少女は二度目の舞台で復讐を誓う

白波ハクア

少女は過去に戻る

「よく来てくれた。君がくだんの糸使いか」
 …………ん?
「どうしたのかね? ……ああ、そんなに緊張しなくていい。どうか楽にしてくれ」
 …………んん?
「うーむ、長旅で疲れたのだろう。今日はゆっくりと休んでくはぅっ!」
 憎い伯爵貴族が近づいてきたので、反射的に奴の金玉を蹴り飛ばした。
「「ご、ゴンドル様!」」
 奴、ゴンドルの護衛二人が慌てて駆け寄る。
「な、何をするキサまがっ!」
 喚くゴンドルの顎を蹴り飛ばす。
「「ゴンドル様ぁ!?」」
「うるさい、ちょっと黙ってて」
 怒声をスルーして、辺りを見回す。
 ここは……ゴンドルの私室? 無駄に豪華な飾り物があって、金をかけているのがわかる。一度来た程度だけど、まだハッキリと覚えている。
 これは何だろう……夢? 死ぬ間際の白昼夢的なやつ?
「うーん、とりあえず殴ろう」
「ぎゃああああ!」
 これは夢であり、死ぬ前のボーナスタイムであると考えよう。もしそうなら、覚める前に奴を甚振らなければ勿体ない。
「お、お前、私がゴンドル・バグだと知ってのことか!?」
「知ってるよ。忘れる訳ない」
 自分でも驚くほどの低い声が出た。
 ゴンドル・バグ。私を利用した挙句、邪魔だと言って切り捨てた伯爵貴族。私の家族を殺した最低な男。
「よくも私達を殺したな」
「な、なんのこ――だっ!」
 もう一度、殴った。ゴンドルは地面を這いずって、私から距離を取ろうとする。
「わたしを守れぇえええ!」
 我に返った護衛が立ちはだかる。
「邪魔しないで」
「へ? ぐあっ!」
 身体差なんて関係ない。 剣を構えられる前に懐に潜り込んで、顎を殴り上げる。
 一連の動きには無駄がなくて、とても洗練されていた。もちろん、繰り出した一撃には、一切の手加減を入れていない。
 命を狙い、狙われる生活。それを十年。 甘ったるい考えでは闇世界は生き残れない。常に『殺す』というのを考えて行動する。
 反応が出来ずに直撃を受けた護衛は、脳震盪を起こして力なく倒れる。
「……あれ? 確実に殺したと思ったのに」
 護衛はピクピクと痙攣して気絶している。つまり、殺せていない。
「それに、思うように体を動かせない? うーん、なんで?」
「よくもライルを……!」
 もう一人の護衛が首筋目掛けて剣を突き出してくる。それを最小限の動きで避けて、がら空きの胸元に拳をぶつける。
 貫く気持ちで打ち込んだのに、鎧に阻まれて弾かれる。少し痛い。
「かはっ、こ、こいつ、本当に十歳か!?」
「はぁ? 十歳? 何を言って……まさか――ステータス!」
 私の前に文字が浮かび上がる。
 これは術者……この場合は私の能力を数値化して書き記されたもので、自分の強さを確かめるのに適している。
 そして、私の前に記された情報は、驚くものだった。


 ノア・レイリア 十歳 女 レベル1 筋力:130 魔力:300 体力:210 耐久:180 敏捷:250 固有技能:操糸術 固有スキル:『操糸Lv1』 通常スキル:『格闘術Lv1』


「…………なぁにこれぇ」
 素直な疑問が、口から溢れた。 意味がわからないことが多すぎて、確認のためにもう一度ステータスを開く。


 ノア・レイリア 十歳 女 レベル1 筋力:130 魔力:300 体力:210 耐久:180 敏捷:250 固有技能:操糸術 固有スキル:『操糸Lv1』 通常スキル:『格闘術Lv1』


 …………ああ、見間違いじゃなかった。
「――ぐわぁ!」
 背後から切りかかってきた護衛を蹴り飛ばす。 奴の骨が砕けた感触がしたので、もう襲われることはないだろう。
「んん……んんん?」
 考えようとしても、問題が多すぎて上手く纏まらない。
 よし、落ち着け私。一つずつ解決していこう。
 まず、年齢。 十歳。私が殺されたのは二十歳だった。なんで十年も若返っているんだろう?
 次、レベル。 なんで初期レベルになっているの? 人や魔物を殺し続けていた私のレベルは124という、年齢に見合わないものだった。 それがレベル1……少しショック。
 ゴンドルの護衛二人は30くらいだと思う。 それでもレベル1の私が護衛を圧倒できたのは、単なる経験の違いだろう。
 次、ステータス。 レベル1になっているということは、ステータスも下がっているということ。 こんな低い筋力では、ただ殴るだけで殺せる訳ないし、鎧も貫ける訳ない。全身のバネを使ったからこそ、ようやく気絶まで持っていくことができた。
 結構問題なのが固有技能と固有スキル、それと通常スキル。 これも初期レベル。しかも、取得スキルが減ってる。


 これらを踏まえて、私は一つの結論に至る。
 どうやら私は――過去に戻ったらしい。

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