【旧】チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

幕間 フェムの決意

今日は、お父さんに呼び出されている。なんとなく話は解っているけど、渡しだけでどうにかなるものではない。
ニグラの店に行くと、お父さんが顎で上で待っていろみたいな動作をする。
二階に上がって、リンが魔改造した部屋に入って待っていると。5分もしないで、お父さんが入ってきた。
「フェム。悪いな。おまえも忙しいだろう?」「いいよ。それで話って何?結婚の話なら、私じゃなくてリンに聞いてよね」「あぁ違う違う。それに関しては、侯爵から手紙を貰ったから大丈夫だ。それに、おまえやイリメリ嬢がこの辺りでなんて呼ばれているのか知っているのか?」「ん?知らない。」「あぁもうすでに、奥方って呼ばれているからな。世間では、お前たちは侯爵の婚約者じゃなくて、奥方なんだよ。そのせいで俺の所にも侯爵を紹介して欲しいとか言ってくるからな。」「それは、ゴメン。でも、諦めてね。これからもっと増えると思うからね。」「あぁそれは諦めた・・・っていうよりも、おまえに来てもらったのは、それに対しての相談なんだよ。」「ん?どういう事?」
「フェム。これを見てくれ。」
そう言って渡された書簡は、マカ王国にある巨大宿屋を運営している人間からの物だった。驚いたのはどの内容だ。
お父さんをスカウトしたい。それで良ければ、経営陣の娘との婚姻をして欲しいという事だ。「お父さん。これは・・・。」「あぁ先日届けられた。何かの冗談だと思って、確認の書簡は出したんだが、その返事も同じで本気だって事だった」「へぇ・・・それでどうするの?」「あぁ断るよ。侯爵のおかげって事もあるけど、俺は街の食堂のオヤジでいいんだよ。」
それはそれでいいかもしれないけど・・・・。「お父さん。断るにしても、相手に悪い印象を与えないようにしないとね。」「おぉ。そうだな。」「相手が何を望んでいるのかわからないけど、リンへの取次とか、神殿内への出店なら私が話が出来るんだけどな。」「そうだな。一度、俺とフェムで話を聞きに行くか?」「そうだね。それが出来たらいいかな。」「あぁ先方にそれで話をしてみるな。」「うん。日取りが決まったら、ニグラのギルド支部に連絡しておいてね。」
二日後にはニグラ支部から私宛に伝言が来ているという事だ。話を聞きに行くと、お父さんからで、今日先方が会いに来るようだ。
時間になったので、実家に向かうと店の前に豪奢な馬車が止まっていた。「お父さん。表の馬車・・・。」「フェム。上だ、わりい来てくれるか?」「うん。わかった」
二階にあがって手前の部屋に入った。「あぁ貴方が、リン=フリークスの婚約者のお一人の、フェナサリムさんですね」「そうですが、貴女は?」
「申し遅れました。マカ王国で伯爵を賜っています。オーブル・コクランともうします。」
女性で伯爵?「説明が必要でしょうが、私の事は、オーブルと呼んでいただければと思います。」「解りました、コクラン夫人。私の事は、フェムとお呼び下さい。」「オーブルで構いませんよ。それに、私は独身ですので、夫人と呼ばれるような物ではありません」
「そうでしたか。それは失礼いたしました。コクラン伯は、私の父に何をお求めなんでしょうか?」「まぁいいでしょう。そうですね。このお店のマカ王国の出張所を作っていただきたい。その為の報酬として、私が輿入れするつもりです。」「はぁ?コクラン伯自らですか?」「えぇそのくらいの価値はあるように思えます。」「いやいや。何かだれか他の人と間違っているんじゃないの?」「それは大丈夫です。フェナサリム・ヴァーヴァンのお父上だと認識しております。ニグラにて、夜の蝶を経営なさっている。」「・・・そうですが、その程度の人物なら他に沢山居ると思いますけど?」
相手の顔色を窺うような事をきいてみても揺れる事がなさそうだ。「フェムさん。貴女は、すこしご自分のお父上のちからを過小評価されているようですね。」「過小評価?」「私どもの調査では、マガラ神殿に直接関わっていない店舗の中で一番最初に、ギルドカードでの支払いに適応してみせた、食堂なのです。」「・・・それは、確かにそうですが・・・。」「そのノウハウだけでも十分なのです。これから、ギルドは大きくなるだろうし、それに乗り遅れないためにも、ギルドレインは基本になりえるのです。それの取扱に長けている。」「まぁそうですね」「マカ王国も近々ギルド支部を受け入れるでしょう。その時になって慌てても遅いのです。」「!!いいのですか?私にそんな事を言っても。」「構いませんよ。もう一つ付け加えるとしたら、リン=フリークス・テルメン・フォン・マノーラに、マカ王家も貴族位と領地を与える事が決まりますよ。」「!!。それは・・・。」「えぇ多分、貴女が考えているような事情ですよ。」
ナパイヤ神殿の領有を認める事が出来ないのだが、敵対した場合に流通面や今後の付き合いが寸断されてしまう可能性がある。それに、ゴッドケープ島との繋がりを切られるのは得策ではないと考えているのだろう。それではどうしたらいいのかと言えば単純な事で、リンがマカ王国でも貴族に封じられて、領地を持ってしまえばいい。それで、ナパイヤ神殿の領有権をリンに付与すれば、王家としては建前が整う。それでリンを貴族にして、今更ながら神殿を領地として与えると言う形にするんだろうな
「フェム。どういう事なんだ?」「お父さん。あのね。」
考えていた事を簡単に説明した。
「素晴らしい。その通りです。マカ王家としては、神殿の機能は魅力、でも、トリーア王家の貴族が持っているというのは許可出来ない。それで、貴族にしてしまえとなっています。」「はぁそれで、俺の所に来た理由にはならないよな?ノウハウだけなら学校に生徒を送り込んでもいいわけだろう?」「そうですね。そういう事から知らない事が多い上に、正直にいいまして、私どもの間者が持ち帰る情報が”かわら版”異常にはならないのですよ。」
リンの構築した警戒網は簡単には破れないんだろうな。マガラ神殿とか見せても大丈夫な所は入り込めるだろうけど、そういった所は、かわら版ですでに公表しているから、諜報部門としては一番扱いにくい部分なんだろうな。それで、お父さんの取り込みを考えているんだろう・・・けど、お父さんもそれほど詳しいわけじゃないから、実際に欲しいのは何なんだろう?
「コクラン伯。もう少し具体的な話をしましょう。」「フェムさん。」「別に、今の段階でリンに取り次いで欲しいと言う事なら問題なく私が手配します。ノウハウが欲しいのなら、私が赴いて伝授する事でも構いませんよ。」「それは魅力的なお話ですね。でも、私は欲張りなんですよ。それだけではなくて、お父さんが作られる料理にも関心があるのです。」「料理?」「はい。実は、マカ王国として神殿の話を承諾する流れになった時に、私はニグラに来て、ギルドと言われる組織を自分の目で見に来ました。その時に、ここの料理を食べて、是非私の宿屋に欲しいと思ったのです。」「え”」「・・・・」「え?」
「コクラン伯。お父さんの料理?どれですか?」「私が食べたのは、”生姜焼き”という肉料理です。あと、部下が食べていた”豆腐料理”にはびっくりしました。」「伯爵。すごく言い難い事なのですが・・・。」「えぇなんでしょうか?」「あの料理は、フェムが娘が仲間たちと作ったレシピを私が手に入りやすい食材で作り直した物で、オリジナルは、侯爵からの物が殆どです。」「え”そうなのですか?それにしては、あの料理は、この店でしか見かけませんょ?マガラ神殿や他の施設も調べさせましたから間違いありません。」「えぇそうです。まだ試作段階でして、この店だけで出して居ます。」「なぜですか?あれだけの物ならば・・・。」「伯爵。あれをいくらで食べられましたか?」「たしか、銅貨15枚だったと思いますが・・・・。」「えぇそうです。ちなみに、”豆腐料理”の方は、もう少し高くて、1,700レインです。」「そうです。それもびっくりした理由なのです。」「多分、伯爵のようにご自分でお店をやっておられる方なら、今のレシピを見ていただいたほうが良いと思います。いいよな。フェム。」「うん。いいよ。」
「伯爵。こちらへ。」そう言って、お父さんは伯爵を厨房に連れて行った。これで”試作”なのが判ってもらえると思う。”豆腐”の方は、それほど材料は問題ではないが、手間がかかってしまう。実際に、売りに出すとしたら、原価が1,500レイン程度だろう。問題は、”生姜焼き”だ。生姜がまず見つかっていない。近い物があったので、それで代用しているが、それがまぁ栽培が難しい上に数が取れない。そして、一番の問題が”肉”だ豚肉が無いのだ。鶏肉や牛肉に近い肉は見つかっているが、私達がしっている豚肉が無い。牛肉や鶏肉でやってみたが、どれも美味しくない。いろいろ試行錯誤していたが、何をやっても肉が強すぎるか脂身が無くてパサパサになってしまう。脂身を紐状にして縫い付けたが、それでもダメだった。見つけたのが、魔素濃度を強くした神殿の中に居た”ジャイアントピッグ”だった。レベルはどんなに低くても70。通常の冒険者ではレイドを組んだパーティでなんとか討伐出来る位だ。そして、それは亜竜などと同等になっている。私達なら狩る事が出来るが、リンの方針で私達や眷属にしか狩れない物で作る料理は、試作品として出すだけに留める事で、味を研究して代用品が見つかったら、正式なレシピとして発表する。ちなみに、”生姜焼き”はお店で正規の値段で出すとしたら、銀貨5~7枚程度になってしまう。超高級品だ。
お父さんと伯爵が帰ってきた。「フェムさん。お騒がせしました。」「いえ。判って頂けて良かったです。」「・・・一つ解らない事があるのですが・・・・。よろしいですか?」「えぇ何でしょうか?」「侯爵やフェムさん達は、なんで安く料理を提供しているのですか?素材や調理方法を考えると、少なくても10倍か20倍でもいいと思います。私の店なら30倍で出しても即日完売になります。」「・・・リン。侯爵の考えですが、レシピを公開するのなら、普通に仕事して普通に生活している人たちが食べれる物にしてからにする。具体的には、一人前500レイン以下で作れるようにしないとダメ。」「・・・。」「その上で、料理人はレシピを自分でアレンジしてもいいし、忠実に作ってそれでも流石はプロって思わせないとダメ。っという考えなんです。」「え”もし、もしですよ。私の店が、高級品として一部の人に提供したいと願えでたら許可頂けるのですか?」「そうですね。多分、侯爵は許可すると思います。条件は付くとは思いますが・・・。」「えぇ構いません。お願いできますか?」「構いませんよ。明日の同じ時間にもう一度来て頂けますか?」「はい。解りました。」
伯爵は店から出ていった。「お父さん良かったの?」「何が?」「出世コースまっしぐらだったんだよ」「あぁ俺はこの店とおまえと、母さんが居れば十分だ。それに、この店は、母さんが名付けた店だからな。それを閉じる事は考えられないな」「あっ。」
暖かな沈黙が流れた「お父さん。ちょっとリンに会ってくる。」「あぁ悪いな。侯爵にわびを入れておいてくれ。」「うん。解った。それじゃ明日また来るね。」「あぁ待っている。」
リンの所に戻って、相談したら、まぁ予想通り、”好きにしていいよ”だった。ただ、値段は絶対に安くしないと言う約束だけしておいて欲しいといわれた。素材とかは、眷属じゃなければ採取出来ない物も多いから、ギルドに依頼出す事を推奨しておいて、自分達で取りに言ってもいいけど、どうなるか解らないと伝える事にした。翌日、何種類かのまだ試作段階のレシピを持って、伯爵とあって、レシピを渡した。
レシピの値段を聞かれたが、レシピ自体は無料で配る事にしていると説明した。だから、レシピどおりに作っていると、真似される恐れもあるから、研究して味に変化をつけたり、地域で食べられる物でアレンジするといいと伝えた。
「フェムさん。図々しいお願いなんだけど・・・。」「はい。なんでしょうか?」「やはり、フェムさんか、お父様に、私の店に来て貰って、レシピを教えていただくわけには行きませんか?」「それは毎日という意味ですか?」「いえ、月に1~2度程度で構いません。」「それなら大丈夫ですよ。お父さんもいいよね?」「あぁ店を長期間空けるわけには行かないが、教えに行くくらいなら問題ない。なんなら、そっちの若いのを出してくれたら、家でこき使いながら教えるぞ。」「本当ですか?」「あぁかまわないぞ。いいよな。フェム?」「うん。いいよ。」「でも、この会議室は侯爵やギルド関係者が会議をする場所だと聞いていますか?」「あぁそうだけど、問題ないぞ。どうせ、会議って言っても、話された事は全部かわら版に乗っているからな。」「うんうん。隠している事はないからね。」「え?そうなのですか?」「うん。マカ王国にも今後ギルド支部が出来ると思うんだけど、そうしたら、その支部の人たちも会議に参加してもらう事になるんだよ。隠し事なんてまったくないよ。」「すごい、組織なんですね。」「リン・・侯爵の考えだからね。隠すから弱みになる。だったら、全部をオープンにして、皆が知っている状態になれば、”だからどうした”っと開き直れるってね。」「・・・たしかに、皆が知っている事なら弱みにならないですね。」「そうなんだけど、馬鹿ですよね。」「・・・・。」
それから、伯爵と詳細を詰める事になった。最初の数回は私がマカ王国の伯爵の店に行って、レシピを伝える事になった。それから、2~3人の見込みがありそうな人をお父さんが預かって料理を教える事になった。
そして、私は、リンと相談して、すこしだけ料理の研究を行う事になったこれから、暫くは殺伐とした内紛というつまらない物に首を突っ込む事になる。それなら、私は料理の開発をすすめる。ミルの様に戦闘に割り切れない。イリメリのように事務方での活躍も難しい。私が出来る事をやっていく。今は、リンの為に、皆の為に日本食の復活を目指す。

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