ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章5話 結婚式で、花嫁を好いている2人の少年は――(1)



「誰だね、君たちは!?」
 カールが突然の闖入者に吠える。しかしそれは当然の反応だった。
 事実、カール以外のほとんどの参列者が、目を丸くして、件の2人の方に訝しげな視線を向ける。
 翻ってアリスは、ロイと、おまけでレナードの登場に、まるでバラ色の笑みを咲かせる。

「ボクはロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイク」
「俺はレナード・ハイインテンス・ルートライン。アリスの知り合いだ」

 ロイとレナードがいる扉のすぐ前と、アリスとカールのいる檀上は、なんの障害物もなく、真正面に一直線だった。ヴァージンロードなのだから、当然であるが。

 2人は大胆不敵に、真っ直ぐ、一切の迷いなく、ウェディングドレスを身にまとっているアリスの方に、靴を軽快に鳴らしながら近付いた。

 ふと、ロイは苦笑した。まるでモーゼが十戒を手に入れる途中で海を左右に割ったようだ、と。

「待ちたまえ」
「エルフ・ル・ドーラ侯爵……っ」
「やっぱ出しゃばってくるよなァ」

 威風堂々と胸を張って進む2人の行く手を遮るように登場するアリエル。

 ロイは強くアリエルのことを睨み、レナードはガシガシと片手で頭を掻く。
 彼我の距離は約3m、剣が早いか、それとも魔術が早いか、非常に判断に苦しむ距離であった。

 ふぅ、と、アリエルは1つ、落胆したように溜め息を吐いた。

「オネス・ト・エ・フォート公爵、申し訳ございません。これは私の落ち度です」
「なにぃ!?」

「この少年たちは娘のご学友で、アリスと離れたくないからか、アリスを奪い返しに来たのでしょう」
「だからさっき、そう言ったじゃねぇか」

 不機嫌そうにレナードが突っ込む。否、不機嫌そうに、ではなく、事実、不機嫌そのものなのだろう。目の前でウェディングドレスを着た好きな女が、別の男と向かい合っているのだ。それは、不機嫌にもなる。

 一方でロイも、胸中は穏やかではなかった。

「だがしかし、君たちは2人共、一度ずつ、私に決闘を挑んで敗北しているはずだ。どのような道理でここにきた?」

「ボクたちがエルフ・ル・ドーラ侯爵に決闘の敗北の対価として義務付けられたことは、アリスの移動を邪魔しないこと、アリスを連れていくことに対して干渉しないことです」
「式はとっくに始まっているらしいし、移動はもう完了しているよなァ?」

「――そうか、言葉にしないとわからないか」

 心底落胆して、アリエルは鋭く、ウソ偽りなく、人を殺しそうなほどくらい目でロイとレナードのことを睨む。

 刹那、ロイとレナードは戦慄した。
 この男はこのような凄絶な目をできるのか、と、思わず身が震える。

 目を見ただけで殺気を感じ、対抗する意思はあるものの、一瞬、本気で次の瞬間に死ぬことを覚悟しそうになる。

 嗚呼、これが、学生と学者の格の違いか。
 まるで骨の髄まで染みるような絶望だった。

「昨日の決闘で君たちに『移動の邪魔をするな』ではなく『結婚式の邪魔をするな』という敗者の義務を科さなかったのにはわけがある。結論から言えば、慈悲の心ゆえだ」

「――――」「アァ?」

「ロイ君はもちろん、レナード君も粗野な態度が目立つが聖剣使いだ。さぞ、高潔な魂、そして矜持を持っていると思い、貴族として、平民に慈悲を与えるつもりで、結婚式にはくるな、と、命じなかった」

 だが、と、アリエルは続ける。

「君たちは私の期待を裏切った。勝手に期待したのは私だが、君たちにはほとほと失望したよ。まさか結婚式の邪魔をしないと君たちの善の心、社会的な常識を信じてみれば、ものの見事に裏切られた」

「そりゃァ、俺たちを高く見過ぎているぜ、エルフ・ル・ドーラ侯爵」

「なに?」

 次の瞬間、レナードではなくロイが、アリエルに向かって一歩、近付いた。
 いや、違う。正確には、アリエルの背中の向こうにいるアリスに向かって前進したのである。

 決意を瞳に宿したロイ。
 加えてレナードも同じ瞳をしている。

「エルフ・ル・ドーラ侯爵」
「なんだね?」

「実はボク、アリスとは本当に付き合っていたわけではありません」
「不敬罪に値するか否かは最後に決める。続けなさい」

「偽物の恋人を演じた理由の1つは、周りからの余計な詮索を避けるためです」
「まぁ、理屈は通っている」

「ボクはアリスに、最後まで、私の恋人役を貫いて? ってお願いされた」
「それが?」

「しかし――ッッ!」
 刹那、ロイの右手から奔出する純白の輝きと黄金の風。
 そしてその中から顕現するのは、一振りの豪奢な聖剣だった。

 ロイの聖剣、その名はエクスカリバー。

 気の弱そうな参列者の女性が「ヒッ」と短い悲鳴を上げる。
 聖剣が怖かったのではない。貴族の目の前で聖剣を取り出したことが、卒倒ものだったのだ。

 しかし、ロイは周りなんて気にしない。
 数秒をかけて、ロイはエクスカリバーの切っ先をアリエルに向けた。

「悪いですけど! 最後、っていうのが具体的にいつなのかまでは決めていなかったので、ボクはボクの恋人を! 今ここで――ッッ、取り返させていただきます!」

 壇上にいるアリスの胸が高鳴る。そしてトキメク。

 なんだ、そうか――。
 まだ自分たちは、偽物といえど、恋人同士だったのか。
 関係が切れていなかったのか。繋がっていたのか。

 アリスの目尻に雫が溜まる。だが、それは先刻のように、全てを諦観したがゆえの涙ではない。

 救われた。
 アリスの涙は、感極まったがゆえの涙だ。
 その目尻に浮かぶ雫は、まるで宝石のようである。

「そういうこった、エルフ・ル・ドーラ侯爵。俺はもちろん、このロイだって、侯爵が思っている以上に、バカで、どうしようもなくクソガキで、そしてバカでクソガキだからこそ、諦めが悪ィんだ」

「――――」

「大人に、逆らえる意地があるんだ」

 言うと、レナードも自身の聖剣であるアスカロンを顕現させる。

 ざわめく参列者たち。加えて、カールは自分の晴れの結婚式が台無しになってしまい、右に左に狼狽うろたえるし、司会進行役の神父も、生まれて初めての事態に額に汗を垂らす。

 だがそんなものは知ったことではない。
 レナードもロイに並ぶように一歩前に出て、アスカロンの切っ先をアリエルに向けた。
 そして2人は、特に打ち合わせもしていないのにも関わらず、声を重ねて――、



「「エルフ・ル・ドーラ侯爵! 貴公に、再度、決闘を申し込む!」」



コメント

  • ノベルバユーザー359879

    とりはだたったやん

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