【旧】チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

もう一つの物語.02

「リン兄。早く行こうよ。おじさん怒っちゃうよ。」「いいよ。パシリカの事だろう?ユウが聞いておいてくれよ。俺は、こいつらと話をしているからな」
手の上の餌を喋んでいる小鳥を見せながら、木の上から降りてこないリンをユウは恨めしそうな顔で見ている。リンとユウは、3歳違いの兄弟である。兄の髪の毛は白髪で、弟が黒髪である事で、周りの子どもが金や赤や青と言った色の中では、一緒に居ると悪目立ちしてしまう。
「リン兄。ダメだよ。ニノサ父さんにもサビニ母さんにも、言われているんだよ。」「なんだよ。もう手を回しているのか?」「うん。もうみんなおじさんの所に集まっているよ。」「解った。解った。はい。はい。」
木から降りて、そのまま、村長の家に向かった。リンとユウの二人が暮らす村は、ポルタ村と言われ、アゾレム領の端に位置している。
「おぉリン」おじさんは集まっている子供を一瞥した。
「全員揃ったようじゃな。パシリカを受けてもらう事になるが、お前たちは、まず領主の街に移動してもらって、そこで、領主の後継ぎのウォルシャタ様達と合流して、ニグラまで行ってもらう。」「おじさん。シュトライトおじさん。」「なんだ。リン?」「俺、家の馬を使って、アロイまで行って、そこで知り合いに護衛をお願いして、マガラ渓谷を越えたいんだけどいい?」「おまえ・・・ニノサさんは知っているのか?」「もちろん。」「それで、何か有っても困るんじゃが・・・。」「大丈夫だよ。俺一人だからなんとかなるよ。ほら、何年か前のお姫様の時にも逃げて帰ってこれたからね。」「・・・あぁそうだな。いいぞ、リン。好きにしろ、そのかわり、ユウには言っておけよ。」「勿論だよ。」
「はい!」一人の女の子が手をあげた。
リンは、記憶の中から、女の子の名前を引っ張り出そうとしていた。行商をやっていて、この村に住み着くようになった所の子供で、"サラナ”という名前が出てこなかった。
「なんじゃサラナ。」「村長。私も、兄さんが明日からアロイ経由でニグラに行くのに同行して行きたいけどいいですか?」「ウーレンも一緒に行きたい。」
サラナとウーレンは、家も近いこともある仲がいい。村長はすこし考えている。護衛する人数が少なくなれば、村が負担するレインも少なくなる。けして安くないレインを払うのなら、すこしでも抑えたいと思うのは村を預かるものとして当然の事だ。
「そうじゃリン。」「なに?」
リンは、悪い予感がしていたが、それが当たっている事がすぐに解る。
「リン。サラナとウーレンとおまえでウノテさんの行商についていくのなら、3人の申し出を許可するぞ。」「・・・」「・・・」「・・・」
3人は知らない間柄ではない。リンは、村外れに住んでいるのが、父親のニノサはこの辺りでは珍しく、ニグラの守備隊の小隊長を任せられるほどの剛の物で、母親のサビニも、2属性の魔法が使える上に初級の白魔法が使える。その為に、二人で村の周りに出る魔物を退治する役割になっている。その二人が狩ってきた魔物の素材をサラナの家におろしているのだ。何度か、リンも狩りに着いていっている上に、素材を売る場所にも言っているので、自然と村の子供の中でも仲がいいと思える間柄にはなっている。ウーレンは、サラナの家の隣に居て、簡単な料理を出す食堂をやっているので、自然と遊ぶ事が多くなっている。
「わかったよ。サラナ。ウノテさんにお願い出来る?」「う~ん。大丈夫だと思うよ。」「ウーレンもいい?」「リン君も一緒なの?それなら安心だぁ!」
3人の提案が許可された。村長は、3人以外の6人に向かって、明後日隣村から子供と護衛がこの村に来るから、それに合流して、アゾレム街に向かうように指示している。村長としても、レインが3割ほど安くなるのはありがたい。
翌日になって、村から出てすこし行った所にある橋までユウはリン達を見送りに来ていた。
「サラナさん。ウーレンさん。リン兄をお願いします。もし、父さんと母さんが帰ってきたら追いかけるようにいいますので、それまでの間お願いします。」「大丈夫だぞ。ユウ。確かに、この村は端っこだけど、ニグラまではそんなに遠くないからな。」
3人はウノテさんの行商に混じって村を出た。リンは、当初馬で浮く予定だったが、ウノテさん達が歩きでの行商だったので、馬は諦める事にした。
2回ほど、夜営を行ったが、村近くの森の中で子供の頃から生活していた、リンは夜営もニノサから叩き込まれていた。パシリカまえでスキルも顕現していないが、十分な知識は持っている。
3日目には、行商隊は、アロイの街に着いた。アロイの街は、本来なら王家直轄領だが、距離や人材の関係上、アゾレム男爵に管理運営を委託されている。王国の中では、マガラ渓谷までがアゾレム領だという認識になっている。
リン達一行は、アロイの街で一泊する事になる。明日はマガラ渓谷越えで、最大の難所になっている。渓谷の深さも問題だが、一番は渓谷を超える時に、必ず魔物が襲ってくる事にある。それも、低位の魔物であるスライムやゴブリンだけではなく、リザードマンや時には、大型の魔物が襲ってくる事もある。あの魔物達は、どこからやってきて、どこに帰っていくのか一切解っていない。王家が3,000人を渓谷の奥まで調べさせた事が有るらしいが、その時に、神殿らしきものがある事は解ったが、そこにたどり着くことも入ることもできなかった。そして、潜らせた人間の98%が戻ってこなかった事実から、王家はこの地を封印した。この大陸には、似たような神殿と呼ばれる地下施設が有るらしい。誰も詳細は解っていない。
「リン君はどうするの?」「知り合いが、宿屋をやっているから今日はそこに泊まるよ。サラナとウーレンは?」「ウノテ兄さんの知り合いが新しく宿を開設したからそこに泊まる。」「了解。明日もよろしくな。それじゃ」
二人と別れて、リンはニノサの古い友だちがやっている宿屋に向かった。場所は、ニノサとサビニから聞いていたので宿はすぐに見つける事が出来た。
「あぁここだな。ニノサの友達で、これを見せれば解るって言っていからな。」
リンの手には短剣が握られていた。柄には宝飾の後があったがそれほど高価なものでは無いのは解る。それでも、サビニが大事にしていた物で、パシリカに行く時に、アロイに着いたら三月兎亭マーチラビットのアスタに見せろと言われていた物だ。
「すみません。ポルタ村から来た、リン=フリークス・テルメンです。アスタさんはいますか?」
奥から、すこし太いが女性の声が聞こえてきた「はぁぁぁい。すこし待ってね。サビニの息子のリン君だよね?」「はい。」
数分待っていると、奥からフリフリの服を着た可愛らしい女性が出てきた。女性の年齢は解らないが、サビニと同じくらいには見える。長い金髪を後ろで軽く縛っている。ただ身長がニノサと同じ位だから近くに来るとなにか違和感をリンは感じていた。
「あの、店長のアスタさんはいらっしゃらないのですか?」「サビニから聞いてないの?私が、店長の”ナナ”よ。アスタの名前は捨てたのよ。」「へ?」「あらあら。本当に聞いてないの?」「はっはい・・・。」
リンは何か見ては行けないものを見てしまった様な気分で居たが、気持ちを立て直して・・・。
「あっこれを、アスタさんに見せろと言われてきました。」「アスタじゃなくて、ナナ。いい、ナナよ。」「はぁナナさんに、これを見せればいいって言われています。」「はいはい。あぁ確かに、サビニの物ね。」「え?見て解るのですか?」「もちろんよ。あの子の事なら、ニノサの馬鹿に負けないんだからね。」「ニノサが馬鹿なのは認めますが・・・。それでこれは何なのですか?」「あぁそうね。君は、リン君でいいんだよね。」「はい。」「そう、それじゃちょっとだけ待っててね。」
そう言って、ナナは宿屋の奥に戻っていった。それから数分後に姿を表した時には、手が入る位の袋を一つ持ってきていた。
「はい。これが、リン君に渡してほしいといわれたものよ。」
袋を受け取ったが、何か入っている様子はない。
「これは?」「見るのは初めてなのかな?魔法の袋マジックポーチよ。」
魔法の袋マジックポーチ。それは、神殿近くまで入っていった物が持ち帰る事がある物だが、殆ど市場には出回っていない。どういう原理か解明されていないが、袋の大きさ以上にものが入る不思議な袋だ。リンが受け取った物は、その中でも(特大)と言われるサイズで、アイテム数として400種類。一個のアイテムに着いて、999個づつ入れる事が出来る。そして大きな特徴が、認証させた人以外では中身を取り出す事が出来ないという事だ。この袋にはすでに4人の登録がされているので、もう認証を追加する事が出来ない。ニノサとサビニとリンとユウが登録されていた。
「え?魔法の袋マジックポーチって、あの魔法の袋マジックポーチですか?」「どの魔法の袋マジックポーチかわからないけど、多分、その魔法の袋マジックポーチよ。」
「・・・・。」「特大サイズよ。多分、売れば一生生活には困らないと思うわよ。売る?」「・・・いえ、せっかくだから持っています。」「そうね。その方がいいでしょうね。」「アスタ・・・ナナさん。なんで俺にこれを?」「サビニからの祝いの品と。ユウ君の分も預かっているわよ。」「へ?あの・・・ナナさんは二人とは・・・。」「う~ん。まだ秘密かな。二人が大きくなってから、サビニが話してもいいって言ったら教えてあげる。女性には秘密があったほうがいいでしょ?」「じょせい・・・たしか、ニノサ父さんがいう・・・。」「な・に・か・し・ら?」「いえ、そうですね。妙齢の女性は秘密で美しくなりますからね」「あら解っているじゃない。」「・・・・あ、ナナさん。俺、これから、ニグラでパシリカを受けるのですが、その時にそんな物を持っていると襲われちゃってなくすと怖いので、帰り道に寄るので、その時まで預かっていただけませんか?」「いいわよ。今までは、サビニに頼まれていたからだけど、今日からは、リン君の頼みだって事でレインを貰うわよ。」「・・・・はい。どのくらい。」「そうね。ニノサを一発殴るでどう?」「え”解りました、それじゃ遅れたら悪いので、殴るだけじゃなくて、ころばして腹を踏むまで入れますから、預かってもらえますか?」「えぇ喜んで!」
アスタ。改めナナとリンは笑いながら握手をした。それから、魔法の袋マジックポーチの中に入っていた物で、すぐに使えそうな物を幾つか取り出して装備する事にした。明日は、マガラ渓谷越えだ。用心に用心を重ねても過ぎたる事はない。
リンは、ナナの宿屋で料理にも満足して安心して休む事が出来た。翌日に、ナナにパシリカが終わったらかえりに寄るから、その時に、ニノサの弱点を教えてもらう約束をした。
マガラ渓谷に入る順番待ちをしている、商隊を見つけて合流する。順番もまだまだ先の様だ。周りの商隊や同じようにパシリカに向かう集団も居た。口々に、マガラ渓谷に入る税が高くなっている事に不満を漏らしている。たしかに、今の領主になってから、アロイからメルナに拔ける時の税がメルナからアロイに拔ける税の倍近いレインが必要になっている。一応理由も存在しているらしいが、誰も納得していない。アゾレム男爵が自分の懐に入れているんだろうというのがもっぱらの噂だ。先々代までは常識的で善良な領主だったが、先々代がなくなって、分家から跡取りを迎えてからおかしくなったという噂もある。シュトライトのおじさんも似たような事を言っていた。税が毎年すこしづつ上昇しているとぼやいているのを何度も村の会合で愚痴っているのは子供でも知っている。まだポルタ村ではそこまで深刻な事になっていないのは、リンの両親であるニノサとサビニが魔物を定期的に狩って来ているので、その収入がある事や魔物討伐を行う為に領主から守備隊の派遣をお願いするときの費用が必要ないからだ。
リン達の番になった、まだまだ時間的には余裕があるがなにがあるかわからないので、荷物の検査を受けて、渓谷に入った。魔物が出ない事を祈りつつ、渓谷を渡れる場所まで降りていく。100m位降りた所で、一度休憩をして、隊列を整えてから更に降りていく。何本か橋がかかっているが、渓谷に入る時に、渡る橋を指示される。リン達が指示された橋は6番の橋だ。橋に向かい案内を見つけながら、更に降りて、橋を見つけて渡る。その後は道なりにあがっていけばよい。マガラ渓谷といえ、毎回魔物が出るわけではない。出くわさない時の方が多いのだ。リン達は無事、マガラ渓谷を越えて、メルナに到着した。メルナでアロイで渡された案内板を渡して、魔物に出くわさなかった旨を伝えてから、街に入った。
メルナの街は、貴族の別荘地になっている為に、安い宿屋は存在しない。高級宿屋だけがある。その意味からでも、アロイで休んで、いち早くマガラ渓谷を抜けて、メルナからすこし離れた場所で一泊してからニグラに向かうのが一般的な行程になる。
リン達もアロイで溜まった疲れを取ってからのマガラ渓谷越えでも、緊張感で疲れ切ってしまっていて、モクモクと歩いて休憩所までたどり着いた時には、倒れ込むようになってしまった。すこし休んでから夜営の準備をして、慣れていない、サラナとウーレンとリンは今日はゆっくり休ませる事になった。
行程も明日進んでもう一回夜営をしたら、ニグラに着くことが出来る。疲れもあって、リンはあてがわれたテントに入るなり死ぬように寝てしまった。

「【旧】チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く