喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

before 05

 桜花と知り合ったのは中学校に入学してからだ。 私と桜花の両親が知り合いで、両親の話から存在は知っていたけど、諸々の事情で会う事はなかった。中学に上がる頃に私がこちらに越してきてあいつと同じ中学校に入学した。何かしらの馬が合い、私と桜花は直ぐに打ち解け家族ぐるみでも出掛ける事もあった。 そう、あの時も、私とあいつの家族と一緒に出掛けたんだ……。
 桜花とは、あの一件以来関係がギクシャクしてしまった。 私が悪い。それは自分が一番分かっていた。 だから、私はあいつに謝った。見舞いに訪れる度に。 その都度、桜花は「お前の所為じゃない」「悪いのは俺だ」と言った。それが余計に申し訳なく、そして私の心を抉って行った。
 桜花が退院してからも、私はあいつの事を気に掛けたし、あいつが躓いたり息を切らしたりする度に謝った。 私が謝る度に、気に掛ける度にあいつは顔をほんの少しだけ陰らせ、態度には示さなかったが煩わしそうにしてた。 あぁ、私の所為であいつを困らせている。 そうとは分かっている。けど、謝らずにはいられなかった。
 時が経つにつれ、私があいつに謝る頻度は減って行ったが、その分より一層気に掛けるようになっていった。あいつはその都度、やはり陰を落として煩わしそうにしてしまっていた。 前までは一緒に遊んだり、はしゃいだりしていたのに段々と距離が開いて行ってしまった。そうして中学を卒業して、互いの志望校へと進んで行った。 幸いなのは、完全に関係が断たれてはいないという事。直接会う事は無くなったけどメールでのやり取りは続いている。
「…………はぁ」
 私はメールを送信し終えて、溜息を吐く。 内容は他愛ない近況の報告や、あいつは今どんな感じか尋ねたもの。だけど、やっぱり最後の方にあいつを困らせてしまう。文を書いてしまった。
「…………あぁ、もう」
 あいつへの罪悪感と、そして自分への嫌悪感が募っていく。 言いようのないイライラが胸に溜まっていく。
「…………」
 私は無言のままDGを手に取り、被って起動し『Summoner&Tamer Online』の世界へと旅立つ。 運よく手に入れたこのゲームの世界で私は楽しむと言うよりもイライラを発散させる為にモンスターと戦っている。
 得物は持たずに、己の体一つでモンスターを片っ端から狩っていく。 魔法も使わずに、殴って蹴って、投げて絞めて。傍から見れば野蛮と言えるようなスタイルで突き進んで行っている。 殴って倒して、蹴って倒して、投げて倒して、絞めて倒して。そうしてレベルも上げて、ステータスも上げて、まだ倒していく。その繰り返し。
 少し前までならずっとそうやって行ってたけど、今は少し変化している。 ずっとソロでモンスターを狩っていた私は、つい最近パーティーを組んだ。 相手は以前にGMからペナルティを喰らって未だに召喚獣を喚べないプレイヤーだ。 話を聞くに、それは自業自得の事だし、本人もきちんとそれを自覚して反省している。ペナルティを喰らう前は猪突猛進で周りが見えていなかったそうだ。 それは言い訳にしかならないけど、私からすればそうだったのか? と思う程に慎重だ。 いや、慎重と言うよりは一歩も二歩も引いている感じか。余程ペナルティを喰らって、自分のしてきた事を顧みて相当きたのだろう。
 何歩も引いているけど、今までに迷惑を掛けたプレイヤーを見付けては駆け寄り、頭を下げ、誠心誠意謝っていた。それで許してくれる者もいたが、二度と近付くなと言うプレイヤーもいた。 その謝る姿を見て、何処となく……自分と重なって見えた。 何となく放って置けなくて、私から話し掛けた。 そうして話していく内に段々と打ち解け、パーティーを組むにまで至った。
「……明日はイベントだな」「……そうだね」
 気分を晴らす為のモンスター狩りも終え、それに付き合わせてしまった相棒――リリィと共にシンセの街へと戻ってきた。 使わないドロップアイテムを換金し終えて、私はリリィへと語り掛ける。
「運よく会えればいいが、だからと言って無理に会おうとはするなよ?」「……うん」「一番迷惑を掛けた相手だから、きちんと謝罪したいってのも分かる。でも、それで余計に迷惑を掛けてしまう場合もあるんだ」「……うん」「その件を思い出したくないかもしれない。そして……まぁ、はっきり言ってしまうが二度と顔を見たくないかもしれない。そう言う人もいる事も、リリィはもう分かってるだろう?」「…………うん」
 私が言う度に、リリィはどんどんと肩を落とし、表情を暗くしていく。
「……すまんな、私もリリィの事を言えた義理じゃないのにな」「そんな事……」
 否定をしてくれようとしたのだろう。けど、私が首を振ったのを見てリリィは口を閉じる。
「まぁ、何だ。私もついているんだ。もし明日そんな偶然があれば私が緩衝材となるさ」「……ありがとう、そしてごめん、ナナセ」「気にすんな」
 暫く気まずい沈黙が支配する。自分で振ってしまった話でこうなってしまったのだ。どうにかしてこの空気をどうにかしないと。
「そうだ、今日手に入れた素材で丁度私のグローブ強化出来るんじゃないか?」「……あ、うん。そうだね。出来るよ」「なら、それ頼まれてくれないか? 装飾とかはリリィに任せるさ。私はリリィのデザイン好きだし」「……うんっ」
 そう言って、リリィは笑みを浮かべ、工房へと小走りで向かい、立ち止まって私を待つ。私はリリィの後を追うように駆け出し、リリィも再び走り出す。 工房へと赴けば、せっせと装備品を笑みを浮かべながら作るんだろう。リリィはそう言った作業が好きで、実際に腕がよく、依頼もあった。それが原因でペナルティを喰らってしまったので、今は依頼は受けていない。……そもそも、依頼をしようとする人もほぼ皆無になってしまっているが。
 それでも、リリィは誰かのものを作るのが好きで、今は私の装備を作るを率先して自身は二の次にしてしまっている。 自分の装備もきちんと整えろと注意した事もあったけど、リリィは「自分の作った装備を身に着けて、喜んでくれるのが一番」と言っていた。
 そう言っていたリリィの笑顔は何処か眩しくて……寂しげだった。 後悔しているんだろう。やり直したいと思っているんだろう。 けど、やり直す事は決して出来ない。過去に戻る事は出来ない。 あの時ああしなければよかった。あの時こうしてればよかった。 そう言った念が頭を離れないんだろう。いくら思っても過ぎ去った出来事は変えようがない。
 リリィの仕出かしてしまった事も。そして、私が仕出かしてしまった事も。 私達が出来る事は、もう二度と同じ過ちを繰り返さない事。 それだけ、なんだから。

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