【旧】チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

幕間 二人の勇者

「ロベールさん。ロベールさん。」「ロベール!起きて!」
誰、私を呼ぶのは?すごく眠いんだよ。寝かせてよ。いいよね。疲れたんだよ。
「ロベール!起きろ!起きないとキスするぞ!」
ジェシカ?ジェシカならいいよ。
「!!あっジェシカ。無事だったのね?」「『あっジェシカ』じゃないわよ。イリメリさんの膝枕で寝て・・・。」「え?」
確認したら、本当に、イリメリさんの膝を枕にして横になっていた。上には、イリメリさんが来ていた外套がかけられていた。
慌てて起きたら、すこしめまいがした。「ほら、慌てなくていいよ。それよりも、これで全員?」
辺りを見回すと、ルイとホアロも何か話している。「はい。この4人です。」「そう・・・。先に謝っておくね。ゴメンなさい。私達がもっと早く駆けつけていたら、状況をもっとしっかり把握出来ていたら・・・。」
なぜ、イリメリさんが謝らなくてはならないのか解らない。私が、不思議そうな顔をしていると、ジェシカが「ロベール。ヴェスタ街は・・・。」「そう。」
私が、冷めているのが不思議だったのか、イリメリさんと一緒にいた女性が「私も見てきたけど、多分街の人は誰も生き残っていないと思う・・・。」
なぜそんなに申し訳無さそうなのか解らない。悪いのは、ホレイズに居た、領主や領主の息子達で、イリメリさん達ではない。そのくらいの事は私にでも解る。お父さんやお母さん。お兄ちゃんがどうなっているのか・・・多分、死んでいるのだろう。でも、私は、ジェシカさえ居ればいい。冷たいと感じられてしまうかも知れないけど、ジェシカさえ無事で私の側にいてくれるのなら、他には何もいらないし求めない。
「今、仲間が、ホレイズ領主と戦っているけど、そっちは問題なく勝てると思う。そうしたら、ヴェスタ街に行けるようになると思うけど、どうする?」
私は、正直に言えば、ヴェスタ街にジェシカを連れて行きたくはなかった。ジェシカが復讐を誓うのはわかりきっている。そして、ホレイズ領主を倒しに行くと言い出すかもしれない。私は、それを止められないだろう。二人で、攻めるには守備隊もまだまだ居るだろうし、遠すぎる。ジェシカを見つめていると「イリメリさん。フェムさん。僕は、ヴェスタ街には行きません。マノーラ侯爵が攻略したといわれる、迷宮ダンジョンで強くなりたいです。限界突破リミットブレイクなんて役に立たないスキルだけど、強くなりたい。その近道は冒険者になって、迷宮ダンジョンで戦う事だと思っています。」「ジェシカさん。それは、冒険者になればいいだけです。」「本当ですか?」「えぇリンが攻略した迷宮ダンジョンはいくつかあります。まずは、マガラ神殿かアップルグッド神殿で地力を上げればいいでしょう。強くなる事は、手段であって目的じゃないですよね?」「・・・。」「ジェシカ?貴女・・・。」
「ロベール。ゴメン。でも、許せない。父さんを兄さんを・・・。でも、僕には力がない。復讐するだけの力が欲しい。僕は、僕は、僕は・・・。」「ジェシカ。私を見て」
ジェシカが涙を貯めながら、私をまっすぐに見つめてくる。この目の為なら、私は、鬼にでも悪魔にでもなろう。それが、ジェシカが望んだ道なら、一緒に歩こう。笑いながら、修羅にでもなろう。「ジェシカ。私も一緒に行く。」「ロベール。」「うん。父さんや母さん。兄さんの仇を取りたいんじゃない。ジェシカ。貴女が望んだ道を一緒に一生歩む。」「ロベール・・・でも、死ぬかも知れないんだよ?ううん。多分、殺されちゃうよ。」
そんな泣きそうな声を出さないで、切なくなってしまう。「いいよ。それが、貴女と一緒なら、それは私が望む事だから・・・。」
場になんとも言えない雰囲気が漂っているのはわかる。今、私は最高に恥ずかしい気持ちになっている。周りを気遣う余裕なんてどこにもない。吸い込まれそうな、大好きなジェシカの瞳をまっすぐ見ているだけで精一杯なのだ。
「ジェシカさん。ロベールさん。ひとまず、身体を洗ったり休んだりしませんか?」「「は?」」
急に、フェムさんといわれた女性が、場違いな事を言い出した。身体を洗う?ここで?休む?
ジェシカが、目線を外して、フェムさんを見つめた。その眼は私を見つめるためにだけ使って欲しい。そんな事が出来ないのは解っているが・・・。「どこかに移動するのですか?」「ううん。ちょっと離れて・・・。ほら、こういう物を使うの!」
え”なにこれ?急に家が出現した?え??
ジェシカとルイとホアロも同じような顔をしている。でも、イリメリさんは知っていたのだろう。「フェム。そっちだと、6人は辛いよね?」「あぁそうか、イリメリの方なら、8人までOKなんだっけ?」「うん。リンの部屋があるから、そこはダメとしても、7人までならOKだよ。でも、お風呂は、そっちの方が広いんだよね?」「そうだね。あっ!でも、でも、ほらイリメリ。3部屋でよくない?」
イリメリさんが、私とジェシカを見て、ルイとホアロを見て、微笑んでいる。「そうみたいだね。それじゃ、キッチンも広いし、お風呂も広いから、今日はフェムの方を使おう。」「了解。」
何言っているの?お風呂?キッチン?えぇ???
「ねぇロベール。イリメリさんとフェムさんが何言っているのか解る?」「ジェシカが解らない事が私に解るとおもう?」
イリメリさんとフェムさんが従者だと思われる獣人っぽい人に何やら指示を出している。それを聞いた獣人っぽい人たちは、4つに分かれて森の中に入っていった。
「それじゃ入りましょう。大丈夫ですよ。このカプセルハウスは、リンが作った物で、中も快適ですし、防御結界が展開していますから、魔物程度では突破できませんし、守備隊位なら防げますからね。」「ほら、入った、入った、ルイとホアロもおいで!」
フェムさんに、連れられて、ルイとホアロが、家の中に入っていく。その後で、ジェシカが入っていった。
「ロベールさん。ジェシカさんの事を大切に思っているみたいだね。」「・・・・はい。世界で一番大切でジェシカ以外はいりません。」
そんなセリフを聞いても、イリメリさんは変わらない声で「そうだね。私達もリン以外は要らないんだけど、リンは、自分以外の全員を助けたいって思っているんだよね。多分、ジェシカさんも同じだと思うよ。ロベールさんは苦労すると思うよ。何か、困った事があったら、ギルドに行って、”イリメリ”か”フェム”を頼ってね。」「・・・・はい。ありがとうございます。」「うん。ロベールさんも、入ろう。きっとびっくりすると思うよ。リンの馬鹿が無自覚にも好き勝手作った物だから・・・。」
そう笑いながら、私の背中を押して部屋の中に入っていく。そもそも、何もない所に家が出た時点で非常識だと思わずにはいられない。これが全部魔道具だといわれても、どうやって作ったのかさえも解らないような物を作って、それを平気で使っている事が信じられなかった。
そんな思いも、部屋に足を踏み入れたら霧散した。フェムさんの出した部屋は、一軒家と思われる位の広さがあった。外から部屋に入ったら、イリメリさんに、そこで靴を脱いで。といわれて、言われるままに、履いていた靴を脱いだ。素足で過ごすようだ。
床は、ふかふかの布がひかれていて、すごく綺麗だ。汚れた足で歩くのがもったいないと思えてしまった。ホアロははしゃいでいる。フェムさんにいろいろ質問をしてる。ルイとジェシカは、入った部屋のテーブルの椅子で固まっている。
「そんなに緊張しないでいいよ。私達しかいないんだからね。」
ホアロがふかふかの絨毯を上を転がっている「ジェシカ姉。この床すごく気持ちいいぞ。」「うん。ホアロ。床が汚れちゃうでしょ。」「いいよ。ジェシカさん。洗えばいいだけですからね。それよりも、疲れているだろうし、話しはお風呂に入ってからにしましょうか?」「お風呂?本当にあるんですか?」「うん。あるよ。ホアロ君はどうするの?一緒に入る?」「それは・・・。」「私が、ホアロと入ります。ジェシカさんとロベールさんは先に入って下さい。」
ルイは、一度王都で入った事があるという事だ。「へぇルイちゃんは、ラーロ宿屋のお風呂に入ったんだ?」「あっはい。一緒に行った子が絶対に入りたいって言っていたので、それに付き合いました。」「そうかぁそうかぁそれなら、大丈夫だね。あそこまで豪華じゃないけど、普通にくつろげると思うからね。先に、ルイちゃんとホアロ君がお風呂に入ってきて、フェムが案内してくれるからね。」
イリメリさんの提案だったが、そのまま従う事にした。フェムさんが、ルイとホアロを連れてお風呂に向かった。
ジェシカは、緊張の糸が切れたのか、眠そうにしていたと思ったら、テーブルに伏して寝てしまった。イリメリさんが、どこから出したのか解らないけど、柔らかそうな布をジェシカの肩にかけてくれた。無意識なのか、ジェシカはその布の端っこを握ってくるまるようになって寝息を立て始めた。「ロベールさん。緊張するなという事が無理だとは思いますが、ここは安全です。それだけは保証します。」「・・・。」「どうしました?」「いえ、なんでそこまでしてくれるのかと思っただけです。」「あぁそうですよね。でも、簡単な事です。私もフェムも、リンの為に動いているだけです。」「リンというと、マノーラ侯爵様?」「そう、リンが、貴女達を救う事を望んだから、それ以上は私達には関係ない事。リンが、誰も救えなかったと考えないように、貴女達を守っている。ただ、それだけ、だから、貴女達は死なせない。」「・・・。一つ聞いていいですか?」「なぁに?」
「貴女達は何者ですか?」「その言い方は酷いな。普通の人族ですよ。」「・・・それでは、なんで、ステータスが見られないのですか?」「あぁそれはね。これも、リンの作った物だけど、ステータスを隠す魔道具を身に着けているからよ」「魔道具?」「そうね。私のステータスを見せてもいいけど・・・。」
そこで、イリメリさんが言いよどんだ。何か理由があるのだろうか?黙って、イリメリさんを見つめていると・・・。「絶対に、誰にも言わないと約束できる?」「勿論です。当然の事です。」「それと・・・。」
まだ何かあるようだ「それとね。絶対に、声を出さないで貰えるかな?」「え?いいですよ。」「約束だよ。もし、声を出したら、貴女の大事なジェシカさんにキスするからね。」「え??駄目です。」
冗談の様な事を真顔で言われてどちらに取っていいのかわからなかったが、正直に答えた。それから、イリメリさんが魔道具を外して、左手を差し出してきた。それに触れて、ステータスを確認した。
正直、声を上げるどころではない。目の前に居る。同い年位に見える女性とステータスがあまりにもかけ離れている。そして、全属性の魔法が仕える上に全て最大値をしめしている。ステータスの数値にしても、間違いじゃないのかと思える数値になっている。それだけではない。通常エクストラスキルは一つ顕現するだけでも大騒ぎになるのに、4つも顕現している。それに、詠唱破棄や物理攻撃や魔法攻撃を防ぐスキル。よくわからないスキルまである。
「どう?納得した?」
納得した?
「あっはい。隠されている理由が解りました」「うん。それに、私は一番弱いかも知れないからね。リンやミルはもっともっとすごいよ。」
笑いながら言っているが、その意味が解らない。魔道具を身に着けながら、そう笑っているが、私からみたら、イリメリさんも異次元の強さで初代様にも匹敵するのではないかと思えてしまう。
沈黙が場を支配した「あの・・・イリメリさん。」「なに?」「いえ・・・。なんでもないです。」「うん。貴女は強くなれるよ。大事な物があるんだし、守れるようにならないとね」「・・・・はい。」
そうだ、ジェシカはこれから強くなると言っていた。私もジェシカの横に居るために強くならないとダメだ。強くなって、ジェシカと一緒に居る。その為に出来る事はなんでもするし、利用できる事はなんでも利用する。
「イリメリ。ルイちゃんとホアロ君がお風呂から出たよ。入ろう。」「うん。先に入って、ルイちゃんとホアロ君を待たせるのも悪いからね。」「わかった。シャワーだけで出てくるよ。」「うん。ゴメンね。」「いいよ。ちょっとまってね。」
お風呂から出てきた、ルイは何やらすごく興奮していた。ホアロも、お風呂がすごかったと言っている。今は、それ以上にイリメリさんのステータスが頭から離れない。それに、隣で寝ているジェシカが起きないか、起こしたほうがいいのかをかんがえて、上の空で聞いていた。フェムさんがお風呂から出てきた。本当にすぐに出てきてくれた。
「ルイちゃん。ホアロ君。すこしお手伝いしてほしいけどいい?みんなのご飯作るから、手伝ってほしいんだけどいいかな?」「はい。わかりました」「うん。俺お手伝いする。」
フェムさんが二人を、キッチンと呼ばれる場所に連れて行った。なにやら、ルイやホアロのびっくりした声が聞こえてきたが、粗相をしなければいいなと思ってしまった。
「ロベールさん。お風呂に行こう。ジェシカさんを起こして・・・ね。」「・・・はい。ジェシカ。ジェシカ。起きて、お風呂に入ろう。」「・・・うぅぅん。お兄ちゃん・・・。」「ほら、ジェシカ。」
身体をすこし揺すったら、起きてくれたようだ。「あぁロベール。どうしたの?僕寝ちゃったの?」「そうだよ。安心して寝ちゃっていたよ。」「そうだね。すごく可愛くて、ロベールさんが遅いそうだったのを押さえるのに必死だったんだからね。」
なんてことを言うんだ。この人は?っと思って、ジェシカを見ると、かおを赤くして俯いてブツブツいっている。(僕が可愛いって・・・。それに、ロベールの方が・・・。)「ほら、ジェシカさんも起きたからお風呂に入ろう。」
そう言われて、イリメリさんに手を引っ張られながら、お風呂に向かった。イリメリさんは、手際よく服を脱いで何か解らない箱の中に入れておる。
「あぁ脱いだ物はその中に放り込んでおいて、後で洗うからね。」「えっいいです。それに・・・。」「いいから、いいから!」
そういって、私が数日着ていて汚れている服や下着をその箱の中に入れた。「ほら、ジェシカさんも、脱いで、脱いで!」「え・・・あっあい。」
あっ噛んだ。可愛い。って思っている間に、ジェシカも服や下着を脱がされていた。水浴びでは下着姿になる事はあったが全裸になる事は殆ど無い。もっともっと小さかったときに見ただけだ。「ふぅ~ん。フェム。ジェシカさんがBで、ロベールさんがCだとおもう。アンダーはMで大丈夫だとおもう。下は、二人共とりあえずはMでお願い。」
何を言っているんだろう?外から声が聞こえてきた「了解。用意しておく。イリメリは?」「私は大丈夫・・・あるよね?」「うん。いつもの所に入っていると思うよ。」「ありがとう。」「いいえ、優秀な従者がいますからね。」
「ほら、二人ともお風呂に入ろう。身体と髪の毛洗わないとね。せっかく綺麗な色なんだから、しっかり手入れしないとね。」
イリメリさんに手を引っ張られながら、脱衣所といわれた場所からお風呂に入った(はぁここがお風呂?貴族でもこんなお風呂はないよ?)ジェシカも同じ思いなんだろう。目が丸くなっている。
それから、イリメリさんに身体をなんか解らない布で洗われて、すこし痛かったけど、すごく気持ちよくなった。背中だけじゃなくて前も洗うといわれたが、流石に・・・自分で洗わせてもらった。その代わり、ジェシカは私が念入りに洗った。何か文句をいいたそうにしていたけど、前もしっかり全部洗った。私は、これだけで満足しそうになった。
でも、その後で、イリメリさんが、私の髪の毛を洗ってくれた。これがすごく気持ちよかった。勿論、イリメリさんがジェシカの髪の毛を洗おうとしたのは全力で阻止して、私がジェシカの髪の毛を洗った。これは、毎日でもやりたい。その後、お湯に身体を浮かせたら・・・・。これは癖になりそうな位に気持ちがいい。最初は、ジェシカも怖かったのだろう。私の手を握ってきたが、大丈夫だと解ると、一人でお湯に使っていた。贅沢なものだとは知っていたが、これだけのお湯を用意して、身体を浮かべるだけに使うなんて大貴族でしか用意出来ないのは当然の事だろう。
お風呂から出て、脱衣所に戻ったら、さっき着ていた物を入れた箱がなにか振動しているのが見えた「イリメリさん。あれは?」「あぁ洗濯機だよ?」「え?どういう・・・」「上から見ればわかるよ。ちょっとおもしろいかもよ」
そういわれて、ジェシカと二人で洗濯機といわれた物を上から見たら、中に水が入っていて、着ていた物を洗っているのが解った。ジェシカも全裸な事を忘れてしまうように食い入るように見ていた。回転していたかと思うと止まって反対に動き始めたり、泡が出ているという事はなにか洗っているのだろう。全部、魔道具なのか?こんな魔道具聞いたことがない。それとも、ニグラではこれが当然なのだろうか?
「ほら、お風呂から出て暖かいかも知れないけど、身体拭かないと風邪引くよ。」
そういって、渡された布がとてつもなく柔らかかった。イリメリさんも同じ布を持って身体を拭いている。これは、濡れた身体を乾かすものなのだ。こんな高価そうな物で身体を拭くなんて・・・と思っていたが、躊躇していると、イリメリさんに身体を拭かれてしまった。布の肌触りがすごく気持ちよかった。
それから、イリメリさんに服と下着だと言って渡された物を見た。服は解る。それも、普段私達が着ているような物ではなく、高級な物だって事がわかる。下着と渡された物もわかるが・・・。下は解ったが、小さくないかと思ったが、履いたらすごく密着して気持ちがいいし安心出来る。そして、上もサイズ的にはすこし小さいけど、優しく包み込んでくれる。あぁぁぁさっきのはこのサイズだったんだ。確かに、私の方がジェシカよりもすこし大きい。でも、ジェシカも前見たときよりも大きくなっている。それでさっきの暗号のような物は、サイズだったんだ。なんとなくジェシカと顔を見合わせて恥ずかしくなってしまった。
イリメリさんの付け方を見よう見まねで付けたが、やはりダメだったようで、イリメリさんに怒られてしまった。女の子なんだから、形にも注意しなさいっといわれて、付け方を教えてもらった。しっかり付けたらさっきよりももっともっと楽になった。ニグラは進んでいるな。
それから、部屋に戻ると、料理がテーブルに並べられていた。ルイやホアロが手伝ったというが、見たことない料理の中に、普段食べているような物はなかった。パンも白くて柔らかい。そして一番ビックリしたのが、”たんさんいんりょう”とかいう物だ。冷たい飲み物を出されて、一口飲んだときに、口の中で何かが爆発したのかと思う位の衝撃を受けた。様子を見ていると、ルイとホアロは手伝いの最中に飲んだのだろうニヤニヤしていた。出される料理はどれも暖かく、美味しかった。そして、イリメリさんやフェムさんは何を聞かないでホアロやジェシカが話す事を黙って聞いていてくれた。
皆が食べ終わって、イリメリさんが「これから、辛い話をするけど、ジェシカさん。ロベールさん。ルイちゃん。ホアロ君。聞くか聞かないかは君達の判断に任せる。先に、私とフェムの意見をいうと、君達は話を聞かないで、このまま、貴女達の事を誰も知らない場所。例えば、南方連合国サウスワード・コンドミニアム辺りのリンの領地で暮らす事をおすすめする。今日のようなとまではいわないけど、ある程度の事は私とフェムの責任に置いて保証します。どうですか?」
「・・・・。」「・・・・。」私の考えは決まっている。自主性がないといわれようと、ジェシカと一緒に居る。ジェシカが、それでいいというのなら、私はそれに従うつもりでいる。イリメリさんもそれが解っているのだろう。私ではなく、ジェシカとルイを見ている。
「私は・・・。ホアロの安全が一番に考えます。その為なら、私が奴隷になっても構いません。」「奴隷になる必要はないですよ。ルイちゃん。ホアロ君は、今何歳ですか?」「ホアロは、今年10歳になります。」「そうですか、フェムいいよね?」「うん。最終的には、ナッセの承諾は必要だけど、私達向けの枠はまだあるでしょ?」「うん。」
それから、イリメリさんがルイの方を向いて、「ルイちゃん。貴女は、話を聞くんですね。」「はい。そのつもりです。でも、弟は、ホアロには私から聞かせたいです。」
ホアロを見ると、緊張していたのだろう、無理にはしゃいでルイを安心させたかったのかもしれない。今は、ルイの腿を枕にして寝てしまっている。「解りました。それでは、ホアロ君には悪いけど、先に寝室に入ってもらいましょう。」「はい。ありがとうございます。」
フェムさんが、ホアロを抱きかかえて、奥に入っていった。寝室があるのだろう。ルイも一緒についていって、寝かしつけたのだろう。二人が戻ってきた。「ルイちゃん。貴女は、パシリカは?」「はい。今年受けました。」「そうなのね。それなら、マガラ神殿の事やマノーラ侯爵の事は、噂でも聞いたでしょ?」「あっ・・・・はい。」「うん。いいよ。何も怒っていないからね。」「はい。」「そこで、学校の事は聞いた?」「はい!聞きました。ギルドに所属したら、勉強をしながらご飯食べさせてもらったり、レインをもらえたりするんですよね?」「そうそう、だいたい合っている。」
なぜか、イリメリさんもフェムさんも笑いを堪えているように思えた「ルイちゃんは、もうパシリカを負えちゃっているから、レインは無理だけど、学校には入れる。ホアロ君は、学校に通えるけど、二人には、まず学校に行ってもらいます。そこで、基礎的な事を勉強してきたら、ギルドで働いてもいいし、二人で冒険者になってもいいし、なんならラーロさんの所で働いてもいいよ。」「・・・本当ですか?」「うん。本当だよ。」「ありがとうございます。ホアロと話をして決めます。」「そうだね。辛い話の前に、目標が決まるのはいいことだからね。それで、ジェシカさんとロベールさんはどうする?」
「私は・・・」「僕は、話を聴きます。ヴェスタ街がどうなっているのか?そして、何が原因だったのか?それを聞いて、これからどうしたらいいのかを考えます。」「ロベールさんは。ジェシカさんと同じ考えなんですよね?」
頷くことしかできなかった。
「解りました。それでは、辛い話になると思いますが、私達が知っている事をお話しましょう。」
そう言って、語られる話は、ニグラで発生した事。それに寄って、トリーア王家が二派に分かれて争っている事。そして、その争い私達の街が巻き込まれた事。そして、ジェシカのお父さんが伯爵の息子に殺された事。ルイが話してくれた事で間違っていなかった事。
・・・そして、それをマノーラ侯爵に知らせて、死んでしまった、使者が、私の兄さんであろう事。それを知ったジェシカがつらそうにしていたので、大丈夫。兄さんもしっかり役目を終えた事を誇りに思っていると伝える事しかできなかった。
本当に、ジェシカはイリメリさんが言ったように・・・・。
それから、私の手を握っていたジェシカから力が伝わってくる事を感じた。ジェシカに何か新しいスキルが顕現したのか?それとも気のせいなのか・・・。
イリメリさんとフェムさんの話を聞いた、ルイは一言「私は、ホアロを守ります。何が有っても、それが父さんと母さんが望んだことだから・・・・。」
ジェシカは何も言葉を発していないが解る。握った手から伝わってくるのは、復讐心ではない、ただただ悲しみの感情だけだ。握られた手の上に、もう片方の手を重ねて「ジェシカ。」「・・・。」「私は、ジェシカの味方。王国中が敵に回っても、私はジェシカの味方だよ」
それだけは伝えておきたかった。ジェシカは何かを答えているようだ。イリメリさんとフェムさんは何を察してくれたのだろう。ルイを連れて、寝室の方に入ってくれた。ドアを閉める音が部屋に響いた。
「ロベール。ロベール。ロベール。僕は、僕は・・・。」「いいよ。わかった。でも、泣くのは今だけだよ。これからは、二人で皆の仇を取るんでしょ。」「うん。うん。ロベール。ありがとう・・・。」
それだけいうと、ジェシカは私の顔を見てニッコリと笑ってくれた。目には溢れるのを待っている涙を貯めながら・・・。

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