【旧】チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

幕間 ランパス神殿

宿屋の朝は早い。特に、このランパス中央宿屋の朝はものすごく忙しい。私も、宿屋の娘として家の手伝いをして育ったので、宿屋が忙しいのは理解しているが、ここはいろんな意味で異常だ。部屋数が異常なほどに多い。客室が豪華、料理が美味い、風呂が大きい。あと、あと、そうだ。宿泊料がとにかく安い。それでやっていけるのかという位安い。これだけで魔道具が使われているのなら、倍。イヤ、三倍の値段にしなくてはやっていけない。一番高い部屋でも、ニグラの宿屋と同等で、安い部屋だと、村にあるような簡易宿泊施設と同じ値段になっている。料理は別会計になっているが、それもお風呂にただで入れる事を考えればマイナスではない。むしろ、フードコートで安く美味しい物を食べられるとなったら、その方がいいのではないかと思われる。コテージなる部屋があるが、これは普通の家と同じになっていて長期滞在者用の施設だといっている。コテージに配置された時には、二人体制で食材の補充や部屋の掃除を担当する事になっている。チップをくれる人も多いので、人気がある配置先になっている。これだけでも異常なのに、一番私達を驚かせたのが、従業員の宿舎になっている場所だ。
最初案内された時には、場所が解らなかった。14階層といわれたが普通に明るいし風も感じる事が出来る。中央に転移門トランスポートがある建物があるのはいいが、その周りにマノーラ侯爵の領地では必ずといっていいほど存在している公衆浴場がある。”銭湯”と呼ばれているが、やっぱりここにも存在している。中央の転移門トランスポートが入っている建物は、食堂も兼ねているので、お風呂は好きな時間に使っていいし、ここで食べるのなら無料だけど、外で食べても勿論問題ないといわれた。
これでも十分が異常だったが、一緒に採用が決まった人たちは、皆この程度では驚いていても、”マノーラ侯爵関係だからな”で納得している所がある。私も、そう思っていた。
中央の説明が終わった所で、宿屋のオーナであり、ランパス街の代官を務めるラーロさんが来られて、「宿舎は決まった?」と案内している人に聞いている。私達は、皆首をかしげるだけだった。宿舎も何もまだ案内されていないので、決まっていない。
その旨を代表して、一番年上っぽい男性が答えている。そうしたら、いきなりラーロさんが笑いだした。「やっぱり、そう思うよ。あの馬鹿がやっちまった事の証明だな。」
案内している人も、転移門トランスポートを入る前に、たしかに”今から宿舎がある場所に案内します”と言っていた。しかし、ここは普通に家や宿屋っぽい物が立ち並んでいるだけで、宿舎らしき物が見当たらない。それに、ラーロさんが言った”あの馬鹿”というのはもしかして、侯爵の事なのだろうか?案内している人も苦笑している。
「あぁ説明しないとわからないよな。目の前にある建物、全部宿舎だから、好きな所を使ってくれ?もし、家族を呼びたいと思っているのなら、家族用の宿舎に入って、家族を呼び寄せてもいいからな?」
はい?
「あぁそうだよ、あの馬鹿。リン=フリークスが宿舎が必要だろうと言い出して、作ったんだよ。全部で200~300棟位あるから、好きな所を使っていいからな。一応、集合住宅見たいな所もあるから、それは中央の近くに建っている物だ。全部で50部屋位の物が4棟ある。一応、女性専用が二つ男性専用が二つだ。単身向きになっている”らしい”玄関入ると、広い食堂があって、最新魔道具が備わったキッチンがあって、最近流行りのユニットバスが完備されていて、ベッドルームと衣裳部屋が別にある。リン=フリークスが言う”普通の単身向け”の宿舎だ。」
は?私。そこでいい。ってよりも、それ以上だと家賃払えない。
「あぁ家賃は必要ないからな。宿屋で働いている限り、家賃は発生しない。あと、このランパスは独立国家に準じるから、従業員は人頭税も必要ないからな。従業員の家族は、人頭税必要だけど、リンからは、年に銀貨2枚でいいって言われている。あくまで、従業員の家族はだけどな。」
は?って事は、ここで働いている限り、食堂で無料で食べられて、家賃は必要なくて、人頭税も必要ない。前の説明では、制服も貸し出してくれる。それで週に二日休みで、給与がニグラの高級宿屋の従業員と同じ。最低限の知識を身に着けたら、実家に帰ってと考えていたけど、ここでこのまま働いてもいいとさえ思えてしまう。
周りを見ても皆同じような顔をしている。幾つか質問をしている人が居た。
仕事内容に関しては、すごくまっとうな感じで、とにかく部屋数が多いのが問題になってくる。正式なオープンまではまだ時間があるという事だが、それまでにシフトを決めなければならない。やることは多い。
プレオープンとして、何人かの客を招く事が決定した。それ自体珍しいことでは無く、宿屋のオープン時にもよくやる事だ。だが、このランパス宿屋は規模が違う。
南方連合国サウスワード・コンドミニアムの王族や貴族だけではなく、トリーア王家からも客として来るようだ。ラーロさんも慣れているのか、普通に接している。意外と大物かと思ったが、実は、マノーラ侯爵から事前に紹介されていたのだという。今日は、誰からもレインを取らないで、全ての施設を使ってもらう事になっている。施設の紹介から、使い方まで説明しなければならない。その上で案内をする事まで担当する事になった。目が回る忙しさとはこういう事をいうんだと思い知った。
だか、これが序の口だったと後で知る事になる。従業員も順調に増えている。私も、弟や妹を呼び寄せた。実家の手伝いをさせるつもりだったのだが、条件と状況を聞いたら、弟も妹もこっちで働きたいと言い出して、ラーロさんに聞いたら二つ返事でOKが出た。同じ部屋でというのもおかしいので、一人部屋から出て、中央からすこし離れた所の一軒家を借りる事にした。
また、この家がすごかった。玄関から魔道具が組み込まれていて、ギルドカードをかざすとドアが自動で開く。登録していない人だとドアが開かない仕組みになっている。最近、ギルドカードを首から下げるのが仲間内ではやっているので、私もそうしているが、これだと重い荷物を持ったままドアの前に立つだけでギルドカードを認識してくれてドアが開く。この仕組は、実験的にこの街に導入されているものらしい。マノーラ神殿とここだけで試して問題がなければ、売りに出される仕組みなんだという。そこからまずおかしいのだが、玄関を入ると、靴を脱ぐようになっている。今までは、寝るまで靴を履いていたのだが、マノーラ侯爵がそうじゃない。家の中は裸足か”スリッパ”でと言っていて、この辺りの家は全部玄関入ったら靴を脱ぐ様になっている。最初は慣れなかっが、慣れてしまうと嘘のように快適だ。それに、部屋の中も汚れないので掃除が楽なのだ。玄関にも仕掛けがあって、人が通ると魔道具で光が灯るようになっている。暗い時に仕事に出かけたり、暗くなってから帰ってきた時には、光が点くだけで安心出来るのをここで知った。
部屋数は全部で4つの寝室とみなでくつろげる食堂が一つという大きさ的には、ニグラとかにもある一般的な家と同じになっている。違うのは、家全部に風呂がついている事と、トイレが”水洗トイレ”と言われる物で水が流れるのだ。トイレ掃除がすごく楽になる。最初の頃は使い方が解らなかったが、今ではトイレはこれという感じになってしまっている。あと、”ウォシュレット”なる機能があり、洗ってくれるのだ。何をって言えないけど、洗ってくれるのだ。これがまたすごくいい。何がすごくいいのかって経験していない人に説明する事が出来ない位いいのだ。ラーロさんに言って、このトイレだけでも売ってくれないかとダメ物でお願いした。二つ返事でOKと言ってくれて、次の日にはMOTEGI商会を呼んでくれて、いろいろ種類があると言われて、レインは自分が出すから、両親にプレゼントしたいとお願いしたら、ラーロさんがそれなら、MOTEGI商会の宣伝にもなるから、宿屋のトイレにも設置するのなら、”モニター”という制度を使えば手数料だけで設置が出来るといわれた。勿論、お願いした。”モニター”になったら、トイレのドアに”ウォシュレット”の使い方とこれがMOTEGI商会で売っている商品である事示す張り紙をすればいいという事だ。上手いこと考えるなっと関心した。妹も弟も解らなかったので、解説してあげた。”ウォシュレット”が素晴らしい事は使えば解る。自分も欲しいと思っても、普通ならどこで買えるのか解らないけど、目の前にMOTEGI商会で扱っていると説明されていれば、MOTEGI商会に問い合わせればいい。こうして、実家のトイレにも”ウォシュレット”が付いた。
お風呂は、中央の銭湯の方が大きいが、一人で手足を伸ばして入る事が出来るくらいの広さはある。そして、驚くのがお湯と水が自由に使える事だ。普通なら、井戸や水場から水を運んでこなければならないが、ここでは、"蛇口”をひねればお湯や水が出る。そして、その水はそのまま飲むことが出来るのだという。
台所も、個人宅に冷魔庫と温魔庫が備え付けられていて、魔導コンロがある。どこぞの貴族の家かって妹が突っ込んでいた。私もそう思う。コンロだけではない。”レンジ”なる物もあり、使い方を聞いた所、冷たい物を温めたり、焼いたり出来る調理器具なんだという。他にも、ミキサーと呼ばれる物もある。初めて見るものばかりだが、使い方を説明してくれて、それらの調理器具を使ったレシピもくれた。
本当に、ここに住んでいていいのかと思うくらいに充実している。忘れそうだが、ここは神殿の地下14階層にある街だ。実は街以外の部分は、草原や森になっていて、そこには、薬草や果物や野菜が実っている。なぜそんな事になっているのと、ラーロさんに聞いたら、「”あの馬鹿”がそうしたって言うのが理由だけど、それでも意味があって、紛争が起こった時に、転移門トランスポートを閉じてしまった時でも数日間は自給自足が出来るように」なっているのだという。その間に、マノーラ侯爵が救助隊を組織して助けに来てくれる事になっているのだという。数日と言わずに数週間は大丈夫ではないだろうか。
妹も弟も満足してくれて、宿屋の仕事をこなしている。弟が手先が器用だという事で、今度出来る”カジノ”でディラーを務める事になったんだろいう。沢山の種類のギャンブルを集めて楽しめる場所なんだという。そこで、弟が”ディラー”をやることになった。
今日も、いつものように忙しく過ごしている。ここに来てよかったと本気で思えてくる。いろいろ常識はずれな事をしてくれるが、働いている私達の事を考えてくれているのは間違いない。
でも、本当にもう少しだけ自重してくれると嬉しい。なんでも今度神殿の中にアトラクションとかが出来て、遊べるようになるのだと言う。そして、オセロの様なボードゲームやカードゲームも何種類か出来るような場所を作るのだという。

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