ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章7話 アリシア、気付いていた。(1)



 数日後――、 七星団の王都に位置する中央司令部の屋上にて――、
 国民にも誤解されがちだが、星下王礼宮城と七星団の中央司令部は、隣り合わせになっているだけで別の建物、別の敷地に存在する。
 星下王礼宮城が王族の住む城だとするのならば、中央司令部は軍事力を持つ組織である七星団の本拠地。
 とにかく、中央司令部の屋上に、アリシア・エルフ・ル・ドーラ・オーセンティックシンフォニー(幼女バージョン)は1人の同僚の女性を呼び出した。
「どうしたんや、アリシアさん? せっかくの昼休みにこんなところに呼び出して」
 屋上にあがってきたのは特務十二星座部隊、星の序列第10位、【磨羯】の称号を国王陛下から直接授かった占星術師、イザベル・アイ・ディ・ルスフィア。
 雲ひとつない青い空の下、高所ゆえの少しだけ強い風に2人の美人は髪を揺らし遊びながら、互いに視線を逸らさずに相対する。 背景には王都の西洋風の街並みがジオラマのように広がっており、まるで演劇のワンシーンのように物語的なシチュエーションであった。
「前回の魔王軍との大規模戦闘について、お話しておきたいことがありましたので。しかし、わざわざせっかくの昼休みにお呼び立てしまったのも事実。申し訳ございません」「ええって、ええって。同じ特務十二星座部隊のヨシミやしなぁ。いや、それがなくとも、わざわざ呼び出すってことは、必要なお話なんやろ?」
「ええ、そのとおりですわ」「それで、話っちゅーのは?」
 イザベルが訊くと、わずかにアリシアの表情かおに陰りができる。その陰りは、苛立ちと自己嫌悪のニュアンスを含んでいた。 そしてアリシアは少しだけ吐き捨てるように――、
「前回の魔王軍との大規模戦闘で、いくらなんでも私は間抜けすぎましたわ」「間抜けっちゅーと?」
「言い換えれば愚鈍、愚図ぐず、そして無能」「いやいや、特務十二星座部隊の星の序列第2位が無能やったら、この世界の99%の人間が無能以下の生き物ってことやで?」
「だから、私は前回の魔王軍との大規模戦闘で、私が無能に落ちぶれた理由を解明してみました」「いやいや、そもそも、自分が無能って思うように至った根拠はなんなんや? まさか理由もなく自嘲しているわけじゃあらへんやろ?」
 イザベルがわけがわからない、という疑問を抱いている感じで問う。 確かにそれはイザベルの言うとおりだ。根拠がないのに自分を無能と感じるようになった、など、単なる被害妄想にすぎず、そこに議論の価値はない。 同時に、アリシアも同じことを考えているからこそ、イザベルの問いには簡単に答えられた。
「そうですわね。例えば、演説の最中に心臓に銃弾の形をしたアーティファクトを撃ち込まれ、重大な局面で魔術の使用を一部制限された。例えば、それだけで終わらず、そのほんの数秒後、一番警戒を解いていない適度に緊張しているタイミングで、さらに脳みそに銃弾を撃ち込まれた。そして最後に――」
「――――」
「――よりにもよって、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクを死なせてしまった」
 ロイの前世のことを知らないゆえに、イザベルは彼の重要度を正確に推し量れていない。 しかしロイがエクスカリバーの所有者というのは流石に知っていて、例えそれだけしか情報を持っていなくても、ロイが戦争において重要な人物、ということは伝わるはずだった。
「それで? 確かにそれはウチの目から見ても、普段のアリシアさんらしくないミスと思ったけれど、実際に起こったことは起こったんやろ? それは否定できひんはずやが?」「そうですわね。でも、同時に、私はこうも感じたんです」
「――――」「どこか、ご都合主義だなぁ、と」
「ご都合主義っちゅーと?」「この世界には運命というシナリオが存在して、そのシナリオのとおりに物事を進めるために、あんなわたしらくしないミスをしたのかなぁ、と」
「運命、ねぇ」「そう、占星術師であるあなたの得意分野でしょう?」「もしかして、ウチを疑っているんですか?」
 ここで初めて、イザベルはアリシアに敵意に近いモノを含ませた視線を送った。 しかしアリシアは特に気にした様子もない感じで、飄々《ひょうひょう》と、悠々に答える。
「答えを先延ばしにして恐縮ですが、まぁ、普通ならば魔王軍の方にも占星術師がいて、そちらの運命操作がこちらの運命操作を凌駕して、向こうにとって都合がいい展開に世界が書き換えられてしまった、と、考えてしまいそうなものです」「ならなんや? ウチが後方支援で手を抜いた、あるいは、裏切り者の可能性を疑っている、と?」
「単純に、お粗末だと思ったんですわ、私を貶める、あるいはロイさんを亡き者にする計画にしては」「お粗末?」
 話がどんどん、よくわからない方向に、本当になにかしらの結論に辿り着くのかわからない感じになってしまい、イザベルは年に似合わず小首を傾げる。 対して、アリシアは冷静に、淡々と説明を始める。
「まず、私を貶める計画だった場合、普通にスパイをもっと潜り込ませておけば、あと3発ぐらい不意打ちを喰らわせれば、いくら私でも殺せたはずなのに、結局、スパイは2人しかいなかった」「せやなぁ、資料で読んだ死霊術師の性格を鑑みるに、自分の手で直接殺す、って結末にこだわっている感じもせーへんかったからなぁ。結果が全て、過程など結果を出すための手段にすぎない、とか言い張って、不意打ちでも殺せるなら殺しておく傾向の悪人やろうし」
「次に、ロイさんを亡き者にしようとした計画だった場合、運命を操作できるならば、最後の最後で【聖約ハイリッヒ・テスタメント生命ハッフン・アッフ・再望ノッマァ・リーン・ツァールロスト】のキャストを許す、なんて真似はしないと思うんですわ」「それにも同意や。スパイが数人とはいえ存在が確認されている以上、こちらの新聞や法律全書を読まれていて然るべきやろうし。【聖約:生命再望】を知られている以上、相手は可能性が0・1%未満でも、それをキャストされないように、細心の注意を払うのが道理というもの」
「まぁ、まさか敵も、一国の姫君が英雄とはいえ死体と結婚する、なんて思わなかったでしょうが」「同感や」
 少しだけ視線を逸らして、下手なことを言わないように短い言葉で返事をするイザベル。 その反応を察して、しかしスルーして、アリシアは続ける。


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