ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
3章12話 決闘のあとで、疲れ果てた少年は――(1)
決闘のあと、敗北したアリエルよりも、勝利したロイの方が重症だった。いや、瀕死の重体と言っても過言ではない。
最後の瞬間、ロイは、くるのがわかっているのなら痛みを我慢すればいい、我慢は事実上の魔術無効化、という無茶苦茶な理論でアリエルの【魔術大砲・改】を正面から喰らったわけだが、逆を言えば、我慢できるだけで痛みは感じるわけである。
まるで火だるまになったかのように全身の皮膚がボロボロに焦げて、左目は見えず、左耳も聞こえず、抉れたせいで脇腹からは肉の断面が見えていた。咳き込むごとにタンのような血の塊を吐き出し、コヒュー、コヒュー、と、呼吸をしようにもどこかから空気が抜けてしまっているではないか。
今、ロイは決闘場のステージの上で横になっているのだが、彼の周りにはアリスとレナードが集まっていた。
「ロイ……、ロイ!」
「アリ、ス……」
アリスは未だウェディングドレスのままだった。ここにいるほとんどの者がアリエルの勝利に一票を入れていたので、決闘が終わったあと、すぐ結婚式に戻れるように、と、言われたからである。
花嫁衣装のまま泣くアリスの涙は、まるで世界一透明な宝石のようだった。
「ロイ! しっかりしろ!」
「せんぱ……い……」
「テメェ! 俺との決着を付けねぇままくたばる気か!? 冗談じゃねぇ! 俺はンなの許さねぇぞ!?」
しかし無情にも、ロイの目から徐々に光が消えていく。
すごく、すごく遠くでアリスの泣き声と、レナードの怒鳴り声が聞こえるが、嗚呼、そのようなモノ、もはや遠音だった。
死にたくない。
死ねない。
死ねるわけがない。
死んでたまるものか。
ロイは例のシーリーンの励ましを心の中で繰り返し思い出して、必死に睡魔に抗う。
せっかく、生きていることを応援されたのだ。生きていることを励まされたのだ。
だというのに、こんなところで終わっては、シーリーンに見せる顔がない。
誰が死体になった自分の顔を、シーリーンに見せるものか。と、ロイは歯を食いしばるように、意地、否、執念で意識を途切れさせなかった。
だが、刻々と傷口から血が流れていく。そして身体が冷たくなっていくのを自覚する。
「ロイっ、イヤぁ……ロイ! 死なないで!」
「眠るんじゃねぇぞ!? 俺はテメェとの勝負、不戦勝なんて結末は許さねぇって言っただろ!?」
横たわるロイの胸部に縋りつくように泣きじゃくるアリス。
レナードの方は現実を意地でも認めないように、声を嗄《か》らして叫ぶ。
幸いにも、ここには結婚式に参列していた貴族の観客が多数いた。その中には高度なヒーリングを使える者も多い。事実、現に横たわるロイには数人がかりで多重のヒーリングがキャストされている。
しかし、一向にロイの目は、虚ろな状態から戻らないではないか。
そして別の貴族によって、ロイと同じようにヒーリングを受けていたアリエルがロイの元に近付く。
「――――」
確かに、アリエルはロイのことを本気で殺そうとした。ロイが敗北したならば容赦なく殺し、そのことに罪悪感を覚えても、本人たちが言い出したのだから仕方のないことだ、と、割り切るつもりだった。
だが――、
――ロイは、アリエルに勝利したのだ。
――だというのに死んでしまうのは、手にかけたアリエルですら、本意ではない。
アリエルがロイの近くで沈黙を貫く。
その時だった。
「詠唱破棄、【限定的な虚数時間】!」
刹那、その場にいた全員の背中に寒気が走った。なにかヤバイ、と、よくわからないまま、直感するだけ直感した。皮膚感覚の1つに大気中の魔力を感受する魔力覚というモノがあるのはこの世界の常識だが、その魔力覚がまるで毛穴が広がるように全開になる感じが、ここにいる全員に襲いかかる。
この異常な魔力の発生源。
アリエルがとある1ヶ所に目を向けると、そこには驚くほど美しい1人のエルフが。
「アリシア!?」
「お姉様!?」
妹であるアリスが、姉であるアリシアを見間違えるわけがなかった。そして同じように、父であるアリエルが、娘であるアリシアを見間違えるわけがない。
決闘場の空に魔術を使って浮いていたのは、紛うことなく、エルフ・ル・ドーラ家の長女、アリシアである。
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コメント
ノベルバユーザー359879
アリシアもかわいいやんけ