に襲われ、思わず尻餅を付いてしまうことに。
ロイが【黒より黒い星の力】に行った術式改竄は、本来の10倍の速度で術者本人の魔力を消費させ、かつ、その重力の向きを真下から真上に逆転させる、というもの。
結果、ロイはまさに爆発的、驚異的な速度で真上に跳躍し、次いで、わずかに使えた光属性の魔力をつぎ込み、【聖なる光の障壁】を発動した。
「従来以上の余計な重力を遮断……ッッ! そして足場の確保……ッッ! 気を付けてください! 狙いはアリスさんですね!」
喉が嗄れ、声帯が千切れそうなほど必死に叫ぶマリア。
アリスは今、尻餅を付いて再度、立ち上がろうとしている段階だ。完璧に動けないわけではないが、しかしそれでも充分隙は多い。真っ先に狙うべき敵対勢力としてロイに認識されるのは残酷、無慈悲ながらも定石どおりだった。
「ァァァ…………ッッ、飛翔剣翼ゥゥゥ…………ッッ!」
アリスに向かって撃たれる10個にも及ぶ飛ぶ斬撃。例え飛んでいたとしても、あれはエクスカリバーの性能を受け継いでいる。十中八九、触れた物の全てを切断する能力が付与されていると見て間違いない。
つまり有象無象の魔術防壁は無意味であり、生還したければ回避行動しかありえない。
アリスがこの状況を突破するには、2つの切り札、時流操作か居場所の入れ替えのどちらかを選択、消費するしかないだろう。
一瞬の思考、極限の判断、そして彼女が居場所の入れ替えを選択してストックを解放しようした、その時だった。
「アリス! 切り札は使わないで!」
「シィ!?」
シーリーンは肉体強化の魔術を全力で稼働させて、横からアリスをお姫様抱っこの体勢で回収する。そしてそのまま飛翔剣翼が着弾する前に他の建物に飛び移ろうと画策し、事実、それを実行に移す。
「マリアさん! ロイくんの足場に【零の境地】を!」
「了解ですね! ――、ありのままの世界よ! あるべき姿の真実よ! 魔術による現実の浸食を、どうか赦し給え――ッ! 魔術師の傲慢を、どうか免じ給え――ッ! 我は祈る! 我は願う! その贖罪によりッッ、一時でもッッ、ありのままの世界を此処に――ッッ! 【零の境地】ッッッ!!!」
詠唱終了と同時、ロイの足場は消滅した。
が、ロイはそれを予見して、足場が消滅する前に再度跳躍。公園に着地しても改めて拘束されるだけだと判断したのか、マリアが立っている建造物の屋上、それに近い位置に着地した。
一方、アリスを抱えたシーリーンは適当な建造物の屋上に、ロイ同様、着地を果たす。
が、その時、悲劇が起こった。
誰もいない空間から【魔弾】が射出され、シーリーンの脇腹に風穴を開けたのだ。
「ガ、ァ、~~~~~~ッッッ!?」
「シィ!?」
ロイがツァールトクヴェレでフィルと戦った時にも使った、時限式の【魔弾】だ。恐らく、今回は当該の建造物の屋上に誰かが足を乗せたら発動するように術式が編纂されていたのだろう。
そして遅ればせながらシーリーンとアリスは気付く。この屋上は戦闘開始時、ロイが立っていた屋上だ、と。
(…………ッッ!? シィが私を助けることを計算に入れて、誘導された!?)
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