少女は二度目の舞台で復讐を誓う

白波ハクア

少女は徹夜でラリる

「ふんふんふーん♪」
 誰も寄り付かない古びた小屋に、可愛げのある鼻歌が漏れる。 リズムとかを完全無視してテンションのみで押し切ったそれは、もし聞いている者がいたならば間違いなく不信感を抱いていただろう。
「ふん、ふふんふーんふーん」
 別に機嫌がいいとかそういうことではない。 夜通しで作業をしていた私は、無理矢理にでもテンションを上げなければやって行けてなかった。 つまり、半強制的にラリっている。
 糸を出すのも操るのも、等しく魔力を消費する。ずっとやっていれば魔力も枯渇してしまうため、私の口には半透明な瓶『魔力ポーション』が咥えられていた。
 すでに空になった数本は乱暴に床にばら撒かれている。綺麗好きな私を知っている人がいたのなら、驚きに目を見開くだろうけれど、頭のネジが飛びかけていた私にはどうでもいいことになっていた。
「……あれ? もう、朝?」
 天井の隙間から覗く太陽の光に当てられて、作業を一時中断する。
「んっ……んん……」
 軽く伸びをすると、体からパキパキッという音が鳴る。……これはクセになりそう。 十歳の少女からこんな音が鳴っていいのかって言われそうだけど、気にしちゃいけない。
 お年寄りのようになってしまった苦労もあってか、私の造形技術は兎だけに留まらず、魔物の型を模して作ることも可能になっていた。
 完成度は高いと思う。やろうと思えばお店に売れる程には……まあ、やらないけれど。
 ちなみにステータスは…………


 ノア・レイリア 十歳 女 レベル1 筋力:130 魔力:300 体力:210 耐久:180 敏捷:250 固有技能:『操糸術』 固有スキル:『操糸Lv5』 通常スキル:『格闘術Lv1』『精密操作Lv3』『暗視Lv2』『魔力操作Lv2』『思考加速Lv1』『気配察知Lv1』『気配隠蔽Lv1』


 我ながら随分とスキルが増えたなぁ……というのが素直な感想。
 『暗視』は暗い場所に慣れたから取得できた。
 『魔力操作』は先程も言ったとおり、糸を操るのにも魔力を使う。それの消費が楽になり、効率がよくなった。
 『思考加速』は色々なこと……今後の動きやシャドウ達への対処、何から始めたほうがいいのか。それをずっと考えていたら、いつの間にか取得していた。
 『気配察知』と『気配隠蔽』は作業をしながら、敵が接近していないかを確認していたら取得した。ゴンドルの手の者だけではない。ここらには魔物も出現していて、絶対に安全とはいかない。 だから、これは優先的に取っておきたかったスキルだったので、手間が省けて嬉しい。
 ……さて、充分に兎や魔物の形を糸で作れるようになったら、次の段階に移るとしよう。
 作った造物『ぬいぐるみ』に命を吹き込む。 やることは簡単。何でもいいから死んだばかりの心臓をぬいぐるみに埋め込む。そして、私の血と魔力を与える。
 それで見事、新たな命『ドール』の誕生だ。
 核となる心臓は、元がよければドールの性能も変わる。 そこらに生息している下等な魔物より、強い人間、それも魔法使いの心臓を埋め込んだほうが性能は倍以上も違ってくる。
 だから、なるべく強い人間の心臓が欲しいのだが……今の状況を考えたら厳しい。
「……仕方ない、か」
 小屋を出る。 人間の統治する国、領地、街、村。その外には魔物が沢山生息している。
 特に森なんかは、他よりも多く魔物が蔓延る。時には森自体が『魔境』とさえ言われるほどに。
 質は低いけど、素材は充分。 現在作った造物の中で、形が整っているぬいぐるみは十二体。それだけの心臓が必要になる。面倒だけどやるしかない。
 森の中を歩くと、目的の魔物はすぐに見つかった。こういう時に『気配察知』が役に立つ。
 ……相手は狼の体が黒く変色した魔物、名を魔狼。それが五体。 『気配隠蔽』のおかげで相手はまだ私に気づいていない。
 それでも奴らには野生の感がある。もう少し近づくと私の存在も気づかれるだろう。
 だったら短期決戦だ。
 ちょうどいい距離まで近づき、茂みから飛び出す。
 危険を察知して吠えようとした魔狼の口にナイフ刺し込み、抉る。口元から大量の血を吐き出して魔物は絶命する。まずは一匹。 突然のことに狼狽える魔狼達を観察。即座に次のターゲットを定めて駆ける。
 それでも野生を生き抜く魔物だ。すぐに私に対応しようとして、鋭い爪で立ち向かう。 私と爪がぶつかる直前に跳躍。後ろを陣取り、後脚を掴んで纏まっている三体に放り投げる。
 体制を立て直される前に指先から糸を伸ばして、ごちゃごちゃに絡み合っている四体を捕縛する。 当然、魔狼は半透明な糸を振りほどこうと暴れる。……だが、それは悪手だ。
「そんなに暴れると――斬れちゃうよ?」
「ギャンッ!?」
 一匹が悲鳴を上げるかのように鳴く。 見ると、そいつの皮膚が裂けて血が滴り落ちていた。
「――斬糸。すぐに使えるか賭けだったけど、問題なかったね」
 『斬糸』は名前の通り相手を斬ることに特化した糸のことだ。相手を捕縛するための丈夫な糸とは違って、これは目視では確認が困難なほど細い。
 細い、と言っても魔力を多めに流し込めば、糸の強度も向上する。 ただの雑魚如きが乱暴に抜け出そうとするだけなら、もちろん切れるはずはないし、逆に斬れてしまう。
 段々と糸を締める。徐々に魔狼は暴れることが困難になり、ようやく全ての機能を停止した。
「うん……体は鈍っていないようで安心」
 とにかく、これで五つの心臓を入手した。
「あと、七つ」
 それを集め終わるのは、それほど時間はかからなかった。
 私はまた上機嫌に鼻歌を刻みながら、十二個の心臓を纏めて小屋へと戻った。

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