ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

2章5話 足湯、そして妹と姉(1)



 温泉を堪能したあと、ロイは妹と姉であるイヴとマリアと一緒に、故郷の村にいる両親へのお土産を選んでいた。

 で、とりあえず入浴剤(1箱6袋入り)を2箱買って、次いで、ご当地ではかなり有名な、癒しの都の発展を語る上では無視できない神竜をモチーフにしたアクセサリーも買って、3人は宿の入り口近くにあった足湯で一息を入れる。

 イヴは先ほどと似たような体勢で、ロイの両脚の間に割って入り、彼の身体に寄りかかりながら足湯を楽しむ。
 また、マリアの方はといえば、ロイの正面で足を湯に浸けていた。

「――、イヴ、姉さん」
「ぅん?」「なんですか?」

「ずっと訊きたかったんだけど、ボク、少し前にボクは転生者だ、って話したよね?」

「うん」
「そう、ですね」

「正直に言ってくれていいんだけど、そのことについて、2人はどう思っている?」

 ずっとハッキリさせてこなかったことをハッキリさせる。
 ロイはこの旅で、それを目標にしていた。

 自分の兄は、あるいは弟は、身体的に血が繋がっていても、その中身が別の世界の住人だった。それは実例がロイ以外に存在するのか疑わしい事象だから、ロイ本人でさえ、イヴとマリアの心境を想像できない。

 一言で語るならば、混迷。
 この世界から見ての異世界人が家族だった時の気持ちなんて、世界中の誰にだって推し量ることは不可能だ。それほどまでに、イヴとマリアの心境は複雑なはず。

 アリスの一件を通じて、自分は転生したという事象に対して前向きになれたから、清々しい気持ちで秘密をイヴとマリアに打ち明けたが、その2人がそれを聞いてどう思うかに、ロイの清々しい気持ちは関係ない。もしかしたら、翻って清々しさとは真逆の気分を抱いたかもしれないのだ。

 ゆえに、アリスに尋ねるよりも、他の誰に尋ねるよりも先に、ロイは長年一緒だったイヴとマリアに訊いてみようと、ずっと、ずっと前から決めていた。
 そろそろ、落ち着いた頃だと思ったから。

「では、まずはわたしから、ですかね。姉、ですからね」

 と、マリアは静かに目を伏せる。
 ここには3人しかいないものの、一番初めになにかを言う役目を妹にはさせられない。
 しかとそのことを強く認識してから、マリアは目を開き、ロイに向けて語り始めた。

「――正直、そのことは上手く、わたしの中で消化しきれていませんね」
「そう、だよね……」

「でも」
「でも?」

「でも、弟くんの思っていることとは違います。わたしは決して、今、弟くんが思っているように、異世界人が家族なんて認められないよね、なんて思っていません。そこだけは、安心してほしいですね」

 瞬間、ロイの胸に仄かに温かい、優しい微熱が宿った気がした。
 まだまだ、マリアの話は続くだろう。そして、その話の続きでなにを言われるかはわからない。

 だが、一先ず、異世界人でも家族として、弟として認めてくれる。
 それだけで、ロイは9割ぐらい、もう充分だった。
 思わず、ロイは目頭が熱くなるのを抑えられない。

「アリスさんの騒動が終わったあと、わたしは弟くんから自分の正体について語られましたが、その時、わたしが抱いた感情は、寂しい、でしたね」

「寂しい……?」

「自分の弟が元とはいえ異世界人で驚きました。動揺もしました。――でもですね? 異世界人であることが、今さら別のコミュニケーション方法を取る理由にはならないと思ったんですよね。今まで、特に何事もなく接して、過ごして、絆を深めてきたわけですし」

 そこは感情的ではなく、理屈っぽく考えても、マリアの言うとおりだった。
 コミュニケーションが困難になるわけでもないのに、その方法を変える必要はないだろう。今でも普通に、ロイとマリアはコミュニケーションが取れている。

 別に、ロイは最初からロイなのだから、彼がどこか変わったわけではない。
 強いて言うなら、コミュニケーションの方法が変わらなくても、態度が変わるぐらいか。この2つは似ているようで同じではない。


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