喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

97

 今日はイメージチェンジの為髪をヘアピンで留めて学校に行ったが、椿以外からはあまりどうこう言われなかった。椿は俺の宿題の答えを写しながら「そっちの方が似合ってね?」と言っていたが、前髪垂らした状態とヘアピンで留めた状態でそこまで違うようには思えないんだが。 まぁ、深く気にする事も無い。イメージチェンジも終了したし、気分が変わるまでは暫くこれで行こうと思う。STOでは依然と同じ顔データのままだが、こちらまで変える必要はないだろう。変更する為に写真撮って設定し直すのも面倒だし。 本日の用事を全て終わらせてDGを被り、STOを始める。「しー! ……しー?」 ログインして拠点の居間へと降り立つとリトシーが迎えてくれるが、直ぐに止まってかしげ始めた。「れにー?」 隣りにいるフレニアも目をぱちくりさせている。 まぁ、その理由は俺の少し後に姿が現れ始めたミビニーにあるんだろうけど。「……びー……」 ミビニーは初めて目にする俺以外の仲間の視線が怖いのか、それとも落ち着かないのか分からないが隠れるように俺の背中に張り付く。「……取り敢えず、外に出るか」 この場でミビニーの紹介をすると外にいるキマイラだけ仲間外れになってしまうのでな。今日もログイン出来ないサクラとアケビには後日改めて。「リトシー、フレニア。ついて来てくれ」「しー」「れにー」 リトシーとフレニアは俺の後をついていき、外に出る。その際、ミビニーは後ろをついてくる二匹の視線から逃れるように俺の胸に隠れた。 ただ、外に出た瞬間に俺の頭にしがみ付いてきたが。「よっ、キマイラ」「グルラゥ」 その原因は今日は飛んでいたらしいキマイラが目の前に降りて来たからだ。自分よりもデカく、リトシーやフレニアに比べれば怖いと言える顔だから、仕方ないか。小刻みに震えている。 でも、キマイラはそこまで怖くない。仲間だから、と言うのも勿論あるがリトシーとフレニアと一緒に遊ぶし、面倒も見てくれる。きまいらの時の行動も覚えているから、恐怖心なんか全然湧いてこない。「大丈夫だ。恐くないから」「……びー」 頭から下ろしながら安心させる為にミビニーの頭を優しく撫でる。孵化して直ぐに近くいてやれなかったから、初っ端から信頼度は駄々下がりだろうと思ってたが、そうでもなかったな。恐かったりすると俺にしがみ付いたりしてくるから。まぁ、単に他に遮蔽物が無いってだけかもしれないが。「リトシー、フレニア、キマイラ」 俺は何時の間にか綺麗に横一列に並んでいる三匹に抱えているミビニーを紹介する。「こいつは新しい仲間のミビニーだ。仲良くしてやってくれ」 そう言ってからミビニーを降ろして三匹の前に置く。ミビニーはおずおずとしながらも足を動かして前進する。「び、びー……」 ミビニーは順に三匹に顔を向け、ゆっくりと頭を下げる。「しー♪」「れにー♪」 リトシーとフレニアはそんなミビニーに微笑ながら近付き、怖く無いよアピールをしながらそれぞれ握手を求めるように伸ばす。いや、リトシーは葉っぱでフレニアは胸鰭だから厳密には握手ではないが。「び、びー」 ミビニーは右の前脚でリトシーの葉っぱを、左の前脚でフレニアの胸鰭に触れる。リトシーとフレニアはミビニーの脚を優しく包むと、軽く上下に振る。その後にリトシーとフレニアでも葉っぱと胸鰭で繋がり、三匹でその場を回り始める。「しーっ♪」「れにーっ♪」「びーっ⁉」 突然の事でミビニーは驚き、直ぐに翅を動かして宙に浮く。それでもリトシーとフレニアは回る事を止めない。と言うか、リトシーに止める権利はないように見えるな。フレニアとミビニーが飛んでいるからリトシーが振り回されているような状態になっているから。だが、リトシーはそれを楽しんでいるようで笑ってる。「仲良くなってる……からいいか」 回っているミビニーの表情も段々と笑みへと変わっているから、まぁ、短時間で打ち解けたと思う。リトシーとフレニアも快く受け入れてくれたってのも大きいな。「…………」 そんな楽しそうな三匹をじっと見るキマイラ。何も知らない第三者から見たら獲物を狙っている肉食獣だと誤解してしまうだろう。実際は自分も混ざりたいと念を送っているだけなんだよな。「……っ、び、びー」 キマイラの視線に気づいたのか、ミビニーはビクッと震えて止まる。それにつられてフレニアも止まり、自分の意思では止める事も出来なかったリトシーも強制的に止まる。「…………」 キマイラは無言で三匹を見る。「……びー、びー」 どうしたらいいか分からず、そしてキマイラが怖いのだろうミビニーはリトシーとフレニアの手(葉っぱと胸鰭)を離して二匹の後ろに隠れる。現在リトシーはフレニアによって宙吊りのような体勢になってしまい、慌てている。「……グル」 キマイラはゆっくりと近付いて行き、三匹の下に潜るとそのまま翼を動かして飛び始める。結果として、リトシー、フレニア、ミビニーの三匹はキマイラの背中に乗る形となった。「びーっ⁉」 いきなりの事でびっくりするミビニー。キマイラの方は背中に乗せている三匹に負担が掛からないようにゆっくり優しく翼を動かしてゆるやかに空を駆ける。「……まぁ、あれでキマイラとも打ち解けると祈るしかないな」 如何せん俺の真上を飛んでいるのでミビニーの様子が見えず分からない。まぁ、ああいう風に飛んでれば敵対心も無く、獲物としても見てないって間接的に訴えてるから、少なくとも恐怖の対象としては見なくなる筈だ。……多分。 さて、俺の手の届かない所にこの拠点のマスコット達がいるから手持無沙汰になったな。この間にあいつら用のお菓子でも作るか? 
『着信:タケシ』
「……タケシ?」 腕を組んで何を作ろうか考え始めた直前にボイスチャットが届いた。タケシ? タケシ……あ、サモレッドの事か。如何せん本名と恰好が合わないから本名の方を忘れていた。取り敢えず、ボイスチャットを開始する。「何だ?」「オウカ君、今大丈夫かい?」「大丈夫だが?」 上を飛んでいるキマイラに目を向けた後、そう答える。今日はミビニーをリトシー達と仲良くするってのが目的でログインしたから、急ぎの用事自体が無い。「そうか。実はちょっとお願いがあるんだ」「お願い?」 サモレッドが俺にお願い? ……特に思い当たらないな。また上位パーティーの誰かの仲介役でPvPの申し込みとかそう言うのだろうか?「直接会って話をしたいんだが、いいかい?」「別に構わないが」 特に断る理由はない。今俺が拠点にいても上にいるあいつ等にしてやれる事が限られるからな。ミビニーを仲間と打ち解けさせるってのも、あのままにしてれば達成出来そうだし。「よかった」 ほっと一息吐くとサモレッドは待ち合わせ場所に喫茶店――以前俺とサクラが手伝いをした事のある店を指定し、そちらに向かう事になった。「分かった。今から向かう」 そう言って俺はボイスチャットを切る。「おーい、俺は今から外出するから、お前等仲良くやってろよ」 上を旋回している四匹に声を掛けてから拠点を出てシンセの街へと降り立つ。 中央広場の東寄りの場所に出たようで、そこからマップを頼りに喫茶店へと向かう。そう言えば、あの喫茶店は夜でもやっていたか? と疑問が頭に浮かんできたが、そんな心配はする必要なく普通にやっていた。一応看板で確認すると夜の八時半まで営業しているとの事だった。現時刻は午後七時四十分だから、まだ時間に余裕はあるか。 夜と言う事もあり、人は少なくそれもプレイヤーだけが入っているように見える。「お、オウカ君、こっちだ」 と、テラス席に座っている茶髪の男性プレイヤーが立ち上がって俺に声を掛けてくる。見た事のないプレイヤーだが、声は訊いた事がある。 ……もしかして。「……お前、サモレッドか?」「あぁ。だけど、今はオフだからタケシって言ってくれ」 サモレッド、もといタケシは頷きながら俺を席に招く。確かに初めて会った時休日は何曜日だ、とか言ってた気がするが忘れた。今日がその休日なんだろう。 で、サモレッド休日バージョンのタケシの顔は好青年と言えばいいような顔立ちで、服装も武器や防具と言った装備はしておらずにシャツにズボンと完全にラフな格好をしている。「で、お願いって何だ? レベル的に言えばお前の方が高いんだから、モンスター討伐を手伝え、とかはあまり役に立てないぞ」 俺は席に着きながらタケシに自分の力量を踏まえた上で用件を聞く。ここには俺とタケシだけなのでPvPがらみではない筈だ。タケシの方もオフなので、サモレッドとの対戦、と言う訳でもないだろう。「いや、そう言うのじゃない。これは多分オウカ君達にも有益なものだと思う」 タケシは首を横に振った後、席に座り直してテーブルに肘を乗せる。「だから、何だよ」 俺が再度聞き返すと、タケシは真っ直ぐと俺の目を見ながら、こう言ってきた。「連動しないかい?」


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