複垢調査官 飛騨亜礼

坂崎文明

メガネ君

「舞さん、いいアイデアを思いつきましたよ」

 メガネ君がまた、ロクでもないことを思いついたようだ。

 ネット小説投稿サイト『作家でたまごごはん』の運営リーダーである神楽舞は、朝のモーニングコーヒ-ならぬ、ミルクコーヒーを飲みながら、嫌そうな顔をしていた。
 もちろん、織田めぐみが淹れた「奇跡のミルクコーヒー」だった。
 味は絶品である。

「一応、話を聞いておくわ」

「最近、複数アカウントの削除依頼が多いんですよね」

「はいはい、それで」

「システム改変して、ユーザー自身が複垢をブロックできるシステムを作りました」

「あらま、もう作っちゃったの?」

「まず、自分の作品にブックマーク、評価を入れてくれた人が分かるようにしました。それから、怪しい複垢カモフラージュブクマ、評価を拒否する機能を追加しました。それで」

「みなまで言うな! その先は言うな!」
 
 神楽舞は突然、大声でメガネ君の発言を遮さえぎった。
 何か胸騒ぎというか、とてつもなく嫌な予感がしたのだ。

「舞さん、これは『作家でたまごごはん』の健全性を保つために必要なことなんですよ。複垢評価小説ばかりが総合日間ランキングに上がっていく現状を変える為には必須なんです」

 メガネ君は信念を感じさせる強い視線で神楽舞を圧倒した。

「………わかったわ、一応、話だけは聞いておくわ」

 神楽舞は仕方なく、市場に売られるドナドナのように物悲しい様子でやっとのことで言葉を絞り出した。
 
「では、改めて。それですね、ここからが重要なんですが、この怪しい複垢カモフラージュブクマで、『複垢ランキング』を作ります。これはユーザーに対する注意喚起の意味もあります。そのランキングを見て運営が複垢を検討して削除していくということで」

 神楽舞の予想に反して、メガネ君のアイデアはそれなりに的を得ていたし、かなり穏当なものだった。
 次の言葉を聞くまでは。

「さらに、これをゲーム化して、一般ユーザーに開放します。名付けて<複垢狩りゲーム>と」

 とても悪魔的な発想であり、神楽舞は開いた口がいつまでも塞がらなかった。

「もうプログラムはプログラムチーフのチャラ夫君に作ってもらってますが、リリースしてもいいでしょうか?」

 メガネ君は全ての準備を終えていたようで、すでに運営リーダーの神楽舞の最終決断を待つばかりだった。

「―――ちょっと時間が欲しいわ。考えさせて。怪しい複垢カモフラージュブクマ、評価を拒否する機能はリリースOKよ」

 カラカラに乾いたのどにミルクコーヒーを流し込んで、神楽舞はそのまま散歩に出かけた。

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