【旧】チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

幕間 パーティアック

リン様から、監視を言われてから2週間が経過している。本当に、監視対象者が"リン様達”の敵なのか疑ってしまいそうになる。定期的に報告を上げていて、その都度、リン様から質問が寄せられる。気になさっているのは間違いないだろう。
リン様に理由を説明して、監視する方法を変更した。全員に、3名づ付いていても殆ど動かないので、ポイントで監視する方法に変更した。ヴァズレの街は、日に日に荒れていくのが解る。かろうじて、北方連合国ノーザン・コンドミニアムから商人が来ては居るが、ヴァズレに取引を行う物がなくなってきていて、ヴァズレ領内の家や屋敷の中に有った物を勝手に売りさばいている。それでも足りなくなってきたのか、どこからか領民を捕まえてきて、奴隷として売りさばき始めている。生産活動は、一応行っているようだが、芽吹くまでに時間がかかるような事をやるつもりはあまりないようだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おい。立花?三塚はまだ戻らないのか?」
立花と呼ばれているのが、どうもリン様達が一番気にしている人間のようだ。ステータスだけを見れば、たしかに脅威ではあるが、人間の中での最高位でしかない。リン様は愚か、一番弱いと言っている、エミール殿や下手をするとマルティン殿と同じかすこし下位でしかない。
「三塚?あぁそう言えば、まだ戻ってきてないな?どっかでよろしくやってんじゃないのか?」
三塚と呼ばれていた人間は、リン様が捕虜にしている。今、マガラ神殿の中で”丁重に過ごしてもらっている”もう心は折れているだろうけど、リン様は続けろとお命じになっている。すごく簡単な事で、目の前で自分の腕や足を切り落として、ポーションで足と腕を復活させてから、切り落とした腕や足を解体して、監獄の外に居る魔物に喰わせたり、焼いて自分の食事にさせたりしている。その三塚が居なくなっても探そうとしない辺りは仲間意識が希薄なのか、信頼しているのかよくわからない。
「そういやぁ冴木。魔物は居たのか?」「あぁダメだ。動物も見当たらねえ。すこし足を伸ばして、国境の街シャルムまで行ってみたけど、野うさぎしか見つけられなかった。」
これは、リン様が最初に行った事で、魔物に関しては、意識ある者は、話をして眷属化を推奨して、そうでない者は全て狩り尽くした。動物に関しても、捕まえては、島に移送するようにしている。今、この辺りに居るのは取り逃がした者やほかから流れてきた物になっている。魔物の発生ポイントは抑えてあげるので、そこを見張るようにしている。だから、冴木といわれた者が探しに出ても、魔物や動物を見つける事が出来ないのは当然の事だ。採取出来る物も、できるだけ採取してしまおうと思っている。
「そういやぁ加藤と山崎と川島は?」「あぁ商隊を襲ってくるって言っていたぞ。」
3名が屋敷を出ていったのは確認している。6名が監視で着いていっている。商隊を襲って何になると思ったが・・・。
「あぁあの商隊だろう?」「そうそう、アドゥナから来て、ホレイズに寄って、ここで買ってから、北方連合国ノーザン・コンドミニアムに向かうとか言っていた奴らだろう?」「あぁこれから買い付けをおこなうらしくて、レインもたんまり持っていたからな。それに、俺らから買っていった物も持っているからな。全部変えしてもらおうと思ってな。」
これは・・・ダメだ。救えそうにないし、救う為の理由が見つからない。ギルドに属している商隊なら、我等が出ていって、救う事も出来るが、そうじゃないので、それも出来ない。そもそも、アドゥナから来ている商隊を襲うってこいつら大丈夫なのか?証拠は残さないだろうが、監視している眷属は映像珠で録画をするだろうから、直接の証拠にはならないが、心証はかなり悪くなっていくだろう。それに、そんな事を続けていれば、商隊も来なくなってしまうのではないか?
「おぉ西沢はどしているんだ?」「立花となんか話して、細田と橋本と出ていったぞ」「おぃ立花。どういうことだよ?」「うるせぇな。西沢がなんか、このままだとジリ貧だから、国を乗っ取るとは言っていたぞ。それで、細田と橋本のスキルが必要だって事だから、3人で行かせた。」「どこに?」「あぁ北方連合国ノーザン・コンドミニアムのパーティアックとかいう国だな。往復で一ヶ月位だって話しだから、そろそろ向こうに着いたんじゃないのか?」
◆◇◆◇◆◇◆◇
ヴァズレ街の屋敷から、3名の西沢・細田・橋本が出て馬車を乗り継いで、やってきたのが北方連合国ノーザン・コンドミニアムのパーティアックだ。
パーティアップ自体は、元々は違う場所に国を開いていたが、紛争で破れた貴族が北方連合国ノーザン・コンドミニアムに流れてきて建国したのがきっかけで比較的若い国だ。宗教的には古く、大陸の中でも古い方の宗教になっている。パーティアック教は、人以外は悪で人が堕落した姿であるという教えが基本にあり、人の英雄を求めている宗教だといわれている。トリーア王家の初代との因縁もあり、パーティアック教の当時の大司教は初代を祭り上げようとしたが、初代は”俺は、エルフも獣人も好きだ”といって話を聞かなかったんだという。トリーア王家で、パーティアック教が信仰されていない理由はそこにある。宗教には寛大であった初代ではあるが、パーティアック教だけは布教する事をゆるさなかったんだという。
そんなパーティアック教の総本山がある。パーティアック国に、3名は来ている。すでに、2日が経過している。最初、街の教会に自分達のステータスを確認させて、「英雄王と共に居る者」と名乗っている。徐々に教会の人間と合っている事はわかる。明日には、司祭にあう事になっているという。数名の司祭がステータスを確認して、大司祭にあう手筈のようだ。
ここまでをリン様に緊急で伝えた所”かんじ”を確認させているのだろうと言っていた。真命が読めない文字になっているのが英雄の証だと考えられている。パーティアックと話を付けに来たのだろう。司祭との会談も終わったようだ。明日には、大司祭にあう事になったようだ。教会内部にも忍び込みたかったが、結界が張られているために、教会内部に忍び込むのは止めておく事になった。リン様からは、そこまでわかれば十分で中でどんな話になろうと、結果は予測できるといわれた。
大司祭との面談も教会内部でする事になったようで、監視対象が出て来るまで待つ事にした。2時間程度で、会談が終わって出てきた。大司祭が、3名を送るといった対応から、会談は3名にとっていい方向に決着したのだろう。
「西沢。よくわからなかったけど、俺ら必要だったのか?」「あぁ俺一人だと、甘く見られただろうからな。3人居る事で、もっとこっちには居るって言うのが伝わっただろうからな。」「へぇそうか、やっぱり、おまえはいろいろ考えているんだな。」「そりゃぁそうだ。俺は死にたくないからな。神崎達が死んでいる可能性が高くても、手を抜くつもりはないからな」「そうだな。まぁおまえに任せる!」「あぁ悪いようにはしないぞ。安心しろ。」
「それで、一旦、立花達の所に戻ってから、またここまでくるんだよな?」「あぁそうなる。」「それでここの国王の客分って事になるのか?」「いや、違う。俺たちは、勇者や英雄になる。」「は?」「正確には、立花がだけどな。俺たちは、立花の部下として、ここに戻ってきて、教会からの依頼をこなすって感じだな。」「それで、館や身の回りの世話をする人をって話になったんだな」「そうだぞ。全員に10名づつの従者が付くからな。」「女か?」「さぁな。でも、英雄の世話をするんだから、ある程度はいいだろうな。」「そうか、それならいいな。」「それにな・・・。」「それになんだよ?」
「しっ!誰かに後つけられている?」「教会か?」「わからん。用心しておいたほうがいいだろうな。」
俺たちの尾行は後ろじゃなくて、前面と側面だから、バレては居ないようだ。確かに、後ろから教会関係者が数名尾行しているようだ。稚拙な尾行だから、見破れたのだろう。
「・・・大丈夫そうだな。」
監視していた一人に指示をだして、尾行していた奴らを排除した。
「もう居ないのか?」「あぁ俺の勘違いだったのかしれないな。」「ま、今居ないのならいいんじゃないのか?」「そうだな。あぁそれでな。最初に立花と山崎と後数名だけで、パーティアック領に向かってもらって、後は順次って感じで考えている。」「そうか、その辺りは、立花を含めて決めるんだろう?」「あぁそうだな。」
捕縛のタイミングが出来たかもしれない。こいつらなかなか一人にならないので、捕縛が出来ないでいる。リン様からは無理しないでいいといわれているが、一人だけって言うのは、自分たちが許せなく思えてしまう。今日の事を踏まえて、アッシュ殿に報告をして、リン様のご指示を仰ぐ事になるだろう。
話を統合すると、パーティアックとしては数代前の大司祭が出来なかった、自国に英雄を招いて、意のままに扱う。立花達としては、安定した本拠地が出来上がる。双方にとってメリットがわかりやすいのだろう。
「そういやぁ西沢。ヴァズレ街はどうするんだ?」「・・・う~ん。パーティアックに売っちゃおうかと思っているんだけどな。」「へぇ買ってくれるなら売っちゃおうぜ!」「あぁ俺たちの物じゃないけど、売れるのなら売っちゃえばいいんだからな。その為に、数名残ってもらって、パーティアックから、守備隊を送ってもう事になる。それが揃ったら、俺たちは、パーティアック街に移動する。」「ほぉそれならいいな。遊んで暮らせるとまではいわないけど、かなり楽になりそうだな」「あぁそうだな。」
馬車に乗り込んで、ヴァズレ街に帰るようだ。俺も、ヴァズレまで戻った位で、監視任務から待機任務に変わる。交代する時に、アッシュ殿とリン様に報告出来るだろう。それにしても、アゾレムの監視から始まって、ついには、パーティアック領まで手をのばす事になる。

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