ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
4章10話 シーリーン、完全に幻影魔術をキャストされる!(2)
斬ッッッ! と、風切り音を鳴らして、ジェレミアは魔術で斬撃を前方に飛ばした。
刹那、半透明で三日月型の刃が、まるで舞踏のように、正面に縦横無尽に咲き乱れ、結果、前方約100mの木々が倒れ、岩が斬り裂かれ、そして、シーリーンは脚を巻き込まれてしまい、それを使い物にならなくされる。
「~~~~ッッ!? …………キャアアアアアアアアアアッッ! ~~~~ッッ! アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……ッッッ!」
まるでカマイタチを連想するほどのズタズタ具合だった。
最悪最低以外のなにものでもない。
彼女の色白の脚には30は下らない一直線の赤い傷が刻まれて、まるで主人のイジメが終わったあとの奴隷のようにみすぼらしい脚になってしまう。
「ん~~? あたり一面、見晴らしがよくなったねぇ? 一言で言うなら、伐採。そうは思わないかい、シーリーン?」
鼻にかかる声で上機嫌なジェレミア。
しかしシーリーンは地面を這って――、
「まだ……っ、あと、推定15m……っ!」
匍匐前進でシーリーンは前に進む。たとえ無様でも、彼女はそんなことを気にしなかった。
みっともない? 優雅じゃない? そんなこと、シーリーンは知らない。
自分は今勝利を掴もうとしている最中なのだ。そのための努力が、戦術が、熱意が、見栄えよくなくても、カッコよくないわけがない。
脚が崩れ、地に倒れ、土で汚れたとしても――ッ、ジェレミア・トワイラ・イ・トゴートを倒すのだ――ッ!
「おやおやおや~? 無様だねぇ、キミィ! おしりをこっちに向けて、犯してほしいのかい? まぁいい、獲物を前にして舌なめずりするなんて三流のすることだ。では――、映せ、映せ、鏡に映せ。現実を幻想に、世界を虚像に堕とす術。その世界には夕――……」
ジェレミアは詠唱を開始する。
が、仕方がないこととはいえ、やはり詠唱は少し長い。
その間隙にシーリーンは、地に這ったまま背後を向き、魔力を込めた人差し指を敵に向けた。
「ッッ、【魔弾】!」
薄暗い山では目立つ、淡い燐光を放つ【魔弾】が迷いも躊躇いもなくジェレミアに迫る……はずだった。
しかし【魔弾】はシーリーンの指先5cmのところで盛大に爆発。
その衝撃でシーリーンは後方に飛ばされてしまったではないか。
「ア――ッハッハッハッ! オレはキミみたいなバカとは違うのさ! 一度、詠唱は詠唱破棄のスピードに敵わない、って、理解した以上、キミの使える全ての魔術の【零の境地】を脳内にストックしておくのは当然だろう? なんせ、キミの魔術は5つしかないんだからねぇ!」
「――――」
「どうしたんだい? 悔しかったらなにか言ってみたまえ」
シーリーンのことを煽る、煽る、煽る。
だが、シーリーンはそのような挑発に、いちいち反応したりしない。
なぜならば――、
(これで……ッ、勝利の条件は整った……ッ!)
――全て計算どおりだったから。
すでに、ジェレミアを倒す計画が終わったから。
それに気付かずジェレミアはまるで高笑いのように詠唱を――、
「さぁ――、フィナーレだ! その世界には夕日もなく、晩餐もなく、楽器もなく、香しい花もない! 誰の温もりも感じぬまま、偽りだけを感じ給え! 【幻域】!!」
ついに放たれるジェレミアの幻影魔術。
時属性の魔力と空属性の魔力が大気中で消費され煌々と瞬き、その瞬きは組み合わさり、まるで芸術の領域に入っていると言っても過言ではない複雑な術式と化す。その緻密なそれは、他のそれとさらに組み合わさり、こうして1つの魔術が完成する。
その世界には夕日もなく、晩餐もなく、楽器もなく、香しい花もない。
誰の温もりも感じぬまま、偽りだけを感じ給え。
この詠唱は実に幻影魔術の本質を捉えている。この魔術に捕らわれた者は、現実を感じることが不可能になり、逆に幻しか感じなくなってしまうのだから。
それはシーリーンにとっても同じこと。
しかし――、
――たった1つだけ、現実世界に干渉する術が残っているとしたら?
だからシーリーンは幻覚に耐える。ほんの10秒程度でもかまわなかったから。
重力が逆になって空に落ちていくような感覚に。
口から身体がめくれて、肌が内側に、内臓が表に出る感覚に。
実際に現実では起きていないのだが、白目を剥いて、口から泡を吐いて、鼻からドバドバ血を流して、鼓膜の表面を木工に使うカンナによって薄くスライスされて、肌の表面にクモやらムカデやらヒルなどの虫が這いずり回る感覚に。
例え狂ったとしても耐えてみせるのだ!
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
頭の中に直接、ジェレミアの嘲笑が流れ込む。
それを聞いた時、シーリーンは直感した。
これは幻影魔術じゃない、ジェレミアが五感を弄っているわけではない、と。
事実、これは幻影魔術といえば幻影魔術だが、まだ発動過程の状態だ。
スムーズに幻覚を見せるためのプロセスと言えば伝わるだろうか。
「――――」
だから、シーリーンはジェレミアに1つだけ感謝した。
これでやっと、シィもロイくんに、あの時のキミの痛みをわかってあげられる、って言えるからね、と。
ロイはあの時、ジェレミアとの決闘の時、「シィは3年間もキミからのイジメに耐えたんだぞ!? ボクがたった300日の苦痛に耐えないでどうする!? これに耐えてやっと――ッ、ボクはシィに! キミの痛みをわかってあげる、って言えるんだアアアアアアアアアアアアア!」と叫んだ。
だから今回は、そのいい意味の意趣返し。
ロイにばかりカッコいい真似はさせない。
女の子にだって、嫁にだって、カッコいいことをしたい時があるのだから。
そう思いつつも――、
シーリーンの意識は闇に落ちていき――、
1人残ったジェレミアが、完璧に【幻域】が発動したと確信すると――、
「クフフ……っ、アッハハハハッハアハ! これでオレの勝ちだ! 特務十二星座部隊レベルの精神力を持たないシーリーンに、幻影魔術を突破なんてできっこない! あとはシーリーンがギブアップを宣言するだけで……ん? ……おや?」
おかしい、と、ジェレミアは周囲を見回す。
様子が変だった。
いや、シーリーンに限って言えば別段、不思議な点は見受けられない。現在進行形で幻影魔術に捕らわれているし、その証明のように、地面に糸が切れた操り人形のように倒れている。
だから、おかしいのはシーリーン以外だった。
規模は小さいが地面が揺れている。まるで土と土が擦れ合いながら崩れるような音が、徐々に、いや、かなりの猛スピードで近付いてくるし、空を見上げると、鳥たちがいっせいにどこかへ飛んで行ってしまっている。
そして、ゴ……ッ、ゴゥ……ッ、轟……ッ! という音が接近してきて――ッ、
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ペンギン
やれー!シィー!