【旧】チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

建国祭(表)準備

建国したばかりのテルメン王国は混乱していた。玉座に居るはずの人物が居ないのだから当然の事だ。
「アデレード。リン見なかった。」「あぁ妾も探しているのだが、サラナが、マヤがリンを探していてと言っておったぞ」「・・・・あ。」「多分そうじゃ。」「「裏の王国」」
「確かに、あっちもあっちで大変なのだろうけど・・・。」「まぁ言ってもマヤだからな、しょうがない。それに、リンに取っては、あっちも大切な仲間なのだろうからな」「そうだね。」
イリメリとアデレードは笑いながら建国したばかりのテルメン王国の居城を歩いている。
人が増えた印象がある。確かに、各国に対して、人材募集の通知は出している。各国で問題になっている難民の受入も率先して行っている。獣人に関しては、ウェルカム状態だ。冒険者も増えていると報告が出ている。これには、実は裏があるのを、イリメリもアデレードも知っている。
マヤが、裏の居城計画を立ち上げたのは、まだ貴族連合と戦っている最中だ。リンには知らせないで、妻達で情報共有を行った。事後承諾の形だったが、なんの問題もなかったので、そのままマヤの計画は実行された。すこし調整したり、軌道修正は行われた。マヤが、各地を飛び回って、意識有る魔物や人族が暮らす場所の近くに集落を作っている魔物を、移動させると言いだしたのだ。眷属化された中堅の魔物達を何名か連れて、交渉脅迫を行っていた。その成果が現れだしたのは、貴族連合との決着が見え始めたときだ。トリーア王家では、大規模な内乱の余波でそれどころではなかったが、諸外国は、街や村の周りから魔物たちが減ったと国に報告があがってきていた。魔素から産まれる弱い魔物はまだ出没するが、それだけで中級の魔物は姿を消したのだ。また、魔素溜まりと言われるような場所も次々と破壊されて、魔物が出現する頻度が徐々に減ってきていた。魔物が1ヶ月程度一切見つけられない状況になっている国も現れ始めた。このような状態に、辺境の村々は素直に喜んだが、慌てたのが商人と守備隊だ。守備隊は、魔物の脅威から人類を守る為に存在している。その魔物が居なくなってしまえば、存在意義がなくなってしまう。商人は、希少な魔物の素材がなくなってしまうのではないかと慌てだした。
商人たちは、すぐさま国に伺いをかけた。そして、国は、テルメン王国に何か情報が無いのかと"疑いの目”を持って問い合わせをした。
テルメン王家からの返答は、『魔物の出現に関して、当王国は関与していない。もし、疑いが有るようなら、当王国に来られたし』だった。それを受けた各国は、商人を送り出すことにした。商人は、テルメン王家に着いて、すぐにギルドの機能や転移門トランスポートの優位性を認識して、導入を陳情した。比較的に短時間でその陳情は、テルメン王家に伝えられて、国交を持つ国から準備作成を行っていく事になった。魔物の脅威が減った森や山岳地帯は、人族や獣人に寄る強盗が出没する事となった。ギルドの仕事は、そういった物の排除から護衛任務。更には、神殿内の迷宮ダンジョンでの素材集めがクエストとして扱われる事になる。時には未開の地への探索依頼が出る事がある。これは、リン=フリークスが神殿を発見して攻略した事がニンフに認められて、国を興す事が出来たのだという話が広まった結果だ。
それには、以前から登録していた冒険者達だけでは手が足りるわけではい。元守備隊の人間がギルドに登録して、それらのクエストを行う様になっている。また、一部の人間はテルメン王国に移り住んで、迷宮ダンジョンの踏破を目指す物も現れた。魔物の素材は全地域で品薄になっている為に、商人がすぐに買い付けていく。その事からも、迷宮ダンジョンで魔物の素材を得るのは、腕に自信が有る者が簡単にレインを稼げる状態になっている。また、その冒険者達を相手にした商売をする為に、移り住んでくる者も増え始めている。
また、魔物の脅威が減った辺境の村々では、ベビーブームが起こりそうな雰囲気がある。また、耕作しても魔物に荒らされてしまっていた所も、作農を進められる事もあり食料の確保もできる状態になっている。魔物が減った事に寄って、森や山岳部では、獣の数も増えている事が確認されている。生態系が崩れてしまった部分でもあるが、今までは魔物が食べていた分を人が食べる事で調和が取れるだろう。海や湖も比較的安全な水棲生物だけになっているので、人は海での漁をはじめ海産物の確保を行う様になってきた。
これらはまだまだ始まったばかりの変化だが、確実に生活様式が変わり始めている。
「ねぇアデレード。」「なんじゃ?」「リンは、5年間どうするつもりなのだろうね。」「それを、妾に聞くのか?」「・・・そうだね。でも、もうリンが一番になることくらいは、理解していると思うのだけどね」「そうじゃろうな。この時点で、パーティアック神が5年の休戦といい出したのが理解できん」「どういう事?」「イリメリが今言ったように、もうリンの勝利は目に見えている。時間をかければ、それが覆る様な物ではない事は誰の目にも明らかだ」「そうだよね。今なら一部の王族や商人だけだけど、これが10年後・・・3年後にでもなれば、一般市民まで知れ渡るかもしれなのだよね」「あぁそうじゃ。それでも、5年後といい出したのには何か秘策があるのではないかと思うのじゃよ」「う~ん。考えすぎかもしれないけど・・・。」「なんじゃ?イリメリ。何か思いつくのか?」「うん。勝利条件が”有名”になる事だからね。別に悪名でもいいと思うよ」「・・・そういうことだな」「うん。ウォルシャタをリン=フリークスに対抗する悪の親玉。にでもするのだな。」「・・・うん。そうすれば、リンの名声は裏返しで、ウォルシャタの悪名になるからね。」「それで、その悪魔がリン=フリークスを破ったとなったら、市民は絶対にウォルシャタの名前は忘れないだろうな。」「そうだよね。名声よりも悪名を取るとか信じられないけど、今まで話を聞いた限りのパーティアック神ならやりかねないっと思うのだよね。」「そうじゃな。余計なお世話かもしれないけど、リンに進言してもいいかもしれないな。」
「あっイリメリ。アデレード。リンは?」「リンは、マヤに連れて行かれたと、サラナが言っていたぞ」「そう・・・あっちも動き出したのだね」「あぁそうじゃな」「それよりも、何かリンに用事だったの?」「あっそうそう、ハー兄様が、学校への受入人数を増やせないのかって打診してきて、その相談かな」「それなら、ナッセやタシアナに聞けばよかろう。」「うん。二人には聞いたのだけど、問題はないけど、最終的には”リンに許可をもらわないとならない”って言っていたから、探しているの・・・。」
テルメン王国には、表に見せている顔が3つの側面が出ている。ギルド国家としての側面と遠い地域を繋ぐ役目。そして、教育としての側面だ。学校に関しても、すでに入学希望を募っているが、各国ともにまだ懐疑的な見かたをしているようだ。直接赴いて調整した所は生徒を出しているがそれ以外は未だにトリーア王家の人間がほとんどだ。成り立ちを考えれば当然の事だろう。
「そうか、リンはもう少ししたら戻ってくるとおもよ。こっちで寝るって言っていたから。」「了解。ハー兄様には明日にでも返事できるって伝えておく。」「うん。そうして」「あっそれから、各国への招待とかはどうしているの?気にしていたよ」「あぁそれは今調整中。なるべく多くの国に来て欲しいとは思っているけど、疑っている国も多いからね」「まぁそうだろうね。準備は?」「サリーカとフェムが、サラナとウーレンとやっている。エミール達も協力しているよ」「そうか、なぁ建国祭が終わるまでは、落ち着かないからしょうがないよね」「そうじゃな。ローザス陛下も落ち着かないだろうな。」「うんうん。フレットとの新婚旅行もまだなのでしょ?」「なんでも、ローザス殿下が、テルメン王家に行きたいといい出したらしくてね。打診が有ったけど、丁重にお断りしたら、建国祭に合わせて来るって言ってきたよ。」「兄上・・・。リンには伝えたのか?」「うん。好きにすればって言われて、そう返事を出しておいた。」
「そう言えば、アルマールとカルーネも結婚するのだよね?」「うん。そうだね。」「なんだか、私達だけ取り残された気分になるのが不思議だね。」「まったくじゃよ。リンがさっさと・・・。」「アデレード。それは言わないって決めたよね」「そうだったな。すまん。」「いいよ。今、ミルが攻略に乗り出しているから、そのうち言ってくると思うよ」「そうなの?いい結果が出るといいのだけれどね。」「あぁそうじゃな。そろそろ諸外国が騒ぎ出すことだからな。」
リンの婚姻の話はすでにオープンになっている。しかし、それでも巨大な国家が新しく誕生するのは間違いない。戦力的な事ではなく、これから経済の中心地になるのが見込まれる国家だ。そして、現状の魔物の素材の供給源である国家と縁を結びたいと思うのは為政者としては当然の考えだ。その為に、なんとかリンに近づく手筈を考えている。一番簡単なのが、娘や妹をリンに嫁がせる事だ。その為に、以前に増して、婚姻目的の面会が増えている。それらは、モルトがうまく捌いている。
3人は、そんな話をしながら玉座の間に戻ってきた。
「あれ?珍しいね。3人?」
正面には、話題の中心だったリンとミルとマヤが居た。
「あっおかえり。リン。いろいろ話したい事があるけど、時間大丈夫?」
リンは、すこしミルとマヤを見てから
「あぁうん。大丈夫だよ?執務室で聞いたほうがいい?」
そういって、自ら先頭にたって執務室に向かった。執務室では、先程の話の通りに学校の事を含めて採択が必要な事を話して、リンに許可を貰った。
「それで、リン。どうだった?」「どうって?」「マヤと一緒だって事は、行ってきたのでしょ?」「あぁみんな知っているのだね。」
マヤが可愛く首をかしげるミルは苦笑するだけにとどまった
「そうだね。すごかったよ。あっちも表に合わせて建国祭をする事にしたからね。サラナとウーレンは”裏”の人材として使うよ。いいよね?」「大丈夫。裏ギルドの依頼は有るけど、頻度としてはまだそれほど多くないから、1~2程度なら貯めておける。けど、1~2日程度は、どちらかには裏ギルドの方も見に行って欲しいよ」「あぁ了解。そんなに警戒しないでよ。イリメリ。あくまで表の作業が優先だって本人達には言っておくから大丈夫だよ。」「そう。それなら良かった。財政的にも問題ないのだよね?」「あぁ何回やっても大丈夫な状況だ。」「わかった。ありがとう。」
マヤは、一通りの説明を受けた後で、「僕は、裏の居城に戻るね。まだ、リンを訪ねてやってくるから、それらに挨拶をしておくよ」「うん。マヤ。ゴメン。任せる。」「了解。夜には帰ってくるよ。」
「リン。僕は、迷宮ダンジョンに潜ってから帰るよ。」「わかった。ムリしないようにね。」「大丈夫。すこし、気分転換してくるだけだから・・・。」「うん。夕飯には帰ってくるのでしょ?」「そのつもり、トリスタンのレベルアップもしておきたいからね。」「うん。お願いする。それじゃ後でね」
ミルが執務室から出ていった。それから、アデレードとイリメリから今の状況を更に詳しく聞く事になった。概ね問題は無いが、やはりパーティアック・・・ウォルシャタ達への対応を決め兼ねているという事だ
「そうだね。5年間の不可侵条約って話だけど、向こうから手を出してくるようにするのがいいのだろうから、まずは食料で締め上げかな?」「それだけ?」「うん。魔物の素材とかも手にはいらない状況になるだろうし、今のところはそれで十分だと思うよ。聞いた話だと、周りの国々とも仲良くないらしいからね。」「あぁそうだな。」「アッシュに言って、情報と監視だけは続けてもらっている。建国祭が終わったら、サリーカと一緒にどうするのがいか決めようと思っている」「そうなの?」「うん。まぁ焦る必要はないよ。奴らには、悪名も付けさせる事も出来ないようにするよ」「ほらね。」「あぁそうじゃな」「ん?なに?」
リンが恥ずかしそうに、タシアナに説明した。ウォルシャタの狙いかはわからないけど、少なくても奴らとしては、僕の名前に対応する為には、悪名で有名になろうとしているのではないかという事。その為に、5年間の不可侵条約が必要だったのではないかという事。
「リン。動機はわかったけど、手段は?」「そうだね。簡単な所だと、現在のパーティアック国内の反対勢力を皆殺しにして、恐怖政治を行って、近隣諸国に難癖を付けて戦争をふっかけるって感じかな。」「あぁそうか、それで、5年後にリンが対応に乗り出せば、有名なリンに対抗するウォルシャタとなるわけだね。」「そうだね。それで、僕に勝てば一気に逆転だからね。」「・・・それで、リンは何か策を考えているの?」「う~ん。別に、やつらがそうしたいのなら勝手にやればいいと思っているよ。僕達がそれに付き合う必要はないからね。」「でも・・・それじゃ・・・」「うん。大丈夫。奴らは、魔物の軍勢と戦って負けるのだからね。」「あぁそうか、眷属を使うのだね。」「そ、さすがはイリメリ!」「それじゃ私たちは?」「今回はお休みかな。僕も前線には行かないつもりだからね。勝っても負けても美味しくない戦いなんてやらないほうがいいからね。まぁあいつら残り7人が直接対決をしたいって言うのなら乗るけどね。場所は、どこかの神殿の中で、だけどね。」「悪いな・・・リン。それって奴らがその誘いに乗った時点で負け確定でしょ。」「え?なんで?イリメリ?なんで?」「タシアナ。考えてみてよ。神殿はリンが好きに変えられるでしょ」「うん・・・・あっそういう事ね。ウォルシャタ達が神殿に入ったら出口を塞いで、リンは転移で抜け出せば終わりって事だね。」「そ。最悪は、それでおしまい。後は、餓死させようが、魔物をすこしずつあてて殺してもいいわけだね。」
「・・・怖いな。イリメリ。僕は、そこまで考えていなかったよ。しっかり話をして交渉するつもりだよ。”お前たちの中で、悠を殺した奴を知っている人間は僕に密告して、そうしたら、そいつは殺さないよ”ってね。」「リン・・・それって・・・」「あぁあと、タシアナの両親の話とか、ミルの両親の話、僕の両親の話も付け足しておこうか?アルマールのお姉さんの話とかもだっけ?」「でも、リン。それを、神殿の中で言っても証拠にはならないよね」「うん。でも、十分な証言がえれば、それを基に記事にはできるでしょ。それで十分とは言わないけど、それでも今までよりは大分ましな状況になると思うよ。ミルの所に来た弁護士や刑事を頼ってもいいのだからね。」「あっそうか・・・。」「うん。本当は、そこまでしたくないのだけどね。奴らが自分たちのした事を反省してくれればね。多分、無理だろうけど・・・ね。」
そういって、目を伏せたリンの顔がどこか寂しげだったのを、アデレードもイリメリもタシアナも感じていた。

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