ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章8話 ロイ、出会う!(1)



 危険に晒されている妹のもとへ疾走する兄。
 つまりはイヴのため、ロイは炎上する月夜の中世西洋風の街並みを、疾風はやてのようにすり抜けた。

強さを求める願い人クラフトズィーガー】のフィフスキャスト。
 両脚には馬以上の筋力がみなぎり、体力はすでに獅子さえも超えている。なのにそのような人類にとってのオーバースペックを手に入れても、魔術の効果で、身体は壊れるということを知らなかった。

 轟ッッ、と、石畳の地面を勢い良く蹴るように、踏み抜くように駆けると、目にも留まらぬはやさで一気に周囲の景色が後退して、逆にそのぶん、ロイは前進に次ぐ前進を重ねた。
 石畳の地面、ロイの前世でいうとロマネスク様式の建物、橙色に煌々と瞬いている街燈。洒落たカフェに上品なレストラン。静謐せいひつな図書館に瀟洒しょうしゃな美術館に、そして荘厳で神々しい大聖堂。それをことごとくロイは電光石火のように置き去りにした。

 走る、走る、走る。
 ペース配分も考えない全力全開で、ロイは避難する人の流れに逆らって凄惨災禍の中央を目指した。

 前方の上空には件の死神と、その攻撃から王都を守る魔術防壁が展開されている。
 アリシアも、セシリアも、エルヴィスも、クリスティーナも、各々の位置でそれを確認して、みな一様に、あれはイヴの魔術防壁だ、と、結論付けた。
 なのに、ロイだけ別の結論に至る道理はない。

 そして、ロイが王都の人気の消えてしまった噴水広場に到着して、そのまま横切ろうとした、その時だった。

「待て、エクスカリバーの使い手」
「…………ッッ!?」

 行く手を拒むように、ロイの動きを牽制するように、彼の眼前に【闇の天蓋からシュヴァルツ・シュペーア・ディ・降り注ぐ黒槍フォン・ドゥンケルン・ヒンメル・ファレン】が深々と突き刺さった。

 あと50cm自分が前に進んでいたら死んでいた、と、ロイは焦燥。
 軽微とは言え砂煙が舞い、ロイは1秒を、否、一瞬さえ競うように、すぐに後方に跳躍して聖剣、エクスカリバーを展開する。

 ヤバイヤバイヤバイヤバイ……っ!
 生存本能というセンサーが過剰、そして過敏に反応して、戦慄という警告音クラクションがロイの脳内にけたたましいほど鳴り響く。

 次の刹那、【闇の天蓋から降り注ぐ黒槍】が解除され、その向こう側が視認可能になると、先刻までは間違いなく誰もいなかったのに、今、そこには魔王軍の制服を身にまとい、道化ピエロの仮面を付けている男がいた。

 ゾクゥ……ッッ、と、雷に撃たれたように痺れるロイの背中。

 話し合いの必要はない。
 先手を打たないと間違いなく殺される!
 自分なんて、赤子の手をひねるよりも簡単に肉塊に変えらてしまう!
 そんな直感がロイにはあった!

「聖剣の波動オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――ッッッ!!!」

 まさに会敵かいてき即殺の無言実行。
 自分に永遠の死を与える存在ものが眼前に待ち構えている状態、それにおける人間の生き延びたい……ッッ、という本能を信じて、ロイは開戦一撃目でエクスカリバーが持つ最強の技、聖剣の波動を撃ち放った。

 地上に一等星が落ちてきたかのごとき、人の視界を滅するような極光が広場周辺を蹂躙して、死神が起こした火災にも引けを取らないほどの純白が、王都に広がる真紅に拮抗する。

 刹那、超々々大轟音。
 想像を絶する衝撃により地面は揺れて、王都全域にその爆音が強く、強く、反響に反響を重ねた。

 しかし――、

「いい一撃だねぇ……、成長性込みでいいなら、魔王軍の幹部にほしいぐらいだ」
「バカな!? 無傷!?」

 多少、魔王軍の制服に砂塵が付着したものの、敵本人は全くの無傷だった。
 それどころか、余裕綽々の態度で、あろうことかロイのことを魔王軍にほしがっているではないか。

「殺し合いが始まって早々に恐縮だが、エクスカリバーの使い手、こちらにくる気はないか?」
「ない」
「なら殺そう」

 早押しのように即答するロイに対して、仮面の男の方も即答で返した。

 そして仮面の男が右手の親指と人差し指をパチンッ、と、鳴らすと――、
 ――オオオオオオオオオオオオオオオ……オオオオオ……ッッ…………、と、アリスが殺したゴブリンや、イヴとマリアが倒したクリストフとは比較にならないほど、圧倒的広範囲に展開する【万象の闇堕ちヘレテューア・ヌルト】がロイのことを呑み込み始めた。

 焦燥に駆られた周囲を確認するロイ。

(この【万象の闇堕ち】! 目算とはいえ効果範囲が半径100mの円よりも広い!)

 吐き気を催すほどおぞましい漆黒の汚泥の地面が辺り一面に広がった。
 どんなに肉体強化の魔術をキャストしようと、100mを走るのにはどうしても6~8秒もかかってしまう。それほどまでに時間を要してしまったら、まず間違いなく自分の身体は胸部~首のあたりまで沈んでしまうだろう。

 しかも、走ると言ってもただ走るのではない。
 言ってしまえば『沼の中』で100m以上を5秒以内に走らないといけない、ということ。
 ゆえに、ロイは別のやり方を瞬時に考案する。

「…………ッッ、【万象の闇堕ち】を無効化することと攻略することは、同義ではない!」
「へぇ?」
「――――【聖なる光の障壁バリエラン・ハイリゲンリヒツ】!!!」

 ロイは魔術防壁を沈みゆく自分の真下3cmのところに展開。そして魔術防壁に足が着くと、肉体強化を全開にして跳躍した。

「ほぅほぅ、そのやり方なら足が着かない海や川でもジャンプができそうだねぇ――、けれど、【万象の闇堕ち】を舐めすぎ」

 そう、【万象の闇堕ち】には対象が逃げられないように、どこまでも伸びてきて身体を掴もうとしてくる漆黒の腕がある。それはアリスとイヴとマリアが経験したとおりだ。
 竜が飛ぶ速さよりも速くて、巨人が暴れたとしても強引に捻じ伏せることができるぐらい強いその漆黒の腕と手。

 アリスは【我がデァ・ラーム・居場所をイン・デム・イッヒ・ウンド・ドゥ貴方に、エクシスティーレヌ・貴方のジィヒッ・居場所を我にアウスズタウシャン】で、イヴとマリアは【光化瞬動イデアール・リヒツン・ラオフェン】でそれを攻略したが、ロイにその2つはどちらも使えない。

 なら――ッ、
 ロイは――ッッ、


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