喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

167

 イベントが始まってからまだ一分と経っていない。 なのに、俺はこれからの事を考えるとかなり面倒だなと思い、そしてどっと疲れている。 事の発端はリースが俺達を見付け、大きな声で呼びかけて来た事だ。 それによって変態コート女が俺達の存在に気付いてしまったのだ。 変態コート女はサクラとアケビに謝罪したいと言っていたが、俺としては会わせる気はない。変態コート女の姿を見たらサクラがまた恐怖に囚われてしまう危険があったのでな。
 リースを無視してでも、さっさとこの場から離れてしまおう。そう思って踵を返そうとした瞬間に、目にも止まらぬ速さで変態コート女が俺達の所へと駆け出してきて無言で土下座をかまして来たのだ。
「…………」「あ、その、えっと……」
 サクラは前回の恐怖が甦って来たのか奴が近付いてきた瞬間に俺の後ろに隠れたのだが、いきなり土下座をかまされてどうすればいいのか分からずに顔を青褪めさせながらも少しあたふたしている。 アケビとあの時の事を知っている面々は警戒を解かず、ファフィーに至っては完全に威嚇をしている。 変態コート女と面識がない面々はいきなり土下座をした奴に対して疑問符を浮かべたり、警戒している俺達の様子を見て、決していい奴ではないと感じたのか変態コート女から距離を取りつつサクラを守るように囲んでいる。
 このような予測不能な出来事に、周りのプレイヤー達は変態コート女を見ながら、少し離れた所でひそひそと小声で何やら話している。 俺達の周りにいるプレイヤー同士の会話を盗み聞きした結果、迷惑を掛けたプレイヤーには誠心誠意謝罪をして回った事が分かった。 で、現在ではあの時のような変態行動はなくなり、一歩引いた感じの接し方を心がけているそうだ。 だが、それで今までの行いが全て帳消しされる訳ではない。許して関係をまた一から築いたプレイヤーもいるが、無論奴を完全な厄介者として扱い、近寄りたくない者も存在するらしい。まぁ、当然だな。 そんな変態コート女だが。まさかパーティーを組んだらしい。組んでいるプレイヤーは一人だけだが、それでも驚きだ。話によると、どうやら改心……と言っていいのかあれだが、罰を受けた後……それもほんの数日前にパーティーを組んだそうだ。 こんな奴とパーティーを組む奴は一体どんな猛者なのか?
 因みに、声を掛けてきたリースとトルドラゴやフートル、ペガサスは空気を読んでか無言で事の成り行きを見守っている。 いや、見守るくらいならこいつをどこか遠くに連れて行ってほしいんだが。
「お、いたいた。おい、リリィ」
 そう思っていると、少し遠くからリリィ…………確か変態コート女の名前だったか? を呼ぶプレイヤーが歩いてやってくる。
「いきなり駆け出したかと思えば、土下座をしてるって、これってどういう状況……」
 歩いてやってきたプレイヤーは無言で土下座している変態コート女を見て疑問符を浮かべ、次いで土下座している先の俺達を見て、口を閉ざした。
 そのプレイヤーは半ズボンと長袖のジャージに設定していて、若干ほっそりとした日焼け伸していない白い足が垣間見える。 顔立ちはやや童顔。だが身長は俺よりも五センチ程高い。髪の毛はばっさりと切られたベリーショート。 また髪の色は黒で瞳の色は茶色と完全な日本人然としている。また、その外観からして男と思われるが、そうじゃない。女だ。 何故女と分かるのかと言えば、俺はこいつとは知り合いだからだ。
「…………桜花?」
 そいつは――七瀬颯希は俺の顔を見て眼をパチクリさせ驚きの顔を浮かべる。 まさか、颯希もSTOをしているとは思わなかったな。 と言うか、接し方からして、恐らく変態コート女とパーティー組んでいるプレイヤーは颯希なんだろう。 これは、何とも変な偶然だな。

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