ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

4章3話 恋人と婚約者と妹、そして戦う覚悟(3)



「――【黒よりシュヴァルツ・アルス・黒いシュヴァルツ・星の力ステーンステーク】! トリッッ! プルッッ! キャストッッ!」

 だが、アリスも負けてはいない。自分が今オークに狙われていると知るや否や、速攻で先刻と同じ魔術【黒より黒い星の力】を3つ重ねてキャストした。
 今度こそアリスはオークを捕らえた、そう確信した瞬間のこと。

「キャハハハハハ! 邪道こそ我が王道! 我が王に成れば王道は邪道! 詭弁を許し、屁理屈を許し、詐術を許し、その果てに何処かの可笑おかしさを許す! 【歪み方にカインヌ・ヴァーゼルング・歪みがないイン・デァ・ヴァーゼルング・不正の極致コルピッション・フォン・パーフェクション】!」

 ゴブリンの魔術がアリスの魔術にキャストされる。
 それと同時に、アリスの【黒より黒い星の力】が闇属性の魔力の浸食を受けた。

 前述したことがあるが、魔術とは術式の組み合わせで、術式とは魔力の波長のことだ。
 ならば術式を組み立てる時、既存の魔力のセットに余分な闇属性の魔力を1つでも加算すれば、最終形態である魔術は使い手が予期しない誤作動を発生させる。

「魔術を妨害する魔術!? 【零の境地ジィロ・イミネンス】みたいに完璧に打ち消せないけど、どの魔術にも適応可能の!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ! 喰らえゴラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」

 完璧に打ち消されなかったアリスの重力操作。
 最終的に重力の向きは真下から斜め45度ぐらいに下になり、ゴブリンの助力を得て、オークはそこに着地を果たす。

 つまりそれがなにを意味するかというと――、
 ――オークは空中に跳躍したから方向転換ができない。
 ――そう考えていたアリスの予想を裏切って、再度、彼女が予期していなかった地点、座標に進行方向を変える。

 その上、オークなのに器用なことに、数瞬前まで明らかに『殴る』ために振りかぶっていた状態なのに、遠心力をそのまま、『回し蹴り』の予備動作に入っているではないか。

 予備動作が終わるまで1秒も必要ない。
 瞬間、音速の壁を超える回し蹴りが――、

「アリス――っ!」

 炸裂するほんの0・1瞬前、予備動作が終わるまでのわずかな間隙の時点で、すでに動き始めていたシーリーンは、間一髪、アリスの横から彼女に飛びついて、オークの回り蹴りを2人揃って回避する。
 が、打撃そのものは躱せたものの、物体が音速を超えた際に発生する衝撃波のせいで、後方へ飛ばされてしまう。

「おっ、ついにこっちにきたか」

「――――ッッ」

 宙に浮くレベルの衝撃波。それにより飛ばされた2人の着地点には人間、フーリー、エルフなど、種族を関係なく肉も筋肉も臓器も硫酸のようにかす人型スライムが、自分の身体を水たまりのように広げて待ち構えていた。

 絶望するシーリーン。
 しかし、アリスは嗤う。続いて誰にも聞こえない声で呟く。

「お姉様ほどすごくはないとはいえ、特務十二星座部隊、星の序列第2位の妹も舐められたものね」

 脳内を確認するアリス。
『貯蔵』は十分を余って十二分。時間と空間に干渉する各1回しか使えないとはいえ、絶大な効果を誇る2つの切り札も万全の状態。無、炎、水、風、雷、土、光、その全ての属性の魔術、それぞれ残数10はくだらない。

 まさるは手数、放つは100にも至る基礎中の基礎と2つの切り札。
 たった1回の怠惰もなく、油断もなく、慢心もなく、手抜きもなく、だというのにわずか1度の勝利すら得られなかったゼロ勝の努力の成果を、ここに。

 刮目せよ、これがアリス・エルフ・ル・ドーラ・オーセンティックシンフォニーの真価だ。



「――【世界ビシュラーニゲン・からミッセーバー・観たボバテッテ・加速するフォン・私、ヴェルト・アッブレムセン・からヴェルト・観たボバテッテ・減速するフォン・世界ミッセーバー】――」



 瞬間、アリスの魔術のとおりに世界は有様を変容させる。

 科学において原子とは『物質』を構成する小単位である。
 ならば魔術において魔力とは『現象』を構成する小単位であった。

 無論、原子と原子を弄ることで、なんらかの現象を発生させることは可能だが、それを無視して、魔術は現象を現象のまま、それ以上でも以下でもなく世界に発生させる。
 逆に、魔力と魔力を、同じく弄ることで、なんらかの物質を発生させることも可能だが、また同じく、原子は物質を物質のまま、それ以上でも以下でもなく世界に存在を主張する。

 だが――こればかりは現時点での世界では、科学ではなく魔術でないと成し得ない。

 時流操作。
 時間とは相対的なモノで、アリスと、彼女以外の世界の全てに掛かる時間の流れが乖離を発生させる。

 結果、アリスからしてみれば、自分以外の世界の全て、自分を地面に落とそうとする重力でさえスローに感じた。彼女の体感だと、すでに5秒は滞空しているではないか。

「往くわよ――、私が持ちうる、最速の一撃を――」

 アリスは(――SET !!!)と心の中で叫ぶと、2本並べた右手の人差し指と中指を、まるで止まっているようにしか思えないオークに向ける。

 アリスはエルフ。魔術の適性も高く、遺伝的に視力も良い。エルフとして弓を嗜んだこともあるから狙いも精密の一言。彼我の距離は50mも離れていない。
 例えでんぐり返しの最中のように頭を地面に向けて、足が頭より上にある状態だとしても、このスローモーションの世界なら――、

「外す方が難しいわね!」

 ついにアリスの人差し指と中指から一閃の電撃が放たれた。
 それと同時に彼女は限界を迎え、時流操作の魔術を解除する。
 その時、ようやく世界はアリスに追い付いた。

「ガハ……アアアアアアアアアアアアア……っっ!!!」

 普通の生き物ならばまったく同時にしか思えないタイミングで、オークはアリスの電撃を喰らって気絶する。例え意識が回復しても脳に障害を与えてあるので問題はない。

 そして待ち受けていたスライムに落ちる、その1秒前に――、

「【黒より黒い星の力】!」
「はう!」

 シーリーンとアリスは放物線を描くようにスライムに向かっていた。なので、アリスは全てを溶かすスライムに落ちてしまう前に、重力を操作して自ら進んで着地してみせる。
 で、華麗に着地を決めるアリスと、ドジっ娘を発動させて、スライムは回避できたものの、着地に失敗するシーリーン。
 嗚呼、降り積もった雪がやわらかくて大きなダメージを負わなかったのが幸いか。

「エルフの小娘! 今のは時流操作か!?」
「魔術を嗜んでいれば、見ればわかるでしょう?」

 木々に隠れてゴブリンは推測を始める。

 まず常識的に考えて、この年齢の学生が時に関する魔術を詠唱破棄で使えるはずがない。
 だが、よくよく思い返せば、あのエルフの小娘は今までの戦いで、一度も詠唱を行っていないではないか。

【世界から見た加速する私、私から見た減速する世界】は先刻のとおりで【黒より黒い星の力】のトリプルキャストを使った時も、その詠唱を口にしなかった。
 そしてなによりも、1つ目の魔術から次の魔術、さらにそこから後続の魔術までの一連があまりにもスムーズすぎる。

 だとしたら、浮かんでくる答えは1つしかない。

「魔術の大量脳内ストック……ッ!」
「正解よ! 私はいつもお姉様と比べられていた。それがイヤで、何度もお姉様に模擬戦を挑んだ。たった1回の勝利もなく、代わりにあったのは無数に積み上げられた勝利に繋がらない努力。でも! お姉様に勝てない努力=無意味では、断じてない!」

「お姉様? 資料にあったこいつの姉……、まさか!?」
「あまり私を見くびらないことね。私には固有魔術はないけれど、一番私らしい戦い方は、もう身に付けている。――準備万端の至り。私はお姉様と何回も模擬戦を繰り返したことで、戦う前から魔術ストックを維持できる数は、すでにお姉様を超えているのよ!」

「――――ッッ」
「小鬼風情が、覚悟しなさい。私は特務十二星座部隊のアリシアを相手に、準備万端なら5分も戦い続けることができるのよ」


「ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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コメント

  • Kまる

    そうか…アリシアがそんだけ強かったらアリスも強くなるよね…ソウダヨネ

    3
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