複垢調査官 飛騨亜礼
飛礼同盟
「メガネ君、≪飛礼同盟≫って、飛騨君が作った同盟なんでしょう?」
<作家にたまごごはん>の運営に復帰して二週間ほどの神楽舞が言った。
「そうです。<刀剣ロボットバトルパラダイス>、通称<刀剣ロボパラ>でベスト5には入る同盟ですね」
メガネ君はパソコンの画面を真剣に見ていて、舞の言葉には上の空という感じで答えた。
「飛礼同盟の他には強い所、あるの?」
珍しく神楽舞が話題に喰いついてきた。
最近の神楽舞は運営のシステム改変の指揮を取っていて、規約違反メール自体が来ないような仕組みづくりに専念していた。
その理由は規約違反対応業務が増え続けていたし、その根本にはシステム的不備があるのは明らかであったからだ。
それにネット小説出版サイトの<メガロポリス>の小説投稿サイト化の動きや、IMT.COMの<ネット小説投稿パラダイス>、通称<ネットパラ>の急成長などの環境変化に対応するものであった。
運営業務をスリム化し、余った人材のリソースを新たなサービスに振り向ける。
ネットの<サブサブ動画>などに番組を持ったり、本誌移転や新たなサービス企画も計画中であった。
<作家にたまごごはん>の中核事業戦略を練り直す第二創業期と言えた。
「ええと、<メガロポリス>の鬼虎徹社長の率いる≪メガロポリスの虎≫同盟が同盟員500人という最大規模の同盟ですね。あとはマリアさんとこのIMT.COMの会長、竜ヶ峰雪乃丞の最強≪YUKI no JYOU≫同盟でしょうかね。同盟員200名ぐらいですが自社開発のゲームですし、<刀剣ロボパラ>のオープン当時からある最強同盟で多くの伝説の聖刀を所有しています。あ、それと、最近、女性プレーヤーばかりの同盟員150名の≪悪役令嬢≫同盟も勢いありますね。あと、たった12名しかいないのに重要拠点の城を所有している≪飛鳥≫同盟も侮れません。城の攻略時間からの推定ですが、とんでもない聖刀を隠し持ってると思われます」
メガネ君の情勢分析はなかなかであった。
恐るべき業務遂行能力で仕事を午前中には終わらせ、午後はネット調査と称してゲームをやりまくってるのだから当然であった。
「では、私、≪悪役令嬢≫同盟の盟主である鎌倉舞子こと神楽舞から、メガネ君の《飛礼同盟≫同盟に正式に同盟を申し込みたいのだけど、どうかしら?」
「え? ≪悪役令嬢≫同盟の盟主? 舞さんが?」
メガネ君は少し驚いたようで、舞の顔をまじまじと見つめた。
「私が盟主補佐です」
織田めぐみがミルクコーヒーをメガネ君の机に置きながら言った。
「僕は軍師やってます。男の娘ですが」
チャラ夫君もカミングアウトしてきた。
ウィンクするのはやめてくれ。
「うーん、そうだったんですか。道理でめぐみさんがゲームのことばかり聞いてくるわけだ」
メガネ君は自分のうかつさにちょっと笑ってしまった。
「いいでしょう。同盟要請を受けましょう。≪メガロポリスの虎≫同盟、≪YUKI no JYOU≫同盟との最終決戦も近いので、そろそろ同盟はしようと思ってたので、ただし、≪飛鳥≫同盟にも話を同盟をちかけてみるという条件でいいでしょうか?」
「どうして、≪飛鳥≫同盟なの?」
舞は不思議な顔をした。
「少数精鋭のあそこの同盟は一枚岩で、おそらく、重課金の一騎当千の伝説の聖刀持ちばかりです。戦力的に期待できます。無、微課金プレーヤーは会社もあるし24時間戦えません。あと、かなり長い期間同じメンバーなのでおそらくスパイはいないと思われます。これは大きい。同盟チャットに情報を出したとたんに作戦は相手同盟にリアルタイムで筒抜けになります。スカイプなども利用しますが、他の手段でリアルでつながりのないメンバーと連絡取るのはなかなか難しいですし、スパイを見抜くこともなかなかできないですし。大きい同盟でも重要極秘作戦は信用のおけるメンバーのみの少数精鋭で動くことになります。あれぐらいの規模の精鋭メンバーの同盟が別働隊などには最適です」
メガネ君も一応、会社員なのだが、自分のことは除外している。
「なるほど。確かにそうね。チャラ夫君やめぐみちゃんや他の派遣社員のメンバーもリアルの人間関係があるので裏切れないし信用できるということで、≪悪役令嬢≫同盟に入ってもらったんだけど、正解だったわけだ」
神楽舞の言葉に他の派遣社員の女の子もうなづく。
みんなグルかよ。
今まで何も気づかなかったメガネ君はうかつすぎる自分を笑うしかなかった。
ネットの世界には強いが、リアルの人間関係にはかなり疎かった。
「ほう。これはこれは」
メガネ君は複垢で潜入している≪YUKI no JYOU≫同盟の同盟チャットの文字を見て驚きの声を上げた。
<刀剣ロボパラ>ではサーバーによってゲームワールドが別れていて、プレーヤーが徐々に減っていくワールドの過疎化を防ぐためにワールドの統合を行っている。
プレーヤーがワールドの掛け持ちをすることは普通で、ここはアイテム集めをするワールド、こちらは本気でプレイするワールドという風に区別してることが多い。
その複数アカウントはワールドの統合によって同じワールドに存在することになり、ひとりのプレイヤーが複数のアカウントを持ち、ひとつを仮想敵同盟にスパイとして送り込むことはよくあることだった。
統合されそうなワールドでプレイして、複垢を作って、ゲーム初期の砦や城を包囲確保する資源消耗の激しい過酷な遠征、重要拠点に砦を築くなどのいろいろな用途に使用するのは常識と言えた。
「どうしたの?」
舞が訊いてきた。
「≪YUKI no JYOU≫同盟が≪メガロポリスの虎≫同盟に同盟要請して受諾されたらしいです。総勢700名の巨大同盟の誕生です。弱小同盟狩りがはじまりますね。≪飛鳥≫同盟が危ないかもしれません。と、思ったらメールが来た」
「≪飛鳥≫同盟から?」
「そうです。≪飛鳥≫同盟も≪YUKI no JYOU≫同盟にスパイの複垢入れてますね」
「ということは、これで三国同盟結成という訳ね。まあ、前途多難だけど、よろしくね」
神楽舞が握手を求めてきた。
何か気恥ずかしいが、メガネ君も舞の手を握り返した。
「あれ、また、メール来たよ。あれれ、≪メガロポリスの虎≫同盟の盟主の虎男さんからだ―――」
<刀剣ロボパラ>の第13ワールドの最終決戦に向けて、策謀渦巻くゲーム世界ですが、みんな午前中に仕事終えて、午後からゲームばかりしてる訳ではありません。
ちゃんと真面目に仕事してる人の方が多いです。
いわゆる飲みニケーションの代わりに、社員の交流のためにこういうゲームをするIT企業は意外と多かったりします。
ゲーミフィケーションといって、日常の生活要素をゲーム化して、ウェブサービスのユーザーのコミュニケーションを活性化したり、ゲームによる教育効果を狙ったり、目標達成の仕組みを作りビジネスに応用するなどの研究も行われている。
というメガネ君的な言い訳はこれぐらいにして、話は次回に続いていくのでした。
(あとがき)
このお話、ラストは大体、決まってるのですが、そこまでいく過程は即興ですので、今回も書くまではこういう展開になるとは予想できませんでした。作者でも。
ということで、設定語りが終わって、少しづつ話が動きだしましたが、僕も次回がどうなるか?全く予測は立たないのでした。
あ、『裏切りの同盟』というタイトルかもしれない(笑)
<作家にたまごごはん>の運営に復帰して二週間ほどの神楽舞が言った。
「そうです。<刀剣ロボットバトルパラダイス>、通称<刀剣ロボパラ>でベスト5には入る同盟ですね」
メガネ君はパソコンの画面を真剣に見ていて、舞の言葉には上の空という感じで答えた。
「飛礼同盟の他には強い所、あるの?」
珍しく神楽舞が話題に喰いついてきた。
最近の神楽舞は運営のシステム改変の指揮を取っていて、規約違反メール自体が来ないような仕組みづくりに専念していた。
その理由は規約違反対応業務が増え続けていたし、その根本にはシステム的不備があるのは明らかであったからだ。
それにネット小説出版サイトの<メガロポリス>の小説投稿サイト化の動きや、IMT.COMの<ネット小説投稿パラダイス>、通称<ネットパラ>の急成長などの環境変化に対応するものであった。
運営業務をスリム化し、余った人材のリソースを新たなサービスに振り向ける。
ネットの<サブサブ動画>などに番組を持ったり、本誌移転や新たなサービス企画も計画中であった。
<作家にたまごごはん>の中核事業戦略を練り直す第二創業期と言えた。
「ええと、<メガロポリス>の鬼虎徹社長の率いる≪メガロポリスの虎≫同盟が同盟員500人という最大規模の同盟ですね。あとはマリアさんとこのIMT.COMの会長、竜ヶ峰雪乃丞の最強≪YUKI no JYOU≫同盟でしょうかね。同盟員200名ぐらいですが自社開発のゲームですし、<刀剣ロボパラ>のオープン当時からある最強同盟で多くの伝説の聖刀を所有しています。あ、それと、最近、女性プレーヤーばかりの同盟員150名の≪悪役令嬢≫同盟も勢いありますね。あと、たった12名しかいないのに重要拠点の城を所有している≪飛鳥≫同盟も侮れません。城の攻略時間からの推定ですが、とんでもない聖刀を隠し持ってると思われます」
メガネ君の情勢分析はなかなかであった。
恐るべき業務遂行能力で仕事を午前中には終わらせ、午後はネット調査と称してゲームをやりまくってるのだから当然であった。
「では、私、≪悪役令嬢≫同盟の盟主である鎌倉舞子こと神楽舞から、メガネ君の《飛礼同盟≫同盟に正式に同盟を申し込みたいのだけど、どうかしら?」
「え? ≪悪役令嬢≫同盟の盟主? 舞さんが?」
メガネ君は少し驚いたようで、舞の顔をまじまじと見つめた。
「私が盟主補佐です」
織田めぐみがミルクコーヒーをメガネ君の机に置きながら言った。
「僕は軍師やってます。男の娘ですが」
チャラ夫君もカミングアウトしてきた。
ウィンクするのはやめてくれ。
「うーん、そうだったんですか。道理でめぐみさんがゲームのことばかり聞いてくるわけだ」
メガネ君は自分のうかつさにちょっと笑ってしまった。
「いいでしょう。同盟要請を受けましょう。≪メガロポリスの虎≫同盟、≪YUKI no JYOU≫同盟との最終決戦も近いので、そろそろ同盟はしようと思ってたので、ただし、≪飛鳥≫同盟にも話を同盟をちかけてみるという条件でいいでしょうか?」
「どうして、≪飛鳥≫同盟なの?」
舞は不思議な顔をした。
「少数精鋭のあそこの同盟は一枚岩で、おそらく、重課金の一騎当千の伝説の聖刀持ちばかりです。戦力的に期待できます。無、微課金プレーヤーは会社もあるし24時間戦えません。あと、かなり長い期間同じメンバーなのでおそらくスパイはいないと思われます。これは大きい。同盟チャットに情報を出したとたんに作戦は相手同盟にリアルタイムで筒抜けになります。スカイプなども利用しますが、他の手段でリアルでつながりのないメンバーと連絡取るのはなかなか難しいですし、スパイを見抜くこともなかなかできないですし。大きい同盟でも重要極秘作戦は信用のおけるメンバーのみの少数精鋭で動くことになります。あれぐらいの規模の精鋭メンバーの同盟が別働隊などには最適です」
メガネ君も一応、会社員なのだが、自分のことは除外している。
「なるほど。確かにそうね。チャラ夫君やめぐみちゃんや他の派遣社員のメンバーもリアルの人間関係があるので裏切れないし信用できるということで、≪悪役令嬢≫同盟に入ってもらったんだけど、正解だったわけだ」
神楽舞の言葉に他の派遣社員の女の子もうなづく。
みんなグルかよ。
今まで何も気づかなかったメガネ君はうかつすぎる自分を笑うしかなかった。
ネットの世界には強いが、リアルの人間関係にはかなり疎かった。
「ほう。これはこれは」
メガネ君は複垢で潜入している≪YUKI no JYOU≫同盟の同盟チャットの文字を見て驚きの声を上げた。
<刀剣ロボパラ>ではサーバーによってゲームワールドが別れていて、プレーヤーが徐々に減っていくワールドの過疎化を防ぐためにワールドの統合を行っている。
プレーヤーがワールドの掛け持ちをすることは普通で、ここはアイテム集めをするワールド、こちらは本気でプレイするワールドという風に区別してることが多い。
その複数アカウントはワールドの統合によって同じワールドに存在することになり、ひとりのプレイヤーが複数のアカウントを持ち、ひとつを仮想敵同盟にスパイとして送り込むことはよくあることだった。
統合されそうなワールドでプレイして、複垢を作って、ゲーム初期の砦や城を包囲確保する資源消耗の激しい過酷な遠征、重要拠点に砦を築くなどのいろいろな用途に使用するのは常識と言えた。
「どうしたの?」
舞が訊いてきた。
「≪YUKI no JYOU≫同盟が≪メガロポリスの虎≫同盟に同盟要請して受諾されたらしいです。総勢700名の巨大同盟の誕生です。弱小同盟狩りがはじまりますね。≪飛鳥≫同盟が危ないかもしれません。と、思ったらメールが来た」
「≪飛鳥≫同盟から?」
「そうです。≪飛鳥≫同盟も≪YUKI no JYOU≫同盟にスパイの複垢入れてますね」
「ということは、これで三国同盟結成という訳ね。まあ、前途多難だけど、よろしくね」
神楽舞が握手を求めてきた。
何か気恥ずかしいが、メガネ君も舞の手を握り返した。
「あれ、また、メール来たよ。あれれ、≪メガロポリスの虎≫同盟の盟主の虎男さんからだ―――」
<刀剣ロボパラ>の第13ワールドの最終決戦に向けて、策謀渦巻くゲーム世界ですが、みんな午前中に仕事終えて、午後からゲームばかりしてる訳ではありません。
ちゃんと真面目に仕事してる人の方が多いです。
いわゆる飲みニケーションの代わりに、社員の交流のためにこういうゲームをするIT企業は意外と多かったりします。
ゲーミフィケーションといって、日常の生活要素をゲーム化して、ウェブサービスのユーザーのコミュニケーションを活性化したり、ゲームによる教育効果を狙ったり、目標達成の仕組みを作りビジネスに応用するなどの研究も行われている。
というメガネ君的な言い訳はこれぐらいにして、話は次回に続いていくのでした。
(あとがき)
このお話、ラストは大体、決まってるのですが、そこまでいく過程は即興ですので、今回も書くまではこういう展開になるとは予想できませんでした。作者でも。
ということで、設定語りが終わって、少しづつ話が動きだしましたが、僕も次回がどうなるか?全く予測は立たないのでした。
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