喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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「ギュゥゥゥゥ‼」 魔法陣から光線が放たれる。 避ける事が出来ず、俺達は直撃を貰ってしまう。「っ」「きゃっ!」「うっ」「ったぁ……」 生命力は一割弱削られる。床を貫通したからもっと威力が高いと思ったけど、そうでもなかったな。それでも、立て続けに喰らえば洒落にならない。 あの光線は魔法陣が現れた瞬間に射線上から退けないと回避出来ない。それくらいに速度が桁違いだ。流石は音よりも速い光、か。「ギュゥゥゥゥ‼」「れにー!」 また魔法を放とうとするカーバンクル。それを阻止するべくフレニアが突進していく。どうしてだか、フレニアとドリットには光線が行かなかった。もしかしたら、同時に発動出来る魔法は四つまでなのかもしれない。 怪盗はこの場にいない。まずは【破魔の朱水晶】を壊す為に一階にいる。そして壊した後は一階の展示品を元の位置に戻す作業をこなす手筈となっている。ただ、砕けた物もあるのでそこら辺はどうするのだろうか? 別の物で代用するとかか? そして、今ここにいないスビティーは怪盗と一緒に行動して貰っている。【初級風魔法】の補助【ウィンドアクト】で怪盗の動きを素早くし、かつ自身も【破魔の朱水晶】を壊すサポート要員として俺が頼んだ。 カーバンクルは詠唱を中断して身を屈める。丁度フレニアが真上に来た所で頭突きを繰り出す。「れにっ」「ギュゥゥゥゥ!」 フレニアが怯んだ隙に、カーバンクルは跳び上がり、両前脚の爪で切り裂く。爪の軌道は白く描かれ、#の傷をフレニアに刻む。こういったエフェクトが出るって事は、スキルアーツか?怪盗の切り傷はこれによるものかもしれない。「ギュゥゥ!」「キィ!」 更なる追い打ちをかまそうとしていた所に、ドリットが音波を放って妨害する。 あの音波はスタン効果のある奴なのか、はたまた普通の攻撃なのかこちらからは判別は出来ない。けど、多分スタン効果のある奴だろうな。 今回は倒すのではなく、怪盗が魔法陣を修復する為の時間稼ぎと搖動が目的だ。なので、少しでも時間を引き延ばせるスタンは有効打になる。「ギュゥ‼」 しかし、ドリットの放った音波は突如現れた光の壁に跳ね返されてしまう。ドリットは慌てて跳ね返ってきた音波を避ける。 光の壁が出現する時に魔方陣がカーバンクルの下に見えたから、あれも光魔法か。攻撃を防ぐだけじゃなく反射もしてしまうのか。厄介だな。 攻撃しても、光の壁に反射され、こちらには避けるのが難しい光線を放ってくる。幸いなのは、今の所状態異常になる攻撃をしてこないこ事、か。ただ、光魔法を使ってくるから、少なくとも【フラッシュハインドランス】は使ってくると想定しておかないといけない。 暴走しているカーバンクルは、こうも強敵へと変貌するのかよ。 そんな相手だけど、俺は攻撃を躊躇う。俺だけじゃなく、全員が躊躇っている。さっきのフレニアの突進もあくまで魔法の妨害の為だけで、見るからに威力はあまり無さそうだった。 カーバンクルは暴走しているだけ。しかも、自分の意思とは関係なく無理矢理召喚されて、だ。被害者は完全にカーバンクルなだけに、傷付ける事はしたくない。「ギュゥ……ギュゥゥ‼」 カーバンクルは息を大きく吸い込むと、勢いよく吹いてブレス攻撃をしてくる。「木よ、我が言葉により形を成し、寄り合わされっ。【カバーツリー】」 ブレス攻撃にはあんまりいい思い出が無かったので、咄嗟に【カバーツリー】をサクラに使ってブレス攻撃から守る。フレニアとドリットは飛んで回避し、俺とアケビ、ツバキは射程範囲から一気に跳び退く。 ブレスはキラキラと煌めいており、傍から見れば幻想的で綺麗な物だが効果が未知数の為、受ける訳にはいかない。【カバーツリー】が壊れなかった所を見ると、攻撃力の無い状態異常オンリーの技か。「ギュゥゥゥゥ‼」 で、着地した瞬間に光線が放たれ、胸を貫かれる。避けにくい攻撃ってのは厄介だよな。どうにかして封じないと。「ギュ、ギュゥ……」 光線を撃ち終えたカーバンクルは突如体勢を崩し、地面に倒れてしまう。「ギュゥゥゥゥゥゥゥゥ‼⁉」 だが、それも僅かな間だけ。カーバンクルは操り人形のように立ち上がり、悲痛な声とともにブレスを吹いてくる。 確実に、無理をしてる。倒れても立ち上がり、よろめいても構わずに動き続けて負担は増していく。暴走した状態で力を使い果たしてしまうと、召喚獣の存在が消えてしまうと怪盗は言っていた。「ギュゥ……ギュゥ……」 息も荒くなり、四肢に込める力も弱くなって震えてしまっている。正直、見ていられない。これ以上こいつに負担は掛けさせたくない。「光よ、我が言葉により形を成し、視界を眩ませ。【フラッシュハインドランス】」「木よ、我が言葉により形を成し、寄り合わされ。【カバーツリー】」「水よ、我が言葉により形を成し、彼の者を癒せ! 【キュアドロップ】!」 アケビ、俺、サクラはほぼ同時に魔法を発動させる。 アケビの放った【フラッシュハインドランス】により、カーバンクルはほんの僅かに目を細め、視線をアケビに向ける。意識がアケビに向かっている間に俺の発動させた【カバーツリー】がカーバンクルを覆い隠し、一時的に身動きを封じ視界を遮断する。 そして、サクラが発動させた【初級水魔法】の補助魔法【キュアドロップ】の雫がカーバンクルの真上に垂れる。水魔法の補助効果は回復。その中でも【キュアドロップ】は生命力を回復させる。回復は【生命薬】よりも低い10%だが、回復アイテムの個数制限が課せられているSTOでは貴重な回復手段となる。「キィ!」 俺が【カバーツリー】を発動した意図を組んでくれたドリットは、視界が塞がれ身動きが取れないカーバンクルへと音波を放つ。音波は木の根を突き抜け、カーバンクルへと到達する。これでカーバンクルはスタン状態になった筈で、ある程度は時間を稼ぎ、かつカーバンクルへの負担も減らす事が出来た。「ついでにこれもっと」 ツバキも【生命薬】をカーバンクルに使用する。これでカーバンクルには幾分か生命力が戻った筈だ。 これで、力を使い果たすと言う最悪の事態は一時的に回避出来た。「…………」 根本的な解決にはなってないけど、今の俺達に出来る事は少しでも時間を稼ぐ事だけだ。 怪盗、早く一階での仕事を終えてこっちの方に来てくれ。「ギュゥ!」 音波のスタン効果も終了したらしく、カーバンクルは【カバーツリー】を破って出て来る。それと同時に魔方陣が四つ出現し俺、ドリット、アケビ、フレニアへと光線が放たれる。「くっ」「キィ!」「いつっ」「れにー!」 こちらの【カバーツリー】を利用し、不意を撃つ形で放たれた魔法は俺達を貫く。「ギュゥゥゥゥウウウウウウウウ‼」 そして、また魔法陣を四つ展開し、光線を放つ。四つの魔法陣は全て、ドリットに向けられていた。「危ねっ」 俺は魔法陣が描かれた瞬間にドリットの首根っこを掴み、引き寄せる。光線四本は対象に当たらずに床を貫く。「キィ」 ドリットは俺に頭を下げると、カーバンクルに向けて音波を放つ。しかし、やはりあの光の壁に反射されてしまう。俺とドリットは横に移動して回避する。「びーっ!」「すまないっ! 待たせた!」 と、ここでスビティーと怪盗が二階へとやってきた。【破魔の朱水晶】も壊して、展示品の設置も終えた。残るはここの展示品だけだ。「ギュゥゥゥゥウウウウ!」 カーバンクルは階下から昇って来た怪盗とスビティーに向けて魔法陣を展開し、二本ずつ光線を放っていく。「れにーっ!」「びーっ!」 魔法陣が展開されて直ぐに、フレニアはスビティーの方へと向かい、射線から逸れるように押す。その御蔭でスビティーに怪我はない。 怪盗の方はと言うと。「すまない。助かった」「気にすんなって」 フレニアとほぼ同時に動いたツバキが引き寄せて事なきを得た。「では、僕は早速展示品を元に戻す! 君達はもう少しだけ時間を稼いで欲しい」 怪盗はカーバンクルを見据え、距離を取るように端へと向かう。端から順には位置を直していくのかと思ったが、どうやら違うらしい。端へ行くと、怪盗は片膝を付き、右手で床を叩きつけ呟き始める。 すると、そこを起点として床に明滅する光の線が描かれていく。まず展示物を囲うように円を描き、そこから内側に向かって幾何学模様を描いていく。「ギュゥゥ!」「れにーっ!」「びーっ!」 カーバンクルは標的を怪盗に絞り、魔法陣を展開しようとするもフレニアとスビティーの二匹が妨害に掛かる。 カーバンクルは矛先を二匹に変え、光線を発射する。魔法陣が描かれた段階で射線上から避けたスビティーへと向かって、カーバンクルは跳び掛かっていく。スビティーは自身に【ウィンドアクト】を掛けて敏捷を上げ、回避する。 そして、フレニアがカーバンクルに牽制に炎を吹き、スビティーへこれ以上の接近を許さない。 今、カーバンクルはスビティーとフレニアの二匹に注意が向いている。その隙を突き、ドリットが音波を放ち、カーバンクルを再びスタン状態にする。「木よ、我が言葉により形を成し、寄り合わされ。【カバーツリー】」「水よ、我が言葉により形を成し、彼の者を癒せっ。【キュアドロップ】」 動けなくなったうちに俺はまた【カバーツリー】で閉じ込め、サクラが【キュアドロップ】でカーバンクルの生命力を回復する。これである程度時間は稼げる。 その間にも、怪盗は床に光で幾何学模様を描いていく。円の中心までびっしりと描き終えると、輝きが変わる。明滅していた光が薄暗くなり、じんわりと浮かび上がっていく。浮かび上がった光の形は、魔法を発動する際に現れる魔法陣に酷似している。「ギュゥゥゥゥウウウウ!」 と、ここでスタンから解放されたカーバンクルが飛び出し、魔法陣を目の前に四つ展開する。狙いは怪盗だ。 俺は直ぐに怪盗の前へと躍り出て自身の目の前に【カバーツリー】を発動させる。防御として使える程の強度はないが、少しでも威力を減衰出来れば儲けものだ。「っ」 俺の身体を【カバーツリー】を撃ち抜いた四つの光線が貫くが、怪盗へは届かない。「あるべき場所に立ち戻れっ!」 怪盗の号令を合図に、魔法陣の光が強くなる。すると、展示品が独りでに動き始める。破損していたものは修復され、倒れていたものは起き上がり、元々の配置へと戻っていく。 展示品が全て元の位置へと戻ると、各々の展示品が一瞬だけ光り輝く。「ギュ……ギュゥウぅぅ……」 すると、カーバンクルは動きを止めその場に倒れ込む。毛並みがどんどんよくなり、額の珠の濁りも消え、以前ローズが召喚した時と同じ姿へと変わっていく。「…………きゅぅぅ……」 完全に姿が戻ると、カーバンクルは瞳を閉じ、光となって消える。後には【カーバンクルの宝珠】が残された。「……はぁ、はぁ、よかった」 怪盗は肩で息をしながら立ち上がると、【カーバンクルの宝珠】へと近寄り拾い上げる。「ありがとう君達の御蔭で、カーバンクルは消滅しないで済んだ」 怪盗は俺達に頭を下げる。 そうか、カーバンクルは無事、か。「よ、よかった……」 サクラは涙目になりながら安堵する。「びーっ」「れにーっ」「キィっ」 スビティー、フレニア、ドリットの三匹は互いにハイタッチをして喜んでいる。って、何時の間に二匹はそこまでドリットと仲良くなった? 前回のクエストだとばりばり戦ってたんだけど。昨日の敵は今日の友、的な感じか?「にしても、誰が【破魔の朱水晶】なんて物騒なものを持ち込みやがったんだ?」「許せない」 ツバキとアケビは眉間に皺をよせ、今回の件を引き起こした奴に怒りを向けている。確か、怪盗曰く第三者だったか? 名前までは言ってないから、どんな奴か分からないが碌な奴じゃないって事だけは分かる。「あ、あぁ。それは」「俺だよ」 怪盗の言葉を遮る声が上の方から聞こえた。見上げれば、シャンデリアの所に人影が見える。「俺が、カーバンクルをわざと暴走させたんだよ」 そいつはシャンデリアから飛び降りて、俺達の目の前に着地する。「その方が、こっちとしても都合がいいからな」 姿を見て、思わず目を瞬かせてしまう。 降りてきたのは、怪盗だった。 息も絶え絶えで【カーバンクルの宝珠】を持つ怪盗と、口元を醜悪に歪ませる怪盗。 今、この場に怪盗ドッペンが二人存在している。

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