喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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 俺とアケビは変態コート女の姿を見ると直ぐ様アイコンタクトを取り、Uターンを繰り出す。「あれ? どうし……ちょっとファフィー前見えないよ!」 ファフィーはサクラの顔に張りついて、決してあの野郎をサクラの視界に収める事のないように絶対防御を施す。ナイスだ、ファフィー。 サクラの傍まで来た俺とアケビは左右から彼女の腕を掴み、一目散にその場から逃げ出す。幸い、アブソリュードールと相手する際は透明な壁が出現しないから離脱可能だ。 そして、向こうは俺達に気付いていなかったから問題ないな。 ある程度移動すると、ファフィーはサクラの顔面から離れる。「ぷはっ。一体どうしたのファフィー? それにオウカさんとアケビさんもどうして僕を連れて離れたんですか?」「ちょっとな」 当然、折角現れた中ボスから離れた事に対して疑問が浮かぶだろう。眉間にやや皺をよせるサクラは俺達に問い掛けてくる。さて、どう言えばいいか。「丁度、偶然、運命の悪戯で他のプレイヤーと同時に見付けたって事になって、引いた」 と、アケビが即行で答えた。無論、嘘はついていないが、その他のプレイヤーが変態コート女だった事は伏せている。「知り合いじゃないし、下手すると倒した時の取得経験値とかドロップアイテムとかで揉め事になりそうだったから」「成程。そうでしたか」 全く嘘を言っていないアケビの言葉に、サクラは頷いて納得する。 尤も、引いた理由は経験値やアイテムに関する揉め事よりも一刻も早く変態コート女の近くから離れたかったなのだが、これは絶対に言わない。 それから更にアブソリュードールを求めて彷徨ったが、出会う事はなかった。 で、時間的にサクラはそろそろログアウトしなければならないという事になり、自然と解散の運びとなった。 俺達はその場でログアウトし、現実世界へと戻る。 DGを外してベッドに置いた俺は、枕の横に置かれているタブフォを手繰り寄せる。「……取り敢えず、メール送っておくか」 俺はタブフォを操作してメールを作成し始める。 メールの内容は他のプレイヤーとの鉢合わせについてだ。 今回のように、中ボスを追っていると他のプレイヤーと鉢合わせてしまう場合がある。そうすると経験値とか素材とか、その他諸々を巡ってトラブルに発展する可能性がある。 無論、こういったオープンフィールド? と言う奴ではちょっと苦戦しているプレイヤーの手助けをすると言うのも勿論ありだと思う。事実、サモレンジャーってそんな感じな事やってるし。その御蔭で俺は二回死に戻りを免れている。 が、そう言うのは流石に中ボスとかボス以外のモンスターとの戦闘だけにした方がいいだろうな。 一応、中ボスやボスは周りを透明な壁が囲うからその心配はないように思えるが、全部じゃない。 少なくとも、雪原のアブソリュードールとキリリ山の巨大髑髏はその仕様じゃない。誰も彼も乱入可能となっている。 中ボスとボス相手の一部でそれが可能となっている今、まだ鉢合わせた事はないが。漁夫の利とか楽してアイテムや経験値を手に入れようとする行為を悪びれもせず平然とやるプレイヤーもいるだろう。 だから、流石に中ボスとかボス相手ではパーティーを組んでいるプレイヤー以外とは鉢合わせしないようなシステムにした方がいいだろうな。 と言う訳で、開発運営――と言うよりも姉貴にメール送る事にした。「送信、と」 文章を打ち終え、俺は姉貴へとメールを送る。「っと、もう来たか」 メールを送って一分も経たないうちに姉貴から返信があった。
『了解』
 たった二文字だけだったが。 そして、姉貴にメールを送った次の日にはアップデートに関するお知らせが公式サイトに乗っていた。あと、STO開始時に開発運営からその旨のメッセージが届いていた。 アップデート内容は不具合の調整となっていた。アップデートは深夜0時から二時までのほんの二時間で終わるらしい。 で、このアップデートが終わってから雪原に行ってアブソリュードールを倒そうという事になり、この日は昨日手に入れたドロップアイテムで新たな武具を作る事となった。 二人が作り、ファフィーがそれを手伝っている間に俺は皆と遊んで過ごした。 ゲームを終えて現実世界に戻ってくれば、姉貴からメールが届いていた。 内容は、昨日俺が送ったような要望が他のプレイヤーからも結構届いていたので早急に対応した、との事。 実は前回や前々回のアップデートで対策をした……筈だったのだが、他の追加要素やそれによる不具合諸々と合わさって反映されなくなったらしい。 今回こそはそのような事がないように十全にシステムの調整を行った、との事。 あと、姉貴からのメールには他の文面も打たれていた。
『今度のイベントには参加するのか?』
 俺はその問いに対して『参加するよ』とメールを打って姉貴に返信する。 イベントと言うのはゴールデンウィークに行われるSTOの二回目のイベントを指している。 前回のようにVRアクセラレーターを使って一時間を一日にまで引き伸ばし、やはり安全面を考慮して現実世界で三時間。それを現実世界で二日間に分けて行われる。 合計で六時間。VR世界で六日間の催しとなる。 内容はまさかの運動会。場所はクルル平原の一角で、紅組と白組、それに青組と黒組の計四組に別れて行われるそうだ。 六日の内、練習日に当てられるのが四日。本番が二日だそうだ。その四日の内に何が何でも勝てるように他のプレイヤーとのコンビネーションを高めたり、己の力量を上げねばならない。 組み分けは事前に知る事が出来ず、前日に運営からのメッセージで知らされる事になるそうだ。また、この組み分けはパーティーを組んでいれば必ず同じ組になる。 運動会はプレイヤー部門、召喚獣部門、パートナーモンスター部門、そしてプレイヤー、パートナー、召喚獣が一緒になって行う合同部門に分かれるそうだ。 勝てばポイントが入り、より多くのポイントを獲得した組の勝利となり、上位二組が賞品を手に入れる事が出来る。 今回の賞品は何個かピックアップされているうちのどれか二つを一位が、一つを二位が選んで手に入れる事になっており、また負けても残念賞でアイテムが貰え、参加すれば参加賞が貰える。 因みに、参加賞は【生命薬】が三個と【生命上薬】が一個、それにマナタブレットが一個だ。これらは当日ログインすると貰える事になっている。 他にも賞品や残念賞もサイトで分かるようになっている。残念賞は【生命上薬】が五個だった。【生命上薬】は結構値段が高く、【中級調合】で漸く調合出来るようになるので、ただで五個も貰えるのなら負けても損はしないだろう。 今回は特に欲しいアイテムが賞品にあった訳ではないが、折角なので参加しようという事になり、PLである俺がパーティーの参加申請を行った。 まぁ、勝負事に参加するので、本気で勝ちを取りに行くがな。「おっと、返信か」 先程送ったメールに対して、十秒も待たずに姉貴から返信が来る。 姉貴から来たメールを見て、やや呆けたように口が開く。
『今回は私も一プレイヤーとして参加する。 同じ組なら宜しく頼む。 違う組なら叩き伏せる。        』
 ……そうか。姉貴も今回は参加するのか。 俺はそっとタブフォを勉強机に置き、天井を仰いで軽く息を吐く。 もし、姉貴と同じ組になればそれはもう頼もしいだろう。百人力と言っても過言ではない。 そして、違う組ならばもっとも注意しなければならない相手として立ち塞がるだろう。正直、俺は姉貴に勝てるヴィジョンが浮かばない。 はてさて、俺は姉貴と同じ組になるのかならないのか。 どちらに転んでも、まぁ、楽しい事に変わりはないか。

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