ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
1章3話 人気がない学舎の裏で、手紙を――(1)
翌日、トパーズの月、22日、金曜日。
ロイは昼休みにアリスを人気のない3号館の裏手に呼び出した。
シーリーンには「例のアリスのことを、ちょっと」と説明しており、イヴとマリアの足止めを任せている。
幸い、建物の裏側といっても学院の敷地内なので、整備されていないということはない。
ベンチがあったので、ロイはそこにアリスを座らせて、自分も座り、責任を持って昨夜、アリシアがしたためた手紙を手渡す。
「読み終わったわ」
一読すると、アリスはアリシアからの手紙を便箋の中に戻す。
そして「ふぅ……」と、溜め息を吐いた。
「ロイは、お姉様と会ったのね」
「うん」
それはロイがアリシアからの手紙を手渡す、という方法を選んだ時点で、誤魔化しようがないことだ。
ゆえに、ロイは変にウソを吐いたりはしない。
だが逆に、ロイの語る真実によって、アリスは少しだけ俯いた。
「お姉様、なんで私に会いにきてくれないのか、なにか言っていたかしら?」
「ボクが受けた説明だと、確かに、アリシアさんにはアリスになかなか会えない理由があるらしい。ボクにこの手紙を託したのは、言い方は少しアレだけど、どうしても説明できないから、だって」
「ロイは理由、聞いたの?」
「教えられていないよ。ボクに教えちゃったら、アリシアさん曰く、アリスが意地でも吐き出させようとするから、とのこと」
「どうしても、私からの追及を躱すつもりなのね」
チクリ、と、ロイの心に罪悪感のトゲの先が刺さる。
ウソだ。ロイはアリシアから理由を少しだけ聞いている。幼女の姿になった理由は知らないが、幼女の姿になったことが会えない理由であることは知っているのだ。
このウソは、昨夜の段階でアリシアと一緒に考えて、両者、得心はいっていないが、これで妥協した。
この状況で腑に落ちるウソなんて、存在するはずがない。
「アリス、1つ、聞いてほしいことがある」
「ん?」
「ボクはアリスが望むなら、シィと一緒に、って条件が付くけど、キミと駆け落ちすることだって厭わない」
「~~~~っ」
アリスは、エルフ特有の透明感のある白い肌、頬に、乙女色を差した。
仲のいい異性の友達から、急に、駆け落ちすることを提案されたのだ。アリスでなくとも、思春期の乙女なら、頬を赤らめること必至だろう。
しかし、いくらなんでもロイの提案は、アリスだけではなく、ロイ自身にとってもとんでもない。
グーテランドでは、駆け落ちがありえないというわけではない。少なくはあるが、確かに存在する愛の形だ。しかし逆を言えば、確かに存在することはするが、かなり少ない。本当に珍しいのだ。
しかもロイとアリスはまだ学生である。働ける年齢とはいえ、2人は学院に送り出した親を、そしてロイの場合、エルヴィスさえも裏切る形になる。
だが、それでもロイは強く想う。
不本意な離別なんて、死んでもゴメンだ、と。
そして、いくらかの時が流れた。
「私は……別にいいわ」
「アリス……っ」
「ロイの提案は、友達としても、そして少しだけ、女の子としても嬉しかった。正直、胸がドキドキした」
「なら」
「でも、ロイにそこまで迷惑はかけられない」
ロイは『とあること』を察して、一瞬で後悔した。
即ち(そういうことか……っ。アリスは周囲の人間が手を差し伸べるほど、逆に諦めていくんだ! 本人は無自覚だろうけど、助けようとすると、自分の努力不足を痛感して、実力不足のせいだと思い込んでしまって、逆効果なんだ……ッッ)と。
昨夜もアリシアが言っていた――「努力を重ねているのにお父様との約束を守れない自分に、情けなさを感じている可能性もあります」「きっとアリスは結婚することになったら、最終的に、自分の努力不足を責めるでしょう。もう充分に努力しているのに。アリスはなにも、悪くないのに。そして、自分がダメだからこうなった、と、いつかは間違いなく結婚した事実を受け入れます」「これで私がいなければよかったのですが、私がいた分、アリスは実際に約束を守った実例が身近にいるのに、私にはできなかった、と、なおさら、より強く、事実を受け入れてしまう。諦めが付いてしまう」――ということを。
嗚呼。
一言ですませるなら、アリスは、内罰的な女の子なのである。
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