複垢調査官 飛騨亜礼

坂崎文明

十二聖刀

「ハネケさん、あっちの方では戦闘が始まったようですね」

 夜桜とハネケは連合軍の戦闘状況が映るマルチモニターを眺めつつ待機していた。

 ≪YUKI no JYOU≫同盟の龍騎兵隊と≪メガロポリスの虎≫同盟の鬼虎隊が激突していた。
 約三倍の数で勝る鬼虎隊であったが、三つの龍頭をもつ龍騎兵隊の長距離レーザーに進軍を阻まれていた。
 敵はどうも陸戦タイプの<地龍隊>らしく、龍騎兵隊では防御力最強の部隊であった。
 ただ、鬼虎隊のイージスシステムを装備した黄金の盾によって防御され、じわじわと距離を詰められていた。

「うーん、ちょっと、おかしいわね」

 夜桜の問いかけに、何ともモヤモヤとしたものを感じているハネケであった。

「ハネケさん、何がおかしいんですか?」
 
「数が合わないのよ。私達、連合軍はこの≪飛礼≫同盟の本拠地<スカイパレス>に陣取ってるけど、まだ、敵の本拠<立花城>には100騎ほどの機体が確認されてるわ。残り70機ほどの所在が不明。まあ、ここは鬼虎隊の300機が防御してくれてるし、迎撃体制は万全ではあるけど………」

 ハネケは状況を整理しながら思案を巡らしていた。

「しかし、<スカイパレス>の背後の山岳地帯に何でメガネ隊長は俺らを配置したんでしょうね? 大体、こんな所から攻めて来れる部隊がいるはずないし」

 夜桜はそんな疑問を口に出していたが、何かに気づいて思わず口を押さえた。

「いや、ひとつだけ、ここから攻めて来れる部隊があります。俺も見たことないんですが、≪YUKI no JYOU≫同盟には、<天龍>部隊という飛龍タイプの秘密兵器があると聞いたことがあります」

「それだわ!」

 ハネケもそれでモヤモヤが一気に晴れた。

 <ボトムストライカー>は通常、飛行ユニットを追加装備しないと飛行能力を発揮できない。
 しかも、それはごく低空をグライダーのように滑空できるだけで、大空を自由に飛べるような代物ではなかった。
 あくまで、地裂や川を飛び越えたり、高台から地上に降りる程度の補助的なものであった。

「メガネ隊長、俺らの聖刀のこと知ってるようですね?」

 夜桜はハネケの機体の背中にある、一度も抜かれたことのない聖刀をちらりと見た。普段、愛用している腰に差している聖刀はごく平凡であるが、丈夫な細身の刀であった。

「何のことかしら?」

 ハネケは白々しくとぼけた。

「またまた。ハネケの姉さん、飛行ユニットを攻撃できる聖刀があると聞いたことがありますよ」

 飛行ユニットは通常、高射砲のような本拠地の防御兵器か、射撃パーツを追加するしか攻撃手段はないはずであった。

「そうなの? 私は初耳よ。私も見えない刀身をもつ聖刀があると聞いたことがあるわ」

 ハネケは夜桜の背中の一度も抜かれたことのない聖刀にちらりと視線を向けた。

「まあ、お互い、秘密が多いということで」

「そうね」
 
「レーダーに敵影が……、ついに来たみたいですね」

 ハネケもレーダーモニターで敵影を確認した。

「数は40機かあ。数が合わないわね。夜桜は<スカイパレス>の城壁まで下がって。おそらく別働隊が来るわ」

「ハネケ姉さんは?」

「そうね。久々に、この聖刀を抜かないといけないようね」

 ハネケは背中の聖刀をゆっくりと抜き去った。
 銀色に輝く聖刀の名は<オリハルコン>という。
 十二聖刀のひとつで、古代ギリシャの哲学者プラトンによれば、伝説の古代アトランティス大陸にあったという幻の金属の名前に由来する。

「ハネケの姉御、ご武運を!」

「あなたもね、夜桜!」

 夜桜の<ボトムストライカー>は山岳地帯を駆け降りて、連合軍本拠地<スカイパレス>に向かった。
 ハネケはしばらく、夜桜の<ボトムストライカー>を見送っていた。

「40機かあ。ちょっと多いわね。メガネ隊長、相変わらず、人使いが荒いわね」

 ハネケは愚痴をいいつつ、会心の笑みを浮かべた。

 上空に<天龍>部隊が現れた。
 ハネケの<ボトムストライカー>に銀色の翼が生えて急速上昇した。
 
 
 

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