喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

before 01

 以前、懸賞に当たってドリームギア――通称DGが家に送られてきた事がある。私が懸賞に応募したのではなく、六つ上の兄さんが送ったら運よく当たったからだ。 でも、そのDGが今私の目の前にある。 兄さん曰く「お前もやってみたら?」だそうだ。兄さんは自分の分は既に買って持っていたので、二つも使わないとの事。だったら、何故懸賞に応募した? そう聞いたら「当たったら儲けものだと思って」と返ってきた。確かに、儲けものだけど……それ以上は質問しなかった。 結局、兄さんから譲り受けたDGが私の目の前にあり、そしてその隣りには一つのゲームソフトがパッケージに入っている。『Summoner&Tamer Online』と言う、今日発売されたばかりのゲームだ。 これに関しては、自分で買ってきた。折角DGを貰ったんだから、遊ばないと勿体ない。兄さんが『Summoner&Tamer Online』を遊ぶと言っていたので、便乗して私もこれで遊ぶ事にした次第だ。 別に、兄さんと一緒にパーティーを組んで遊ぶ訳じゃない。兄さんは兄さんで自分のやりたいプレイスタイルで遊ぶらしいので、私は私で楽しく遊ぼうと思っている。 DGの設定は事前に終了させているので、後はソフト入れてゲームの中へと向かうだけ。顔はそのまま写真撮ってそのまま使ってるけど、髪の色だけは何となく変えてある。 隣部屋の兄さんはダウンロード版を深夜零時になったと同時に購入し、正式サービスも発売と同時だったのでそのまま直ぐにゲームの世界へ朝六時まで旅立っていた。今現在も二回目のゲーム世界を堪能している最中だ。睡眠時間三時間は無理をしている気がしてやまないけど、楽しんでるならいいかなと思う。 さて、私もゲームの中へと向かおう。 ゲームデータの入ったメモリーカードを入れ、DGを被って起動させる。 最初に木の扉がある空間へと出て、そこで基本となる初期ステータスとスキルの調整などを行う。最後に【サモナー】か【テイマー】かで【サモナー】を選び、いよいよゲームが始まる。 扉が開いて、光が私を包み込む。「……へぇ」 光が消え去ると、私の口から感嘆の声が漏れる。 現実の世界と遜色ない世界。それがVR世界。石畳の感触も、肌で感じる風も、現実のようだ。大勢の人が歩いているが、それはゲームをプレイしてる人だけじゃなくて、所謂NPCも含まれている。NPCの挙動も違和感なく普通の人と変わらない。 自分が着てる服の感触もきっちり伝わってくるのは木の扉の空間で分かっていたけど。本当、技術は進化していくもんだと感心するしかない。ただ、何か光に包まれた球体がどんどん降ってくるのは非現実的な感じがする。 まぁ、感心ばかりしてては駄目だ。折角文字通りにゲームの中に来たのだ。楽しまなければ意味はない。メニューを開けば、初期装備は自分の着ている服と靴だけで、武器は存在しないし、召喚獣を召喚する為の道具――召喚具も持っていない。「取り敢えず、武器でも買おう」 街の中を歩いて、武器屋を探し、そこで武器を購入。当分の間はこれに頼る事になるからなるべく大切に扱おう。 あと、薬屋で回復アイテムも購入。防具は後でいいや。流石に召喚具は売っていなかった。どうやったら手に入るのだろうか? チュートリアルも無いみたいだし。だったら、一度街の外に出てみるといいかもしれない。何かイベント的なのが始まるかも。 そう思い、そして買った武器をしっかり装備したので街の外に出てみることにした。どうやら今は北の方しか開いてないらしいので、人の流れに乗ってそのまま北の門から外に出た。 外は一本道が奥の森に続いていて、その脇に草原が広がっていた。で、目に見える範囲で人がわらわらと草原の中でモンスターと戦っている。 流石に人口密度が高いので、もう少し先の人気のない場所で私もモンスターと戦おう。 二十分くらい、外の景色(主にモンスターと戦闘を繰り広げてる人達が視界に入ってるだけ)を眺めながらのんびりと道を歩き、あまり人のいない場所へと来たので草原へと足を踏み入れる。 森が目の前で、いっその事このまま森に入ってもいいかもしれないと思った。けど、流石に最初のエリアである程度体を慣らしてから入った方がいいかもしれないと思い直してやめた。一つエリアが違うとモンスターの強さとか一気に上がったりするし。 取り敢えず、何か出てこないかとウロウロしてたら一つ目の獣が出てきた。「ぶぎゅー」「……結構、可愛い」 尻尾をバネにして跳んでる姿が心をくすぐられる。リアル過ぎず可愛い感じの外見はそのまま手繰り寄せて抱き締めたい感じだ。「でも、襲い掛かってくるから倒さないと」 ここまで来る途中で、このモンスターと戦っているプレイヤーを何人も見たし、可愛い外見でもきっちりと敵意剥き出しで襲い掛かってくるから油断は駄目だ。「ぶぎゅー!」 一つ目の獣が私に跳び掛かってくる。「こんな感じ?」 私は武器を一つ目の獣に当てて、墜落させる。「ぶぎゅ~……」 目を回したので、そのまま容赦なく武器で連続攻撃を浴びせていく。「……倒せた」 二十回くらい武器で攻撃したら、一つ目の獣は光となって空に消えていった。 そして、ウィンドウが私の目の前に現れる。どうやら、さっきのはホッピーと言うらしい。ホッピーを倒して経験値を手に入れた。暫くはモンスターを倒して経験値を溜め、レベル上げをしよう。イベントか何か起こるかもと少しだけ期待しながら。 ホッピーの他にはアギャーと言う鳥のモンスターが出てきた。「……あれは、可愛くない」 可愛くなかったから即攻撃を与えて御陀仏にした。まぁ、可愛くても倒すけど。手心無く。 出現するモンスターを次々と倒していき、レベルを上げていく。レベルが6になった所で、武器の耐久度が大破するギリギリになった。魔法も覚えていたからそっちも使ってたけど、魔法だけに頼るのは危険だと思う。と言うか、魔法を使う為の精神力は僅かしかないから、あと一回使えるくらいの危機的状況。買っておいた【マナタブレット】も全部使っちゃったし。一応自然回復するらしいけど時間が掛かるから魔法にも頼れない。 キリがいいから一度街に戻り、手に入れたアイテムを売って武器を補修しよう。結局、イベントっぽいのは発生しなかったな。どうやったら召喚具手に入るんだろう? 街で聞き込みでもした方がいいかな? 結構道から離れてしまってるから少し走ろう。ホッピーとアギャーなら走ってれば逃げられるし。ロッカードも遅いから大丈夫。「ぶぎゅー!」 と言ってるうちに目の前にホッピーが現れた。だから避けて無視しようとしたけど、そうする必要はなかった。「ぶぎゅ~……」 私は一切攻撃してないけど、ホッピーは光となって消える。私の代わりに、いきなり上から降ってきたのが連撃を浴びせて一気に倒したから。そして、ホッピーを倒すと光となって消えて、代わりに装備品がそこに置かれていた。「……えっと? さっきのは?」「それは多分召喚獣だな」 後ろから声を掛けられた。聞き覚えのある声だったのでもしやと思い振り向くと、やはり兄さんがいた。兄さんも私と同じで顔はそのままだけど髪の色だけ変えているんだ。「よっ」「……どうしてここに?」「そりゃあ、レベル上げの為さ。こいつと一緒にな」「ぎゃう!」 兄さんは隣りにいる小型の蜥蜴? っぽいのを親指で指差す。「召喚獣?」「いや、パートナーモンスターだ。名前はトルドラ」「ぎゃう!」 どうやら兄さんは【サモナー】ではなく【テイマー】を選んだみたいだ。兄さんのパートナー、トルドラは大きく口を開けて鳴く。アギャーより可愛い。目と牙がチャームポイントだと思う。「で、それが召喚具って訳だ」 私がトルドラに視線を向けていると、兄さんが落ちてる装備品を指差す。あ、これが召喚具なんだ。普通の装備にしか見えないけど、そして防具にも見えない。「今後は、呼び掛けに応じてさっきのが来てくれるぞ」 これがあれば、さっきのを何時でも召喚出来るようになるみたい。 ……今更だけど、召喚具の習得条件って何だったんだろう? 何かのイベントをこなさなきゃいけないって訳じゃないし。チュートリアルを行って譲り受けるって訳でもない。……よく分からない。普通はそう言うのをやると思うけど。 まぁ、貰えたからいいけど。イベントないのはちょっと残念。「……で」 落ちてる召喚具を身に着け、改めて兄さんの足の先から頭の天辺までまじまじと見る。「で?」「兄さんのその恰好は?」 兄さんは私よりも何時間も多くプレイしているからか、服装は初期装備ではなくなってる。そこまでお金を稼いだか、もしくは生産職と呼ばれる人と仲良くなって早速作って貰ったか。「格好いいだろう? 騎士っぽくて」「うん、格好いい。結構騎士っぽいよ」 腰に手を当てて自分の装備を見せてくる兄さんに素直に感想を述べる。 確かに格好いいと思う。流石にかれこれ十時間以上プレイしているからか、これだけ装備を揃えられたのかな? 大剣にプレートアーマー。店で売ってるのそのままだけど、統一性があるから本当に騎士に見える。個人的にはヘルムとかマントとか、大盾とかあれば更にいいとは思うけど、あくまで私個人がそう思ってるだけだから言わないでおく。兄さんには兄さんの想う騎士像ってのがあるだろうし。 私も、こういった装備欲しいな。ただ、私の場合は騎士をモチーフにしないけど。 って、こんな草原で話してる場合じゃない。何時またモンスターと相対するか分からないから、ちゃっちゃと街に戻って武器を補修しないと。その後、また草原に出て召喚獣と一緒にモンスターを倒そう。兄さんとは夕食の時にでもまた話そう。「じゃあ、私はもう行くから」「おぅ、気を付けてな」「ぎゃう!」 兄さんに断りを入れ、私は街へと向けて駆けて行く。兄さんとトルドラは手を振って見送ってくれる。そう言えば、フレンド登録しなかったけど、いいか。現実世界に戻れば普通に顔を合わせるんだし。 街に戻って、武器を補修して貰い、また草原へと出て召喚獣と一緒にモンスターを狩った。最初は中々連携が取れなかったけど、戦う毎に互いをカバーしあいながら攻撃出来るようになって初日のプレイを終えた。 それからも召喚獣と一緒に草原に出て、森に行って、横穴に挑んで、とゲームを始めてから一週間経った。 今の私はプレイ二日目にゲームの中で出会った人達と馬が合い、パーティーを組んで楽しんでいる。今日はクルルの森の北部にいるレイドボス、フォレストワイアームを他のパーティーと一緒に討伐する予定だ。「いやはや! 偶然会うとは奇遇だな!」「……そうだね」 で、まさか兄さんが紛れているとは思わなかった。ただし、兄さんは他のパーティー――リトシーをパートナーにしてる刀使いの男の子と面白い召喚獣を従える弓使いの女の子のパーティーや機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツに所属している訳ではなく、ソロ。どうやら私のパーティーリーダーに掲示板で誘われて来たらしい。 誘ったのは実力は上から三位以内に入ると言われる風騎士リースとの事だったが、それが兄さんとはね。まぁ、休みなのをいい事に殆ど部屋に籠ってゲームしてるからちょっと納得するけど。 で、今兄さん含む私達は北の森のボスに挑む前に、まずは連携とか互いに使えるスキルアーツ、魔法の確認を口頭だけではなく実戦形式で把握する為にアングールと戦っている。 ただ、私と兄さんは邪魔にならないよう離れた場所で風の補助魔法を使って皆の機動力を上げているだけ。直接戦闘に参加していない理由は機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツの小さい団長さんがいるからだ。 あの人は果敢に攻撃していくけど、フレンドリィファイアをしてくる。わざとではないんだけど、私の耐久じゃごっそり生命力削られるから攻撃を喰らわないように退避してる訳だ。退避してても他の皆の動きを見てるから本番にも支障はきたさない筈。 で、私の隣りにいる兄さんだけど……。「……何か、一週間前と全然違う」 装備一式ががらりと変わっているのも含めるけど、それは些細な事だ。 兄さんはここまで大きな声で、オーバーリアクションで、しかも常に笑顔で話す事はしない。一週間前にあった時も何時もと同じだったし、ここ一週間家で顔を合わせる時も通常通り。ゲーム内だけ、こんなにハイテンションなのか。人って、こんなに変わるものなんだと感心してしまう。 巷で有名な風騎士が兄さんか……。ちょっと危ない人認定されてるけど、兄さんが楽しそうならいいかな。でも、そんなに大きな声出してて疲れないかな? あと、結構耳に響く。「それはリンコもだろう!」 と、兄さんが私を指差す。確かに、私も一週間前とは随分変わっている。それは外見はもとより、ゲーム内でのキャラを含めても。あと、今この場で私の名前を呼ぶのはしてもらおう。今の私のコードネームで呼ぶように訂正をしないと。「…………違う。今の私……我はサモ緑」 そう、今の私はサモ緑。皆と召喚戦隊サモレンジャーを結成して、その緑枠として活躍してる。コードネームを決める時にサモグリーンにしなかったのは、なんか途中で『モグリ』ってつくのが何か嫌だったからだ。私はモグリじゃなくて正式メンバー。だからサモ緑にした。あと、私の召喚獣は西洋ファンタジーに何故いる? って感じの日本妖怪鎌鼬だから、それも少し意識してたりもする。「そうか! サモ緑か! では、一緒に頑張ってフォレストワイアームを討伐しようではないか!」 豪快に笑いながら、私の背中を何度も叩く。結構痛いんだけど、もう少し優しく出来ないかな? 代わりに私のふくらはぎ辺りを叩いてくるトルドラは優しい力加減だけどさ。 そうこう話してるうちに、アングールの討伐は終わった。取り敢えず、即死攻撃の丸呑みの被害者はいない。小さい団長さんフレンドリィファイアの被害者は私と兄さん、それと保護者って呼ばれてる人と副団長って人以外全員。 団長は皆に頭を必死に下げて謝り、保護者さんががみがみと注意を何度も言ってる。他の機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツの面々の……武器に変化していたフルプレートアーマーが元に戻る寸前に垣間見えた顔は満足そうにしていたのが少し気がかりだ。 私以外のサモレンジャーは、ボス戦前だけどかなり疲れた様子。そりゃ、味方から攻撃食らうとは思っても見ないだろう。しかもPK目的じゃなくて、偶然と言うのだから恐ろしい。地雷を抱えた状態でレイドボスに挑むのは、非常に心臓によろしくないし。 ……何か、こんな調子でボス戦は大丈夫なんだろうか? と首を傾げてしまう。まぁ、流石にもう味方に攻撃しない……よね? しないといいな。取り敢えず、私はあの団長に近付かないように注意しよう。「おっと! そうだった! 訊いてくれサモ緑!」 突然、兄さんがオーバーリアクションで手を打ち、私の方に首を向ける。「…………何?」「漸く私にフレンドが出来たのだ!」 一瞬だけ。本当に一瞬だけ静寂に包まれた。兄さんの大声は私以外にも、先の戦闘を終えた皆の鼓膜にも響いており、全員が本当? と言った感じで兄さんを見てる……気がする。何せ、殆どの人が顔を隠してるから表情なんか分からないから。でも、多分そうだと思う。 風騎士リースと言えば、フレンド登録を拒否されるのでも有名になっているからフレンドが出来た事はそれだけ衝撃的なものなんだろう。「……それは、おめでとう」 私はつい、拍手を送ってしまう。別に拍手する必要はなかったけど、何か兄さん物凄く嬉しそうな笑顔で私に言って来るもんだから、ついしてしまった。 そして、少しだけ。こんなハイテンション、もといオーバーテンション&リアクションな兄さんとフレンド登録をした人が気になる。私だったら初対面でこれはちょっと遠慮願うかな。その人はきっと優しいんだと思う。「さぁ! そろそろレイドボスへと挑もうではないか!」 兄さんが皆に発破を掛けて、ボスの待つ北の森の奥へと進んで行き、トルドラもその後に続いて行く。兄さんとトルドラに釣られるように、我に返った他の皆が続いて行く。私もタケシ達と並んで森の奥へと向かう。 今は、そのフレンド登録した人の事を気にするんじゃなくて、レイドボスの事に気を向けよう。で、レイドボスを倒してから、それとなく兄さんに訊いてみる事にしよう。もしかしたら、何時かはその人と会うかもしれないし。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品