喚んで、育てて、冒険しよう。
121
浮かんでいる三つの召喚具の輝きが光の柱となって地面に落ちる。 俺の召喚具からは人が現れた。姿はイベントの時に相対した幻人と同じように俺に瓜二つ。腰にも俺と同じようにフライパンと包丁が下げられている。ただ、全体的に灰色がかっていて暗くなっている。 カンナギの召喚具からは馬の頭をした人型の召喚獣。外見はカンナギの召喚獣である牛頭と瓜二つだが、手にしている武器は金棒ではなく二股の槍。 そして、リースの召喚具から喚びだされたのはペガサスだ。普通の馬よりも一回り大きく、美しい純白の毛並と翼を携えている。 三体が三体それぞれ俺達に目を向ける。俺は腰に佩いているフライパンと包丁に手を掛けて、何時でも抜けるよう準備をする。カンナギも袖に手を突っ込み、リースも大剣の柄を握り直ぐにでも攻撃に移れるようにする。「そこな女子よ」 馬頭がカンナギに話し掛ける。腕を組み、直ぐには槍を振るえない状態に自ら持っていったので不意打ちをする為に話し掛けた訳じゃなさそうだ。カンナギもそう思ったのか、注意を向けながらも馬頭へと返答する。「何?」「貴殿が我が同胞、牛頭鬼を従えし者か?」「うん」 馬頭の質問にカンナギは首を縦に振る。すると馬頭は一度深く目を閉じ、頷く。「そうか。……ならこの馬頭鬼、牛頭鬼を従える貴殿の力を確かめさせて貰おう」 馬頭もとい馬頭鬼が目を開いて腕組みを解き、軽く槍を回してから穂先をカンナギに向けて構える。「こっちこそ、馬頭鬼の力を見せて貰うよ」 カンナギは袖から薙刀のような大型武器を取り出し、同様に振り回して馬頭鬼へと切っ先を向ける。「ん~」 馬頭鬼の横にいる暗い俺は二人のやりとりを見て、軽く頭を掻く。そして、馬頭鬼の方へと顔を向ける。「これは俺も何か言った方がいいのか?」「言いたい事があれば言うがいい」「そうか。なら……そこのお前」 軽く息を吐いた馬頭鬼の言葉に暗い俺は俺の方を向いて指を差してくる。「最初に言っておくが、別に俺はお前の偽者なんかじゃない。今の俺はお前の姿を借りてるだけだ。そして、本来なら生命力以外はお前と同じ力だけを持ち合わせてる状態だが、今回は事が事なだけに少しばかりお前が持っていない力も持っている」 俺の力を持ってるのか。つまり、本来なら喚び出せば俺が二人の状態でモンスターと戦えるようになるのか。……言っては何だけど、フォレストワイアーム戦では力になれそうにないな。ただ、他のモンスター相手だと有利な場面を作れそうだけど。「何内心がっかりしてんだよ? 俺だと不服か?」 どうやら暗い俺は俺の心か、はたまた表情でも読んだようで睨んでくる。「いや、そんな事ない」「そうかよ」 俺は首を振って否定し、暗い俺は不貞腐れたように軽く息を吐いて頭を掻く。「……で、俺が誰かって話だけど名前くらい聞いた事あるだろ? ドッペルゲンガーだ」 暗い俺、もといドッペルゲンガーは俺と同じようにフライパンと包丁の柄に手を掛けて、やや腰を低く落とす。「取り敢えず、みっともなく負けるなよ? オウカ」 挑発的な笑みを浮かべるドッペルゲンガー。 俺とドッペルゲンガー、カンナギと馬頭鬼がそれそれ相対する中でペガサスもリースに目を向けている。 闘争心に満ちてぎらついている眼を受け、リースは大剣を抜き放つ。「分かっている!」 大剣の切っ先をペガサスに向け、高らかと宣言する。「ペガサス! 私は君と、そして他の二人に対しても全力で挑む! 手を抜く事は一切しない! だから、君も手加減も遠慮もかなぐり捨てて掛かってこい!」「ヒヒィン!」 嘶き、ペガサスは翼をはばたかせて螺旋を描きながら空を駆け上がる。「それじゃ、各々言うべきことは言ったみたいだから始めようか」 ドッペルゲンガーがフライパンを抜き放って、大きく振り被る。これは【シュートハンマー】か?「これぐらい避けろよっ?」 俺の予想は当たってフライパンをぶん投げてきた。が、俺の【シュートハンマー】と違って縦ではなく横の回転が加わっており、速度も倍くらいになっている。 そして、それはてっきり俺の方に来るかと思ったが違った。標的はカンナギで、カンナギの方もまさか自分が狙われるとは思ってなかったらしく驚きの表情を作る。 別にこの戦いはそれぞれが一対一をする訳ではなく、あくまで三対三。俺達の誰に攻撃してもいい訳だ。だから別にドッペルゲンガーの行動はなんら問題ない。 先程の流れから、最初の一撃は俺に来ると誰もが思っていたと思う。その意表を突いたある意味で清々しい不意打ちだ。「とりゃ!」 が、カンナギは簡単に一撃を貰う事無く、直ぐに顔を引き締めて手に持つ薙刀っぽいので迫り来るフライパンをドッペルゲンガーへと打ち返す。「不意打ちでも流石にこれくらいは対処するか」 体を捻ってフライパンを避け、通り過ぎ様に柄を掴んで手元に戻す。包丁も抜きそのまま今度は俺の方へと来る。俺も応戦する為にフライパンと包丁を抜いて構える。「ふっ!」 が、リースが俺とドッペルゲンガーの間に割って入り、大剣を振り下ろす。それを後ろに跳び退って避けたドッペルゲンガーだが、リースは更に突きを喰らわせていく。「おっとっと。危ない危ない」 ドッペルゲンガーは勢いのまま後転をして大きく後退して回避をする。「喰らえ」 着地する瞬間を狙って、今度は俺が【シュートハンマー】をドッペルゲンガーに向けて発動させる。「喰らうかっての」 着地したドッペルゲンガーは直ぐ様先程の【シュートハンマー】で俺の【シュートハンマー】を跳ね返してくる。横回転の方が威力が高いらしく、速度が減衰しながらもこちらに向かってくる。 跳ね返ってきたフライパンを掴み、直ぐに横に飛び退く。が、飛び退いた先は安全ではなかった。 先程上空に駆け上がったペガサスが急旋回し、こちらに向かって突進してきたからだ。もう三メートルも距離は無く、このままだと直撃を受けてしまう。「オウカ危ないっ!」 間一髪の所でカンナギに首根っこを掴まれ、引き摺られるような形で直撃は免れた。突進してきたペガサスはまた上に駆け上がっていく。「ありがとう」「それは後でねっと!」 俺を即座に放し、振り向き様に薙刀を払う。カンナギの背後に何時の間に近付いていた馬頭鬼が二股の槍を薙いでいたが、それを相殺した。甲高い音が響き、互いの武器が弾かれる。「これに反応するか。気配は消していたのだが」「耳がいいから風切り音で反応出来たよ」 感心する馬頭鬼にカンナギは種明かしをする。こういう時にも役に立つのか【地獄耳】は。「成程な」 馬頭鬼は槍をカンナギに連続で突きつける。それを紙一重で躱していき、一定の距離を保つ。俺は当たらないように直ぐに退避するも、またペガサスが俺に向けて突進してきた。 流石に今度は自分でも避ける事が出来、すれ違い様に包丁を薙いだがペガサスは急旋回をして避けた。その際に俺の方に曲がってきたのでどてっ腹にペガサスの鼻先が減り込む。「ぐっ」 吹っ飛ばされ、生命力が一気に削れる。が、ただではやられなたくなかったので吹っ飛ばされる瞬間にペガサスの顎を思いっ切り蹴り上げてやった。これでイーブンだろう。ペガサスの方も体を仰け反らせ、そのまま上空へと戻っていく。 地面に背中を打ちつつも、直ぐに起き上がって辺りを見渡す。カンナギは馬頭鬼と相対し、リースはドッペルゲンガーへと連撃を繰り広げている。 ドッペルゲンガーの方は涼しい顔をしてそれをフライパンと包丁でいなしていき、少しずつ後退して行く。 が、ある一定の場所に来るとドッペルゲンガーは口角を吊り上げる。そこは俺、カンナギ、リースがドッペルゲンガーにとって等間隔に位置する場所だ。「無よ、我が言葉により形を成し、辺り一帯を呑み込め。【ウェイブグラビティ】」 ドッペルゲンガーの足元に魔方陣が現れ、奴を中心に周りを屈折させる透明な波が広がっていく。俺達はそれに当たらないように大きく避ける。当たったら器用と敏捷が一時的に下がってしまうからな。そうなると敏捷主体の俺は被害がデカい。 と言うか、こいつ魔法使ってくるのか。「言っただろ? お前が持ってない力も持ってるってな」 厄介だな。ステータス下降だけじゃなくて、多分攻撃魔法も使ってくるだろうし。「あと、別に魔法を使うのは俺だけじゃない」 未だににやついているドッペルゲンガーは視線を上に向ける。その先には空中で静止したペガサスがこちらを見下ろしている。「ヒヒィン!」 ペガサスが嘶くと、魔法陣が出現する。キマイラも魔法を使うから何ら不思議ではないんだが、なんかデジャブなんだよな。宙にいる相手が魔法を使うのが。つい最近、それも昨日使ってた奴と戦ってたからなぁ。 とか思っていると、ペガサスを中心に巨大な竜巻が発生して体が引き寄せられていく。 これって【アトラクトタイフーン】じゃねぇか。悪夢再びかよ。
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