喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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 ゴダイ達と互いに自分は何が出来るかを伝え合い、そこらのモンスター相手に連携を取ってみた……が、如何せん互いのレベルが40を超えているのでそこらの敵ではそこまで苦も無く倒す事が出来てしまった。 その要因には、ゴダイ達の持つ大型武器の威力も勿論ある。俺達も武器を持ってモンスターと戦うが、サクラはほぼ護身用に近い杖、アケビは扱いやすいが威力は控えめな短剣、俺は包丁とフライパンの二刀流。軽量で小型な武器では大ダメージはあまり見込めない。 ゴダイ達の大型武器はその大きさと重さ故に敏捷を削られるがその分一撃の威力がこちらよりも断然高い。なので、ゴダイ達の攻撃が当たってしまえばここらのモンスターでは致命傷もしくは瞬殺となる。 なので、先程ゴダイ達は倒したばかりだが大きさ的にフォレストワイアームに近いアングールを探して、そいつで連携をしてみる事にした。 少し危ない場面はあったものの、誰も丸呑みされて死に戻りせずにアングールを倒す事に成功。だいたいはどう動けばいいか分かったが、相手はアングールと違って空を飛ぶので、少しばかり連携の仕方を変える必要が出て来る。 まぁ、そこら辺は大丈夫だろう。多分。「にしてもよ、魔法が使えるだけでここまで簡単に倒せんのか」 アングールを倒し、フォレストワイアームが降り立つ場所へと行く道すがら、ゴダイがぽつりと呟く。「いや、単に魔法が使えるじゃなくて、属性によるのが大きいな。アングールの場合は炎属性の魔法か攻撃で妨害すればそっちの方に意識が向くらしいし」 アングールは強固な鱗で身を護っているので普通の武器柄はあまりいいダメージを与える事が出来ない。重量のある大型武器によるゴリ押しや、鱗の影響をあまり受けない魔法による攻撃が有効……と、イベントの時にツバキが言っていた。 そして、今回のアップデートでアングール系統のモンスターに一つばかり特徴的な行動が追加されたそうだ。それが、熱に反応する。攻撃アイテムである【火焔瓶】や炎属性の攻撃をするとそちらに気を向ける。 それを応用して、アングールが呑み込み攻撃をして来ようとする際にあらぬ方へと炎属性の魔法を放ったりすれば、狙い澄ましたプレイヤーにではなく熱を持った魔法や攻撃の方へと突撃して行く。 アップデート前は熱に反応する事無く、狙ったプレイヤーやパートナー、召喚獣へと真っ直ぐ向かって丸呑み。そして死に戻りだったそうだ。避けるにしてもアングールが素早く動くので敏捷寄りにしていないと厳しく、大型武器持ちではほぼ回避不可能だったそうだ。 この仕様変更によって、魔法を一切覚えず、大型武器を振り回す全身甲冑のゴダイ達はアングールを倒す事が出来たそうだ。 俺達はフレニアの吹く炎で誘ってちまちま攻撃して倒した。面白いぐらいに明後日の方向へと吹いた炎へと向かうアングールが可笑しかったが、危うくフレニアが丸呑みにされそうになった時は全員焦った。 初回アングール戦の一番の功労者はフレニアで、その日は拠点に戻ってフレニアにショートケーキを作ったな。皆で。サクラとアケビは今度は難とかスポンジケーキを仕上げる事が出来てほっと一息吐いていた。「炎属性で攻撃をある程度誘導出来れば、呑み込み攻撃を回避しやすくなったってのは、嬉しい仕様変更だよな。俺達も【火焔瓶】適当に投げてアングールの意識をこっちに向きにくくしながら戦えるようになったけど、武器持ちながらでもやれる魔法の方が利便性高いな」「その代わり、詠唱と精神力が必要になってくるけどな。あと、詠唱慣れてないと妨害されて詠唱途切れて最初からやり直しだぞ」 アイテムも魔法も一長一短だな。攻撃アイテムは使用モーションと使用個数があるし、魔法は詠唱と精神力が必要。「今ならショートカットウィンドウでアイテムすぐ取り出せるので、そちらの方が即効性があると思います」「まぁ、速さ的に言えばな。でもあれも慣れていないと戦闘中に直ぐに取り出せない」「魔法唱えるにしてもアイテム使うにしても、結局は慣れるのが必要って事かな」 アケビ、アサギリ、ツツジノも会話に混ざり、魔法について話がずれていく。「あと、魔法に関しても【詠唱省略】ってスキルが新しく追加されたから、今までよりも早く魔法撃てるんじゃない?」「そうですけど、私は持ってませんね。いやに消費SLが多いので」「あー、一度確認してみたが、あれは多いな」「【疾走】や【跳躍】と言った身体能力向上系のスキルと同等の消費量だったな」「SL80も消費するのはな」 ただ、それに見合った価値はあると思う。詠唱が短くなれば、攻撃や補助のタイミングが早くなって戦闘に有利になる。この【詠唱省略】によって魔法の詠唱で省略される部分は前半の『○よ、我が言葉により形を成し』の所らしい。 今の所、俺のパーティーでは誰も【詠唱省略】を習得していない。魔法が攻撃の主体となっているサクラは覚えておいた方がいいかもしれないな。 で、唯一俺達の会話に参加していないサクラだが、最後尾でパルミー、スビティー、フレニアと一緒にいる。肩にはゴダイのパートナーであるカギネズミが体を預けていて、サクラはカギネズミの顎裏を指先で撫でたりしてる。「ちゅー♪」「……れにー」 カギネズミは気持ちよさそうに目を細め、それを少し羨ましそうにフレニアが見ている。「あ、こっちおいで」 視線に気付いたサクラはフレニアを呼び寄せて頬を撫でる。フレニアはここを撫でて貰うのが気持ちいいらしく「れにー♪」と嬉しそうに鳴く。「みー」「びー」 そしてパルミーとスビティーも撫でて欲しいのかサクラの服を引っ張る。「ちょっと待っててね」 サクラはカギネズミとフレニアから手を離し、今度はパルミーとスビティーの頭を撫でる。「みー♪」「びー♪」 パルミーとスビティーに笑みが浮かび上がる。「微笑ましいな」「だな」「だね」「ですね」 一人と四匹の微笑ましいやり取りを見て、心が和む。「清涼剤だな、こりゃ」「心が洗われる。野郎だけだとまず見られない光景だ」「悲しくなるからわざわざ言わないでよ……」 男三人パーティーはそんな事を呟いている。 そして、目的の場所へと辿り着く。 ここから一歩でも踏み出せば中央で鎮座しているフォレストワイアームが動き出し、先頭が始まる。 メニューを開いてアイテム欄を確認し、回復アイテムの数量、そしてショートカットウィンドウにセッティング済みか確かめる。よし、大丈夫だ。「準備は?」「OK」「だ、大丈夫です」 アケビとサクラに確認を取り、その次にゴダイ達にも確認を取る。「そっちは」「大丈夫だ。問題ねぇ」「初戦だが、行動パターンは調べて来ているしな」「動画とかも見てたからね。動きには注意出来るよ」 三人もOK。パルミー達も気を引き締め、フォレストワイアームを凝視している。ただし、スビティーは今回戦えないからただ見ているだけになってしまうが、その分「びーっ!」とパルミー達にエールを送っていて、三匹は応えている。「じゃあ、改めてよろしくな」「おぅ」 俺はゴダイに軽く握った拳を向け、それにゴダイは同じように軽く握った拳を軽くぶつける。 さて、ではフォレストワイアームへとリベンジしようか。 皆が頷き合い、一斉にフォレストワイアームへと駆け出す。「…………あ」 ただ、俺だけはフォレストワイアームへと駆け出そうとして、直ぐに止まる。「……そう言えば」 一つ、こんな時になって思い出した事がある。まだ誰にも俺が新たに習得したスキルの事言ってなかった……。 もう皆は離れて行ってしまったし、言うタイミングは……ないかな。


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