ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
1章13話 第1特務執行隠密分隊、初戦闘を始める!(4)
上下も前後も左右も問わず、一瞬ごとに飛び交うのは一撃で10を殺すクリストフの闇魔術。それは縦横無尽に乱舞して、彼の周辺に死滅の限りを降り注がせる。まるで巨人の進軍のような轟音が空気中にズシン……ッッ、と、響いて、まさに悪魔の哄笑のように純黒の光が明滅した。
【闇の天蓋から降り注ぐ黒槍】も、【歪み方に歪みがない不正の極致】も、【必要悪の黒壁】も、【万象の闇堕ち】も、【闇の法王が下す罪の罰】も、全力を以ってして、ただ1人、イヴ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクというソウルコードの改竄者を屠るためだけに惜し気もなく投入し続ける。
迎え撃つのはマリアの指示に従いイヴが放つ極光の魔術。【闇の天蓋から降り注ぐ黒槍】は【聖なる光の障壁】のテンスキャストで完全に防ぎ、【歪み方に歪みがない不正の極致】で魔術の発動を妨害されるたびに、妨害された魔術の発動を切り捨てて、即座に別のSランク魔術を構築する絶技を披露。【必要悪の黒壁】に対しては、その攻撃を吸収できる容量の30倍の【絶光七色】を以ってゴリ押しする。いくら【万象の闇堕ち】でも【光化瞬動】を使い光速で逃げる相手を地獄に逝かせることは不可能で、それら全てを対処しながら、その上で【闇の法王が下す罪の罰】とクリストフ本人に対しては、世界そのものを浄化する魔術をキャストし続けた。
イヴはまだお酒も飲めない年齢だ。
だというのに、この技量、この実力。
神に愛された子供というのは、まさにイヴのためにあるような言葉だろう。
魔王軍のスパイはもちろん、改めて間近で見て、シーリーンとアリスでさえ言葉を失う。
これは、この才能は、もしかしたらロイを超えている可能性さえある、と。
「ハッ、諸君の目的はわかっている! おれを殺すのは難しい上に、ほんの数回だけ殺してもおれは死なない。ゆえに、この戦闘の最終目標は、【聖なる光の障壁】という空間に直接固定できる一種の頑丈な板を、おれの身体を巻き込むように展開して、動きを止めることだろう! なら、【聖なる光の障壁】の予兆を感じ取ったら、シンプルに回避行動を取ればいいだけの話!」
肉体強化と重力操作の魔術をキャストして、跳躍してもかなり長い時間、クリストフは滞空する。
一方、イヴとマリアは肉体強化の魔術をメインにキャストして、どうしても追い付けない時には、イヴがマリアごと【光化瞬動】をキャストした。
「お姉ちゃん! あいつにわたしたちの作戦が……ッッ!」
「大丈夫ですからね? 落ち着いてお姉ちゃんの指示に従ってくださいね?」
「う、うん、だよ!」
「イヴちゃん! 次はあそこに【絶光七色】を撃ってくださいね!」
マリアはイヴに指示を飛ばす。
しかし、クリストフはそれを心底つまらないモノを見るような目で内心、唾棄した。マリアの指示は常に的外れだからである。これならば、イヴと1対1で戦った方が、より、イヴも善戦できただろうに、と、溜息を吐かざるを得ない。
狙いは赤点で、なにか考え事をしているのだろうか、指示のスピードも遅い。
自分はイヴの動きに付いていくのがやっとで、挙句、【光化瞬動】の時に関して言えば、マリアはその魔術を使えないから、イヴにおまけでキャストしてもらっている。
つまり、興醒め。
「イヴの姉のマリアといったか! 敵ながら助言をしてやろう! 君は戦闘に参加しない方がいい! 明らかにイヴの足手まといになっている! 明らかに全分野おいて、イヴに追い付けていない! 今おれたちが行っているのは殺し合いだ! 惨めかもしれないが、姉という立場を捨て、全て妹に任せた方が上手くいくぞ?」
「お節介ですねぇ……ッッ! これからわたしの戦術にハマるというのに!」
「ほざけ! 見ろ! イヴが光属性魔術で保全したおかげで、周囲の建物には一切の被害がない! すでに察しているが、おれが【闇の天蓋から降り注ぐ黒槍】で倒壊させた宿の客も主人も、全員無事なのだろう!?」
「当たり前だよ! 倒壊の瞬間、アリスさんも含めて、あそこにいた全員に、鎧の形をした【聖なる光の障壁】をキャストして、着せてあげたんだよ!」
建物の屋根から建物の屋根へ。
繰り返した数を忘れるほど跳躍しながら殺し合うイヴ、マリア、クリストフ。
イヴが【絶光七色】のフィフスキャストを撃つ。
迎えるのはクリストフの【必要悪の黒壁】で、それはすぐにキャパシティオーバーして崩壊してしまうも、その前に彼はすでに別の場所に移動を完了していた。
すると、クリストフは再度、【闇の法王が下す罪の罰】のセブンスキャストをイヴとマリアに向かって発動。
瞬間、イヴも再度、【絶光七色】を撃ち、悉くそれを迎え撃った。
「ほら、見たまえ! イヴはこれほどまでに王国の平和に貢献している! 尽力している! だというのに、姉の君はなんだというのか! 誰か1人にでも魔術防壁を展開したか? 最初の狙撃以降、おれの魂のストックを1つでも減らしたか? 否ッ! 君は足手まといでしかないのだよ、思い知りたまえ!」
「…………っ」
マリアは憤りを覚え、かすかに奥歯を軋ませた。今日が初対面の彼に、しかも敵である魔王軍のスパイに、いったい自分のなにがわかるのだろうか、と。
自分には弟と妹がいる。それはマリアに親しい人ならば、誰でも知っていることだろう。
弟は有名人だ。生まれた瞬間にゴスペルを授かり、あとで転生のおかげと知ることになったが、子供の頃から大人顔負けの知識を披露していて、勉強も天才的の一言。挙句、聖剣エクスカリバーにも選ばれて、つい先日には王族の仲間入りを果たした。
ロイという弟がいた結果、彼があまりにもすごすぎて、弟以外の男性を物足りなくなってしまい、心の底では弟と結ばれることを夢見てしまうほどである。
妹は弟以上の天才だ。ゴスペルは特になく、聖剣使いということもなく、もちろん王族ではないが、特務十二星座部の枢機卿が認めるほど、魔術に関して圧倒的。
弟にしろ妹にしろ、自分が2人のうちのどちらかに模擬戦を挑んでも、勝てる可能性は皆無と言って差し支えない。
だが、バカにするのも大概にしろ、と、マリアはクリストフを睨む。
弟は剣の道を進み、妹は魔術の道を進もうとしている。
ならば自分は研究者の道を往く……ッッ、と、マリアが心の中で叫びながら、イヴに再度、指を差して【絶光七色】を撃つ方向、クリストフの心臓を示した。
そして――、
「弟くんやイヴちゃんよりも何年も早く生まれたわたしが、学院で、なにも勉強していないと思っているんですか?」
「なんだと?」
「イヴちゃん!」
「了解、【絶光七色】!」
イヴが撃つ極光。瞬くような純白と閃くような黄金色の光が明滅した。まるで天地開闢を彷彿させるような圧倒的な輝きが辺り一帯に奔流する。光を目に入れたら、涙が出そうなほど感動的で、逆に闇の住人ならば、懺悔の念で自殺を考えるほど絶望的な魔術。
撃てば光速で突き進み、当たれば身体に穴が空くのが必定だ。
しかし、それを――、
「残念、会話で気を逸らしたつもりか?」
クリストフは跳躍し余裕綽々で躱してしまった。イヴの撃った極光は、斜め上に向けて撃ったことで、遥か夜空に消えていき、残ったのは流石にそろそろ疲れてきたイヴと、今のところ指示以外なにもできていないマリアと、翻り、まだ魂のストックを残しているクリストフの3人。
が、マリアの方こそ、さらに余裕綽々な声音で――、
「チェックメイト」
「?」
マリアの発言をクリストフは訝しむ。当然だ。攻撃を躱されてチェックメイトなど、ユニークな冗談にも程度があった。マリアの妹のイヴでさえ、姉の発言の意図を図りかねている。
しかし次の刹那――、
突如、なにもない空間が光り――、
「は!? は!? ハァ!? な、なんだこれはアアアアアアアアアア!? 【聖なる光の障壁】だと!? バカな!? 【聖なる光の障壁】の術式、空気の振動は感じなかったはずなのに!?」
空中で、クリストフはイヴの【聖なる光の障壁】のテンスキャストに巻き込まれて、身動きが取れなくなってしまう。
が、魔術を使っている本人であるはずのイヴは、適当な建物の屋根に着地すると、キョトンと小首を傾げるばかり。
そんな2人に、いざ、マリアのわかりやすい魔術の講義が始まろうとする。
「いかなる時代、いかなる場所、いかなる属性でも、空気の振動、音を利用して大気中の魔力に波を立てるなどして、術式を組まないと、魔術は絶対に発動しませんよね? あなたの言う魔術の予兆というのは、魔力の波を立てるための空気の振動を肌で感知すること。けっこう難しい技術ではありますが、熟知している初心者向けの魔術なら、わたしでも同じことができますね。しかし――」
「な、なんだ……?」 と、生唾を呑むクリストフ。
「子供の頃に習いませんでしたか? 『3つの媒体』と『3つの波長』を」
少し遠くでマリアの話を聞いていたアリスは、味方だというのに彼女のしたことを察して、思わず身震いする。確かにアリスはロイと正式に恋人になった日、ではなく、例の騒動で偽物の恋人を演じることになった日の占星術の講義で、『3つの媒体』と『3つの波長』の復習をしている。
即ち、『3つの媒体』とは空気と電磁波と魔力で、『3つの波長』とは音と光と術式に他ならない。
「音ではなく光を利用して、空間に存在する電磁波のついでに魔力を揺らす。人間は音を出せますけど、光なんてなかなか出せませんからね。おかげで詠唱という方法よりだいぶマイナーですが、こうやって、魔術を発動することもできるんですからね?」
「まさか……ッッ! 考え事をしながら、イヴに【絶光七色】を撃たせていたのは!?」
「肯定ですね♪ 光を使って魔術を発動させるなんて、イヴちゃんにピッタリだと思ったんですよね。さて、とにかくこれで、お仲間の方は戦意喪失して、あなたの方は拘束完了、ですね」
彼我の実力差をクリストフは痛感した。
いや、確かに間違いなく、イヴはもちろん、クリストフにだってマリアは勝利できないだろう。
だが、世界には適材適所という言葉があるのだ。
ゆえに、(彼女は別に、イヴの足手まといではなかったか)と、クリストフはむしろ、マリアがイヴに的確な指示を出していた、と、認め、言葉には出さなかったが、評価を改め称賛した。
こうして、第1特務執行隠密分隊の初戦闘は幕を下ろす。
無論――、
帰ったあとに――、
4人は呼び出されて――、
例の会議室でセシリアに――、
「にぱぁ、セッシーが言いたいこと、理解しているよね?」
「「「「…………はい」」」」
「こんなの、全然、隠密じゃないなぁ♪」
「「「「…………はい」」」」
「お給料は減額だぞ♪」
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