喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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 現時刻はゲーム内時間で午後九時五十分。 一時間前まで次々とクエストを受託し、達成させていった。今回は俺とフレニア、きまいら組とサクラ、アケビ、リトシー組でやっていった。 受託していたクエストを達成してから、夕方と言う時間帯からクエストを再開させた事により内容もそれ相応のものになった。 今はフチの家で夕飯をごちそうになり(トレンキ類のものは一切食卓に上がらなかったのが幸いだった)、ソファに腰を掛けて休んでいる。サクラとアケビはフチに勧められて三人とリトシーの一匹で風呂に入っている。風呂に入っていないきまいらは俺の太腿を枕にして顎を乗せていて、フレニアが隣りで欠伸をしている。 俺達はフチの提案に首肯し、こうして今夜はここで横になる事が出来る。「集落の為に色々としてくれているので、せめてこれくらいはさせて下さい」 とフチは言っていた。俺達は流石にタダで泊まる気は無いので家事とかを自主的に手伝っている。
『メッセージを受信しました』
 くつろいでいると目の前にウィンドウが表示される。誰からだろうか? 女性陣は先程風呂に入ったばかりなのでまだ時間が掛かる事だろう。なので、今のうちに未だに見ていないメッセージを上から順に目を通す事にする。
『送信者:Summoner&Tamer Online運営  件名:途中経過ランキング(第二回)』
『※このメッセージはイベントに参加しているプレイヤーの皆様に一斉送信しております。
 ソロイベント、パーティーイベントの上位5位までの途中経過ランキングをお伝えします。

 ソロイベント途中経過ランキング(第二回) 1位 カンナギ            Point 1238 2位 リース             Point 1232 3位 琥太郎             Point 1224 4位 マーガレット          Point 912 5位 ディアブロ=ブラッディマリー  Point 879
 パーティーイベント途中経過ランキング(第二回) 1位 機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツ    Point 571 2位 エール(PL)     Point 562 3位 ギーグ(PL)     Point 512 4位 召喚戦隊サモレンジャー Point 465 5位 もふもふ愛好会     Point 445
 ※パーティーネームを設定していないパーティーにつきましてはPL様のプレイヤーネームのみを表示しています。

 ご意見、ご質問等がございましたら、随時運営までご連絡下さい。』
 一番上……つまり新着は運営からのランキングメッセージだ。リースとサモレンジャーは順位を一つずつ上げている。 まだランキングには入っていないが現在の俺達パーティーのポイントは432。もう少しでランキングに入れる程にまで溜める事が出来た。まだ初日なので挽回の余地はまだまだある。 ランキングメッセージの他に未読のものが二つあったので、それぞれを開ける。
『送信者:Summoner&Tamer Online運営  件名:ご質問の回答        』
 ご質問の回答、と言うのは他プレイヤーのパートナーを保護した場合どうすればいいか? という質問の事であり、神殿に言って巫女か司祭に話し掛け、預かって貰う。と言う回答となっていた。 また、パートナーが見付かった場合にポイントが発生するとも書いてあった。つまり、あの時いきなり30ものポイントが増えたのはツバキの下に無事リークが戻っていったかららしい。 で、もう一つの未読はリースからので、かれこれ六時間以上は前に来たものだ。そろそろ読んで返信しないといけないだろう。
『送信者:リース  件名:調子はどうだい⁉ オウカ君!』
『イベントの進行具合はどうだい⁉ 私の方は結構骨が折れる内容となっているよ! ソロイベントの方は平原に突如として現れたダンジョンを攻略していくというものだ! HPの説明には書かれていなかったが、ダンジョン内では強制的にレベルが1になり、装備やアイテムも一時的に消失してしまう事が分かった! ダンジョン内の宝箱を開けてアイテムを揃え、出現するモンスターを倒して経験値を得て新たにステータスポイントを振り分けて進んで行く! ダンジョンから出ればレベルは元に戻り、アイテムも戻ってくる! ただ、ダンジョン内で手に入れたアイテムは無くなってしまうがな! 生命力の残量、モンスターを倒した数、罠に嵌まった回数、クリア時間、回復アイテムの使用回数でポイントが決定される! 所謂ダンジョンアタックと言うものだ! このポイントは一つのダンジョンで最大500手に入れる事は出来るが、一つのダンジョンに潜り続けてポイントの荒稼ぎは出来ないようになっている! 一つのダンジョンで手に入るポイントは最後に入った時のポイントが反映されるのだ! 例を言えば、Aというダンジョンに二回入り、一回目は300、二回目は290ポイントを取ったとしても590得られるのではなく、最後の290だけがポイントとしてカウントされると言う事だ! ダンジョンは全部で六つあり、難易度もそれぞれ異なっている! 現在は二番目に易しいダンジョンまでがクリアされてるぞ! 私は現在その二番目に易しい難易度のダンジョンのパーフェクトクリアを目指している最中だ! で、オウカ君⁉ そちらは一体どのような制約が課せられているんだい⁉ HPには書かれていなかったが、やはり私としてはパーティーイベントの方にも何かしらの制約があると思っているのだが、どうだろう⁉ 私のフレンドでパーティーイベントに参加しているのはオウカ君達のパーティーだけなので、出来れば返信をお願い出来ないかな⁉』
 文面からでも暑苦しい感じが伝わってくるな。そこまでビックリマークを多用しなくてもいいだろうに、というのは置いとくとしよう。 どうやら、向こうのソロイベントにもこっちと同様に強制レベル1変動、アイテム使用不可と言う運営からの嫌がらせもとい初心者と古参の差を埋めるような工作が為されているようだ。 そして、ポイントの収得条件もこっちとはかなり違っている。こっちはクエストをこなす、モンスターを倒す等でどんどんと増え続けていくが、あちらはただダンジョンをクリアすればいいという訳ではないようだ。 下手をすれば、獲得ポイントが減ってしまう事も有り得るのか。まぁ、こちらのイベントの方も死に戻りしてしまったらポイントが減ってしまうのだが。 また、先程見たランキングメッセージの獲得ポイントから、恐らくリースは三つ目のダンジョンのパーフェクトクリアを狙っているのだろう事が予測される。どうやら無事に二つ目のダンジョンをパーフェクトで制覇出来たようだ。 そして、俺は即座に返信する。イベントのポイント収得条件やら、こちらに課せられている制約を打ち込んで、最初の方に『遅くなってすまない』と言う一文を入れてからリースに返信する。「ふぁ……」 欠伸をして軽く伸びをする。VRでもきちんと眠気が訪れるようで、少しばかり体が重くなっていく。その代わり、尿意とかは全く無いな。そこばかりは現実と同じようにしては大変な目に遭ってしまう可能性があるだろうしな。主に現実に戻った時とかに。 今日は色々とあったからな、すんなりと寝れそうだな。 明日は取り敢えず、イワザル撃退してボボナの実を手に入れて、菓子を作って、あとは【秘宝の異変】を進めるとしよう。 あと、個人的に今日収得した三つのスキルアーツの動きを一度自動で見てみたいな。流石に一度も見ていない状態で【AMチェンジ】の再現が出来ると思う程馬鹿ではないので、外してそれぞれ一回ずつ試して動きを覚えないと実戦で使えない。 ……いや、それなら今やればいいのではないか? 別にスキルアーツの発動に相手がいなければ出来ないという訳ではないし。取り敢えず広い空間であるならば問題はないだろう。 そうと決まればと俺はきまいらを横に退けて外に出る。 もう暗く、セイリー族は皆家の中にいるようで全く姿を見せない。いるのはプレイヤーくらいだ。 俺はシンセの街と同様に宙に浮かぶ灯光に照らされている集落を歩いて人気のない場所へと向かう。 全くいない場所が発着地点だったので、ここで試してみる事にする。まずはメニューを開いて【AMチェンジ】のスキルを外す。 そして、コマンドウィンドウを開いて【乱れ切り】を発動させる。 自動で身体が動く。包丁を抜いた右手は目の前で振り下ろし、その反動を利用して空中一回転。そうしながらもう一度切り裂き、地面に深く着地すると足のあるだろう位置を薙ぐ。その後に斜めに切り上げながら立ち上がり回りながら横に二回薙ぎ、最後に回転をやめながら大きく切り払う。合計七回もの斬撃を繰り出すスキルアーツとなっている。「…………うぷっ」 で、【蹴舞】程ではないがかなり動いたので酔ってしまう。酔いの程度も【小乱れ】以上【蹴舞】以下。酔いを醒ます為に地面に手をついて安静にする。 十数分そうして酔いが醒め、次は【ショックハンマー】を発動させる。 フライパンを両手で持って、大きく振り被りながらジャンプ。そして目の前に降り下ろす。ただそれだけだった。モーションとしては【圧殺パン】と同じで酔う程でもない。見た目はただ振り下ろしただけだが、説明によると攻撃を与えた相手を一定確率で動きを一時的に封じる効果があるらしい。戦闘、一対多でも一対一でも有効な攻撃となるので、隙を見付けては打ち込むように念頭に置くようにしよう。 最後に、【蹴流星】を試してみるとしよう。これはもうスキルアーツの名前からして跳び上がって下にいる敵を攻撃するという者だろう事が予測出来る。まぁ、あくまで予測なので実際は違うという可能性があるので試してみないとな。 コマンドウィンドウを開き、【蹴流星】を発動。 しゃがみ込み、力を溜めてそのまま足を伸ばし、木の床を蹴る。「うぉっ⁉」 想定していたよりも高く跳び上がる。軽く四人分くらい――体感で6、7メートルもの高さにまで到達し、そこから体を丸めて後転し、丸めていた体を開き、片足を伸ばして前方斜め下に向かって加速しながら落下していく。 まるで特撮ヒーローの必殺キックみたいだな、と思いはしたが、それよりも今は大変な事態が発生してしまってる事について対処しなければいけないだろう。 ……いや、このスキルアーツは現在自動で繰り出されるようになっているので対処のしようなんてない。このまま甘んじて受け入れなければならないだろう。 予想以上の高さ、そして角度の蹴りは木の床に接触する事も無く、蹴りを放った姿勢のまま落下し続けていく。要は落下が発着地点と中空の境界を軽々と越えてしまい、そして何の障害物も目の前に無いのでぶつかって無理矢理止まる事も出来なかっただけだ。 だけ、と言ったが、俺にとってはまさに死活問題。身動きが取れずに紐無しバンジージャンプ、もしくはパラシュートなしのスカイダイビングをしているような気分だ。正直、肝が冷えて首筋が薄ら寒くなる。 地表までかなりの距離があるので、俺が地面に激突するまで結構な時間が掛かるだろうと予測し、それは死への恐怖のカウントダウンでしかない事はもう分かっている。こうなるなら目の前に大木が聳え立っている方を向いてスキルアーツを発動すればよかったと後悔するも、後の祭りだ。 無慈悲に俺は地表へと向けて蹴りの姿勢のまま斜めに落下していく。 ……これって、地面に落ちたら生命力減るのだろうか?


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